胃と腸 14巻2号 (1979年2月)

今月の主題 早期胃癌診断の反省(2)

序説

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早期胃癌診断の現況から将来へ

-望まれる一層の精進-

芦澤真六

 1)最近早期癌発見の頻度が各施設に於て著しく増加しつつあるのは周知の事実である.

 しかし,われわれの教室での経験からその発見の動機をみると,患者自らが外来を訪れて,諸検査の結果,早期癌と診断されたものは10%足らずであり,大部分の症例は他院よりの紹介,あるいはわれわれの教室員の関係した胃集検,または,いわゆるドック形式の検査をうけ病変を疑われたものである.そしてわれわれが主として職場を対象として最近3カ年間に約15万入に行った某2カ所での集検のみに限ってみると,発見された胃癌約100例のうち,早期胃癌が半数以上を占める.すなわち医師が積極的に患者に接していくことの必要さが痛感され,また早期癌を診断しうる医師が増加していることを裏書きするものといえよう.今後より早期癌の発見を増すためには,しかるべき医師がもっと増え,良心的にまた積極的に大衆に接していくことが必要であろう.もちろんいろいろの障害はあろうが,それらを乗り越えて来た先人達のことを思い一層の精進が望まれる.

主題

胃生検の功罪 高木 国夫 , 中村 恭一
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 日本における胃診断学の急速な進歩には,目覚ましいものがあって,X線検査では二重造影法,内視鏡検査では胃カメラ,ファイバースコープさらにファイバースコープによる直視下胃生検が現今胃疾患の診断には欠くべからざるものになっている.1962年にHirschowitzのgastroduodenal fiberscopeがわが国に導入され,すぐに1964年からファイバースコープによる胃生検が臨床的に用いられて,胃疾患の中でとくに,胃癌の診断が胃生検による組織診断の上にたってなされるようになり,早期胃癌の診断が急速に進歩し,微細病変といわれた直径2cm前後の早期胃癌の生検診断が容易になり,現今では,ファイバースコープの器械の進歩と共に,直径5mm以下の微小胃癌に対しても胃生検が行われて,その診断能力が時には,肉眼的限界をこえ,われわれの想像をこえる所にまで達することがある.このような胃生検の進歩にもとづく恩恵は,胃疾患の診断,治療にたずさわっているものにとっては,はかり知れないものがあり,現在では,胃生検が全くといってよいほど安全な検査法になっている.このはかり知れない胃生検の功績に関しては,多くの報告がなされており,早期胃癌の診断に対する胃生検の有用性,良性悪性の鑑別診断,さらに良性悪性の境界病変-異型上皮-の診断等々があるが,他方この胃生検が容易に行いうるようになった反面,この検査の濫用にもとづく誤りも起こりうるものであって,とくに,この胃生検が組織診断という臨床医によっては,オールマイティーにも等しい強固な力をもっているために,胃生検の組織診断の誤りが臨床面にはねかえって診断のプロセスを大きくまげてしまう危険性をはらんでいるものである.

 胃生検の臨床面,病理面での効用と共に,胃生検の誤りを起こしやすい面についても検討を加えて,胃生検を単に確定診断の面のみにとどめずに,さらにX線,内視鏡所見の読みを一層深める上で充分活用したいものである.

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 本誌の創刊号で「細胞診の利用価値と診断法-特に消化器悪性腫瘍の診断に関する諸問題-」と題して,細胞診の利用価値と診断法について論じ,一部その限界についても言及してからすでに12年以上経過した.その間に胃のX線診断学や内視鏡診断学が著しく進歩し,微小病変の発見や早期胃癌の診断率は向上した.胃細胞診においても細胞採取方法の改善や細胞所見の集積が得られ,特に胃ファイバースコープの開発と進歩によって内視鏡直視下に胃粘膜の細胞および組織片が採取されるようになったので,細胞診成績は向上した.生検組織片の塗抹細胞診では細胞異型のほかに組織構築の異型も観察しうるので,胃癌診断の信頼性は一層高まり,またいわゆる境界領域性病変とされる異型上皮の診断もある程度可能となってきた.しかし,この胃細胞診にも限界のあることはいうまでもない.ここでは細胞診の実際的価値とその限界を東北大学第3内科における細胞診成績を中心に述べることにする.

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 最近,X線検査,内視鏡検査とともに生検の進歩により,生検は胃疾患の診断に重要な役割をはたしているが,われわれは生検にて,陰性と陽性を繰り返したために最終診断までに約9カ月を要した症例を経験しその原因について検討したので報告する.

〔症例〕患者:64歳 男性 無職

 主 訴:特になし

 家族歴・既往歴:特になし

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 胃生検偽陰性の原因が粘膜内には癌を証明できず,粘膜下層のみに限局して認められた早期胃癌で,しかもUl-Ⅲの潰瘍瘢痕の辺縁に癌が見出された小病変の症例を提示する.

〔症 例〕患者:K.Y. 67歳 女性 無職

 主 訴:心悸亢進

 既往歴:23年前に肺結核に罹患,16年前に子宮外妊娠にて手術,6年および4年前に白内障にて2回手術.

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 比較的小さなⅡc型早期胃癌で,内視鏡的に悪性を疑いながらも,2回の生検および1回の細胞診で確診が得られなかったために,初診から手術まで7カ月要した症例を経験した.

〔症例〕患者:64歳 男性

 主 訴:左季肋下部痛

 家族歴・既往歴:特記すべきことなし

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 初回胃X線検査では一見良性胃潰瘍のように思われるが,集中像を注意深くみるとⅢ型早期胃癌を思わせ,内視鏡胃生検で陰性のため経過観察をし,胃X線検査を6回,内視鏡を4回行い内視鏡像では終止良性胃潰瘍とされ,4回目の胃生検でClass Ⅴとなり,初回X線検査より22カ月後に胃切除された1例を報告したい.

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 内視鏡所見で良性胃潰瘍と鑑別困難な時期の生検で,偽陰性であったため診断が遅れたⅡc+Ⅲ型早期胃癌で,癌の浸潤形式が特異な症例を経験した.

〔症例〕患者:69歳 男性

 主訴:腹部膨満感

 家族歴:特記すべきことなし

 既往歴:60歳頃から十二指腸潰瘍

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 生検で癌の診断が得られるためには,当然のことながら,癌細胞の存在する部位から標本が採取されなければならない.これは簡単なことのように思えるが,病変の一部にのみ癌細胞が存在し,非癌部との肉眼的鑑別が困難な場合には,生検で診断がつかな可能性がある.

〔症例〕患者:Y.M. 39歳 男

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 直視下生検は早期胃癌の強力な診断武器であることはいうまでもないが,時として偽陰性例を生じたり,やぶにらみの生検になることがある.また,直視下に狙撃生検するだけに,直視下の胃内視能力によって生検能が左右されることはいうまでもない.以下,われわれの経験した生検偽陰性が診断過程に大きく影響したと思われる症例を報告する.

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 悪性リンパ腫は,X線・内視鏡所見の上からは癌腫または良性潰瘍との鑑別診断が困難なことがある.そのためにその確定診断は生倹に依存することが多い.しかしわれわれは,2度にわたる生検ではいずれも陰性と診断されたが,短期間の経過観察で臨床的に悪性リンパ腫と診断し切除した症例を経験したので報告する.

〔症例〕患者:R.T. 44歳 男

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 司会(芦澤) 前号に引続き“早期胃癌診断の現況を憂う”というテーマで座談会を開きたいと思います.

 この座談会が企画されましたのは,毎月の早期胃癌研究会に出る症例について,そのレントゲン,あるいは,内視鏡に昔ほどの厳しさが少なくなって,このままでいくとマンネリになってしまう.マンネリになるということは進歩がないということです.その原因は何であろうか,どういうところをあらためるべきか,というようなことが発端になったのだと思い主す.

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 A 66-year-old man was well until March, 1975 when he developed hematemesis and melena. In July 1976, he developed right lower quadrant pain associated with a gradual weight loss.

 On physical examination, he was noted to have a firm, mobile, egg-sized mass with a smooth surface and slight tenderness in the ileocecal region.

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 頸部食道は,造影剤の通過がとくに早いため,よい写真を撮影することがむずかしい.また,頸部食道は下咽頭に接続し,喉頭などに隣接し,病変が頸部食道,下咽頭,喉頭にまたがることもあるので,X線像がかなり複雑になる.このようなことから,頸部食道のX線検査や診断にあたって,特別な工夫や考案が必要になってくる.

 従来,頸部食道を撮影するために,撮影体位,撮影のタイミング,撮影条件,X線装置などについて工夫がはらわれてきた.また,造影剤の通過速度を遅らせるために,粘稠度の高い造影剤を用いる試みもあった.さらに,近年,映画撮影や連続撮影も開発されてきているが,特殊の装置が必要であったり,写真が鮮明でなかったり,よい二重造影像が得られにくいといった欠点がある.結局,微細病変の診断には二重造影法がよいことはわかってはいるが,頸部食道の検査に適した,独自のX線検査法が確立しておらず,診断面の遅れが目立っている.

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 大腸憩室症は,本邦では比較的稀な疾患と考えられていたが,最近では諸家の報告にみるように増加傾向にある.われわれの集計でも大腸憩室症の頻度は年々増加しており,欧米に多いとされる左側大腸憩室も稀ならず認められるようになった.

 臨床的には憩室炎による出血あるいは穿孔,大腸癌の合併など重要性を増している.

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 私どもは,胃X線,内視鏡検査で胃幽門前庭部に癌と思われる大きな隆起性病変を認め,胃生検ではGroup Ⅲと診断されたが,切除し,切除胃の病理組織検索で,異型上皮よりなる大きな隆起の中に,多発する小さい癌巣が認められた稀な症例を経験したので報告する.

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 第18回日本消化器病学会秋季大会のシンポジウム「回盲部病変の診断」でも論じられているように,回盲部は消化管のうちでも病変の多い部位の1つでもあり,しかも病変の種類が多く,その質的診断は診断技術の進歩した今日でもなかなかむずかしい.しかし最近では内視鏡の導入により直視下に観察,生検が可能となり,同部位の鑑別診断はだいぶ楽になってきた.われわれはX線検査の段階で単純性非特異性潰瘍と読影し,手術により確診した1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

入門講座 胃癌診断の考え方・進め方・2

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 市川 レントゲンですらそういうのがあるんです.遠いところから汽車に乗ってわざわざ来られて,写真を見てくださいといってフィルムを2枚だけ出して,これは何ですかというわけです.「変は変ですね.でももう他に写真ないですか」といったら,「いや,他のはみんなよく撮れていないんでお恥しいですよ,これだけがよく撮れているんです」といって出すんです.「まあ,そういわないで見せてください」といって見ると,もっとよく撮れている写真がある.「何でこれを……」といったら「あ,これがいいんですか」.

 読影会のときは10枚,20枚シャーカステンに掲げるでしょう.「読んでください」というと,一番病変を正直に表わしている写真は誰も手をつけないで他の写真だけで議論しているという場面が意外に多いですね.

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欧文目次

書評「消化器病学」 相馬 智
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 Old boyには昔懐しいブルーラインが粧いも新たにNIMブルーラインとしてお目見えした.当時の内科学,外科学などの系統講義的内容とはうって変わり,解剖,生理,生化学など基礎的事項と臨床とを巧みにインテグレイトさせている.教科書といえばブルーラインしかなかった時代の筆者にとっては,まさに今昔の感がある.教壇に立ち学生を教育する立場に立って感じる事は,現代はまさに情報過多の時代で,限られた時間で学生にこれを如何に能率よく学ばせるかということである.ここに新しいカリキュラムの編成や,基礎と臨床のインテグレイションの必要が生じた理由がある.このNIMシリーズの消化器病学は,まさにタイムリーな教科書といえる,過去において系統講義のみによる教育が批判され,ベッドサイド教育が重視されるようになり,同じような考え方で総合講義がもたれた時代がある.しかし今回のこの本に見られるような斬新な項目立てではなかった.実に見事な項目立てである.前半は管(くだ)学15項目,後半は肝(きも)学18項目,総計33項目よりなる.いずれも1項目1時間半の講義として組まれており,いずれも聞いてみたい,読んで見たいと感じる魅力をもった読切り型である.

 繙いてみて先ず感じることは,図表が極めて分かり易くイラスト化され,最新の病態生理の理解に役立つ工夫がされていることである.

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 放射線学会中部地方会で行なわれた講習会の講義内容が,充実した形で本になった.「胸腹部腫瘍の放射線診断」のすべて,といえるものである.

 欠かせない最新の診断の諸法のすべて,また,読影と鑑別診断の基礎と応用,とが211ページに盛られ,胸部の5症例と腹部の6症例の討議が,さらに添えられている.

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 The early detection of colorectal cancer: S.F.Miller, A.R.Knight (Cancer 40: 945~949, 1977)

 アメリカ癌協会の統計によれば,1975年に発見された結腸・直腸癌は99,000例であり,同じ年に死亡した者,49,000例を数えた.1950年以来,結腸直腸癌の5生率の向上を認めていない.1950年から1959年までの期間では,男で42%,女で46%だったが,1965年から1969年までの期間では,男43%,女46%と殆んど変っていない.この間,癌の外科療法,化学療法,放射線療法は大いに進歩している.結局はその発見を早めなければ5生率改善につながらない.

 アメリカの空軍病院の全患者で,直腸指診とHemoccult法による便潜血反応が行われた.直腸診で直腸に腫瘤の発見された人は,S状結腸鏡が行われ,その結果次第で注腸透視が行われた.便潜血反応は3日間検査の上1枚でも陽性ならば,もう一度潜血食で3日間の検査が行われた.次いで2枚以上陽性だった全患者でS状結腸鏡検査と注腸透視が施行された.2,332人の患者中28人(1.2%)において,直腸診で腫瘤を見つけ,11人(0.5%)では,潜血反応の再検で2枚以上に陽性結果を得た.この中で,3例の比較的早い癌を発見した.2例は直腸診で発見し,それぞれDuke's AとDuke's Bの癌であった.他の1例はDuke's BのS状結腸癌で,注腸透視で発見された.S状結腸鏡険査で7例の腺腫も発見された.この研究での便潜血反応の偽陽性は3.5%で,病変の発見率は全体の0.4%であった.

編集後記 竹本 忠良
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 早期胃癌の診断は,「胃と腸」の永遠の主題であるとともに,消化管の形態学的診断学の基盤を形成するものである.この特集号には,早期胃癌診断の現実を凝視したときのいらだち,いきどおりがあり,診断学のおかれている現在の大地をゆりうこかしたいという悲願がこめられている.かつては,1例の早期胃癌を確認することは,きわめて貴重な体験であった.それが,いまはむしろありふれたことになっていて,むしろ機械化と消極化の方向にむかいつつある.「人間とは忘れることを得意とする動物である」といわれるくらい,人間は過去を忘れる.まして,現在は「全能のコンピューター神が支配する新しい律法時代」である.労多く,むくわれることの少ない形態学的診断にはいつも遠心力が作用している.かつて,早期胃癌診断学はなによりも未知なるものに挑戦するはげしい情熱があった.いまや,早期胃癌診断学は再生へのきっかけをつかまなければならない時期であり,もう一度混沌の世界を通過し,負の側からのエネルギーを吸収することが必要である.こんな神話学的発想をふとさせるほど,事態は深刻である.主題症例も,おそらく誰もが経験した症例であろう.あえて奇とすることはない.しかし,こういう症例が,全国的にみて予想のつかないくらい存在するだろうと考えたとき,われわれを慄然とさせ,教訓的症例となる.座談会で問題となった送気量一つ考えても,これをdynamicにとらえることにまだ成功していない.

基本情報

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胃と腸
14巻2号 (1979年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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