特集 経済学を看護の味方に
病院における看護の資源消費量の測定と原価計算の必要性―看護の社会的価値を明らかにするために
飯島 佐知子
1,2
1三井記念病院看護部
2東京大学医学部公衆衛生学教室
pp.598-605
発行日 2003年8月10日
Published Date 2003/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100877
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
これまで,看護職にとって原価(コスト)は,あまりなじみのない言葉であった。原価とは,一般の企業では,経営における一定の「給付(製造された製品)」に関わらせて,把握された財貨または用役の消費を貨幣的価値で表わしたものである。これを言い換えると,医療サービスの原価とは,「患者の治療のために行なわれた診療行為との関連によって把握された医療資源(材料や労働)の消費を貨幣的価値で表わしたもの」と表現できる。
ところで,看護師が術後の包帯交換や膀胱カテーテル留置などの処置に対する診療報酬点数を請求する伝票を「コスト伝」と呼んでいる場合がある。新人は,先輩から「ちゃんとコスト取った?」などと伝票の記入漏れがないかを確認するように指導を受けるのである。しかし,診療報酬は病院の収入であり,コストとは病院の支出であるので,収入を請求するための伝票を「コスト伝」と呼ぶのは明らかに誤用である。
これは,2つのことを象徴的に示している。第1に,これまで病院職員において原価という言葉はきわめて漠然としか捉えられていなかったこと,第2に,病院経営管理の主眼が請求漏れ防止に置かれる傾向があったことである。このため,わが国では欧米に比べて病院原価計算はあまり普及しておらず,その計算方法も発達してこなかった。しかし,今や医療経済をめぐる状況の変化から,原価計算は避けて通ることができない。
本稿では,病院における原価計算の必要性が高まった経緯を踏まえ,看護の原価計算の必要性について述べる。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.