作業療法ジャーナル 54巻12号 (2020年11月)

特集 作業療法と地域包括ケア

香山 明美 , 長野 敏宏
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特集にあたって

 国は2025年を目処に,要介護状態になっても「住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築」を進めてきている.しかし,さまざまな地域差や認知症等の課題もみられる.本特集は,地域の特性に応じてOTがいかに専門性を発揮し,システムの構築に貢献できるのか,実践例を通して考えることを意図するものである.

 地域包括ケアシステムでは,従来「地域」と分けて考えられる傾向にあった「病院・施設」もシステムの一資源として重要な位置づけになっている.すなわち,「病院・施設」で働くOTにとっても不可欠な視点となる.また,政策上は高齢者でスタートしたシステム構築であるが,子育て世代包括支援,生活困窮者自立支援における包括的な支援,また精神障害にも対応した地域包括ケアシステムへと広がり,さらにはすべての人々を対象とし,“支援する側・される側”の垣根も超えた地域共生社会の実現に向けた制度改正につながってきた.つまり,すべてのOTは地域包括ケアシステムにかかわっている(くる)といって過言ではない.そのような視点をもって本特集が活用されることを願っている.

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Key Questions

Q1:介護保険制度改革の背景と全体像は?

Q2:介護保険制度改革の重点テーマとそのポイントは?

Q3:自立支援を実現するために必要な機能とは?

はじめに

 国は,団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据え,介護が必要な状態となっても住み慣れた地域で暮らし続けることができるよう,医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される仕組みとして,地域包括ケアシステムの構築に取り組んできた.

 さらに,2025年以降の社会情勢や地域課題の変化を見据えて,地域包括ケアシステムに関連するさまざまな施策の見直しを進めている.当然,同システムにかかわるOTに求められる役割や機能も影響を受けることになる.

 さて,本稿に期待されていることは,地域包括ケアシステムにおけるOTの役割や求められる機能について言及することであるが,そのためには,国の施策の方向性を理解する必要がある.そこで,まず,「地域共生社会の実現と2040年への備え」を目指した介護保険制度改革の全体像について紹介する.次に,社会保障審議会介護保険部会がまとめた意見書をベースに,リハに関連する主な重点テーマの改革ポイントを解説する.最後に,OTに期待される役割・機能について私見を述べる.

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Key Questions

Q1:「地域包括ケアシステム」,「介護小規模多機能型居宅介護」,「作業療法」の関連性は?

Q2:看護小規模多機能型居宅介護での実践例は?

Q3:介護小規模多機能型居宅介護でのOTの貢献のしどころは?

はじめに

 看護小規模多機能型居宅介護は,看多機(カンタキ)と略されることが多い.そんな看多機の世界に筆者が飛び込んだのが約半年前である.地域包括ケアシステムを知るにつれ,看多機への関心が募ったことが主な理由である.一方で,看多機は,一般社会はもとより,医療・介護業界にも周知されているとはいい難い.

 そんな背景にあって,OTライセンスをもつ介護支援専門員(以下,CM)である筆者が,試行錯誤の実践を通して実感を強めていることがある.それが,「地域包括ケアシステム」と「看多機」との高い親和性であり,かつ,この両者と作業療法との高い親和性である.

 本稿は,そんな看多機の支援を知るきっかけになってほしいという想いを含め,大きく3部構成で述べていく.はじめに,本稿のタイトルである「地域包括ケアシステム」,「看護小規模多機能型居宅介護」,「作業療法」という3つのワードの関連性について述べ,次いで,筆者らの試行錯誤の実践を紹介し,最後に,看多機におけるOTの貢献のしどころについて私見を述べ結びとしたい.

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Key Questions

Q1:地域包括ケアシステムでの作業療法士の役割は何か?

Q2:地域ケア会議での作業療法士の役割は何か?

Q3:総合事業での作業療法士の役割は何か?

地域包括ケアシステムとは

 わが国は2025年には団塊の世代全員が75歳を超える.少子高齢化,人口減少,要支援・要介護者の増加,介護人材の不足,医療費・介護給付の増加といった課題に取り組むことになる.その中で地域包括ケアシステムの構築は急務である.地域包括ケアシステムは,「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」で以下のように定義されている.“地域の実情に応じて,高齢者が,可能な限り,住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう,医療,介護,介護予防,住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制をいう”(第二条第一項)(図 11)).

 地域包括ケアシステムは高齢者の施策といったイメージが強いが,2018年(平成30年)4月1日施行の「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」のポイントとして国は“地域共生社会の実現に向けた取り組みの推進”等を掲げており,高齢者のみならずすべての世代を対象とした地域包括ケアシステムの構築を目指している.そこでOTの地域包括ケアシステムへの関与は,すべての世代,医療や介護,予防等のさまざまな領域へのかかわりが必要となるが,今回は筆者がかかわっている「地域ケア会議」,「総合事業」でのOTの役割を述べてみたい.

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Key Questions

Q1:作業を地域住民のなじみの場所で企画する意味とは?

Q2:地域・住民に新たな発想の企画を提案するには?

Q3:多職種,高齢者,学生等の多世代交流を考える際には?

はじめに

 皆さんは子どものころから図書館や美術館等の公共施設を幾度となく利用し,それらに対する思い出や固有のイメージを抱いていることだろう.しかし,「図書館はお茶を飲みながら,わいわい過ごす場所です」と聞くと,にわかに信じられないかもしれない.地域包括ケアシステムの「自助」,「互助」の新たな概念や地域に合った方法1)を構築するうえで,公共施設に抱くイメージも変える時期にきている.本稿では,図書館や公園を中心に,公共施設を新たな多世代・地域住民の交流の場として活用している実践を紹介する.

わたしの大切な作業・第31回

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 疲れたなあ、と言いながらも、台所に立たないと何だか調子が悪い。私は主婦ではなく、同居人が三食すべてを作ってくれる日もあるが、それでも毎日、なにがしか台所で手を動かしている。無心になれて良いのだ。

 ついさっきもそうだ。仕事の疲れから調子が上がらずごろごろしていたけれど、空腹に耐えかねて冷蔵庫から長ネギ、キュウリ、チャーシューを出して刻み、味塩とラー油で和えて簡単な惣菜を作って食べた。野菜を切るのは面倒だけれど、それでもスライサーを使わないのは、包丁を扱うのがなんだかんだで好きだから。昔読んだ『冒険図鑑』(福音館書店)の記憶によると、包丁は刃だけでなく背や柄も扱えば、たいてい一本でこと足りる。木のまな板の上で包丁をトントンリズム良く動かしているとほっと落ち着く。騒がしい頭がしんと静かになる。

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 私たちの作業環境を短期間に一気に変えてしまった新型コロナウイルス感染症(COVID-19).私が主たる対象としている子どもたちに対してもさまざまに考えるべきことがあり,試行錯誤しながらここまで対応してきた.この間の変化や提示されているニュースタンダードを通じて感じている,そして懸念している子どもたちへの影響について述べたいと思う.今から10年経ち,20年経ち,「あの懸念は心配しすぎだったね」と笑って過ごせる状況になっていることを願って.

あなたにとって作業療法とは何ですか?・第71回

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しなやかな暮らし(a resilient life)を支える

 「しなやか」という言葉は,『万葉集』に「真木の葉の しなふ背の山 しのはずて 吾が越え去けば 木の葉知りけむ」と記載されている.「しなふ」とは,英語でsuppleやflexibly,漢字で「撓やかに」:木がしなう,橈骨,「靱やかに」:なめし皮のように丈夫,靱帯,「嫋やかに」:たおやかに,等の表現がある.

 また,自分が専門としている地域は,平時(ordinary)のみならず,コロナ禍や災害等の有事(emergency)を含み,「平時に役に立たない傘」のような作業を,いかに平時から活用できるかが重要と思っている.

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 他者との共生共存を試みるとき,「自己理解」というものが不十分であれば,他者とのコミュニケーションにトラブルが発生しやすいのは,自閉スペクトラム者も健常者も同じではないだろうか.

 私は他者とのかかわりで「できるだけストレスを感じず」,また「できるだけ他者にストレスを与えない」自分自身の生き方,「在り様」を模索しながら生きてきた.お互いにストレスとなるかかわりは,お互いのためにならないからだ.

連載 脳損傷者への就労支援—対象者のデータベース化と多職種による支援の試み・第9回

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はじめに

 筆者らが行った「高次脳機能障害者の就労状況 実態追跡調査(2014年)」の職場訪問調査において,就労定着には職場の障害への理解や,指導者のサポート力等の環境要因が大きく影響する可能性が示唆された.また,環境要因が指す事柄は,制度や支援体制といった安定したものではなく,指導者個人の力量に頼った不安定な環境の中で就労定着が行われている実態がある.ジョブコーチ等,就労支援者の積極的な働きかけや,職場末端の指導者にまで注意を払い,就労定着に向けてサポートが行われているか継続支援していくことも重要であると実感した.

 高次脳機能障害者の就労定着支援について,渡邉1)は,たとえ就職できてもその状況を維持しにくいという特徴があり,ジョブコーチ等の就労支援体制が充実していれば,職場に対して理解と対応方法を指導し,就労が維持できる可能性があるとしている.また,長く働き続けるためには,職場側への支援,仕事を再開した後も必要なときに支援が受けられる仕組みをつくる必要があると述べている.この渡邉が指摘する,「就労支援が必要なときに支援が受けられる仕組みをつくる」ことについて,本調査で職場訪問を実施した1事例を基に,就労定着に向けた医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)実践を報告する.

連載 作業療法を深める ㊼個人情報保護

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 OTをはじめ利用者のリハやケアに携わる読者の皆様は,弛まない専門的能力の研鑽が求められる一方で,利用者や患者(以下総称して,利用者)の全幅の信頼に応えるため,高度の法令遵守(コンプライアンス)義務を負っています.

 特に「情報」に関しては,OTはプライバシーや既往歴,疾患,場合によっては余命等の重要な秘匿情報に常に触れるものであり,そうした情報を漏えいさせてはならないという義務を負います.しかし情報は目に見えないものであり,1人の利用者につき大量に存在し,日々変化していくものでもあるため,その管理は難しいものです.

連載 老いを育む・第6回

老いとユーモア 柏木 哲夫
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ホノルル川柳

 ユーモアのセンスがすばらしい92歳のご主人と87歳の奥様,Aさんご夫妻を紹介したいと思います.ご夫妻はハワイ在住で日本人教会の忠実なメンバーです.移民としてハワイに渡り,多くのご苦労がありましたが,お元気で老後を迎えられました.ご紹介するエピソードは教会の牧師から聞いたものです.

 牧師は時々Aさんご夫婦から食事に招待されるそうです.ある日,夕食に招待され,ステーキをご馳走になりました.いろいろな会話の中で牧師がAさんに,「長生きの秘訣は何ですか?」と尋ねたところ,Aさんの答えは「息をするのを忘れないことですよ」.みんなで大笑いしたそうです.

連載 認知症と仏教・第11回

すべてをよしとする 日髙 明
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シガさんの歌い泣き

 シガさんは,物静かな方だった.おそらくもともとの性格もあったと思うのだけれど,それに加えてアルツハイマー病の進行により失語状態になっていた.何か話しかけられると言葉をオウム返しにして答えることはできるが,自発的な発話はほとんどなかった.ただ,こちらの言っていることは一部理解できる.私たちが冗談を言うと,ふふふ〜と漏らすように笑っていた.

 そんなシガさんは,歌が大好きで,とても上手に歌う方でもあった.普段は自分から話すことはめったにないのに,レクリエーションで曲がかかると,目が覚めるようなきれいな高音で歌い出す.童謡から『北国の春』といった往年のヒット曲まで,いくつもの歌を,歌詞もほぼ正確に歌うことができた.

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 OTが車いす作製にかかわる機会は,どのくらいあるのだろうか.介護保険サービスの利用者はほとんどレンタルの車いすになるから,その分野で仕事をするかぎりにおいて,車いす作製の経験はできないかもしれない.

 作業姿勢は活動に大きな影響を与えるし,その姿勢をつくるのは椅子や車いすだ.だが,OTにとってこんなに大事なこと,姿勢,椅子,車いすに関して学ぶ機会はあまりない.日本リハビリテーション工学協会や日本シーティング・コンサルタント協会が定期的に研修会をやってはいる.だから,基本的なシーティングスキルはそれらの研修会で学ぶことはできる.2018年(平成30年)にはシーティングはリハ技術として医療保険で算定されるようになった.リハ職としては,たとえレンタルの車いすでも,当事者に合ったものをクッションとともに選定し,背もたれや座面の角度や形状や高さを調整し,何とか姿勢が崩れない形にもっていかないといけない.それで事足りる人も,もちろん少なくない.今やレンタル車いすの機種は増えたし,いくらでも試せるという利点がある.

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Q 国家資格取得後のキャリア形成に迷います…….

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Abstract:Four Square Step Test(FSST)は,十字に置いた杖を決められた順にまたぐ時間を測定する動的バランス検査である.本研究は,地域在住高齢者37名を対象に,①通常のFSSTに加え,二重課題として②計算をさせながら実施するCognitive FSST,③水の入ったコップを手に持たせながら行うManual FSSTの3つの測定を行い,日本語版Montreal Cognitive Assessmentで評価した認知機能と,Trail Making Testで検査した注意機能との関連を検討した.その結果,Cognitive FSSTとManual FSSTは認知機能との間に有意な相関が認められ,認知機能のスクリーニング検査としての有用性が示唆された.さらに,Manual FSSTは注意機能とも有意な相関が認められたため,注意機能のスクリーニング検査としても利用可能と考えられた.

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Abstract:【目的】当院の緩和ケアチーム(PCT)において多職種からOTに期待される役割を明らかにし,今後の活動指針とすること.【方法】当院の医師,看護師,臨床心理士,PT,OT,およびSTに対し半構造化面接を実施し,遂語録を作成した.遂語録内のPT,OT,STの役割に関する箇所を抽出し,KH coderにて頻出語,階層的クラスターを分析した.随時,KWICコンコーダンスにて文章表現を確認した.【結果および考察】当院でのPCTにおいてOTに期待される役割として,患者の心理面やADLへのアプローチ,患者とのかかわり方を他職種に示すことが示唆された.

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Abstract:OTが脳卒中患者の運転支援に対してどのような評価とアプローチを行っているか,雨天の影響をどの程度考慮してアプローチを行っているかを調査し,脳卒中患者の雨天時の運転支援に関する,より有効な評価や支援を見いだすことを目的とした.方法は,一般社団法人富山県作業療法士会に所属するOTが勤務する170施設を対象に,雨天に関する運転支援内容についてアンケート調査を実施した.結果,110施設から回答が得られ,運転支援を行っている施設は35施設であった.また,他機関と連携をとっていない施設が65.7%を占め,施設内では机上評価,机上課題,口頭助言中心の支援が主であった.雨天に関しては,74.3%の施設が雨天の影響を十分に考慮できていなかったが,雨天に影響する5つの領域を支持していた.今後,OTに対して雨天に影響する因子を把握できるチェックリストの開発や,他機関への申し送り時の伝達ツールの開発を検討していく必要があるだろう.

昭和の暮らし・第47回

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 洗濯は暮らしの中で極々日常的な作業として存在している.最新の洗濯機の機能には驚かされるが,この誌面で紹介するのは,やはり洗濯板である.

 人にとってあたり前の作業である洗濯は,当然,世界各国共通に行われている.一方で多言語,多文化,ユニバーサルという言葉も標準化してきている昨今,高齢者の生活歴も多文化化が始まっている.

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目次

表紙のことば/今月の作品

次号予告

研究助成テーマ募集

第56巻表紙作品募集

Archives

学会・研修会案内

編集後記 香山 明美
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 新型コロナウイルス感染拡大が続き,私たちの生活に大きな影響を及ぼし続けている.在宅勤務という勤務形態ばかりでなく,会議や研修会・学会もonline開催に変化し,それが常態化しようとしている.

 OTが働く病院や施設ばかりでなく,地域での活動にも大きな影響がある.私が関与している街の高齢者の通いの場も数カ月は開催されず,最近ようやく開催できるようになった.久しぶりに会った参加者からは待ち望んでいた様子が語られ,あらためて活動の意義を感じさせられている.高校3年生の部活の様子を聞く機会があった.3〜6月まではまったく活動が休止し,7月から再開しても元の筋力や技術に到達することはなく,部活を終了することになったことを語った.

基本情報

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作業療法ジャーナル
54巻12号 (2020年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0915-1354 三輪書店

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