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編集後記
竹本 忠良
pp.266
発行日 1979年2月25日
Published Date 1979/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403107630
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早期胃癌の診断は,「胃と腸」の永遠の主題であるとともに,消化管の形態学的診断学の基盤を形成するものである.この特集号には,早期胃癌診断の現実を凝視したときのいらだち,いきどおりがあり,診断学のおかれている現在の大地をゆりうこかしたいという悲願がこめられている.かつては,1例の早期胃癌を確認することは,きわめて貴重な体験であった.それが,いまはむしろありふれたことになっていて,むしろ機械化と消極化の方向にむかいつつある.「人間とは忘れることを得意とする動物である」といわれるくらい,人間は過去を忘れる.まして,現在は「全能のコンピューター神が支配する新しい律法時代」である.労多く,むくわれることの少ない形態学的診断にはいつも遠心力が作用している.かつて,早期胃癌診断学はなによりも未知なるものに挑戦するはげしい情熱があった.いまや,早期胃癌診断学は再生へのきっかけをつかまなければならない時期であり,もう一度混沌の世界を通過し,負の側からのエネルギーを吸収することが必要である.こんな神話学的発想をふとさせるほど,事態は深刻である.主題症例も,おそらく誰もが経験した症例であろう.あえて奇とすることはない.しかし,こういう症例が,全国的にみて予想のつかないくらい存在するだろうと考えたとき,われわれを慄然とさせ,教訓的症例となる.座談会で問題となった送気量一つ考えても,これをdynamicにとらえることにまだ成功していない.
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