産婦人科の実際 67巻9号 (2018年9月)

特集 HPVワクチンを改めて考える―接種勧奨の再開に向けて―

  • 文献概要を表示

子宮頸がんの発症を予防するためにヒトパピローマウイルス(human papillomavirus;HPV)ワクチンの定期接種が開始されたのは2013(平成25)年であるが,2カ月後に接種勧奨が中止され,5年の長きにわたりそれは再開されていない。

  • 文献概要を表示

Human papillomavirus(以下,HPV)関連がんとして有名なものに子宮頸がんがある。わが国では子宮頸がんは罹患数,死亡数ともに近年増加傾向にあり,特に生殖年齢においてその件数が増加傾向にあることが問題とされている。子宮頸がんに関しては細胞診,HPV検診とワクチンというシステムが海外では提唱されているが,わが国では低い検診率,ワクチン接種に関する報道もあり,適切な予防のためのシステムが十分に機能していない。そのため,今後も増加することが予想されているHPV関連がんに対して,正しい認識,知識を広く周知させていくことが重要であると考える。

2.中咽頭がんの疫学と治療 山下 拓
  • 文献概要を表示

ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の持続感染が中咽頭がんの発症にも関与しており,またHPV関連中咽頭がんが世界中で急増していることが明らかになってきた。HPV関連中咽頭がんが,臨床病理学的にほかの頭頸部がんとは明らかに異なる特徴を有することが判明し,新しいTNM分類では独立した疾患として分類されるに至った。現在,本疾患に対して適切な治療方針を決定するべく,多くの臨床試験が進行中である。HPV関連中咽頭がんに対する健診による二次予防が未確立のため,一次予防であるHPVワクチンの重要性が認識されている。ワクチン接種が口腔内のHPV感染を抑制することが示されており,中咽頭がんの発がん予防についても期待されている。本稿では,HPV関連中咽頭がんの疫学,治療,臨床研究,予防の現状につき概説する。

  • 文献概要を表示

子宮頸がんの予防戦略は,HPV感染が子宮頸がん発症の最大のリスク因子であることを背景に,海外ではHPVワクチン(一次予防)とHPVテストによるがん検診(二次予防)を両輪としたものに大きく変わりつつある。海外ではすでに子宮頸がんの一次予防と二次予防をいかに効率的に組み合わせるかが課題となっており,両方を積極的に組み合わせた新しい予防戦略(HPV-FASTER)も提唱されている。わが国はワクチン・検診の両面で立ち遅れており,このままでは子宮頸がん予防の後進国になってしまうかもしれない。

  • 文献概要を表示

2価および4価HPVワクチンの大規模臨床試験の結果が公表され,HPVワクチンは2006年以降に順次各国のワクチンプログラムに組み入れられるようになり,長期間高い接種率を維持している国も多い。そのような国からは,接種世代の女性のHPV16型/18型感染率減少のみならず,子宮頸部細胞診異常,子宮頸部上皮内病変の発生頻度の低下が,実際の疫学データとして相次いで報告されている。また,現在の国際的なHPVワクチンの話題としては,2回接種の普及,男女の区別のない接種,子宮頸がんの90%以上の予防が期待される9価HPVワクチンの導入などがある。また,日本と同じように,HPVワクチン接種後の因果関係不明な多様な症状を呈する有害事象の報道などにより,いったん低下した接種率を回復させた国もある。本稿では,最近のHPVワクチン接種に関する世界の動きを概説する。

  • 文献概要を表示

HPVワクチン接種は,検診と並んで子宮頸がん予防における必須の戦略として世界的に認識されており,諸外国において2000年代半ばから国の公費助成プログラムとして導入されてきた。これらの国々では,ワクチン接種世代におけるターゲットHPVの感染率の劇的な低下,集団免疫効果による非接種者のHPV感染率の低下,接種世代における子宮頸部上皮内高度病変の顕著な低下など,多くの有効性のエビデンスが蓄積されてきた。一方,安全性についても多くの大規模調査が行われ,これまでにワクチン接種により有意に増加する重篤な有害事象は見つかっていない。本稿では,改めてHPVワクチンの有効性と安全性に関する研究結果を確認し,現時点での正しい知見を整理する。

  • 文献概要を表示

わが国ではHPVワクチンは2009年に認可され,2010年には自治体ごとの公費接種助成が開始し,2013年には国が定める定期接種ワクチンの1つとなった。しかしながら,現在は積極的勧奨が中止されており,新規ワクチン接種者がほぼいない状況が継続している。その一方で,積極的勧奨中止前にワクチンを接種した公費接種対象世代が子宮頸がん検診対象年齢となってきたことで,わが国からも諸外国と同様に日本人若年女性におけるHPVワクチンの有効性に関するデータが続々と報告されてきた。この章では,わが国におけるHPVワクチンの有効性に関する成績に関して示す。

  • 文献概要を表示

子宮頸がんの罹患率が増加に転じているわが国において,厚生労働省の積極的勧奨の差し控えの継続によって,HPVワクチンの接種は停止状態となっている。これにより,生まれた年度によってワクチン接種率が大きく異なる事態となり,今後,積極的勧奨の再開が遅れれば遅れるほど,ワクチンの開発でせっかく低下した子宮頸がんの罹患リスクがもとに戻ってしまう生まれ年度が次々に出現していくことになる。わが国の女子は単に何年度に生まれたか,ただそれだけで,本来予防できたはずの子宮頸がんのリスクを背負わされてしまっているのである。この不合理は国家的悲劇ともいうべきものであろう。

  • 文献概要を表示

ヒトパピローマウイルス(HPV)(予防)ワクチンは,子宮頸がん前がん病変(CIN2-3),HPV関連がんの発生率を低下させることが国内外で示されている。HPVワクチンでカバーしているHPV感染については確実に予防できることが証明された。そこで,HPV16/18やHPV6/11に加え,子宮頸がんの原因となる頻度が高い5つのハイリスクHPV(HPV31,33,45,52,58)に対しても,同様のワクチン抗原を用いた9価HPVワクチンが開発された。一部の先進国では,9価HPVワクチンが定期接種ワクチンとして,標準化されつつある。また,ワクチン接種の機会を逃した女性がCINを発症した場合の治療ワクチン(CIN治療薬)の開発も進んでいる。本稿ではこのような新しいHPVワクチン事情を紹介したい。

  • 文献概要を表示

WHO GACVSの安全性声明は,2013年6月以降,日本に発し,世界に拡大した安全性の課題解決のために,逐一,科学的に説明を行ってきた。しかし,現在ではWHO安全性声明やポジションペーパーと日本とのギャップが大きく拡大している。今後,国内では接種再開とともに以下の課題を早急に解決する必要がある。接種機会を逸した対象には,対象年齢を延長する施策が望まれる。これまでに接種をしなかった,あるいは,接種を終えていない26歳までの女性に接種が推奨される。国が積極的勧奨を再開しても,国民・保護者の不安が簡単に拭えるものではない。国・自治体の担当者,医師・医療従事者などからの適切でわかりやすい説明が提供されるべきである。メディアの適切な取り上げ方も期待される。

10.HPVワクチン接種と学術団体 岩田 敏
  • 文献概要を表示

ワクチンで予防できる疾病はワクチンで予防するのが感染制御の原則であり,ヒトパピローマウイルス(HPV)が原因となる子宮頸がんも当然ワクチンで予防されるべきである。関連学術団体は,HPVワクチンの有効性,安全性が科学的に裏付けられていることを各方面に周知し,本ワクチンの積極的な接種を推奨する活動をこれまで以上に大々的に行いつつ,世論を背景とした積極的接種勧奨の再開を,社会に働き掛けていく必要がある。

  • 文献概要を表示

「名古屋スタディ」という名で知られているHPVワクチンと接種後の症状との関連についての疫学論文「No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women:Results of the Nagoya study」が出版されてから6カ月が経った。ここではこの研究を概説したあと,論文出版後のことについて述べる。スペースの関係上,オープンアクセスの論文1)を手元に用意いただいて,図表はそちらを参照されたい。

  • 文献概要を表示

器質的・機能的にかかわらず,効果の高い治療法のない疾患は慢性に経過しやすく,心の影響を強く受けるため,心身症化しやすい。そのなかで思春期女子に多いものとして,起立性調節障害,過敏性腸症候群,慢性連日性頭痛,過換気症候群などがある。このような疾患の治療においては,原因を1つに限定するのではなく,身体面・心理面を含んだ心身医学的アプローチが重要となる。

  • 文献概要を表示

痛みや運動障害は身体器質的問題だけではなく,精神心理社会的問題によっても発症し,これらは相互に修飾し合う。さらに思春期患者の場合には,患児自身の生物心理社会的問題だけでなく,その保護者(主に親)の生物心理社会的問題も,患児の症状の発症,遷延化,重症化に影響を及ぼす。慢性疼痛診療では患児の訴えに対して理解する姿勢を示し,そのうえで生物心理社会的問題それぞれについての体系的な評価を行い,抽出された問題点ごとに対応(治療)するだけではなく,保護者への教育も治療成績の向上に極めて重要な意義を持つ。

シリーズで学ぶ最新知識

  • 文献概要を表示

世界初となる妊娠24週から使用可能な胎児心電図装置が心拍計として市販され,胎児モニタリングに新たな時代が開かれようとしている。周産期領域での30年ぶりとなる新たな新規医療器械の参入によって医療現場は何が変わるのか?

本連載では期待される胎児心電図の役割と今後の課題を3回の連載で解説したい。胎児モニタリングの歴史をたどってみると,大きな課題と解決が5つあったことがわかる。今回は,分娩監視装置の歴史を振り返り,そこで生じた課題とその解決,胎児心電装置の仕組みと新たな5つの課題を提案する。

  • 文献概要を表示

挙児希望を有する子宮内膜異形増殖症,子宮内膜癌患者に対して,高用量の黄体ホルモンを用いた妊孕性温存治療が選択肢として提示されるようになった。全摘に比して根治性が劣ることを確認の上での治療方法であり,治療終了後の妊娠に向けての介入は不可欠なものとなる。今回われわれは,一大学病院での限られた症例ではあるが,妊孕性温存治療を選択した症例が不妊治療も含めて長期的にどのような経過をたどったのかをまとめたので,今後の参考にしていただければ幸いである。

  • 文献概要を表示

ART後の妊娠は,母児ともにハイリスクであると報告されている。そこで,当センターにおいて不妊治療後に妊娠し,分娩に至った妊婦の周産期予後について後方視的に検討した。最近の4年間に当センターで妊娠・分娩に至った単胎妊娠190例を対象とし,その対象を〈ART後妊娠群(以下,ART群)〉,〈ART以外の不妊治療妊娠群(以下,非ART群)〉の2群に分類し,周産期予後について比較した。ART群は,今回の全分娩数の40.5%であった。今回の検討において,ART群の母体年齢は非ART群と比較して有意に高く,帝王切開率もART群で有意に高かった。また妊娠高血圧症候群(HDP)率はART群(26.53%)で有意に高く,切迫早産,妊娠糖尿病(GDM),前置胎盤は有意差を認めなかったものの,高い傾向にあった。従来からの報告どおり,ART妊娠はハイリスク妊娠と位置づけ,より慎重な周産期管理を行うべきである。

  • 文献概要を表示

目的:腹式広汎子宮頸部摘出術後の問題点として,頸管狭窄や頸管粘液の減少,高い流早産率などがあり,生殖補助医療において大きな問題となる。術後の生殖補助医療についての報告は少ないため,当院での治療内容について検討した。

方法:腹式広汎子宮頸部摘出術を施行した18症例の患者背景や臨床病理学的因子,生殖補助医療内容,治療成績を後方視的に検討した。

結果:平均年齢は35歳(29~43歳)で,既婚は12例であった。観察期間の中央値は47カ月であった。1例は術後に骨盤リンパ節転移が判明したため,根治手術を追加した。1例で再発を認めたため,同時併用化学放射線療法を施行した。術後早期の挙児希望患者は12例であった。9例に一般不妊治療(75%)を行い,そのうち8例に生殖補助医療(66.7%)を施行した。そのうち4例で妊娠が成立し(33.3%),3例で生児を獲得した(25%)。3例中1例で部分前置胎盤,1例で胎児母体間輸血症候群を認めた。

結論:腹式広汎子宮頸部摘出術後の患者には,早期からの積極的な生殖補助医療介入が望ましいと考えられる。

海外文献から

  • 文献概要を表示

流産後に不正出血が続き,子宮筋層に血管新生(vascularization)が発生した症例を経験した。胎盤ポリープ発生にまでは至っていない動静脈瘻を伴ったRPOC(retained products of conception)の可能性が高いと思われた。RPOCのMRI所見は,遺残部分(remnant)と,remnantが筋層に接着する部分(junctional zone)の異常と,子宮筋層内の変化(vascularization & flow void)の3つが特徴であり,この3つの所見が,それぞれの症例で程度を変えて様々に組み合わされていると思われた。これらには,危機的な出血を起こさず消退出血を繰り返していくうちに,自然に退縮していく例が多数あると思われた。

  • 文献概要を表示

可逆性脳血管攣縮症候群は,反復する強い頭痛と頭部画像における可逆性の多発性脳血管攣縮を呈する症候群である。誘因の1つに妊娠が挙げられ,特に産褥期に発症することが多い。脳卒中発作を合併した場合は永続的な局所神経症状を残す可能性がある。今回われわれは,産褥期の高血圧を契機に入院し,頭痛発作としびれに対する精査で本症候群と診断され,合併症および後遺症なく軽快した症例を経験した。産褥期に強い頭痛発作を繰り返す場合は,頭蓋内出血などのほかに本症候群を考慮に入れることが重要である。

--------------------

目次

学会案内

学会案内

学会案内

学会案内

学会案内

バックナンバーご案内

投稿規定

次号予告

基本情報

05584728.67.09.cover.jpg
産婦人科の実際
67巻9号 (2018年9月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0558-4728 金原出版

文献閲覧数ランキング(
9月10日~9月16日
)