作業療法ジャーナル 54巻11号 (2020年10月)

特集 ICFと作業療法

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特集にあたって

 国際生活機能分類(以下,ICF)は,2001年にWHOで採択され,世界33カ国の調査を基に,人の生活機能を分類している.当事者を含め,医療・保健・福祉・教育等,さまざまな領域での共通言語として,データ解析のツールとして,人の生活機能を把握するツールとしての活用が期待され,開発された.

 日本作業療法士協会「作業療法ガイドライン」(2018年度版)では,作業療法の過程では,基本的能力,応用的能力,社会的適応能力,環境資源,作業に関する個人特性という視点から対象者の生活機能を捉え,制度や社会資源の利用等,対象者の個人特性に応じた治療,指導および援助を重視している.これらの視点は,それぞれICFにおける「心身機能・身体構造」,「活動」,「参加」,「環境因子」,「個人因子」に相当し,作業療法は,対象者の健康状態を高めるために生活機能を総合的に捉え,目的に応じて各能力に働きかけるとしている.

ICFと作業療法における活用 村井 千賀
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Key Questions

Q1:ICFの活用方法は?

Q2:生活行為向上マネジメントとICFの関係は?

Q3:精神科作業療法にICFをどう活用するか?

はじめに

 障害に関する国際的な分類としては,世界保健機関(以下,WHO)が1980年に「国際疾病分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:ICD)」の補助として発表した「WHO国際障害分類(International Classification of Impairments, Disability and Handicaps:ICIDH)」がこれまで用いられてきたが,WHOは,2001年5月の第54回総会において,その改訂版として「ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)」を採択した.

 ICFは,人間の生活機能と障害を分類するものであり,人間の生活機能と障害について,図 1の「心身機能・身体構造」,「活動」,「参加」の3つの生活機能および「環境因子」等の背景因子で構成されており,約1,500項目に分類されている1)

 これまでの「ICIDH」は,疾病により心身機能に障害が生じ,生活するための能力が障害され,その結果,社会的不利が生じるという一方向の考え方が中心であった.ICFは,障害者のみではなく,あらゆる健康状態に関連した人が「生きる」こと,生活機能,すべての側面を捉えるモデルとして開発されている.

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Key Questions

Q1:事例報告登録制度にICFはどのように活用されているか?

Q2:生活行為向上マネジメント事例報告のアセスメントにおいて疾患別のICFコードの特徴は何か?

Q3:作業療法士がアセスメントにICFコードを活用する意義は何か?

はじめに

 筆頭著者は,日本作業療法士協会(以下,OT協会)の学術委員会事例報告登録制度班員として,2005年(平成17年)より開始した一般事例報告と2015年(平成27年)より開始した生活行為向上マネジメント事例報告(以下,MTDLP事例報告)の進捗管理に携わっている.

 本稿では,事例報告登録制度におけるICFの活用や,OTがICFを活用する意義について整理していく.

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Key Questions

Q1:ICFとは?

Q2:ICFコアセットとは?

Q3:WHODASとは?

ICFの特徴とは:作業遂行のモデルとの類似性

1.疾病の分類と健康状態に関連する生活機能と障害の分類

 疾病に関する分類は,「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」,いわゆる国際疾病分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems:ICD)であり,世界保健機関(World Health Organization:WHO)が作成する国際的に統一した基準で定められた死因および疾病の分類である.わが国では,公的統計(人口動態統計等)に適用し,医学的分類として医療機関における診療録の管理等でも広く活用されている.この分類は,1990年に「ICD-10」への改訂が行われているが,それ以来約30年ぶりの2018年に,第11回改訂版(ICD-11)が公表された.この特徴は,①多くの日本の医学の専門家・団体が貢献し,最新の医学的知見が反映された改訂内容,②臨床現場や研究等,さまざまな場面での使用を想定したコード体系の整備,③電子的環境での活用を想定したさまざまなツールで,現在,政府をはじめ関係諸団体でわが国への適用に向けた検討がなされている1)

 ICDは病因論的な枠組みに立った分類であるが,健康状態に関連する生活機能と障害に関しての分類は,「国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)」である2).ICFは,1980年にWHOから発表された,機能障害,能力障害と社会的不利に関する分類である「国際障害分類(International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps:ICIDH)」の改定版として,2001年にWHO総会で採択されたが,ICDの補助的な分類ではなく,ICDと同格の中心分類の1つで,相互補完的な位置づけとなっている3).なお,機能障害は身体の構造と機能に関するものであり,「疾病過程」の一部をなし,ICD-10にも使われ,ICFの体系では,機能障害は健康状態に関連した心身機能の問題そのものとして扱われている.したがって,ICD-10とICFとは一部重複しているが,同じ疾患のある別人が異なった生活機能の水準となることもあれば,同じ生活機能の水準の別人の健康状態が同じ状態とも限らない.つまり,ICD-10とICFを組みわせて使用することで,データの質は向上すると考えられる.

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Key Questions

Q1:福祉用具の役割は何か?

Q2:福祉用具に含まれる補助犬とは?

Q3:福祉用具におけるICFの位置づけとは?

はじめに

 今日では,日常のさまざまな場面で福祉用具が使われている姿をよく見かける.街中で,車いすで食事をする人や歩行器で買い物をする人,電動車いすで散歩に行く人など,福祉用具を用いて活動している方を見かけると,筆者自身その姿をついつい追ってしまい,「どんなふうに楽しんでいるのかなあ」とその人の思いに興味を惹かれてしまうことがある.

 福祉用具が主体的な生活,そして生活の楽しみに役立っていることは,専門職として大変本望と思う.一方で,筆者自身を含め,福祉用具にかかわる専門職として,その責任を本当に果たしているのかと疑問を抱くような場面に出会うこともある.本稿では,福祉用具の役割や支援の考え方等について今一度整理しお伝えするとともに,福祉用具に含まれる補助犬についても述べたい.

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はじめに

 身体障害者補助犬(以下,補助犬)は,盲導犬,介助犬,聴導犬の3種類,それぞれ視覚障害,聴覚障害,肢体不自由のある方のサポートをするために特別な訓練を受けた犬である(表).「国際生活機能分類」(以下,ICF)では,福祉用具と同じ環境因子に分類される.補助犬の中でもOTとかかわりが深いのが介助犬.ここでは,介助犬が使用者の意欲と勇気を引き出し,いかにその人らしい生活を発展させていく環境因子であるか,またOTの力はどこに活かされるのかを事例と共に紹介したい.

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はじめに

 現在,わが国では介助犬トレーナーという国家資格やトレーナー養成のための統一したカリキュラムは存在していない.2021年に延期された東京オリンピック・パラリンピック競技大会において,厚生労働省は,海外から補助犬を伴って来日される補助犬使用者に対して,「期間限定証明書」の発行とその携帯,提示を求めている1).その背景の一つに,日本と諸外国の補助犬に対する認識の違いがある.

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はじめに

 介助犬をはじめ盲導犬・聴導犬は,「身体障害者補助犬法」(以下,補助犬法)で,病院やデパート,市役所等の公共施設,電車やバス,飛行機,タクシー等の公共交通機関への同伴が認められている1).介助犬の訓練は,この補助犬法では,訓練に携わる者(以下,訓練士)のみではなく,さまざまな医療・福祉の専門職が協力し合い,使用者となる方の障害特性に応じて行うことが求められている.OTは,協力体制を築く専門職の一つに定められている2)

 OTの役割について,高柳2)は介助犬の使用者となる方の「①日常生活動作(以下,ADL),手段的日常生活動作(以下,IADL),作業姿勢・能力等の評価,②生活動作や作業上の制限,禁忌,注意点等がある場合,環境整備,③自助具の工夫を行い継続的に関わること」を挙げている.高柳2)は医師の立場から,「作業療法学的な研究の重要性の適応や作業内容は,無限に発展を遂げる」と述べている.また,原3)は,OTとして,介助犬とその使用者となる障害者との合同訓練にかかわった経験から,「心身機能,構造,活動,参加,社会資源の選択・環境設定の評価や介入に対応できる」と指摘している.筆者4)は使用者へのインタビューを通じ,自助具の調整・作製や作業姿勢の評価,使用者の職場や家族の理解,OTがかかわることの重要性を指摘した.他にも,介助犬を適切に管理するための機器の開発や飼育管理動作にOTがかかわり,生き物を生活に取り入れることの心理的効果に触れた事例報告5,6)があり,合同訓練での専門職同士のかかわりは重要といえる.

わたしの大切な作業・第30回

夫婦でゴルフ 大野 裕
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 これまで私は、ほとんど仕事しかしてこなかった。だから大切な作業は何かとあらためて問われて、考え込んでしまった。昔からの趣味でもあれば良いのだが、そうした趣味もない。

 そのなかで浮かんだのが、定年のころ妻から勧められて始めたゴルフだ。私は、基本的に妻と二人でしかラウンドしないことにしている。職業病だろうか、他の人と一緒だとつい気をつかってしまうので妻としかプレーしないようにしているのだが、これがじつに楽しい。

提言

感染症予防と認知症予防 山口 智晴
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●新型コロナウイルスの感染拡大を受けて

 読者の多くは臨床の最前線で活躍されているOTだと思います.この場をお借りして,感染リスクが残る現場で活躍されている皆さまに感謝と敬意を表します.私は,この数カ月で行動範囲が縮小し,在宅でのwebシステムを活用した講義や講演会を経験しました.最初は学生や聴衆のリアクションがわからずに戸惑いましたが,今では慣れてその便利さを感じています.この新型コロナウイルス感染拡大の防止に向けた動きが,今までの慣例を見直すよい機会になったと思います.この記事が掲載されるころには,警戒度が下がり活動制限の少ない日常を取り戻せることを祈りつつも,きっと「新たな生活様式」を模索し続けているのではないかと思います.

あなたにとって作業療法とは何ですか?・第70回

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そのひとのやりたいことを諦めない

「ホントはね……」

 片麻痺となり車いす生活を余儀なくされている富士子さん(50代)は,一呼吸おいて,「ゴルフがしたい」と言葉を落としました.夫の定年後,全国各地のゴルフ場を夫婦で巡る旅を計画.それが叶わなくなった身体.勤め上げた夫への感謝と申し訳なさ.「やりたいことは?」とOTから尋ねられた後の,一呼吸に込められた逡巡に,私はどう向き合うべきなのかを考えました.

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感覚という視点の重要性質

 2013年に発刊された「DSM-5」において,それまで自閉スペクトラム症(autism spectrum disorders:ASD)の診断基準に入っていなかった感覚の問題が,新たに診断基準に含まれるようになった.感覚の問題は,適応行動1),日常生活動作2),食事3),睡眠4),限局的・反復的行動5),不安症状6)等と関係が深いことが知られている.臨床場面では感覚の問題を切り口とすることで,その症状の機序についての説明がクリアになることも多い.感覚の症状が軽減すれば,こういった問題が改善できるという期待もある.

 一方で感覚の問題が起こるメカニズムや治療方法は解明されておらず,今日まで医師の間でASDの感覚の問題はまだ十分に理解が浸透されているとはいえない現実がある.筆者は,発達障害の診療を主な専門とする児童精神科医であり,感覚の問題の中でもとりわけ嗅覚を専門としてきた研究者でもある.本稿では自身の臨床および研究の背景を踏まえて,感覚の問題の科学的評価と医学的対応について述べていく.

連載 作業療法を深める ㊻インクルーシブデザイン2

「ともに」創造する難しさ 平井 康之
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 前号では,最初から多様な人々と対話をしながら行うインクルーシブデザインの特徴や,気づきから導き出された課題が対話の中で深まっていく過程を,「手で味わう器ku:t」(デザイン:萱原実里)を事例にご紹介しました.

 また,インクルーシブデザインと同じ流れにあるデザイン思考によって,デザインを専門としないすべての人に,デザインによる課題解決/発見のアプローチが開かれたことを述べました.インクルーシブデザインでも,プロセスの最初から,デザイナーではない多様な当事者やステークホルダー等,デザインを専門としない人々の参加による共同デザインが前提となっています.

連載 老いを育む・第5回

うつ病と認知症 柏木 哲夫
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 人は老いることによって,4つのものを失うといわれています.①心身の健康,②経済的基盤,③つながり,④生きる目的です.

連載 認知症と仏教・第10回

縁がケアをする 日髙 明
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 ケアは,相手ができない部分を補い,できるようにサポートする.しかし,こちらの働きかけが,すべてうまくいくわけではない.いや,うまくいかないことのほうが多いのではないか.そういうときは,どうしよう.

ふぉーらむ

AI(人工知能)と精神療法 大野 裕
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 2000年のころだったと思うが,人面魚のシーマン(ビバリウム社)をテレビで観たときは驚いた.魚の胴部に人間の顔がついていて,ふてぶてしい態度で人間とやり取りをしている.私は,その姿や態度に驚きながら,不思議と微笑ましく感じられた.後になって,シーマンが育成シミュレーションゲームのキャラクターで,大昔から受け継がれた知恵をもっているという設定だと知り,こうしたキャラクターが気持ちを楽にするのに役立つのではないかと考えた.

 このように書くと,こうしたデジタルの産物にカウンセラーの代役はできないだろうと考える人がほとんどだろう.私もそう思っていた一人だ.しかし,シーマンを目にしたとき,精神療法の師匠だった小此木啓吾先生が以前に何気なくもらした言葉を思い出した.

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Abstract:脳卒中発症から7カ月経過した重度の片麻痺の50代男性に,促通反復療法を含む外来リハ(40分,2回/週)とA型ボツリヌス治療(以下,BTXA治療)を併用した.BTXA治療前に患者と具体的目標について協議した.促通反復療法とBTXA治療併用後から痙縮の軽減と麻痺の改善があって,麻痺手でコップを持って洗える役立つ手となり,Br-stageがⅢからⅣへ,STEFが0点から48点へ,主観的満足度も0点から10点へと改善した.BTXA治療前,治療の目標とリハについて,患者と協議することが重要である.

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はじめに

 重度上肢機能障害を呈した患者の腕保持装具として,浅井ら1)が開発したポータブルスプリングバランサー(以下,PSB)が一般的に使用されており,その有効性は高い.今回,ギラン・バレー症候群(以下,GBS)により,PSB適用基準である肘関節屈筋の徒手筋力検査(以下,MMT)2−以上を満たさない重度の上肢機能障害を呈し,食事動作が全介助であった患者を担当した.患者に対し,ゴムチューブを用いた簡易腕保持装具を考案し使用した結果,良好な結果を得たため紹介する.なお,本報告に際し,患者より同意を得ている.

昭和の暮らし・第46回

集金袋 市橋 芳則
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 博物館の資料として探していたが,なかなか見つからなかったものがある.それは保育園や塾,小学校等で代金を徴収するための集金袋である.

 給食費,パン代,教材費,予防接種の代金等々,毎月,家に持って帰ってきては,親にお金を入れてもらうのが集金袋である.お金を入れて持って出かけるときには必ず,「なくさないように」とか,「ちゃんと渡しなさい」等のプレッシャーをかけられた.

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目次

表紙のことば/今月の作品

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 2017年度(平成29年度)に「心疾患患者の作業療法に関する実態調査」のため,質問紙の作成から送付・回収,データ処理まで行いました.今回の質問紙調査にご協力いただいた施設責任者ならびにOT責任者の方には,この場をお借りして感謝を申し上げます.

 質問紙調査の結果は回収率35.7%でした.心疾患患者に対する作業療法を十分に行えている,と回答した施設は2割程度でした.心疾患にかかわれない理由や心疾患に対する教育的な指導が行われていない理由は,環境・多職種の理解・人材・忙しさの要因が影響する可能性が考えられました.研究結果は,第24回日本心臓リハビリテーション学会学術集会,第53回日本作業療法学会で報告させていただきました.

研究助成テーマ募集

次号予告

第56巻表紙作品募集

Archives

学会・研修会案内

編集後記 江藤 文夫
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 COVID-19パンデミックは容易には終息しそうにないが,かつてコレラの大流行が「公衆衛生の母」と呼ばれたように,医学の新たな発展を期待することはできる.今回の不安感増大では情報の氾濫による心理的パニックも要因として挙げられた.個人が健康のリテラシーを高める努力も求められている.

 さて今月の特集は「ICFと作業療法」である.「障害に関する世界報告書(2011)」では編纂の概念的枠組みとしてICFを採用し,ICFについて環境因子への新たなる強調として紹介している.ICIDHは障害の分類を目指した最初の国際的取り組みであり,あらためて障害とは何かが問われることとなったが,わが国では関心がもともと乏しかったかもしれない.ICFの刊行に合わせて国際的には障害の定義と計測法が議論されてきたが,環境についても環境計測の作業チームが国連関連の有志団体のようにして立ち上げられた.環境の本質は多面的であり,参加の促進因子として,あるいは阻害因子として識別することの重要性が強調され,環境の計測についても今後の課題として興味深いものである.

基本情報

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作業療法ジャーナル
54巻11号 (2020年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0915-1354 三輪書店

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