INTESTINE 22巻3号 (2018年5月)

特集 病態から考え出されたIBD治療の進歩

序説 藤井 俊光 , 渡辺 守
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1.抗TNF-α抗体製剤の登場とそれ以後の動向 炎症性腸疾患(IBD)は本邦において増加の一途をたどり,すでに潰瘍性大腸炎(UC),クローン病(CD)の両疾患で25 万人程度と推定されており,とくにUC は20 万人を超え米国に次ぎ世界第2 位となって久しい.そのなかで,IBD の治療も大きく変貌を遂げた.そのきっかけは1993 年にオランダでの少女のCD 症例に対する抗tumornecrosis factor(TNF)-α抗体製剤の著効例の報告1)からであった.その後同製剤は大規模臨床試験を経て,CD2),UC3)をはじめ関節リウマチや強直性脊椎炎,ベーチェット病,乾癬,最近では川崎病へと適応を拡大している.抗TNF-α抗体製剤の功績はCD での劇的な有効性にとどまらない.それまでIBD の治療目標は臨床的寛解であったわけであるが,炎症そのものをコントロールできるようになったことで,少なくない症例で粘膜治癒が得られるようになった.そして,それをきっかけにIBD の疾患概念そのものが変化してきたのである.とくにCD においては臨床的に寛解であっても炎症が持続することで腸管の狭窄を生じ,それが瘻孔形成,さらに膿瘍形成に至る.腸管合併症に対しては外科的な腸管切除が必要になるが,術後も活動性のコントロールが十分でなければさらなる腸管切除を要し,機能障害に陥る.このように臨床症状は再燃寛解をくり返すように見えても,疾患自体は器質的障害から機能障害につながる慢性進行性の疾患であるという概念4)が定着したのである.また,UC 長期経過例で問題となるcolitis associated colorectal cancer は炎症の持続により発生する炎症性発癌であり,その意味ではUC も進行性疾患と捉えることができる.疾患の進行を抑制するためには適切な時期での適切な治療介入が必須となる.治療の最適化のためには疾患活動性を正確に評価する必要があり,MRE や腸管エコー,カプセル内視鏡など新たなモダリティーが数多く開発されてきた.このように,この15 年は抗TNF-α抗体製剤の登場とともに,疾患概念の変化,治療目標の高度化,そのための画像モダリティーの開発と,IBD 診療は激変を経たのである.

Ⅰ.IBDの病態 仲瀬 裕志
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炎症性腸疾患(IBD)の病態解明が進むにつれて,新規治療ターゲットとなりうる候補分子が同定されつつある.その発見に従い,IBD 関連の多くの薬剤の開発が進んでいる.しかしながら,個別化医療に至る道はまだ険しい.より適切な患者に適切な治療薬が届けられるような治療戦略を行っていくために,今まで以上に病態解明に結びつく研究を推進していく必要がある.腸内細菌,サイトカインなどに関する研究は大きく発展を遂げてきたが,今後,発症機序を考慮するうえで,エピゲノムについても目を向ける必要がある.エピゲノム解析は今後のIBD 機序解明においても,重要な役割を果たすことには間違いがない.

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生物学的製剤の登場により炎症性腸疾患の治療に大きな進歩を遂げてから約20 年となる.現在,抗サイトカイン抗体製剤や白血球接着分子阻害薬などの多様な機序の生物学的製剤やJanus kinase 阻害薬などの経口低分子阻害薬が開発され,実用化に向けた臨床試験が行われている.炎症性腸疾患治療は,豊富な免疫統御療法の選択肢から患者ごとに最適な解をいかに見つけ出すか,というまさに新時代を迎えようとしている.本稿では,海外における最新の炎症性腸疾患治療薬の開発状況を作用機序別に概説する.

Ⅲ.新規抗TNF-α抗体製剤 竹内 健
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抗TNF-α抗体製剤は,炎症性腸疾患治療に最初に導入された生物学的製剤としてIBD 診療に多大な影響を与えてきた.現在,臨床現場で使用可能な抗TNF-α抗体製剤は複数存在し,投与法だけではなく,製造法により異なる免疫原性や疾患ごとの有効性の違いなど,実際に使用する際に理解すべき特性がある.抗TNF-α抗体製剤を最適に使用するためには,各薬剤における免疫調節薬併用の必要性の違いや,抗TNF-α抗体製剤の継続中に発生する二次無効に対するtherapeutic drug monitoring(TDM)に基づく投与量の最適化もしくは薬剤変更の有用性が報告されており,今後の検討が必要である.

Ⅳ.IL-12/23阻害薬 小林 拓
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クローン病に対し抗IL-12/23 抗体ustekinumab の使用が可能になった.IL-12/23 は自然免疫系細胞から産生され,Th1/Th17 型の応答を誘導する,クローン病病態の上流に位置するサイトカインである.第3 相ランダム化比較試験で有効性が確認され,① TNF-αと異なる経路を阻害すること,② 良好な安全性プロファイルが報告されていること,③ 低い免疫原性,などからクローン病の治療成績を向上させることが期待される.

Ⅴ.SMAD7阻害薬 久松 理一
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クローン病では,TGF-βシグナルのネガティブフィードバック分子であるSMAD7 の過剰発現により免疫抑制性のTGF-βシグナルがブロックされ炎症性サイトカインの過剰産生を引き起こしている可能性が示唆されていた.マウス腸炎モデルにおいて,SMAD7 アンチセンスオリゴヌクレオチドの経口投与の腸炎抑制効果が示された.これらの結果をもとに,クローン病患者において臨床試験が行われた.第Ⅰ相で安全性が確認され,第Ⅱ相において有効性が示唆されたが,第Ⅲ相試験の中間報告でプラセボ群と比較して有効性が示されず試験中止となった.

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炎症性腸疾患の治療薬は日々進歩し,とくに抗TNF-α抗体製剤により治療抵抗例もコントロール可能となってきた.しかし,時に同製剤でも難渋するケースを経験し問題となっている.そこで注目されるのが新規薬剤のJAK 阻害薬で,これは炎症を惹起する各種サイトカインが作用するJAK-STAT 経路を直接阻害するため,広範かつ強力に炎症作用を制御でき,治療抵抗例への寛解導入効果も期待されている.一方で,広範にサイトカイン作用を抑制するため感染症の副作用が懸念され,とくにアジア人では帯状疱疹が多くみられ注意が必要である.さまざまな新規薬剤が開発されており,各種薬剤の併用やスイッチなどについて,安全かつ有効な治療戦略の構築が必要な時代となっている.

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炎症性腸疾患において,抗TNF-α抗体製剤はもっとも有効な治療薬の一つとなったが,近年では新たな薬剤の開発と臨床応用も進んでいる.とくに,サイトカインや接着因子を標的とした新規薬剤の有効性が確認されている.抗α4β7インテグリン抗体製剤は,消化管粘膜に発現するMAdCAM-1 と特異的に結合することで,腸管の炎症局所へのリンパ球の遊走を阻害する生物学的製剤である.本剤は高い腸管選択性が特徴の一つであり,欧米ではすでに承認されており,本邦でも潰瘍性大腸炎に関しては臨床試験が終了している.

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二次リンパ節と血漿の間にはスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の濃度勾配が存在し,S1P 受容体を発現するリンパ球の二次リンパ節からの遊出を制御している.S1P 受容体アゴニストは,腸管膜リンパ節から腸管粘膜固有層へのリンパ球の動員を阻害することで,炎症性腸疾患(IBD)での腸管炎症を抑制する.いくつかのS1P 受容体アゴニストが開発されており,IBD に対する新規治療薬として期待されている.

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炎症部位へのリンパ球浸潤は,炎症部位における血管内皮細胞上に発現する接着分子と,リンパ球上に発現するintegrin の組み合わせによって臓器特異性が担保されている.腸粘膜固有層へのリンパ球浸潤を阻害することが炎症性腸疾患の有望な治療法であることが示されている.AJM300 は経口の低分子α4integrin 阻害薬である.第2a 相試験において,中等症の潰瘍性大腸炎患者に対して有効性を示しており,今後新たな治療選択肢と登場することが期待されている.一方で,α4 integrin 阻害薬の重篤な副作用である進行性多巣性白質脳症に対する細心の注意が必要であると考えられる.

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抗TNF-α抗体製剤はクローン病(CD)に対する著明な効果から急速に普及し内科治療の成績も大きく改善されたが,二次無効というまた新たな問題にも直面している.ブデソニド経口剤は,局所主体に作用し全身性の副作用が軽減されるアンテドラッグ型のステロイド剤で,回盲部に病変の主座を有する軽症から中等症の活動期CD 患者の寛解導入に推奨されている.本邦では歴史的に本症に対するステロイド剤使用は欧米に比し低率であるが,安全性の改善された同薬の登場により,発症時のみならず,経過中の一過性再燃や二次無効例にも適応が考慮され,本症内科治療のさらなる向上が期待される.

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軽症から中等症の活動性を有する直腸炎型,遠位大腸炎型の潰瘍性大腸炎に対する治療法としては第一選択は局所療法であるが,患者の忍容性や有効性や安全性に関する知識が不足していることより,実際には頻用されていない.budesonidefoam は忍容性が高く,副作用の少ない局所療法として開発されてきた.本邦における二つの治験では1 日2 回のbudesonide foam で6 週間治療することにより,高い完全粘膜治癒率が得られることが確認され,2017 年12月より実臨床で使用されている.過去に局所療法が不応・不耐であった症例に対する治療法として期待されているが,血中コルチゾールが低下するなどのステロイドとしての副作用が出現することも留意すべきである.

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ヒトの消化管には約1,000 種,100 兆個の細菌が存在し,腸内細菌のもつ総遺伝子数はヒトのもつ遺伝子の100 倍以上に上ることが明らかとなった.さらに,これまで予想されていなかった腸内細菌の新たな機能が次々と明らかにされつつある.本稿では,腸内細菌叢とプロバイオティクス,糞便微生物移植法について解説する.

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大腸腺腫性ポリープの内視鏡的切除は大腸癌への進行を抑制することが明らかになっており,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)や内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopicsubmucosal dissection;ESD)などの内視鏡治療が根治目的に行われている.大腸ESD は病変周囲の粘膜切開と粘膜下層剝離を可視下に行うため,従来のEMR と比べ高い確率で一括切除が得られ,切除切片の詳細な病理診断が可能な大腸腫瘍に対する確実な治療法である1),2).しかし,大腸ESD が低い再発率を有する治療法かどうかを明らかにするためには長期予後を明らかにする必要がある.そこで,当院にて大腸ESD を受けた患者の長期予後を検討した.

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大腸腺腫に対する内視鏡的ポリープ摘除術は,大腸癌の発生割合,および死亡割合の減少を示す研究結果により,大腸癌の二次予防として位置づけられており,その臨床的意義は高い1),2).通電を伴わないcold snare polypectomy(CSP)は,10 mm 未満の小ポリープに対する穿孔,出血などの偶発症の少ない治療法として知られているが3),ポリープ遺残の可能性について前向きに検討した報告は少ない.

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目次

次号予告

編集後記

基本情報

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INTESTINE
22巻3号 (2018年5月)
電子版ISSN:2433-250X 印刷版ISSN:1883-2342 日本メディカルセンター

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