臨牀消化器内科 34巻12号 (2019年10月)

特集 遭遇の機会が増えたIPMN/膵囊胞―現状と課題

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本邦では,今でこそ膵管内乳頭粘液性腫瘍,あるいはIPMN といえば,“ああ,あの疾患”とすぐに想起されるほど,その疾患概念が定着しているが,この疾患が“粘液産生膵癌”として世界に先駆けて日本で提唱されたことをご存知の先生は残念ながら少ない.“粘液産生膵癌”の歴史的変遷をできるかぎり正確に辿り,この疾患(概念)が現在の膵癌診療に大きく及ぼした影響について記述したいと思う.ただし,枚数の関係で引用文献を十分に記せないことをお許し願いたい.本稿の執筆に当たっては拙著である「粘液産生膵腫瘍」(医学図書出版,1989),「Atlasof Excrine Pancreatic Tumors」(Springer-Verlag, 1994),「膵囊胞性疾患の診断」(医学書院,2003)を参考にした.

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画像診断技術の進歩,健康意識の高まり,人間ドックの普及などから無症状の膵囊胞が偶発的に発見される機会が増えている.偶発的膵囊胞の有病率に関してはさまざまな報告があるが,2019 年に報告されたメタ解析では膵囊胞全体で8%,IPMN は4.3%と高率であった.また膵囊胞の有病率は年齢とともに増加し,糖尿病や肥満とも関連がある可能性がある.偶発的膵囊胞の多くはIPMN であり,継続的な経過観察が求められる.IPMN は画像上,主膵管型,分枝型,混合型に分類され,適切な治療を行うためには画像診断が重要である.

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膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;IPMN)の病理学的概念は,多くの症例,議論を基に確立してきた.IPMN は腫瘍上皮の異型性による異型度分類と腫瘍の組織分化の種類による組織亜型分類がある.異型度分類は低異型度(low‒grade)と高異型度(high‒grade)の2 段階であり,低異型度は腺腫(adenoma),高異型度は非浸潤癌(non‒invasivecarcinoma)に相当する.組織亜型は,胃型,腸型,胆膵型,オンコサイト型に分類される.組織亜型の補助診断は,MUC シリーズ染色が有用である.IPMN に関わる遺伝子異常としてGNAS 変異,KRAS 変異,RNF43 変異が判明している.とくにGNAS 変異はIPMN に特異的な遺伝子異常であり,IPMN 由来膵癌の鑑別診断にも有用である.また,良悪性の鑑別や治療方針決定の補助診断として,膵液を用いてGNAS 変異の検出や組織亜型の判別を行う試みがされている.

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2017 年に「膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;IPMN)国際診療ガイドライン」が改訂され,おもにIPMN の切除基準と経過観察法が修正された.切除基準では,high‒risk stigmata とworrisomefeatures の項目や内容が見直され,壁在結節高のカットオフ値が導入されるなど,より実臨床に則した基準となった.経過観察法では,IPMN の囊胞径に応じた経過観察間隔がより詳しく記載されたが,この経過観察法はIPMN 併存膵癌発症のリスクは考慮していないため,IPMN の進展と同時にIPMN 併存膵癌の出現に対する注意も必要である.本稿では,2017 年改訂版「IPMN 国際診療ガイドライン」に基づく切除適応と経過観察の現状と問題点を,海外の他のガイドラインとも比較し,概説する.

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IPMN 国際診療ガイドラインをはじめ,膵囊胞性疾患に対する経過観察のモダリティとしては超音波内視鏡(EUS),MDCT,MRI/MRCP が多く推奨されており,腹部超音波検査(US)は含まれてはいない.しかし社会の高齢化が進む本邦においてUS は低侵襲かつ容易に施行できるもっとも普及しているモダリティであり,膵癌の早期発見においてなくてはならない検査である.一方,US には消化管ガスや肥満など被検者の体形による影響や術者の経験によるところが大きいというデメリットもある.そのため半座位や体位変換,飲水法などさまざまな工夫がその描出能改善のためには重要である.

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膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)のCT,MRI/MRCP 所見を提示し,IPMN の良悪性診断,経過観察における注意点について解説した.CT,MRI で分枝型IPMN との鑑別がもっとも問題となるのは漿液性囊胞腫瘍(serouscystic neoplasm;SCN)である.分枝型IPMN とSCN とが鑑別困難となる原因はある程度決まっているので,CT やMRI 診断でのピットフォールを理解することは重要である.その他の腫瘍性膵囊胞,非腫瘍性膵囊胞の画像所見についても解説した.

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IPMN の良悪性鑑別を行ううえで,囊胞内における壁在結節の有無を診断することが重要である.2017 年に「IPMN 国際診療ガイドライン」が改訂され,壁在結節に造影効果および結節高に関する基準が新たに設けられた.近年,IPMNの良悪性鑑別を目的とし,造影ハーモニックEUS( CH‒EUS)による壁在結節の評価に着目した研究が散見される.CH‒EUS は壁在結節と粘液塊の鑑別やIPMN の良悪性診断に有用な診断法となりうる.本邦を中心にIPMN を有する症例にIPMN 併存膵癌が発生するリスクが高いことが多数報告されている.自験例において,EUS およびCH‒EUS はIPMN 経過観察例やIPMN 外科的切除後の残膵フォローアップ例に発生しうるIPMN併存膵癌の早期発見に有用であった.

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IPMN に対する診断的ERCP の意義は,① IPMN 自体の診断,② 主膵管進展の診断,③ 細胞組織診目的の膵検体採取の三つがある.本邦ではIPMN の悪性診断を目的とした膵検体採取のほとんどはERCP 下で行われている.通常のsmear 法を用いた膵液吸引法の感度は30%程度と低いために,ブラッシング,洗浄吸引,膵管鏡下採取,セクレチン投与などさまざまな工夫の報告がある.われわれは採取膵液の検体処理法を2005 年以降cell block 法に切り替え,これにより免疫染色を含めた評価が可能となり,分枝型IPMN の悪性診断能の向上が得られた.さらに主膵管型IPMN 切除例の検討から,主膵管型に関しても画像所見に加えて採取膵検体の細胞組織評価がより正確な悪性診断に寄与できる可能性を示した.

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膵囊胞性疾患は多彩な病理像を示す疾患群で,鑑別疾患・良悪性診断は重要である.その診断のための有効な方法は画像診断であるが,画像診断だけでは鑑別が困難な病変は少なくない.EUS‒FNA や囊胞液解析を行うことは,その診断能が向上するといわれており欧米では積極的に行われている一方,本邦では播種のリスクがあるため積極的には行われていない.またEUS‒FNA や囊胞液解析自体もその診断能は高いとはいえず,その診断能を向上させるために,さまざまな方法が試みられている.当院では囊胞液解析の結果を人工知能に学習させ,その診断能を向上させる試みを行っている.

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膵intraductal papillary mucinous neoplasm( IPMN)は,invasive intraductalpapillary mucinous carcinoma (IPMC)になると,リンパ節転移・膵外再発を生じえ,生存期間はlow‒grade dysplasia (LGD)/high‒gradedysplasia (HGD)と比べ不良である.IPMN 患者の生存期間を延長するには,invasive IPMC になる前に切除する必要があるが,膵切除術は未だ高侵襲な手術であり,LGD であればフォローアップが好ましく,HGD での切除がベストである.invasive IPMC は,通常型膵癌と同様のリンパ節郭清が必要であるが,noninvasiveIPMN に対しては,可能な限り残膵を温存する術式を選択することで,膵内・外分泌機能が良好になる.また,残膵再発に対して残膵切除を行うことで,生存期間の延長が期待でき,術後定期的なsurveillance により,切除可能な状態で残膵再発を診断することが重要である.

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現在日常診療の現場では,人間ドックや健診,地方自治体が行うがん検診などで腹部超音波(US)が広く施行されており,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)を含む膵囊胞性病変に遭遇する機会が増加している.一方,現在の「膵癌診療ガイドライン」では,IPMN は膵癌の危険因子の一つに位置づけられており,IPMN に併存する通常型膵癌に注意する必要がある.近年,膵癌の早期診断を目的に,国内から病診連携を基軸とし,IPMN を含む危険因子を有する患者にUS などの画像を積極的に介入したプロジェクトが開始されており,早期診断例の増加,5 年生存率の改善などが報告されている.今後,国内でのさらなる展開が期待される.

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偶発的に診断される小さな膵囊胞は分枝型IPMN 初期病変の可能性が高い.IPMN に関連した膵癌として,IPMN 由来癌とIPMN 並存癌がある.IPMN の進行に伴って出現する由来癌と異なり,IPMN の進行度と関係なく突然出現する並存癌は,IPMN 初期病変からでも起こりうる,その頻度は年率0.5%程度と決して高くはないが,出現する膵癌は,ステージⅠからⅣまでわずか1 年であるため,年1 回の検診で早期に発見することは困難である.腹部超音波,造影CT,MRCP,超音波内視鏡のなかから患者に合った検査法を年2 回行い,既知の囊胞の大きさのほか,腫瘤の出現や,膵管狭窄や拡張などの二次的所見に注意する.

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IPMN は膵癌発症のリスク因子であり,定期的なフォローアップを行うことで膵癌の早期診断が期待できる.多くの場合無症状であり画像検査の果たす役割が大きいが,MRCP やEUS などコストの高い検査を要するため,適切なフォローアップの基準が求められている.“high risk stigmata”や“worrisomefeatures”はIPMN 由来膵癌発症リスクの指標であるが,別個に発症リスクのあるIPMN 併存通常型膵癌については必ずしも当てはまらず,またフォローアップ期間についてはガイドラインによって記載内容が異なる.さらに,5 年以上の長期観察において発癌する症例も少なくない.フォローアップの期間や間隔についてのエビデンスに基づいた基準,また高リスク群のみならず低リスク群の絞り込みも重要である.

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今回は, ヒト免疫不全ウイルス(humanimmunodeficiency virus;HIV)に罹患している成人男性に発生した急性肝炎を通して,肝機能検査の見方,鑑別診断,治療および背景因子について述べていきたい.

連載 薬の知識

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潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)の新規治療薬としてIgG1 ヒト化ヒトα4β7 インテグリンモノクローナル抗体ベドリズマブ(エンタイビオ®)点滴静注用が2018 年7 月に承認され,2018 年11 月に発売された.抗インテグリン抗体は,リンパ球が標的臓器である腸管に遊走して移行・侵入する際に必須となる細胞接着分子インテグリンを阻害することで,腸管へのリンパ球遊走を抑制して慢性炎症を制御する.とくに,α4β7 インテグリンに対するモノクローナル抗体ベドリズマブは,腸管に発現するMAd-CAM‒1 と特異的に結合する腸管親和性の高いリンパ球を標的とした薬剤であり,欧米ではすでにUC およびクローン病(Crohn’s disease;CD)に汎用されている.

本稿では,ベドリズマブの作用機序と効果について概説する.

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近年,Helicobacter pylori(H. pylori)感染率の低下に伴い,胃癌の発生率の低下が期待される一方で,H. pylori 未感染胃癌の相対的な増加が予想される.H. pylori 未感染胃癌として,印環細胞癌や胃底腺型胃癌を含む低異型度胃型腺癌が挙げられる.超高分化腺癌は,低異型度胃癌の部分集合ともいわれ,全体が超高分化成分からなり,日常診療で遭遇することは比較的まれな病変である.胃型超高分化腺癌は,褪色調を呈することが多いとされてきたが,これまでの報告とは異なる強発赤調でラズベリー様の外観を伴う隆起性病変を呈した胃型超高分化腺癌を経験したので報告する.

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編集後記

基本情報

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臨牀消化器内科
34巻12号 (2019年10月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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