INTESTINE 22巻4号 (2018年7月)

特集 炎症性腸疾患の粘膜治癒を考える

序説 緒方 晴彦
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炎症性腸疾患(infl ammatory bowel disease;IBD)の診断は,かつてバリウムX 線造影と通常内視鏡だけであった時代から,テクノロジーの進歩によりさまざまなmodality が用いられるようになった.その使用目的は確定診断のみならず,活動性評価,治療効果判定,予後予測と多岐にわたる.本誌では2014 年3・4 月号(Vol.18 No.2)において「炎症性腸疾患の画像診断modality」をテーマに特集が組まれたが,その後4 年が経過し治療法の選択肢も増え,その治療目標も単なる症状の改善から粘膜治癒(mucosal healing)へと変遷した現在において,本特集ではIBD に対する各種診断modality の有用性と意義,さらにはどこまで粘膜治癒診断に迫れるのかをメインテーマとした.

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炎症性腸疾患において生物学的製剤は必須の治療法となった.とくに,抗TNF-α抗体製剤の登場により炎症性腸疾患の治療戦略は大きな変化を遂げ,従来の治療目標であった症状改善から,消化管病変の瘢痕化,すなわち粘膜治癒や消化管機能の回復を目標とする治療が推奨されるようになった.このような,治療目標を個別化した考え方が,treat-to-target という概念で提言されている.なかでも,粘膜治癒を目指すことで,再発予防や外科的切除の回避など,きわめて良好な長期予後が得られることが示されている.一方で,粘膜治癒自体の定義が未だ明確ではない点は今後の重要な課題と思われる.

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粘膜治癒はステロイドフリー寛解および長期寛解維持など,アウトカム改善が得られることから治療目標になっている.とくに通常内視鏡での活動指数を利用した粘膜治癒評価がゴールドスタンダードとなっている.近年,患者の負担を軽減した便中カルプロテクチンやFIT などのバイオマーカーが粘膜治癒と相関することも報告されている.さらにサーベイランス内視鏡においては,メタ解析により通常色素内視鏡がdysplasia やcolitic cancer の検出能に優れていると提唱されている.

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潰瘍性大腸炎の治療目標として,粘膜治癒は既に現実のものとなっている.潰瘍性大腸炎の新規薬剤は開発され続けており,治療選択肢が増す状況のなかで,治療方針立案のために,客観的かつ簡便に粘膜治癒を評価する検査法の開発が希求されている.色素内視鏡からNB(I Narrow Band Imaging)拡大内視鏡観察へ検討が続けられており,組織学的活動性や予後との相関も示されてきている.色素拡大内視鏡観察では微小なびらんの残存や再生腺管構造が,NBI 拡大観察では再生粘膜における血管構造が白色光観察に比べ視認しやすくなる.課題は日常臨床に応用可能な手法と所見の開発で,エビデンスレベルの高い手法による知見の発信が求められている.

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内視鏡画像強調システム「LASEREO」は粘膜表面の微細血管,粘膜表面構造を高いコントラストで描出する BL(I Blue LASER Imaging)と,粘膜のわずかな色の差を強調して正常粘膜と病変との差をつける狭帯域光色彩強調機能LCI(Linked Color Imaging)を搭載している.LCI によって大腸粘膜のわずかな発赤を強調することで,従来の内視鏡分類とは違った潰瘍性大腸炎の新しい内視鏡分類を定義することができる.このLCI 分類は粘膜の組織炎症,長期の非再燃率と相関しており,粘膜治癒の評価や治療強化に有用であると考えられる.

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近年,潰瘍性大腸炎の治療目標として内視鏡的寛解より組織学的寛解が重要とされてきている.新しく開発された超拡大内視鏡は,生体内において細胞レベルの観察が可能となってきている.超拡大内視鏡である“Endocyto”による潰瘍性大腸炎の炎症評価の有用性について,いくつかの報告がすでになされている.本稿では,さらに当施設で研究を行っている“Endocyto”NBI を用いた人工知能による自動診断システムについても概説する.

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潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)に対して大腸カプセル内視鏡(coloncapsule endoscopy;CCE)は,病変の性状や程度,罹患範囲などを確認するモニタリングツールとして使用する.最近,大腸ポリープに対するCCE 前処置で本邦に古くからあるヒマシ油を使用した前処置法の有用性が報告されているが,UC に対する高濃度polyethylene glycol とヒマシ油を用いた前処置法の簡便さと,高い全大腸観察率が報告されている.

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クローン病(CD)診療におけるX 線造影検査の臨床的意義について再考した.全消化管に病変を形成しうるCD では,消化管を包括的に評価する必要がある.一方,CD は腸管狭窄,瘻孔,膿瘍形成などの腸管合併症や肛門病変も高率に合併するため,内視鏡検査が困難となる症例が少なくない.このようなCD の消化管評価においてX 線造影検査は有用性が高いと考えられるが,X 線被曝の問題がある.X 線被曝がなく,同様に消化管病変の包括的評価が可能とされるMRenterography などのcross-sectional imaging と有用性について比較検証する必要がある.

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近年,炎症性腸疾患の治療目標として粘膜治癒が提唱され,内視鏡的活動性評価の重要性が増している.バルーン内視鏡の登場によりクローン病の小腸病変の観察が可能となったが,小腸病変のスコア方法については確立されたものはない.また,クローン病の粘膜治癒の定義に関しても定量化されたものが存在しない.今後,小腸と大腸に広く適応でき,病勢を的確に評価できるクローン病の内視鏡スコアの開発が求められる.

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生物学的製剤を中心としたクローン病に対する治療の進歩は目覚ましい.近年の治療目標である「粘膜治癒」の達成への内科治療の効果判定に小腸カプセル内視鏡は,パテンシーカプセルで消化管の開通性が確認できれば安全で低侵襲な検査法として有用である.

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クローン病の病変は,非連続性に消化管全域に発生する可能性があり,炎症は腸管壁全層に及び腸管外にも波及する.このようなクローン病の疾患特性に対し,CT/MR enterography 等の低侵襲のモダリティによる横断的画像診断法が基本的検査法として導入されている.内視鏡的粘膜治癒に対し,横断的画像診断法による壁治癒(trasmural healing)が提唱され,クローン病の治療目標として検討されている.

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組織学的粘膜治癒の概念は,炎症性腸疾患の治療目標が従来の臨床症状の改善から内視鏡的な粘膜治癒に移行したことによって注目されたが,組織学的所見は炎症性腸疾患の治療目標には考慮されず,組織学的粘膜治癒については明確な定義がないとされている.2014 年に組織学的寛解の目標として,① 好中球の消失(上皮内および粘膜固有層内のいずれにも),② 粘膜固有層深部の形質細胞の消失と正常範囲内の形質細胞数,③ 正常範囲内の粘膜固有層内の好酸球数,が提唱されている.形質細胞や好酸球は慢性炎症細胞として正常の腸管にも存在するため,その役割や判定方法などは不明な点が多く,本稿では,現段階としては好中球浸潤の消失のみをその条件とした.潰瘍性大腸炎では組織学的粘膜治癒と良好な臨床経過の関連性も指摘されており,将来的に治療目標の一つとされる可能性もある.組織学的粘膜治癒の定義の確立が望まれる.

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潰瘍性大腸炎(UC)の癌化のメカニズムを解明し,精度の高い癌合併リスク診断マーカーを確立することは,新たなサーベイランスプロトコールとして期待される.Issa らはaging とともにDNA メチル化が起こり(epigenetic drift),発現が抑制される遺伝子(ER,MYOD,p16 exon 1,CSPG2)の存在を明らかにした.とくにER のメチル化は,癌非合併UC 患者に比べ癌合併UC患者の非腫瘍性粘膜において有意に高率であることが示され(fi eld eff ect),UC の癌合併高リスク症例の診断マーカーになりうることが報告された.UC は直腸から口側に炎症が拡がる病態とされ,直腸の慢性炎症の蓄積は他の大腸部位に比べ高いことが推測される.また慢性炎症による腸管粘膜細胞の再上皮化は,腸管老化を誘発すると考えられる.今回,aging に関わるmicroRNAs(miR-1,-9,-124,-137,-34b/c)のDNA メチル化異常に着目し,UC 粘膜(とくに直腸粘膜)におけるメチル化レベルを定量し,それらが新たな癌合併高リスク群患者を抽出できるか検討した.

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近年の分子生物学的研究により,sessile serratedadenoma/polyp(SSA/P)はBRAF 変異,CpGアイランドの同時多発的なメチル化(CpG islandmethylator phenotype;CIMP)といった特徴的な分子異常を高頻度に認めることが明らかとなり,現在ではその分子病態の類似性からSSA/Pはmicrosatellite instability(MSI)陽性大腸癌の前駆病変の一つと考えられている.

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症例は60 歳代,男性.下部消化管内視鏡検査にて,下行結腸に発赤調を呈する8mm 大のⅠs+Ⅱc 病変を認めた.クリスタルバイオレット染色下の拡大観察では,陥凹内隆起部にⅤI 高度不整およびⅤN 型pit pattern を呈する領域を認めた.NarrowBand Imaging 併用Endcytoscopy(EC)ではEC-V3,クリスタルバイオレットとメチレンブルーによる二重染色下でのEC 観察ではEC 3b と診断されたことから,SM 深部浸潤以深の癌病変と考えられた.病理組織所見では,表層からの浸潤距離は3,088μm であり,EC により病変の深達度を正確に診断しえた興味深い症例であるため,文献的考察を交えて報告する.

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目次

次号予告

編集後記

基本情報

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INTESTINE
22巻4号 (2018年7月)
電子版ISSN:2433-250X 印刷版ISSN:1883-2342 日本メディカルセンター

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