medicina 48巻9号 (2011年9月)

今月の主題 視ないで診る消化器疾患―考える内科医のアプローチ

上野 文昭
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 最新のテクノロジーが医療に導入されるにつれ,画像検査が有力な診断手段となりました.特に消化器領域では,従来の造影X線に加え超音波,CT,MR,そして内視鏡などの画像診断が必須というような趨勢です.これらの検査を行うためには的確な技術を有する消化器専門医・画像診断医や,設備の整った医療施設が必要です.また治療においても,画像形態を標的とした内視鏡やカテーテルによる低侵襲治療手技ができないとお手上げと思っている内科医も少なくないと思います.

 では消化器診療における内科医の役目はなくなってしまったのでしょうか? そんなことはあり得ません.海外では消化器診療の大部分を「いちいち画像を視なくたってちゃんと患者を診られる内科医」「刺したり切ったりしないけどきちんと治療できる内科医」が担っています.消化器専門医の登板機会は,診断や治療に本当に困ったときのコンサルテーションに限定されます.目で視えるものをみつけ,形のあるものを切ったり潰したりする,これは本質的に外科診療です.視えない病因・病態を考察し,それを正すべく適切な治療介入を選択する,これが本当の内科医の仕事なのです.

理解のための25題

Editorial

考える消化器内科診療 上野 文昭
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消化器とはどのような臓器か

 医学の基礎に戻ろう.消化器とはどのような臓器系統であろうか.口から食道・胃・小腸・大腸を経て肛門へと続く消化管,そして肝臓,膵臓,胆道系などの臓器を含み,ほかにも関連する臓器が少なくない.では,これらの臓器はどのような働きをしているのであろうか.消化・吸収だけにとどまらず,運動,代謝,内分泌,免疫などにかかわる多彩な機能を有している.肝胆膵に比べて一見単純そうで原始的にみえる腸でさえ,その表面積は皮膚の200倍もあり,末梢血管の55%を引き受け,支配神経は脳以外の神経の50%に上る.さらに免疫に大きな役割をもつリンパ球の60%が存在する.単に食物を運び消化・吸収する管などではなく,最も高度で未解明の臓器である.このほかいくつかの消化器臓器も,生命を維持するのに必須であることが知られている.

 消化器臓器障害の原因は,先天性異常,細菌・ウイルス・寄生虫・真菌感染,免疫異常,薬剤,アルコール,血流障害,神経障害,外傷,心身的異常,新生物と多岐にわたり,原因が特定されていない疾患も少なくない.現れる障害も炎症,機能障害,機械的障害,腫瘍など多彩をきわめる.疾患の多様さのため,診断的検査法は一般血液・尿・便検査,血液化学検査,血清学的検査,感染症検査,免疫学的検査,生理学的検査,運動機能検査,単純・造影X線,内視鏡,超音波,CT,MRI,PETなど数多く,治療法も生活指導,薬物治療から手術,放射線治療などだけでなく,内視鏡やカテーテル,アブレーションを用いた低侵襲治療,さらに心療内科的アプローチまできわめて範囲が広い.

検査や治療介入の前に考えよう!

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ポイント

★頻度の軸:目の前の患者が疾患を有する確率

★時間の軸:緊急性,進行性,治療可能性とタイミング

★アウトカムの軸:アウトカムの重篤性と非可逆性

★診断仮説リストは,頻度の軸(頻度の高い疾患)と重大性の軸(見逃してはいけない疾患)で考える.

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ポイント

★診察は常に注意深い視診から始める.

★病歴から所見を想定して診察する.

★あらかじめ知っていることが重要である.

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ポイント

★検査前確率は有病率であり,検査後確率は診察,検査終了後,医師が頭の中で考えている疾患の確率である.

★検査後確率は検査前確率と問診内容,身体所見,検査結果などから得られる尤度比によって決定される.尤度比は各所見,検査の感度,特異度から計算される.

★検査後確率,検査前確率,尤度比の関係は数学的にはBayesの定理やFaganのノモグラムによって説明される.

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ポイント

★鑑別診断を考えずに適当にたくさん検査をオーダーして結果を並べるスタイルの診療は,検査結果に振り回されることになりやすい.

★診るとは「考えること」,ある程度あたりをつけて仮説を持って情報を集め検査をすることである.

話せばよくなる消化器症状 井出 広幸
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ポイント

★「話せばよくなる」診療を実現するには,「医師という薬」の薬理作用を効果的に利用すべきである.

★隠された来院目的を見抜き,症状が日常に及ぼす影響を評価しつつ,患者のつらい感情を認めるような声かけを行う.

★良き医師-患者関係を構築するには,医師自身が自らの「あり方」を洞察し,それを高めていくことが重要である.

消化器症候はこう診る!

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ポイント

★6~12カ月間で5%以上の体重減少は精査すべきである1)

★消化器疾患以外の原因を忘れない.

食欲不振 佐藤 泰吾
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ポイント

★食欲不振は満腹や食物恐怖とは異なる.

★食欲不振にアプローチする際に,4つのカテゴリーを念頭におく.

★食欲不振は非特異的な訴えであり,診断に迫るためには+αを探し出す必要がある.

悪心・嘔吐 酒見 英太
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ポイント

★悪心・嘔吐は消化器症状というより,さまざまな臓器障害の結果誘発される危険信号ととらえ,鑑別診断は広く考える.

★腹部圧迫で悪心・嘔吐が誘発・増強されれば,ほぼ確実に原因は腹腔内にある.

★食後4時間以上経過しているのに上腹部で跳水音が聴取されるときは,上部消化管の通過障害を考える.

胸やけ・嚥下困難 福島 豊実
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ポイント

★胸やけと嚥下困難を起こす疾患は実に広範である.

★的確な鑑別診断に導くために,個人の疾患リスク背景を念頭におき,主要鑑別診断のポイントを押さえつつ,問診と診察の基本に忠実に主訴を分析していくことが大切である.

★胸やけ症状をきたす疾患のうち,稀ではあるが緊急な対応を迫られる狭心症,心筋梗塞を見逃すと致死的である.一方,緊急性はなくても,悪性腫瘍の診断を見落とさないようにすることも重要である.

★系統だった鑑別診断の知識に基づいて,身体所見を見極め,検査と画像診断などを賢く用いて診断を確定することは重要であり,視るべき時をわきまえ,視る前に考えて診るべきである.

上腹部痛 谷本 浩二
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ポイント

★上腹部痛では痛みの持続時間と場所が重要である.

★病歴とsystem reviewで消化器以外の原因の除外と原因臓器を特定することが重要である.

下腹部痛 島田 利彦
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ポイント

★緊急性や重篤性の高い疾患の除外を行うという意識を持つ.Must rule outアプローチ!

★血管や尿路生殖器疾患を見落とさない.骨盤内や後腹膜臓器を意識する.

★高齢者,免疫不全状態,生殖可能年齢の女性には特に注意を払う.

下痢 濱口 杉大
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ポイント

★下痢の患者にははじめに海外渡航歴を聞く.

★患者の重症度,免疫状態,基礎疾患を把握する.

★病歴から急性,慢性を判断して診断へのアプローチを行う.

便秘 前田 賢司 , 大森 敏秀
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ポイント

★便秘の診断には問診が大事である.

★注意すべき徴候(alarm symptoms/alarm signs)があれば専門医に紹介する.

血便 矢島 知治
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ポイント

★血便の症例の診療にあたっては,便の性状,血便の色と量と時間経過についてまず聞く.

★次に,疼痛について発症様式や部位などを詳細に聴取し,残便感の有無を確認する.

★身体診察ではバイタルサインと腹部の圧痛・硬さの確認,直腸診が特に重要である.

黄疸 植西 憲達
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ポイント

★黄疸の患者では黄疸の出現のしかた,黄疸を引き起こす疾患の患者背景,随伴症状を確認することが重要である.

★多くの場合,ていねいな病歴聴取と身体診察に最低限の検査(総ビリルビン,直接ビリルビン,AST, ALT, ALP, γ-GTP)を行うことで鑑別はかなり絞り込める.

★特異的検査(抗体や腹部超音波検査)を行う前に鑑別を絞り込むことが内科医の腕の見せ所である.

内科医がリードする消化器疾患の治療戦略

胃食道逆流症(GERD) 六倉 俊哉
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ポイント

★胃食道逆流症(GERD)は胸やけ,呑酸以外に胸痛,咳嗽,喘息,睡眠障害などの食道外症状を呈することがある.

★診断には発症因子と自覚症状が重要で,内視鏡検査は必ずしも必要ではないが,Barrett食道腺癌には留意する.

★プロトンポンプ阻害薬(PPI)による治療的診断(PPIテスト)はGERDおよびGERDの食道外症状の診断に有用である.

★ライフスタイルの改善と骨粗鬆症の積極的治療がGERDの予防につながる.

NSAIDs起因性消化管病変 藤田 剛 , 東 健
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ポイント

★NSAIDs起因性消化管病変の頻度は高いが症状が出ないことが多く,突然の吐血や下血,貧血の進行として発症することがしばしばある.

★NSAIDs起因性上部消化管病変に対しては危険因子を踏まえた予防や治療が重要である.

★NSAIDs起因性消化管病変の診断には,上部・下部消化管に加え小腸精査も考慮する.

上部消化管出血 小林 健二
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ポイント

★急性上部消化管出血症例では,まず循環動態の安定化を最優先する.

★出血に伴う合併症のリスクが高いかどうかを評価し,そのような患者では積極的に治療にあたる.

★緊急内視鏡は十分な診断能力を持ち,止血処置が行える専門家が施行しなければならない.

過敏性腸症候群 永田 博司
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ポイント

★アラームサインがなければ機能性腸疾患と考えて治療を開始する.

★重症度・病型を個別化して治療方針を決める.

★専門医に依頼後も,内科医が引き続き併診することを患者に伝える.

感染性腸炎 柳 秀高
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ポイント

★感染性腸炎は非炎症性小腸型,炎症性大腸型,腸管侵入型に分類すると考えやすい.

★脱水,低カリウム血症,代謝性アシドーシスなどの水電解質,酸塩基平衡異常に注意する.

★抗菌薬は不要なことが多く,限られた場合のみ有用である.

慢性便秘症 丸田 紘史 , 三浦 総一郎
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ポイント

★腹部腫瘍による閉塞(特に大腸癌)を見逃してはならない.また,腹部臓器による圧排や高カルシウム血症に潜む悪性腫瘍の可能性も見逃さぬようにする.

★薬剤性や全身疾患に伴う便秘を除外することが大切である.原因が1つとは限らない.

★下剤の乱用により,大腸平滑筋の萎縮が進行しslow transitへ移行することがないように,刺激性下剤への依存を防ぐことが必要である.

★直腸診は身体所見上重要である.直腸肛門部の器質的および機能的な障害のために排便が障害されている可能性がある.

潰瘍性大腸炎 正田 良介
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ポイント

★潰瘍性大腸炎は難治性だが,軽症や寛解期の患者が多く,内科医が診断・治療に関与する可能性が高い.

★潰瘍性大腸炎は慢性だが,診断のきっかけには内科医の役割が重要で,確定診断や寛解導入治療では専門医と連携する.

★潰瘍性大腸炎は再燃性だが,寛解維持治療では,専門医と連携のうえで内科医が関与する機会も多い.

大腸憩室症 中澤 敦
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ポイント

★大腸憩室の70%は無症状であり,15~25%は痛みを伴う炎症を起こし(憩室炎),5~15%は出血を認める.

★食物繊維の摂取とジョギングなどの運動で症候性憩室症の危険度を37%減少させることができる.

★憩室炎のない憩室腸管,あるいは憩室炎の部位とは離れた粘膜に慢性炎症を認めることがありdiverticular colitisと呼ばれて,症候性憩室症の原因の1つと考えられる.

アルコール性肝障害 竹越 國夫
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ポイント

★アルコール性肝障害の早期発見は,まず存在を疑うことから始まる.

★アルコール性肝障害の肝機能異常の特徴は,AST/ALT>1.0とγ-GTP単独増加である.

★アルコール性肝障害は門脈圧亢進を起こしやすい.

★肝機能異常の乏しい場合,腹部超音波検査が有用である.

★治療の基本は,まず3カ月間の禁酒である.

胆石症 杉尾 芳紀 , 北浜 昭夫 , 雨宮 厚
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ポイント

★無症候性胆囊結石に対する基本方針は経過観察である.

★無症候性胆囊結石保有者は多く,上腹部症状の原因を安易に胆石にしてはならない.

★有症状胆囊結石に対する治療の基本は胆囊摘出術である.

急性膵炎 川口 義明
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ポイント

★急性腹症の鑑別には,急性膵炎を常に思い浮かべることが重要である.

★急性膵炎の2大成因はアルコールと胆石である.成因の特定は,治療方針決定や再発を予防するうえで重要である.

★重症度判定を経時的に行い,重症例は迅速に専門医コンサルト,高次医療機関への転院搬送を考慮する.

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ポイント

★慢性膵炎診療におけるプライマリケア医の最も重要な役割は,注意深い問診と身体所見による膵性疼痛かどうかの判断である.血液検査では明らかな異常が認められない場合もある.

★初期の診断と治療計画策定のためには,専門施設への早めのコンサルテーションが行われるべきであり,経過観察中も常に専門施設との密な連携が望ましい.合併症および膵癌の早期発見のために画像検査の定期的なフォローアップが必要である

★患者には慢性膵炎の自然経過をきちんと理解してもらい,病期に応じた治療と栄養管理を行う必要があることを理解してもらうようにする.断酒と禁煙指導が必須である.

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消化器内科の領域においても画像検査が有力な診断手段となり,低侵襲治療手技が日常的に行われるようになって,消化器内科を専門としない内科医の活躍の場はなくなりつつあるようにもみえます.そのような状況にあるからこそ,内科医は本来の姿に立ち返り,その役割を果たすことが求められるのではないでしょうか.

そこで本座談会では,わが国の消化器内科診療が抱える問題点を探りながら内科医のあるべき姿を再確認し,さらに教育研修の場へのご提言をいただきました.

連載 手を見て気づく内科疾患・33

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患 者:77歳,女性

病 歴:54歳時に関節リウマチを発症した.少量ステロイド,アザルフィジン,メトトレキサートで加療されてきた.

身体所見:MCP関節(metacarpophalangeal joint:中手指節間関節)が腫脹し,示指~小指が尺側に傾いている(図1).手を握ってもらうと,指伸筋腱が尺側にずれているのがわかる(図2).

診 断:関節リウマチによる尺側偏位

連載 研修おたく海を渡る・69

言葉に敏感になる 白井 敬祐
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 僕が医学生にがん診療について講義をする時は,TNM分類や治療薬についても触れますが,take home messageとして,「Non curable(治癒が望めない)」あるいは,「No more chemotherapy(使える抗がん剤がない,抗がん剤を使わないほうがいい)」ということと,「Nothing to do(何もすることがない)」というのは,まったく違うことを伝えています.

 学生には“Nothing to do”なんてことは決してない,この一点さえ感じてくれればいいと言っています.頭でわかっているのと,それを感じているかどうかは違うのです.

連載 アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・18

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後期研修医(呼吸器内科) 今回の患者さんは56歳の喘息の既往のある男性です.1カ月前から37℃台後半の発熱があり,近医で処方された抗菌薬の内服で改善が認められず,総合病院を紹介されCTを撮ったところ間質性肺炎が認められました.その夜から,咳嗽と呼吸困難が増悪したため前医に入院となり,ステロイドパルス施行後にステロイドによる治療が開始されました.パルス後,呼吸状態は一時改善傾向となりましたが,1週間後より呼吸状態は再び悪化したため当院に転院となりました.当院搬送時は意識清明で会話も可能でしたが,リザーバーマスク6 l/分にてSpO2 90%という呼吸状態でした.入院時の胸部画像の解説をお願いします.

連載 Festina lente

料理大国なのだから 佐藤 裕史
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 フランスのミシュランガイドが東京の料理店の評価を始めた時,料理界の反応は二分したという.国際的な檜舞台に立つ好機とする開国派と,「フランス人に日本料理がわかるものか」という攘夷派と.2007年の初「格付け」では,周知のように東京はニューヨークを抜きパリに迫る世界最高水準の食の都とされ,2009年には三ツ星レストランの数で遂にパリを凌ぐに至った.誇り高きフランスの食通をも唸らせた日本は,今や世界に冠たる料理大国である.日本の食が,一般の食卓から高級店まで他国を圧倒することは,あまりに食が日常的であるがために当然視されていて(一日中食べ物の話をTVで放映して倦まない国は他にそうない),英米あたりでひどい食事に閉口した人しか有難味を覚えないかもしれない.

 料理は医療によく似ていると思う.厳守すべき一線があり,それをおろそかにすると命にかかわる.速さや能率は大事で,材料や道具もこだわればきりがない.薄利多売の大量供給もできるけれども,最終的には一個人に届けるものであるから,効率や利潤と相容れないとしても,一期一会の心配りや地道な下準備の積み重ねをおろそかにする訳にはいかない.

連載 演習・循環器診療・4

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症例

40歳の女性

主 訴 特になし.

現病歴 子どもの頃から中等度~高度の側彎を指摘されていた.学校の体育授業などは通常にこなしていた.2003年1月に長女を正常分娩で出産.2007年9月第2子を妊娠,僧帽弁閉鎖不全を指摘され妊娠20週にセカンドオピニオン目的で当院受診.

連載 医事法の扉 内科編・9

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 今回は,内視鏡関連以外の疾患で説明義務違反が争点となった判例を検討します.

 まず,63歳男性が肝細胞癌の再発に対し,ラジオ波焼灼術(RFA:radiofrequency ablation)と経皮的エタノール注入療法(PEIT:percutaneous ethanol injection therapy)を受けたところ,容態が悪化し,その1カ月半後に死亡した事例があります.原告ら(患者側)は,RFAとPEITそれぞれについての説明義務違反として,①適応を欠くこと,②肝不全,菌血症などの重大な合併症の危険性があるという説明を怠ったこと,③これらの治療行為を選択せず,薬物治療を続けるなどした場合の予後についての説明を怠ったことを主張しました.裁判所は,まず,RFAについて,腹水がコントロール不良な場合には出血のおそれが高まるなどの危険性につき十分な説明が尽くされていなかったとし,上記主張①を認めました.PEITについては,その適応性を認めています.つぎに,肝不全・菌血症といった重大な合併症は,文献や鑑定人の意見によれば,極めて稀であると認められるから,そのような合併症について説明しなかったとしても,直ちに説明義務違反とはならないとし,RFAとPEITの両者について,上記主張②を否定しました.しかし,RFAとPEITを実施しなかった場合の予後の説明は,それらを実施した場合の危険性と比較することによってそれらを受けるか否かを決定することができるのであるから,患者の自己決定にとって重要な事項であるとし,本件では,そのような説明がなかったと認定して上記主張③を認めました(名古屋地裁平成20年10月31日判決).ただ,これらの説明義務違反と患者の死亡との間の因果関係は存在しない,すなわち,たとえ適切な説明がなされたとしても死亡しなかったとはいえないとしています.

連載 今日の処方と明日の医学・16

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医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

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 この本を一通り読み終えた瞬間,「ここまでの知識を持って日々の診療を行っているんだ」と,驚きを隠せませんでした.

 筆者の涌波満先生とは「ファミリークリニックきたなかぐすく」で4年間一緒に診療をしていたのですが,その当時から疾患面で膨大な量の知識や技術を持つだけでなく,病気の面でも患者さんや地域の視点に立った医療を常に心がけておられていました.

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 川久保清先生執筆の『運動負荷心電図 第2版』が発刊された.本書は川久保先生のライフワークともいえる心電図学と運動循環器病学の集大成である.2000年に刊行された初版は多くの関係者に読まれたものと思われる.

 循環器領域における運動負荷試験は,かつて大学病院でも運動負荷研究班があったほど隆盛を誇っていたが,今日徐々に研究の対象になりにくくなってきており,そのことは大変憂うべきことである.また,臨床的にその重要性が薄れたわけでは決してないにもかかわらず,運動負荷心電図に焦点を当てた専門書がほとんど刊行されなくなってきており,そういった意味で本書の果たす役割は非常に大きいと考える.第2版の発刊を私同様心待ちにしていた方も多いと思われる.

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 抗てんかん薬を処方する医師ならば,誰もが本書を手に取って,せめて目次だけでも目を通していただきたい.

 本書は日本神経学会が監修し,辻貞俊先生を中心とする委員会がまとめたガイドラインの力作である.てんかんの教科書として,医療関係者が最初に読むべき本といってよい.また患者さんやその家族にとっても決して難しすぎる本ではない.自分の診療に対して疑問や不安があるのなら,本書を読んで主治医に相談してみるのも一法である.

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 「将来の人々は,かつて忌まわしい天然痘が存在し貴殿によってそれが撲滅されたことを歴史によって知るだけであろう」 (トーマス・ジェファーソン.エドワード・ジェンナーへの1806年の手紙,本書134頁より.以下,頁数は本書)

 われわれは,ジェファーソンの予言が1979年に実現したことを知っている.個人の疾患は時間を込みにした疾患である.社会の疾患は歴史を込みにせずには語れない.目の前の患者に埋没する毎日からふと離れ,俯瞰的に長いスパンの疾患を考えるひとときは貴重である.

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編集室より k
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●好子,芳子,良子,美子,佳子,淑子,嘉子,善子,義子,…….よしこさんにも随分いろいろいらっしゃるように,「よい」とお原稿に書かれていた場合,何を基準にした「よい」なのか判断に迷うことがあります.それがはっきりしていたら「良い」「善い」「好い」「正しい」「快い」など書き分けたほうが正確に伝わると考えるからです.●頂戴したお原稿を印刷所に入れる前に,より適切な表記はないかという目でもみさせていただきます.ただ,簡単には割り切れない場合が少なくありません.また表記の基準は,出版社により,雑誌によっても異なるので,担当雑誌が変わると,しばらくは一段と悩みが深まります.そこで,迷ったら「ヒラく」(ひらがなで表記するという意味の業界用語)という手で逃げてきました.●「みる」も悩まされる例の1つで,もっぱらヒラいて逃げる代表選手でした.見る,視る,観る,監る,診る,看る…….ある講演でこれらの使い分けを整理した先生がいらっしゃいましたが,皆さんが納得していたようにはみえませんでした.●途中から担当させていただいた本号のテーマ「視ないで診る」をみたときは,ちょっと腰が引けました.デリケートな部分には触れないほうがよいのではと思いました.しかし迷いはすぐ消えた気がしております.いかがでしょうか.

基本情報

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medicina
48巻9号 (2011年9月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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