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はじめに
前回より,メディアを通した医療情報に焦点を当てて,看護現場を見つめ直す提案を行なっている。患者は来院する際に,すでに自分なりに切り取ったさまざまな情報をもって来院する。そして当然のことながら,疾病や治療に関する患者の認識は,それらによってつくられている。つまり,患者への説明や対応は,このことを抜きに,白紙に書き込むようには考えられないという観点だ。
前回は,この観点を看護係長研修に取り入れた試みを中心に,そこから見えてきた問題点や可能性について論じた。そしてその結果,次の2つの提案を行なった。
1つは,看護界で従来から重視されてきた患者の話を傾聴するということの大切さの再認識だ。特に患者のもっている情報や,認識をつくっている情報源を聴くことがそのポイントになる。
もう1つは,患者と医療者側との双方向的なコミュニケーションの重視だ。メディア情報に焦点を当てると,両者の間には従来のような情報格差は見られなくなっている。また逆に,患者が収集可能な局部的な情報量の増大は,新たな問題を引き起こしている。したがって,高度に情報化された現代においては,情報を良い形で共有化し,医療者がその解釈や総合的な判断を支援していく必要性が見えてきた。
今回は,以上の提案を受けて,重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome; SARS)にまつわる一人の患者の事例に絞って,さらに深くこの問題を考えてみたい。この事例を取り上げたのは,この疾病が患者にとってだけでなく,医療者にとっても未知の疾病だったからである。この双方にとっての新しい事態においては,まさに情報が大きな役割を果たす。この事例を丹念に検討することによって,さらに具体的な改善点が見えてきた。
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