肝胆膵画像 13巻5号 (2011年7月)

特集 膵・胆管合流異常と胆囊病変

序説

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はじめに

 膵・胆管合流異常(以下,合流異常)は,現行の胆道癌診療ガイドラインにおいて胆囊癌の危険因子に位置づけられている1).特に胆管非拡張症例では,胆囊癌を高頻度に発生することが報告されている.合流異常の胆囊上皮は幼少時から過形成がみられ,年齢とともに高頻度となり,異形成を経て発癌に至る経路が推測されており,臨床的には超音波画像で胆囊壁内側低エコーの肥厚像として反映される.

 一方,合流異常の胆囊では癌以外にも胆囊腺筋腫症,胆囊炎,炎症性ポリープなど病態は多彩であり,癌との鑑別に難渋する場合も多く,その術前診断は外科的治療方針の決定に大きく影響する.

 本特集号のテーマは,2010年7月に東京で開催された第11回臨床消化器病研究会の胆道のセッションにおける主題「膵・胆管合流異常と胆囊病変」であり,山形大学の木村 理先生と司会を担当させていただいた.合流異常は比較的稀な疾患であり,テーマに沿った演題応募が少ないのではないかと危惧したが,予想に反して多数の演題応募をいただいた.この場を借りて感謝申し上げたい.東京医科大学の糸井隆夫先生には画像診断の立場から,順天堂大学の信川文誠先生には病理の立場から基調講演をいただいた.7例の症例報告もそれぞれが大変興味深く,非癌,早期胆囊癌,進行胆囊癌,比較的稀な組織型の癌の順で呈示していただいた.今回の特集を通じて読者諸氏には,合流異常の胆囊病変の多彩さを再認識し,画像と病理の詳細な比較から,診断の最前線と課題を理解していただければ幸いである.

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要旨

 合流異常では,機能的に十二指腸乳頭部括約筋(Oddi筋)の作用が合流部に及ばないため,膵液と胆汁の相互混入(逆流)が起こり,胆道ないし膵にさまざまな病態を惹起し,胆道癌の発生率を増加させている.合流異常では,発癌前に診断し,分流手術を施行するのが大切である.胆管拡張がある有症状例の合流異常では拾い上げは容易である.胆管拡張のない無症状例の合流異常や,合流異常と同じ病態が生じていると考えられる高位合流(Kamisawaら15)),潜在的膵胆道逆流(Saiら16))の拾い上げが重要である.

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要旨

 膵・胆管合流異常は胆囊癌のリスクファクターであり,成人における胆囊癌発生率は胆管拡張型で14.4%,非拡張型で39.1%と非常に高い.これまで報告されている合流異常に合併する胆囊病変は非腫瘍性病変では粘膜過形成,過形成性ポリープ,胆囊腺筋腫症,胆石などが,腫瘍性病変では腺腫,腺癌,腺内分泌細胞癌などがあるが,いずれも膵・胆管合流異常以外でもしばしば認められる病変であり画像診断上で胆囊病変そのものから膵・胆管合流異常の有無を診断することは困難である.しかしこれら胆囊病変のうち粘膜過形成は膵・胆管合流異常に比較的特徴的とされており,病理組織学的にも分子生物学的にも前癌病変の可能性が指摘されている.したがって,この過形成変化を画像で捉えることは前癌病変を拾い上げるという意味でもきわめて重要である.通常,過形成粘膜はUSやEUSではびまん性で均一な胆囊壁内側低エコー層の肥厚として捉えられることができる.しかし,過形成粘膜の一部に上皮内癌が存在する場合などは現存の画像診断では指摘困難であり,胆汁細胞診に匹敵するような細胞レベルでの画像診断の発展が期待される.

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要旨

 患者は53歳,女性.膵・胆管合流異常および胆囊隆起性病変を認め当センターに紹介となる.USでは胆囊は軽度の全周性壁肥厚,体部に広基性隆起を疑う所見を認め,造影CT,MRIでは胆囊体部に動脈相よりも平衡相にて染影される腫瘤像を認めた.EUSでは体部には腫瘤性病変を認め,腫瘤の辺縁は比較的整で,表面に一部高エコーラインを伴っており,内部は高エコーと低エコー,さらに無エコー域の混在した所見を呈した.腫瘤は可動性があり胆囊内に浮遊するように描出された.以上より,非拡張型の膵・胆管合流異常に合併した炎症性ポリープを疑い,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.病理学的にも炎症性ポリープであった.

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要旨

 患者は56歳,男性.胆囊隆起性病変の精査目的で紹介となった.US,CTでは胆囊体部から底部に造影効果を有する隆起性病変として描出され,EUS上は同部位に内側低エコーを主体とする広基性隆起性病変として描出された.ERCPでは,胆管非拡張型膵・胆管合流異常を認め,胆管/胆囊胆汁中のアミラーゼは25,500/111,400(IU/l),CEAは0.3/11.0(ng/ml)であり,胆囊洗浄細胞診にて乳頭状に増生する細胞の集簇像を認めた.膵・胆管合流異常に合併した胆囊の腫瘍性病変の可能性を考慮し,開腹下に胆囊摘出術を施行した.病理組織学的には,胆囊粘膜のびまん性過形成と診断された.

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要旨

 患者は52歳,女性.胆管拡張の精査で受診した.US,CT,MRCP,EUSで膵・胆管合流異常,先天性胆道拡張症と診断したが,胆囊底部に腫瘤を認め,胆囊癌との鑑別を要した.ENGBD留置下の洗浄細胞診は陰性であった.肝外胆管切除術を施行し,先天性胆道拡張症および慢性胆囊炎と病理診断された.胆囊底部病変の肉眼的所見は内腔に突出する乳頭状増生変化であり,病理組織学的所見は著しい過形成性変化であった.胆囊粘膜過形成は膵・胆管合流異常にみられる特徴的な病理所見の1つであるが,著しい過形成性変化により腫瘤様所見を呈する症例が存在する.

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要旨

 患者は,62歳,男性.無症状であったが,人間ドックUSで胆囊が不明瞭のため,当院へ紹介された.CEA,CA19-9は正常内であった.US上,胆囊体底部の著明な全周性壁肥厚と内腔狭小化を認めた.壁層構造が不明瞭で内腔近くに微小囊胞とコメットエコーがみられた.肝外胆管径は正常内であった.造影CTで壁肥厚の内層が不均一に濃染した.MRIを行うとT2強調画像で低信号を示す壁肥厚の内層に全周性の点状高信号がみられた.また,MRCP,ERCPで膵胆管合流異常を認めた.胆管非拡張型の膵胆管合流異常に伴う胆囊腺筋腫症の診断で腹腔鏡下胆摘を行った.病理組織学的に胆囊体底部に著明なRAS増生があり,一部でRASを裏打ちするように帯状分布の上皮内癌(m-RASss)を認めた.一方,内腔上皮には過形成のみがみられた.術後3年10か月を経過して健在である.自験例は,膵胆管合流異常・胆囊腺筋腫症・胆囊癌の3病態の合併症例であり,同様症例は検索し得た限り今までに報告されていない.

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要旨

 患者は71歳,女性.胆囊腫瘍の精査目的で当科を紹介された.腹部超音波検査で胆囊体部に低エコー腫瘤を認め,腫瘤は造影CTでほぼ均一に造影され,基部に胆囊壁の陥入を認めた.超音波内視鏡では腫瘤基部に最外高エコー層のひきつれ所見を認め胆囊癌の漿膜下層浸潤を疑った.病理学的診断のためENGBDを留置し,連続胆汁細胞診および洗浄細胞診で腺癌と診断した.またENGBD胆汁のアミラーゼ値が著明な上昇を呈した.以上より胆管非拡張型膵・胆管合流異常を合併した胆囊癌(ss浸潤)と診断し,拡大胆囊摘出術を施行した.術後病理は3.3×1.5cmの乳頭膨脹型腫瘤で割面は亜有茎の形態で組織学的には深達度mの乳頭腺癌であった.

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要旨

 患者は72歳,女性.突然上腹部痛・背部痛を自覚し近医を受診した.腹部エコーにて胆囊腫大・胆囊頸部の壁肥厚と胆泥を認め,精査加療目的にて当科を紹介され受診した.入院時現症は特記事項はなく,血液生化学所見ではCA19-9の上昇がみられたが,肝胆道系酵素は正常範囲内であった.造影CTにて胆囊頸部に造影効果を伴う壁肥厚を認めた.ERCPでは新古味分類Ⅱaの膵胆管合流異常を認め,胆汁中アミラーゼは32,009IU/lと高値で,胆汁細胞診では異型細胞(classⅢ)を認めた.EUSでは胆囊壁はびまん性に不整に肥厚し,特に頸部は内部が低エコーで結節状に肥厚していた.以上より膵胆管合流異常に伴う胆囊癌を強く疑い,拡大胆囊摘出術を施行した.腫瘍の病理組織は腺扁平上皮癌であった.

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要旨

 患者は76歳,女性.2007年1月,腹痛を主訴に近医に入院した.急性膵炎の診断となった.精査・加療目的に当院を紹介され入院した.精査にて膵・胆管合流異常症(胆管非拡張型),胆囊結石,胆囊腫瘍と診断された.胆汁細胞診classⅠ,胆汁中アミラーゼ390,800IU/lであった.同年2月,胆囊・肝外胆管切除,胆管空腸切除術を施行した.肉眼的には底部に隆起を示す部分と頸部から底部にかけて広範囲に渡る壁肥厚領域を認め,術後病理診断にて隆起部分はchromogranin A陽性,synaptophysin陽性を示す内分泌細胞癌成分,壁肥厚部分は乳頭腺癌成分であり,胆囊腺内分泌細胞癌(ss,pN1,StageⅢ)と診断された.

Clinical Challenge この画像から何が読めるか?

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患者 42歳,男性.

主訴 特になし.

現病歴 10年前よりB型肝炎にて近医で経過観察されており,2年半前にCTにて肝腫瘤を指摘された.経過観察のCTにて腫瘤の増大を認めたため,精査加療目的で当院へ紹介され受診となった.

既往歴 B型肝炎(10年前~).

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患者 50代,女性.

主訴 腹部膨満.

現病歴 9年前に肝障害を指摘された.5年前にHBV・HCV陽性を指摘され,肝硬変と診断された.その後,腹水が増加し,利尿剤投与量を増量されたが,コントロールは不良であった.腹水コントロール目的で当院に入院となった.

既往歴,家族歴 特記事項なし.

臨床医の放射線線量管理―放射線防護の基礎知識・3

CT 大野 和子
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原発災害と放射線診療

 東北地方大震災後,読者の皆様の日常に変化がないことを期待しつつ,第3回のテーマである,CT検査の放射線管理について記載します.

 福島原発災害は,放射線診療に変化をもたらしました.マスコミは,連日のように住民の被曝線量と放射線検査の線量(と称する値)とを比較しながら紹介しました.関東以西では,患者がCTの検査室で当日の検査線量は何Sv(シーベルト)かと質問したり,検査の放射線量を気にして核医学検査をためらったりする事例が発生しました.

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細胞診を学ぶ“最初の一歩”に,細胞の見方を“再確認”するのに最良の書

 『細胞診を学ぶ人のために 第5版』〈通称“学ぶ君”〉が,初版の発売された1990年からおよそ21年目となる今年,刊行された.本書は20年以上続くロングセラーである.約20年の間に何人の細胞診をめざす技師,医師が“学ぶ君”の世話になったのであろうか.

 この第5版では新たな執筆陣も多く加わり,まさに時代の流れとともに細胞診への応用範囲が多岐にわたることを裏付ける陣容となっている.目次を見て,細胞診の概論(第1章)に始まり,細胞の基本構造,基礎組織学,病理組織学分野と続き,その後の標本作製法や染色法,顕微鏡操作法,およびスクリーニング技術までの総論部分すべてが,細胞検査士ではなく細胞診専門医が執筆担当していることにふと気付いた.これには若干の戸惑いを覚えたが,興味を引いたのは免疫染色の記述である.細胞診においても免疫染色の応用が不可欠になっている現状に対応し,抗体の入手と保存に関する注意までが細やかに記され,免疫染色を試みる初心者の陥りやすい基本的事項までもが簡潔に記載されている.細胞検査士資格認定試験,あるいは細胞診専門医試験に挑む者にとっては確かに“学ぶ君”である.

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最善の指南書

 IDATEN(Infectious Diseases Association for Teaching and Education in Nippon)こと日本感染症教育研究会から『病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方』が出版された.待ち望まれた内容が記述・編集され,時宜を得た出版である.

 医学の進歩は著しく,この四半世紀を検証しても,特に治療における恩恵には目をみはるものがある.腫瘍性疾患,自己免疫性疾患,移植医療,クリティカルケアにおいて,以前には想像もできなかった病態の改善が得られている.しかし,この恩恵の背後には,時に想定していなかった新たな病態が潜んでいることがある.新薬の副作用,そして感染症,特に病院内/免疫不全関連感染症である.これは医学の進歩に常につきまとう普遍的な現象ともいえよう.

臨床医に役立つ実践病理診断 病理医から臨床医へのメッセージ・7

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要旨

 乳頭部癌は,腫瘤型,混在型,潰瘍型の3型に大きく分類される.肉眼型で深達度や予後や予後因子を予想することは難しいとされる.しかし,潰瘍型や潰瘍を伴う混合型症例には,低分化型が多く,異型度も高い.深達度も深いことが多く,早期癌はみられない.正常の乳頭部の構造をよく理解したうえで,病変粘膜の注意深い観察により,浸潤癌(Oddi筋を越えた癌)を予測できる所見がある.すなわち縦ひだ内の不整陥凹やびらん,はちまきひだ,小帯などの既存構造の途絶・変形,粘膜(縮み所見)や不規則な粗い顆粒状粘膜表面様などの所見に着目すると良い.

 また,乳頭部腫瘍では,一般に開口部に近いAd,Ac領域よりも深部のAp,Ab領域の方が異型度が高い傾向があるため,生検する際にはできるだけ鉗子を奥にまで挿入して組織を採取することが望ましい.Ad領域を含めて,Oddi筋と十二指腸粘膜筋板の間の粘膜下層には,脈管が豊富であり,粘膜下層へ浸潤した癌は予後因子が悪い傾向にある.

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要旨

肝血管筋脂肪腫(AML)の報告はまだ約200例で,あらかじめその存在を念頭に置いてさえ,時に肝細胞癌と鑑別が難しい.今回,ソナゾイド®造影超音波検査像を含む画像診断結果が肝細胞癌に類似したAMLを経験し,鑑別診断上示唆に富むと考え報告する.61歳,女性に超音波検査で指摘された肝9cm大腫瘍はダイナミックCT,MRI T1・T2強調画像とも肝細胞癌様.超音波カラードプラにて腫瘍血管豊富でパワードプラにて血流増強した.ソナゾイド®投与後のvascularおよびKupffer imageとも肝細胞癌の特徴を呈した.切除標本中高度にみられた類上皮細胞がHMB-45陽性でAMLと確定診断となった.ソナゾイド®造影超音波検査も含めた画像が肝細胞癌類似でも,AMLを鑑別診断候補におくべきと考える.

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投稿規定

編集後記 真口 宏介
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 膵癌の予後が不良であることは周知の事実であるが,胆道癌の予後も必ずしもよいとは言えない.厚生労働省の統計データによる主な癌の部位別年間死亡数(2008年)では,膵癌が約28,000人で第5位であり,胆囊・肝外胆管癌も約18,000人で第6位となっており,両者を合わせた死亡数は50,000人弱でほぼ胃癌の死亡数に匹敵している.言うまでもなく膵・胆道癌の早期発見が重要な課題である.しかし,発生頻度が低い癌の発見には効率性が求められ,的確なハイリスクグループの選定が必須となる.膵・胆管合流異常は胆道癌のハイリスクであることは間違いなく,その発見にはUSによる胆囊壁の内側低エコー層の肥厚所見がポイントとなることもわかってきている.

 一方,膵・胆管合流異常では癌以外に胆囊腺筋腫症やポリープ,結石,炎症なども比較的高頻度にみられることが明らかにされている.「膵・胆管合流異常であれば,胆囊は切除するので細かな診断は必要ない」という意見もあるが,癌と良性病変では腹腔鏡下か開腹かの術式が異なり,さらに悪性の場合には進展度により膵頭十二指腸切除や肝切除を要するかにも影響する.このことから2010年の臨床消化器病研究会の主題として「膵・胆管合流異常と胆囊病変」が取り上げられた.

肝胆膵画像編集室行

基本情報

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肝胆膵画像
13巻5号 (2011年7月)
電子版ISSN:1882-5095 印刷版ISSN:1882-5087 医学書院

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