連載 彷徨い人の狂想曲・8
かごめかごめ
辻内 優子
1
1心療内科・小児科・漢方医
pp.668-671
発行日 2003年8月10日
Published Date 2003/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100890
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何度か目を覚ましては,また寝るということを繰り返した。テレビで見る有名人や,小学校のときの同級生やらが出てきて,どんどん場面が変わり,気持ち悪いのかいいのかわからない妙な夢を見る。体は汗でぐっしょり濡れている。北向きの部屋の小さな窓は,カーテンもしていないのに薄暗い。開けたところで,隣のビルの壁が30cm向こうにすぐに見えるだけだ。だるい体をよじって時計を見た。三時半だ。この静けさからすると,真夜中なのか,それとも昼下がりなのか。横になったまま,枕の下からテレビのリモコンを探り出してスイッチをつける。ヴィーンという音をたててブラウン管が静電気を放つ。ワイドショーのコメンテーターの顔が映し出されて,今が昼下がりであることを知った。特段おもしろいニュースもなさそうだったからスイッチを消し,部屋の外の気配を窺った。母親は出かけているのか,シーンとしている。マサヒコはようやく布団から体を起こした。
ドアの外に出るのはトイレに行くときくらいだが,それも必ず誰もいないときを見計らって出る。浴室は一階にあるため,よほどのことがない限り行くことはできないが,トイレは二階の自室のすぐ隣にあり,さして我慢することもなく行ける。マサヒコは部屋のドアをそっと開けると,家の中の様子を窺いながらさっとトイレに入り用を足した。さあ,今日もまた意味のない一日が始まってしまう。一体,いつまでこんな日々が続くのか。
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