看護管理 13巻8号 (2003年8月)

特集 経済学を看護の味方に

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はじめに

 一昔前は,看護や医療に従事する者がお金のことをとやかく言うのは良くないこととされ,看護師は奉仕の精神と献身的なケアを望み,望まれていた。時代は変わり,現在は看護師長も病棟管理者である以上,病院経営や医療経済を前提として看護管理に臨むことを要求されている。

 経済学を持ち出すまでもなく,病院経営にとって「お金」は無視できない問題である。しかし,収益を上げるためだけのコスト削減は,ともすると看護の質低下を招くことにつながりかねない。このため,看護の経済性を考える場合は,単に収益の増減に着目するのではなく,提供される看護の質に対する費用と効果,そして看護にどのような付加価値を付けていくかなど,多面的に考えていくことが重要である。

 本稿では,筆者の経験等をふまえ,看護の経済性について述べてみたい。

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はじめに

 これまで,看護職にとって原価(コスト)は,あまりなじみのない言葉であった。原価とは,一般の企業では,経営における一定の「給付(製造された製品)」に関わらせて,把握された財貨または用役の消費を貨幣的価値で表わしたものである。これを言い換えると,医療サービスの原価とは,「患者の治療のために行なわれた診療行為との関連によって把握された医療資源(材料や労働)の消費を貨幣的価値で表わしたもの」と表現できる。

 ところで,看護師が術後の包帯交換や膀胱カテーテル留置などの処置に対する診療報酬点数を請求する伝票を「コスト伝」と呼んでいる場合がある。新人は,先輩から「ちゃんとコスト取った?」などと伝票の記入漏れがないかを確認するように指導を受けるのである。しかし,診療報酬は病院の収入であり,コストとは病院の支出であるので,収入を請求するための伝票を「コスト伝」と呼ぶのは明らかに誤用である。

 これは,2つのことを象徴的に示している。第1に,これまで病院職員において原価という言葉はきわめて漠然としか捉えられていなかったこと,第2に,病院経営管理の主眼が請求漏れ防止に置かれる傾向があったことである。このため,わが国では欧米に比べて病院原価計算はあまり普及しておらず,その計算方法も発達してこなかった。しかし,今や医療経済をめぐる状況の変化から,原価計算は避けて通ることができない。

 本稿では,病院における原価計算の必要性が高まった経緯を踏まえ,看護の原価計算の必要性について述べる。

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研究成果が信頼を生み,新たな成果に

齋藤 北海道医療大学で母性看護学を担当しております藤です。私は,長年にわたって助産師として活動してきた中で,「看護師・助産師は経済的にどの程度評価されているのだろう」という素朴な疑問がきっかけで,経済学に出会いました。看護料や診療報酬のしくみを学ぶことから始めて,今は看護の量と質に注目し,臨床看護のデータ化に取り組んでいます。

 教育の現場に身を置いていると,看護学を修士課程や博士課程で学ぶ機会が増えたことを素晴らしいと思うと同時に,その成果が臨床の最前線で質の高い看護の提供に活かされ,患者様や一般市民の方々から,「看護師の実力ってすごい」「あの看護師にケアされたい」と評価されてこそ,真の教育・研究の成果だと思います。ですから,私は臨床に還元できる研究をし続けたいと願っていますし,そのためには臨床との信頼関係を重要だと考えています。その点,研究のフィールドをご提供いただいている天使病院とはいい関係を築けていると自負し,また感謝しています。

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 近年,国民医療費の増大と経済の停滞を背景に医療の効率化が叫ばれて久しいが,看護界でもコストや経済性という言葉に強い関心が向けられるようになってきた。

 筆者は,1993年に発足した「看護コスト研究会」のメンバーとして活動してきたが,この研究会は発展的に解消し,1999年4月に「看護経済研究会」が発足した。筆者は本研究会の代表幹事を務めている。「看護」と「経済」を真正面から掲げ,たとえ小さな集まりとはいえ,10年近く看護と経済の議論を続けてきた本研究会は,それなりの社会的責任を付与されていると考える。

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はじめに

 1999(平成11)年1月11日,横浜市立大学医学部附属病院(以下,横浜市大病院)において「患者取り違え手術事件」が発生した。事故直後のニュースを聞いた多くの看護職は,「どうしてそんなことが起こるの?」「手術室看護師は術前訪問をしていないの?」という疑問や意見をもち,または「うちの病院では起こることはない」と感じられた管理者も多かったと思う。しかし,このニュースを聞き,自分の病院では「患者取り違え手術事故は発生しないだろう」ということは言えても,「事故の起こらない環境を整えている」と明言できただろうか。

 本件事故発生から約3か月後の1999年4月,筆者は横浜市立大学医学部附属病院に看護部長として就任した。2年の在職期間のなかで,安全管理体制再構築の過程に関わり,その後,神奈川県看護協会に移り,会員支援の一環として,それまでとは異なる立場から本件に関わることになった。

 本稿では,看護師の量刑が確定した今,改めて当時を振り返り,看護管理者の役割と責任とは何だったのかを考え,本件事故を貴重な教訓とし,一看護管理者としての思いを込め,今後の課題について検討する。

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「患者の権利」の自明性をめぐる違和感

 看護師の「患者の権利」への関わりについては,すでに積極的に定義づけが行なわれ,主として看護倫理に盛り込まれてきた。その内容は発展途上の段階で,詳細に見れば理解も多様であるが,看護師は「患者の権利」を尊重するべき存在であり,それを前提とした「患者の擁護者・代弁者」という重要な役割を担うべきであるという認識は,ほぼ共通しているように見受けられる。

 筆者は,これまで社会学の立場から,知識としての「患者の権利」とその自明性を考察するという作業を続けてきた1,2)。知識に含まれる対象は,科学的知識のような明瞭で論理的な知識から不明瞭で非論理的な知識まで幅広い。よって人が知っている,認識しているその内容全般を知識と言うことができ,そのように考えれば当然「患者の権利」も知識の1つと言える。

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はじめに

 この4月,遅まきながら当病院でも医事会計システムがようやくIT化できることになった。この機会に当病院の診察券を「自由通行手形」と名称変更し,裏の面には「あなたの権利です」と明示して患者の権利を刷り込んだ。患者本位の医療のほんのちょっとした工夫であるが,メディアや医療関係者からの関心もかなり高く,今後の医療の進む方向性に沿った取り組みの一つとして紹介したい。

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はじめに

 東京都立大久保病院(以下,当院)は,日本でも有数の繁華街に位置し,二次救急医療,腎医療,リハビリテーション医療を重点医療として掲げている。2004(平成16)年度には医療公社への移管が決定しており,地域支援病院としての役割が求められている。

 当院の開設者である東京都は,医療サービスの充実を図っていくための倫理規範として,2001(平成13)年に「都立病院の患者権利章典」を制定した1)。医療従事者は,患者および家族の権利を尊重し,患者中心の医療の実現に向け,医療の質やサービス向上に取り組む必要がある。

 このような状況において,病院組織の一部門としての看護科の果たす役割は大きく,看護職員1人ひとりが専門職としての自覚と責任と誇りをもち,組織目標達成へ向けて参画していくことが期待される。そこで,院内研修は,これらの状況を敏感に捉え,職員育成を図る企画が必要である。

 本稿では,当院看護科が院内研修に取り入れた「患者サービス研修」について,その内容が参加者だけではなく病院全体へ波及した過程と,そのための組織としての支援体制の重要性を紹介する。

連載 The Starting Point・8

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 小児科病棟でナースとしてのスタートを切った。以来,通算17年間,小児看護に携わった。子どもたちとの関わりが全ての基礎,土台になったと宮井さんは振り返る。

 「多くの子どもの死と向き合うなか,お母さんやご家族からの〈信頼〉という目に見えないものの積み重ねに私は支えられてきたように思います」

連載 医療安全確保のための看護提供体制を考える・2 厚労科研「医療安全確保のための看護体制のあり方に関する調査研究」より

夜勤体制の実態と制度の変遷(その2)

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 本稿では,看護職の夜勤に関する最近のデータをもとに現場が直面している課題を整理し,看護提供体制のあり方を考えてみたい。

当直制の激減, 制度も交代制が要件に

 一般病棟をもつ病院の勤務体制(病院数で見た構成比)は,1996(平成8)年には3交代制が2交代制より多かったが,1999(平成11)年にはほぼ拮抗している(表1)。1980年代以降,3交代制は約半数で大きな変化はないが,当直制は2交代制に切り替わってきた。

連載 海外文献 NA Selections

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オーストラリアにおける医療情報システム導入の背景

 オーストラリアでは,ケースミックス(DRGを用いた患者分類)と支払い方法を組み合わせた新しい医療情報システムが導入され,ほとんどの病院で医療記録が電子化された。ここでは,DRGはAR-DRG(オーストラリアDRG改訂版)と呼ばれている。また,オーストラリアは医療記録にICD-10コードを取り入れた世界で最初の国である。

 2000年1月より,ニューサウスウェールズ州では,AR-DRGを含む医療情報交換システム(HIE)訳注1)が導入され,病院,地方,州は,分析・評価のために,各病院の退院サマリーなどの情報に接続できるようになった。将来,州を越えて医療情報交換ができるようにする国立健康情報ネットワーク「ヘルスコネクト」の構想もある。

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はじめに

 前回より,メディアを通した医療情報に焦点を当てて,看護現場を見つめ直す提案を行なっている。患者は来院する際に,すでに自分なりに切り取ったさまざまな情報をもって来院する。そして当然のことながら,疾病や治療に関する患者の認識は,それらによってつくられている。つまり,患者への説明や対応は,このことを抜きに,白紙に書き込むようには考えられないという観点だ。

 前回は,この観点を看護係長研修に取り入れた試みを中心に,そこから見えてきた問題点や可能性について論じた。そしてその結果,次の2つの提案を行なった。

 1つは,看護界で従来から重視されてきた患者の話を傾聴するということの大切さの再認識だ。特に患者のもっている情報や,認識をつくっている情報源を聴くことがそのポイントになる。

 もう1つは,患者と医療者側との双方向的なコミュニケーションの重視だ。メディア情報に焦点を当てると,両者の間には従来のような情報格差は見られなくなっている。また逆に,患者が収集可能な局部的な情報量の増大は,新たな問題を引き起こしている。したがって,高度に情報化された現代においては,情報を良い形で共有化し,医療者がその解釈や総合的な判断を支援していく必要性が見えてきた。

 今回は,以上の提案を受けて,重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome; SARS)にまつわる一人の患者の事例に絞って,さらに深くこの問題を考えてみたい。この事例を取り上げたのは,この疾病が患者にとってだけでなく,医療者にとっても未知の疾病だったからである。この双方にとっての新しい事態においては,まさに情報が大きな役割を果たす。この事例を丹念に検討することによって,さらに具体的な改善点が見えてきた。

連載 看護管理に活かす看護理論のエッセンス・2

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はじめに

 ヘンダーソンの『看護の基本となるもの』1) は,看護管理者にとって懐かしくかつ馴染みのある理論であろう。看護職なら誰もが一度は読んだ,あるいは読まされた理論である。しかし,残念なことに臨床の現場にとっては過去の理論とされ,ましてや看護管理者に向けて書かれた理論ではない。しかし,ヘンダーソンは,その著書の中で,ヘルスケアチームに必要不可欠な存在として看護をとらえ,それゆえ看護の独自の機能を発揮すること,その独自の機能について定義づけをしている。

 現在のわが国の医療に必要とされているのは,チームアプローチであり,医療従事者の連携・協働である。看護管理者は,医療チームの中で看護が果たす役割を伝え,チーム医療を推進していく役割がある。そして,その中心に患者サービスがなければならない。このような日本の現状において,看護サービスとは何かを見直すのに役立つ示唆がヘンダーソンの理論にはある。

 本稿では,看護管理者の有用な知識となりうるヘンダーソン理論のエッセンスのいくつかを紹介したい。

連載 看護師の業務と役割の模索―厚生科研「諸外国における看護師の新たな業務と役割」から・8

大韓民国の場合 津田 万寿美
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はじめに

 人口約4650万人の大韓民国(以下,韓国)の保健医療環境には,人口構造の変化,人口の都市集中,医療保険財政の赤字が大きな影響を与えている。また,医学・医療技術の進歩と医療保険の普及は,国民の医療需要を質的,量的に変化させている。韓国政府は,これらに対応するため,高齢者に対する保健事業,訪問保健事業,医療機関の適正配置,医薬分業の完全実施など,医療制度の改善と事業政策を推進している。

 韓国では,看護師の早期退職者が多く,免許所得者の就業率は約60%と推定され,看護師の安定供給は課題の1つである。看護師の教育に目を向けると,現任教育として多様なプログラムが病院や職能団体,大学院教育において組まれており,臨床で働きながら専門性の高い教育を受けられる環境が整っているなど,充実している。また,専門看護師の位置付けを,法・制度的に整備し,看護師の社会的役割の明確化,業務拡大を積極的に推進しており,今後の日本の看護のあり方を考えていく上で参考とすべき点があると考える。

 本稿では,韓国の看護教育・看護業務の現状を,文献やインターネット資料および在日の韓国の看護研究者の助言を得てまとめたので報告する。

連載 感染管理・業務改善 SUCCESS FILE・7

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 東京慈恵会医科大学附属病院の感染管理を担う組織は3つあり,互いに連携しながら活動している(図1)。中央診療部門である感染制御部は,感染性疾患の診療やコンサルテーションを行なう。そして院内の全診療科等の代表から構成され諮問機関としての役割を持つ感染対策委員会と,院長直属の病院感染対策実践組織である感染制御チーム(Infection Control Team; ICT)がある。ICTには各部署に配置されたリンクナースが含まれる。

 現在,筆者は感染管理看護師(ICN)としてICTを拠点に活動している。ICTは,感染症発生時の迅速な対応や病院感染に関する調査,評価を行なう。そしてそれらをふまえて感染防止策を立案し,臨床で実践できるよう環境を整えながら指導を行なう役割を担う。

連載 彷徨い人の狂想曲・8

かごめかごめ 辻内 優子
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 何度か目を覚ましては,また寝るということを繰り返した。テレビで見る有名人や,小学校のときの同級生やらが出てきて,どんどん場面が変わり,気持ち悪いのかいいのかわからない妙な夢を見る。体は汗でぐっしょり濡れている。北向きの部屋の小さな窓は,カーテンもしていないのに薄暗い。開けたところで,隣のビルの壁が30cm向こうにすぐに見えるだけだ。だるい体をよじって時計を見た。三時半だ。この静けさからすると,真夜中なのか,それとも昼下がりなのか。横になったまま,枕の下からテレビのリモコンを探り出してスイッチをつける。ヴィーンという音をたててブラウン管が静電気を放つ。ワイドショーのコメンテーターの顔が映し出されて,今が昼下がりであることを知った。特段おもしろいニュースもなさそうだったからスイッチを消し,部屋の外の気配を窺った。母親は出かけているのか,シーンとしている。マサヒコはようやく布団から体を起こした。

 ドアの外に出るのはトイレに行くときくらいだが,それも必ず誰もいないときを見計らって出る。浴室は一階にあるため,よほどのことがない限り行くことはできないが,トイレは二階の自室のすぐ隣にあり,さして我慢することもなく行ける。マサヒコは部屋のドアをそっと開けると,家の中の様子を窺いながらさっとトイレに入り用を足した。さあ,今日もまた意味のない一日が始まってしまう。一体,いつまでこんな日々が続くのか。

基本情報

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看護管理
13巻8号 (2003年8月)
電子版ISSN:1345-8590 印刷版ISSN:0917-1355 医学書院

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