medicina 23巻3号 (1986年3月)

今月の主題 アルコール障害

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アルコール医学の進歩

 近年,欧米諸国のアルコール消費量の伸びが鈍化ないし低下傾向を示しているのに反して,わが国における酒類の消費量は依然として増加しつつあり,国税庁の統計によれば,過去20年間で酒類販売量は5倍の増加を示している.また厚生省,「飲酒と健康に関する日米共同研究班」によると,わが国における飲酒人口は6,400万人に及び,その中で大量飲酒(日本酒換算1日5合以上)を毎日している「アルコール依存症」者は220万人に達すると報告され社会的にも大きな反響を呼んでいる.このような大量飲酒者の多くは精神および身体,内臓の機能的・器質的障害を伴っていることは多くの統計によっても明らかである.

アルコールの代謝をめぐって

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 アルコール(エタノール)の代謝の特徴として,生体に摂取されたアルコールの大部分は肝で代謝されるが,その酸化を規定する制御機構が存在しないので,アルコールが過剰に摂取されると,肝でのアルコールの代謝が選択的に亢進し,そのため肝内の代謝系の大きな変動を伴うことである.通常,経口的に摂取されたアルコールは上部消化管で吸収され,その90〜98%は肝で代謝され,残りの2〜10%は尿や呼気中に排泄される.ヒトにおける代謝率は血中消失率としてみると,100〜200mg/kg/h程度であり,したがって,成人では1時間当たり10g前後,1日量として200g前後(ウイスキーで約500ml,日本酒として約1升)が代謝されることになる.

 肝に摂取されたエタノールは,主として肝細胞上清分画中のアルコール脱水素酵素(ADH)による脱水素反応を受け,残りはそれ以外の経路(non-ADH pathway)でアセトアルデヒドとなり,これはさらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)による脱水素反応を受けて酢酸となり,アセチルCoAに合成されてTCA回路に入る(表,図).

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 アルコール(エタノール)は,飲酒時その大部分が吸収され,肝臓において酸化処理される.飲酒による臓器傷害には多くのものが知られているが,その際の血中濃度程度のエタノール自体による直接的影響は,神経細胞に対する薬理作用は別として,他にはないものとされている.一方,エタノールの第一次代謝産物であるアセトアルデヒドは,きわめて刺激性と化学反応性の強い物質であり,その高濃度な溶液は,ホルマリンと同様,臭いをかぐだけでも粘膜刺激を受け,頭痛や嘔気も誘発する.もちろん,飲酒エタノール量に相当するアセトアルデヒドが一度に身体に入れば致死的である.吸収されたエタノールは,全てアセトアルデヒドに酸化されるため,飲酒による臓器傷害の原因として,アセトアルデヒド毒性に関心が寄せられてきたが,その定量測定の問題をはじめ研究上の困難のため,解決が遅れている.近年研究方法の進歩により,次第に多くの興味ある研究が発表されつつある.

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 わが国におけるアルコール消費量の増大,新開発医薬品数の増加に伴いアルコールと薬物の関係はより密接となっている.生体における薬物代謝を規定する諸因子,すなわち消化管からの吸収,血漿たんぱくとの結合,肝血流量,肝細胞における代謝などのすべてにアルコールは影響しうる1)が,本稿では肝におけるアルコール代謝と薬物代謝とのかかわりについて概説する.

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 われわれが経口的に摂取したアルコールの8割以上は肝で代謝されており,長期間のアルコール摂取が肝における種々の物質代謝に影響を及ぼすことはよく知られている1,2).エタノールの代謝系にはアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase:ADH),ミクロソームエタノール酸化系(microsomal ethanol oxidizing system:MEOS)およびカタラーゼの3つの酸化酵素系があげられる.

 (1)CH3CH20H+NAD→CH3CHO+NADH+H(ADH)

 (2)CH3CH20H+NADPH+H+O2→CH3CHO+NADP+2H20(MEOS)

 (3)NADPH+H+O2→NADP+H202(NADPHoxidase)

  CH3CH20H+H202→CH3CHO+2H20(catalase)

アルコールによる代謝異常

糖代謝異常 岡 博
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 アルコールの多飲は糖代謝に種々な異常をもたらすが,それには多くの,しかも時に相反する方向に働く因子が関与する.また,生体の代謝状態,すなわち,食後の肝グリコーゲンが十分に貯蔵されている状態か,空腹時で血糖維持が肝の糖新生能に依存している状態かによって,アルコールの糖代謝に対する作用も異なって来る.さらに,アルコールの長期大量摂取は,アルコール性の肝障害,膵障害をひき起こすので,肝,膵疾患による2次的な影響が糖代謝異常の主たる原因ともなりうる.

  以上述べたような理由により,アルコールは高血糖の方向にも,低血糖の方向にも働きうる.以下,アルコールによる糖代謝異常について概説する.

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 従来より,アルコールの大量長期間の摂取により脂肪肝をきたすことはよく知られている.またアルコール性高脂血症,最近では血清高比重蛋白(HDL)濃度の増加などアルコールと脂質代謝の関連はいろいろの面から検討されている.

 ここではアルコールの脂質代謝に及ぼす影響について述べるとともに,アルコールの代謝に伴って生じる高尿酸血症の機序について述べる.

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 アルコールは生体におけるアミノ酸・蛋白代謝系を変動させることが知られているが,この主な理由に,飲酒に伴う栄養不良状態と肝を中心とするアミノ酸,蛋白代謝系の変動があげられる.事実アルコール性肝臓病患者においては,通常,食事蛋白量の減少や消化管における蛋白の消化吸収障害などによってアミノ酸の供給量が減少している.アルコールそれ自体,またアルコールによる肝障害によって肝におけるアミノ酸,蛋白の代謝系が障害されている.さらにアルコール性肝臓病では,内分泌異常や糖質,脂質代謝系の変動によって,アミノ酸や蛋白の代謝系が二次的に変動している.したがって,アルコール性肝臓病にみられるアミノ酸,蛋白代謝の実態はきわめて複雑である.

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水,電解質

 アルコール摂取による尿量の増加は経験的によく知られており,この点について古くから種々の検討が加えられてきた.現在この利尿作用はアルコール飲料の種類,量には直接関係はなく,アルコール濃度の上昇時期に一致していること,また血中アルコール濃度の急峻な上昇の場合より,血中アルコール濃度が徐々に上昇する場合の方が利尿作用が強いことも明らかにされている.この利尿作用の機序については,視床下部下垂体系,特に抗利尿ホルモンの放出抑制によって生ずると考えられている.また,飲酒後の口渇感についても,慢性アルコール投与後で下痢,嘔吐のない場合の体内水分分布は全体水分量,細胞外液量,血漿量いずれも増加し,しかも血漿浸透圧は上昇している.したがって飲酒後の口渇感は血漿浸透圧の上昇や呼気から排泄されるアルコールによる口腔粘膜の乾燥によって生ずるものであり,脱水の指標とならないと考えられる.しかし,常習飲酒者においては下痢,嘔吐を伴うことが多く,この場合は,腸管からの水,電解質の吸収抑制1)と蠕動の亢進によるものであると考えられる.この腸管よりの吸収抑制の機序はNa-KATPase活性の抑制による能動輸送の低下である2)と考えられる.したがって下痢,嘔吐を伴う常習飲酒者では,脱水傾向,電解質低下傾向が出現する.以上の如くであり輸液を考える際にも個々の症例について十分な配慮が必要である.

アルコール依存症

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 飲酒は古くから日本の文化にとけこみ,冠婚葬祭などという公の行事にはなくてはならないものであった.また,わが国には晩酌という独特の飲酒形態があるが,これも含め飲酒は男性の特権とみなされてきていた.しかし,近年生活の西欧化に伴い,ウィスキー,ビールなどといった外来酒の消費量が増加し,逆に日本酒が低下してきたり,女性の飲酒者が増加するなど,わが国の飲酒構造が大きく変化してきている.これらをふまえ,以下,わが国における飲酒量の動向,飲酒パターン,大量飲酒者数の推定,今後の予測などについて概括してみたい.

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 スウェーデンの内科医Huss M(1849)によってはじめてalcoholismus chronicusの用語とその概念が記載され4),この病態は精神的ならびに身体的障害であり,アルコールに対する依存性の強い慢性進行性疾患であるとされた.本邦では古くからalcoholismusに対してアルコール中毒の訳語が定着しているが,alcoholismusにはもともと中毒の意味は含まれていないのでかならずしも当をえた訳ではない.最近ようやくアルコール症という適訳が用いられるようになった.しかし,アルコール症そのものの適否やアルコール症に関連した用語上の問題点が日本アルコール医学会用語委員会によって指摘されている5)

 Hussの考え方はその後疾病モデル化への進展というより,むしろ社会モデル化への拡大という変遷をみせた.WHO(1977)3)はその事態を重くみて,alcoholismの用語に新たな概念規定を与えても徒労に終る,という認識に立ってalcoholismそのものを廃語にし,代わってalcohol-related disabilities(アルコール関連障害)の採用を提唱した.

アルコール精神病 加藤 伸勝
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 アルコール精神病の記載は,Meyer E(1903)に始まるらしいが,正式にはいつから用いられるに至ったか分からない.中毒性精神病(Intoxikationspsychose)の記載はより古くからあるが,その概念は必ずしも明確ではない.特に急性精神病と慢性精神病の区別と,その両者のいずれをアルコール精神病の概念の中に取り込むかについては見解が分かれ,後者のみを取り上げるものと前者も含む場合とに分かれていた.しかし,大部分はいわゆる慢性アルコール中毒(アルコール依存度)の基盤の上に生じる精神病状態をアルコール精神病とする立場のものが多かった.なお,アルコール精神病の概念の歴史的変遷については,筆者の総説1)を参照されたい.

臓器障害の成り立ち—なぜ起こるのか

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 アルコール性肝障害の中で,肝線維化の発生機序を中心に概説する.慢性エタノール摂取で惹起される肝線維化過程を病理学的および生化学的面から著者らの成績を基にして考察したい.さらに,アルコールによる肝線維化の病態を臨床的に把握するマーカーについても詳述し,今後の展望を述べたい.

膵炎・膵石症 建部 高明 , 宮川 宏之
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アルコール膵炎の概念の変遷

 飲酒と急性膵炎(膵の自己消化)との間には密接な因果関係の存在することは以前から推測されている.すなわち,Weinerら(1938)は38例の急性出血性膵炎で死亡した剖検例のうち,66%は大量の飲酒後に発症したと報告し,またClark(1942)は大量の飲酒後に死亡した大酒家の36例のうち,42%の死因は急性出血性膵炎であったと報告している.

 一方,Ammannら(1973)によると,81例の慢性膵炎のうち23例は発症時に急性膵炎と診断されたが,その後の追跡によって慢性膵炎と確診され,この23例のうち21例は大酒家である.またWhite(1966)の集計によると,大酒家の頻度は慢性膵炎で75%と高率であるが,急性膵炎では6%と低率である.

消化管障害 佐藤 信紘 , 島津 亮
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 アルコールは空腸に至るまでにその大半が吸収されるため,空腸まではアルコールが消化管粘膜に直接接することにより,空腸以遠は血行性に至ったものにより生じると考えられている.以下,特に言及しない限り直接作用について述べる.飲用アルコールによる消化管障害はアルコールが消化管粘膜に接触し吸収される過程において生じるが,障害の程度はアルコールの濃度および消化管からの吸収量に依存する.吸収の速度は濃度に依存し,また,摂食の状態,アルコール飲料の種類によっても異なる.さらに,種差,個体差が大きい.

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 慢性アルコール中毒が臨床的に心機能低下をもたらすことは多数の研究者により報告されている.アルコールによる心疾患について1979年New York HeartAssociationは,「慢性アルコール中毒の経過中に不整脈,心拡大,あるいは心不全が出現するが,他に心疾患の原因を認めず,禁酒により症状が消失するもの」と定義した.さらに近年アルコールと高血圧,虚血性心疾患ならびに脂質代謝との関係についても注目されている.一方,アルコールによる心疾患の発現機序はいまだ明らかではないが,エタノール自身あるいはその代謝産物が重要な役割を果たすとの報告がある.

  ここではアルコールの心・血管系に及ぼす影響について,特にアルコール性心疾患の発現機序,ならびに臨床所見の特徴を中心に述べる.

造血器障害 北原 光夫
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 アルコール摂取による血液異常原因は大きく3つに分けられる(表).造血器に対するアルコールの影響,アルコール摂取過多によるその他の血液変化,アルコール性肝障害によるもの,の3つが挙げられる.

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 脳・神経の領域では「アルコール性」という表現は,きわめて臨床的な意味で用いられてきており,注意が必要である.とくに,慢性のアルコール摂取が基礎にある場合には,その原因として,

 ①アルコールまたはその代謝物による直接の障害

 ②ビタミン類その他の栄養素の欠乏

 ③重症アルコール性肝障害の影響

 を考慮しなければならない.「アルコール性」という言葉が,「原因は明らかでないが,アルコール依存症の患者に頻度が多く,他ではあまり見られない特殊な病態を有する」という意味で使用されることも多い.

 また,一般にアルコール依存症の患者は,総摂取カロリーは保たれているが,食事が偏ることにより,症状はなくとも,同時に何種類かのビタミン類の低下状態にあることが多い1)

診断のポイント

アルコール性肝障害の診断 蓮村 靖
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 アルコール性肝障害の診断に際しては,肝障害が飲酒に起因するという病因診断と,その肝障害がどのような病態を呈しているのかの病型診断の2つを評価する必要がある.そこで,この両者を行う際の診断基準について,最近の考え方を記述する.

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 日本酒にして1日3〜5合,ビールなら大びん3〜5本,ウィスキー1/4〜1/2ボトル以上を連日飲んでいると,飲酒に起因する精神神経症状が生じうるとされるが,その内で最も高頻度にみられるものが多発性ニューロパチーであり,他に小脳障害,禁断症状,痴呆,仮性球麻痺などがよくみられる精神神経症状である.一般にアルコール中毒患者では肝障害や禁断症状が目立つため,多発性ニューロパチーの存在は見逃されている場合も少なくない.

 本症はアルコールによる症状の中でも早期治療により回復の可能性があるものなので,特にその早期診断が重要である.

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 γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-glutamyltranspeptidase;γ-GTP,EC 2.3.2.2.)がアルコール性肝疾患で増加することは良く知られているが,他の多くの血清学的検査と同様,γ-GTPに関しても感度,特異性に若干の問題があり,したがって高γ-GTP血症の取り扱いに際してもいくつかの点に注意が必要である.そこで,本稿ではγ-GTPの臓器分布,細胞内の局在,生理的変動などに関する最近の知見を紹介し,高γ-GTP血症の疾患特異性,ならびにアルコール性肝疾患の診断およびスクリーニングにおけるγ-GTPの意義について解説してみたい.

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 飲酒の生化学的指標には,急性および慢性の飲酒マーカーがある.前者は正に血中アルコール濃度の測定につき,後者は血清γ-GTPの測定に代表される.本項の主な目的は,常・多飲酒者自身から直接得られ難い飲酒情況を客観的に把握することと,同時に,彼らの現時病変が飲酒によりどれ程影響を受けているかを解明する点にあろうかと思う.

 アルコール性肝障害の臨床的特徴像は,1)肝細胞の脂肪化,2)肝細胞周囲性の線維化あるいは細線維の不規則な伸展・増生,3)肝組織内好中球浸潤(炎性反応),4)胆汁うっ滞などである.

アルコール救急医療

急性アルコール中毒 高木 敏
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 急性アルコール中毒は短時間に多量のアルコールを摂取した場合発症する酩酊状態を言う.最近,若者の間で流行しているイッキ飲みでは典型的な急性アルコール中毒症状が出現する.しかし日常臨床では急性アルコール中毒のみで救急医療に送られることは多くなく,頭部外傷などなんらかの合併症が初期治療の対象となる例が多い.

アルコール離脱症状群 小杉 好弘
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 アルコール依存症者にあって,なんらかの理由による飲酒の中断や減量により,血中アルコール濃度の低下に伴って生ずる中枢神経系全体の過剰興奮状態をアルコール離脱症状群と称する.このアルコール離脱症状群は,Victor & Adams1)によって1953年に麻薬やバルビツレート依存の離脱症状群と類似のものとして,最初に記載された.特殊な例としては,女性のアルコール依存症者から生まれた新生児で,その発現をみたという報告2)がある.

 Victorらは,多数の振戦せん妄例の臨床的観察から,アルコール離脱症状群を経時的にみて,離脱後早期に出現する小離脱症状群と,その後に出現する大離脱症状群とに区分した(図1).

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 近年アルコール消費量の急激な増加に伴い,本邦においても200万人以上のアルコール依存症者がいることが明らかにされてきた.これら依存症者の多くは,いわゆる,アルコール性肝障害を合併していることが多く,これまで本邦では比較的少ないと考えられていたアルコール性肝炎も着実に増加していることが示されている1).多くのアルコール性肝障害は禁酒,安静,食事療法などの対症的な治療により軽快するが,しかし,Phillipsら2)がアルコール依存症者の中に急性肝不全で死亡する場合のあることを報告して以来,重症型のアルコール性肝炎の存在が注目されるようになった.事実,筆者らも長年月の飲酒後に過剰の連続飲酒を契機に肝不全に陥り,死の転帰をとる場合を経験しており,これら自験例をふまえて,今回,重症アルコール性肝障害について概述することとする.

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 救急医療の現場では,頭部外傷は比較的多い疾患単位であるが,その軽重にかかわらず一つの特徴に気づく.それは,転落転倒による頭部外傷のほとんどが飲酒特に酩酊時に発生していることである.アルコールは重症頭部外傷の原因,経過,結果と密接な関係を有するが,この両者の臨床的,基礎的事実について述べる.

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 近年,緊急内視鏡検査の発達に伴い,上部消化管顕出血の原因の95%以上が,遅くとも発症後72時間以内に診断されるようになった.同時に,種々の秀れた内科的止血法の開発により緊急手術の必要性が激減することともなった.アルコール過飲に伴う上部消化管出血に直面した場合にも,基本的には他と同様のステップを踏むわけであるが,アルコール関連の基礎疾患が複数個共存している可能性を常に念頭に入れつつ,注意深く診断と治療に臨まねばならない.

治療上の問題点

アルコール依存症の治療 洲脇 寛
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 アルコール症やアルコール関連障害の中核をなしている病態は,アルコール依存と称されるもので,これは,治療的にも,最も重要な領域である.アルコール依存は,普通,精神依存と身体依存に分けて整理されているが,それらは,お互いに密接に関連しあって成立している.アルコール依存症の概念や離脱症候群の詳細は,他章でとりあげられているので参照して頂き,ここでは,もっぱら,アルコール依存症の治療について述べることとする.

糖尿病とアルコール飲料 松岡 健平
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 インスリン非依存型糖尿病患者にとって,アルコール飲料に接する宴席に出た翌朝の空腹時血糖値は糖質摂取を制限さえしていればしばしば低く出てくるものである.エタノールが糖新生を直接抑制するからである.とくに肝疾患を合併して,肝グリコゲン量が減少している症例,経口血糖降下剤やインスリンの投与を受けている症例には重大な影響を与える.肝に対する悪影響,肝障害によりもたらされるインスリン感受性の低下1),中性脂肪の上昇2),さらに酒の肴として摂取する余剰なエネルギーのことを考えると,糖尿病例に決してすすめられる飲料ではない.エタノールはケトアシドーシス,乳酸アシドーシス,急性アルコール中毒などの危険因子となっていることから,本項ではとくに糖尿病例に対するアルコール摂取の指導を中心に述べてみたい.

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 近年,アルコール消費量の増加に伴い,いわゆる酒(アルコール飲料)を飲む人の割合は,厚生省飲酒と健康に関する日米共同班(昭和60年,班長河野裕明国立療養所久里浜病院長)によると,男性の91%,女性の61%にまで増加し,「飲酒人口」は6,400万人に達しているとされ,また1日当たり日本酒相当量5合以上を毎日飲酒する,いわゆる「アルコール依存症」者は220万人に及ぶと報告され,社会問題として大々的にマスコミが取り上げている.また都民を対象とした調査では,日本酒換算で毎日2合以上飲む人は,40代で4人に1人に達している.さらに「酒をやめたい」,「量を減らさねばならない」と考えている人は38%であって,とくに50代では55%に及んでおり,多くの人が酒による健康障害を心配している.

 従来「アルコーリズム」はアルコールてんかん,振戦譫妄,アルコール痴呆などのアルコール精神病と,異常酩訂,それにアルコール依存症を包括する,いわゆる精神科医のかかわる疾患群を意味していたが,しかし今やアルコールに関連した健康問題のうち,精神科固有の領域は一部にすぎず,従来から問題とされることが多かった肝障害のみならず,高血圧や心臓などの循環器疾患,糖尿病,消化性潰瘍,急性・慢性膵炎,痛風,中枢・末梢の神経疾患,など内科医がその治療に関与しなければならない機会は多く,また実際そうであるのが現実であろう.

理解のための10題

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 神経内分泌学は,中枢神経系と内分泌系の接点を研究する分野であるが,その歴史はたかだか20年,かなり一般化してきたのはここ10年ほどのことである.この分野への臨床的立場からの接近法としては,1)内科学,内分泌学の側から,内分泌疾患を念頭において,古典的なホルモンの動態を制御する因子としての中枢神経(主として視床下部)由来の物質を探索するいき方と,2)神経精神医学,精神薬理学などの立場から,中枢神経疾患を液性制御humoral controlの考え方によって理解していこうとする方法,とがある.前者に関しては,わが国は多くのすぐれた研究者を擁しており,また筆者の専門とするところではないので,主として後者の立場から,この分野での最近の進歩を概観していきたい.

カラーグラフ 皮膚病変のみかたとらえ方

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 概念 光線過敏症は日光(とくに紫外線)刺激で誘発される皮膚病変の総称である.人間が地上において受ける紫外線にはUVB(280-320mm)とUVA(320-400mm)の別があり,UVBは炎症を起こし易く,他方UVAは単独では色素沈着を来し易い.光線過敏症は臨床的に日光曝露部に一致して皮疹が認められるとき,その疑いがある.光線の皮疹惹起機序は必ずしもなお明確でないが,薬疹または接触性皮膚炎型では光アレルギー反応または光毒反応による発症が考えられる.光過敏症では,臨床的に種々の皮疹が認められるが,漿液性丘疹が認められるとき,日光湿疹(多形日光疹の1型),光アレルギー性接触性皮膚炎または同薬疹などが,水疱をみる場合は,ポリフィリン症,種痘様水疱症などが,色素沈着をみる場合は,光毒性薬疹または同接触皮膚炎,ペラグラ,色素性乾皮症などが,紅斑,充実性丘疹のときは,多形日光疹,SLE,皮膚筋炎などが疑われる.

グラフ 内科医のための骨・関節のX線診断

(3)血液疾患の骨病変 水野 富一
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1.貧血

 貧血における骨変化は主に骨髄における赤芽球系の代償性増殖による.鎌状赤血球性貧血では,血栓症,低酸素血症による血管の収縮,血液の粘稠度の増加などにより,局所的な血流障害が起こり,骨の虚血性変化も認められる.その他,ある種の貧血では特殊な骨病変が共存する.

 骨変化を来たす貧血はほとんどが先天性であり,鉄欠乏性貧血などの後天性貧血では,稀である.

グラフ 消化管造影 基本テクニックとPitfall

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 西澤 今回は,食道のX線異常像の読影の要点ということを中心にお話をうかがいます.異常像をチェックする順序として,はじめに食道全体の走行の異常をみること,第2に運動の異常の有無,3番目に拡張しているか,狭窄しているか,4番目に食道の伸展性の異常と辺縁の異常像,最後に粘膜の異常像という順に読影していくと思います.

演習

目でみるトレーニング

演習 —内科専門医による—実践診療EXERCISE

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 34歳の女性.発熱,多発性関節痛,蛋白尿,白血球減少,抗核抗体,抗DNA抗体陽性などからSLEと診断されて入院し,腎生検ののちにprednisolone 60mg/日にて治療を受けていた.腎生検の結果はfocal proliferative glomerulonephritisで,治療開始後臨床症状の改善をみた.しかしprednisolone 60mg投与が6週間経過した頃から再び発熱,頭痛,息切れを訴えるようになった.咳嗽・喀痰はほとんど認めなかった.入院時から軽度の肝障害があり,ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム),INHなどは投与していなかった.

 理学所見:身長156cm,体重50 kg,血圧120/64,脈拍96/分,整,呼吸数28/分,体温38.4℃.舌やや乾燥,頚静脈怒張なし.心音・呼吸音異常なし.肝脾腫,下腿浮腫なし.

講座 図解病態のしくみ 内分泌代謝疾患・3

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 下垂体前葉ホルモンには,性腺刺激ホルモンfollicle stimulating hormone(FSH),luteinizinghormone(LH),成長ホルモンgrowth hormone(GH),甲状腺刺激ホルモンthyroid stimulating-hormone(TSH),副腎皮質刺激ホルモンadreno-corticotropic hormone(ACTH)およびプロラクチンprolactin(PRL)がある.これらのホルモンの一部あるいはすべてが,種々の原因により後天性に分泌不全に陥った病態が下垂体前葉機能低下症である.また明らかな器質的病変を有しないで1つのホルモンのみが欠損する症例もある.一般的にこれはホルモン単独欠損症とよばれるが,広義にはやはり下垂体前葉機能低下症のカテゴリーに入るものである.本稿では下垂体前葉機能低下症について解説する.

海外留学 海外留学ガイダンス

ドイツ留学とドイツ語 大石 実
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臨床研修を目的とする留学

 東ドイツでの臨床研修はほぼ不可能であるが,西ドイツでの臨床研修は可能である.しかし,外国人が有給の職に就く場合には,下記の許可を受けなければならない.

 Zentralstelle für Arbeitsvermittlung:Feuerbachstraβe 42-46, D-6000 Frankfurt 1, Bundesrepublik Deutschland

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症例

 症例 67歳,女性,主婦

 初診 昭和59年8月9日

診療基本手技

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 腎疾患の診断,治療,予後判定の上で,腎生検による組織診断は欠くべからざる手段である.今回は腎生検を正確かつ安全に行うための要点を述べる.実際,研修医も指導医のもとで行ったり,助手として行うことが多いので,この手技について知っておく必要がある.

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 加齢現象のせいなのか臨床経験が増したせいなのか定かではないが,最近では,医学的治療のほかに,宗教的治療を肯定しようという気持になっている,そして,シャーマニズム関係の本をかたっぱしから集めてきて読んでいる.宗教関係の本もずいぶん書架を占領するようになってきた.

 「一冊の本」として推薦したい本はたくさんあるが,ごく最近入手した昼田源四郎「疫病と狐憑き—近世庶民の医療事情」(みすず書房,1985)をあげよう.定価もみすず書房の本にしては珍しく,1,500円と安い.

基本情報

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medicina
23巻3号 (1986年3月)
電子版ISSN:1882-1189 印刷版ISSN:0025-7699 医学書院

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