連載 Festina lente
料理大国なのだから
佐藤 裕史
1
1慶應義塾大学医学部 クリニカルリサーチセンター
pp.1668
発行日 2011年9月10日
Published Date 2011/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402105387
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フランスのミシュランガイドが東京の料理店の評価を始めた時,料理界の反応は二分したという.国際的な檜舞台に立つ好機とする開国派と,「フランス人に日本料理がわかるものか」という攘夷派と.2007年の初「格付け」では,周知のように東京はニューヨークを抜きパリに迫る世界最高水準の食の都とされ,2009年には三ツ星レストランの数で遂にパリを凌ぐに至った.誇り高きフランスの食通をも唸らせた日本は,今や世界に冠たる料理大国である.日本の食が,一般の食卓から高級店まで他国を圧倒することは,あまりに食が日常的であるがために当然視されていて(一日中食べ物の話をTVで放映して倦まない国は他にそうない),英米あたりでひどい食事に閉口した人しか有難味を覚えないかもしれない.
料理は医療によく似ていると思う.厳守すべき一線があり,それをおろそかにすると命にかかわる.速さや能率は大事で,材料や道具もこだわればきりがない.薄利多売の大量供給もできるけれども,最終的には一個人に届けるものであるから,効率や利潤と相容れないとしても,一期一会の心配りや地道な下準備の積み重ねをおろそかにする訳にはいかない.
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