胃と腸 14巻1号 (1979年1月)

今月の主題 早期胃癌診断の反省(1)

序説

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<1>

求められる新たな努力

-最近の早期胃癌診断学を憂いて-

白壁彦夫

 憂う,というからには,理由をあげ,よってきたるところをのべなくてはなるまい.

 早期癌診断の考え方は,また,われわれをつよく支えてきたものは,病変を凹凸で考えるイズムであった.ボールマン分類にも,この考え方はうかがえる.徹底的に,さらに,微小なものや微細なものにまで,この考え方を追求してきた.分類に対するいろいろな構え方を排して,凹凸でいくと決断した所産が早期癌の肉眼分類であった.

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 「よい写真がとれたら,“どうだ,よいだろう”といって,まわりの誰かれとなく,みせて廻る.そんなことが,かつてはあった.それが現在では,院内のカンファランスでも,モソモソと説明して,サッサと自分の撮った写真をしまってしまう.努力しても,よい写真がとれないから,楽しみがないですよ.」古い友人の言葉である.ときたま検討会に出席してみても,うすぼけた,びんぼけの写真を並べて激論している.検討するに足りない写真についてである.

 どうしてこうなったのか.結論を先にいえば,性能のわるいX線装置があまりにも普及しすぎたからである.気がついてみたら,わが国では,ふるいわけ診断しかできないX線装置ばかりである.それも遠隔操作式X線TV装置(遠隔TV)が大部分である.それなのに,価格が高いから,性能がよく,精密検査ができると信じられている.現在では,精密検査のできる装置は極めて数少なくなっているのである.

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 いま,筆者の手もとに2つの大学の早期胃癌診断の資料がある.1つは東京女子医科大学消化器病センターのもので,鈴木が中心になってまとめてくれたものである.昨目着いたばかりである.もう1つは山口大学第1内科のデータで,永富が中心になって整理したものである.いよいよ書くかなとペンを握った現在では,まだ資料をパラパラとめくってみたに過ぎないし,内容もしっかりつかんでいるわけではない.もちろん,症例の数は,東京女子医科大学のほうが,紹介外来制をとっており,内視鏡診断がある程度形がととのった最近10力年の症例に限定した山口大学より圧倒的に多い.

 これからこれら2つの材料を分析し,早期胃癌の内視鏡診断の限界をさぐってみようというわけである.整理した結果は,思ったより安心できるような成績かもしれないし,あるいは,無茶苦茶な診断成績で,よくまあこんな診断成績でもって,内視鏡を専門にしているなどと,うそぶけるものだなあと,諸先生をあきれさせるような結末になるかもしれない.そして,内視鏡診断の現況のだらしなさに怒りと悲しみを感ずるようなことになるかもしれない.

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 〔患 者〕50歳 男

 昔から毎日酒3合飲んでいた.1977年5月15日より感冒にかかり37.3℃が約20日間つづき,某医受診.感冒性胃症状もあったので,胃検査をうけ,内視鏡で小さなビランあり,そこからの生検でadenocarcinoma scirrhosumと診断され,同年6月17日初診.6月23日に入院.6月29日に胃精密検査.7月4日に手術(噴門部摘出術).

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 近年,胃X線,内視鏡検査,生検などの診断技術の進歩と向上はめざましい.だが,X線険査で,高位小病変は,種々の要因が重なり,その描出はむずかしく,病変のひろいあげすら困難なことがある.われわれは,胃角小彎に良性潰瘍があり,頻回に検査が繰返されたが,体上部小彎の早期胃癌の診断が困難であった1症例を経険したので報告する.

 〔患 者〕62歳 男性

 主 訴:上腹部痛

 家族歴:特記することなし

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 〔患 者〕35 歳男

 主 訴:特になし

 家族歴・既往歴:特記すべきことなし

 現病歴:1977年10月の胃集険にてチェックされ,当センターで胃X線検査,胃内視鏡検査,胃生検を実施しⅡcと診断した.診断経過は次のとおり.

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 本例は4年間に8回もの胃X線険査が施行されたが,病変の描出が不十分であったために胃潰瘍として経過観察がなされ,手術時にはⅡc+Ⅲ様進行癌で胃周囲リンパ節に転移のみられた症例である.

 〔患 者〕I. T. 35歳 男

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 本例は初回X線険査で病変部が小腸索と重なったために見落とされ,10カ月後透視時の用手圧迫にて発見されたⅡcである.

 〔患 者〕N. O. 43歳 女

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 〔患 者〕64歳 男

 体重73kg.約10年来血痰あり.1978年6月20日血痰.某病院に入院,7月12目胃X線検査,7月19日内視鏡でⅡa+Ⅱc,生検で胃癌と診断され7月25日入院.7月26日胃X線検査.8月3日手術.

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 〔症 例〕I.A. 76歳 男

 1974年に老人検診で,胃の変形を指摘され,1975年9月,精査の結果,幽門部小彎のⅡc型早期胃癌,幽門部大彎の異型上皮および胃体上部後壁の潰瘍瘢痕と診断された.X線写真は,近接TV・KBT型で撮影したものである.

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 〔症 例〕T. F. 53歳 男性

 1972年より,本院で毎年定期的に胃X線検査を行っていた.胃内視鏡検査も数回並行して施行され,生検では異型腺管はみられたが,明らかに腺癌を示唆する所見は得られなかった.1978年4月,幽門部の病変を再度X線的に指摘され,内視鏡・生検にてⅡc型早期胃癌と診断された.その間の胃X線検査写真をretrospectiveに検討する.

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 白壁(司会) “早期胃癌を憂う”ということで,診療,研究,その他諸々の面で,現状を憂う,また国内,あるいは外国の有様を憂う,そういうことで忌憚のない声を聞かせて下さい.それが明日の診療,研究に生きてくると思います.

 診療上,それから検査の上で憂えることがあると思いますが,中野先生から口火を切っていただけますか.

研究会だより

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 長く続いているとの理由だろうと思いますが,研究会だよりを求められました.

 1965年前後に全国各地に続々発足した消化器病研究会と同様に,本研究会も1966年9月に,福井県立病院外科医長の山崎信先生を中心として数人のグループで発足しました.以来13年近く,現在までの開催回数は240回を越しました.

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 Klemperer1)によって膠原病という概念が提唱されて以来,全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus)は,その代表的疾患の1つとされてきた.

 周知のごとく,全身性エリテマトーデス(以下S. L. E.)は,顔面の鼻と頬を中心とした蝶形紅斑を特徴とするが,皮膚のみならず,全身の諸臓器をも侵し,緩解と増悪を繰り返しながら,漸次進行する難治性疾患である.

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 胃体部腺領域に12コのcarcinoid病巣を有し,しかもargyrophil cell hyperplasiaを含む種々の発育段階を示す病巣を光顕的ならびに電顕的にも観察しえたので報告する.

症 例

 患 者:28歳 女性 教員

 主 訴:上腹部鈍痛

 家族歴:祖父,胃癌にて死亡

 既往歴:特記すべきことなし

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 最近われわれは胃角部接吻潰瘍の一方(後壁側)が早期癌Ⅲ+Ⅱcであり,他方(前壁側)が良性潰瘍でこれに線状潰瘍瘢痕が連なり,その一部に異型上皮がみられるという症例を経験したので,若干の文献的考察を加えてここに報告する.

症 例

 患 者:53歳 男性

 主 訴:空腹時心窩部痛

 家族歴・既往歴:特記すべきことなし

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 最近,われわれは胃幽門前庭部の一部を除いた胃噴門部から胃体部とほとんど全胃にまたがる粘膜下腫瘤を疑わせる隆起があり,X線,内視鏡的には胃肉腫に酷似した巨大(3コの)多発潰瘍に瘢痕を伴った症例を経験した.切除胃は,肉眼的には炎症性偽腫瘍かと思われたが,組織学的にはVanek,Helwigらの診断基準に一致しなかった.したがって,ここに炎症性偽腫瘍と思われた巨大多発胃潰瘍の1例として報告する.

症 例

 患 者:林○玉 46歳 男 台湾(小学校教員)

 主 訴:空腹時心窩部痛,体重減少

 家族歴・既往歴:台湾原住民(高砂族)でアレルギー体質,下痢,気管支喘息などはない.

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 消化管出血例においては,出血部位の確定,質的診断の確立が重要であるが,バリウム造影検査,内視鏡検査など通常の検査法では診断できないものも多い.選択的動脈造影法は従来の検査法では発見できなかった病変の発見に有効であり,本法によっていくつかの疾患が診断可能となってきた.そのうちの1つとして,1960年Marguilisら1)が動脈造影によって最初の消化管の動静脈形成異常(Arteriovenous malformation)を報告しているが,以来この疾患の重要性が注目されてきている.われわれは最近選択的動脈造影ではじめて診断でき,手術で治癒せしめた,きわめて微小な空腸壁の動静脈形成異常の1症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

症 例

 患 者:50歳 女性

 主 訴:下血,左上腹部痛

 既往歴:46歳の時,虫垂切除術を受けた

 家族歴:特記すべきことなし

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 吉井先生が,北米で溝演中に倒れ,おなくなりになりました.御苦労の末,仕事が軌道にのったときだけに,先生としても誠に心残りでなかったかと,残念におもいます.私は,毎月の早期胃癌研究会の折に,先生と必ずお目にかかり,症例の病理学的説明をうかがい,ときにはそれに対し討論する機会にも恵まれ,また先生の著書や論文からも教えをうけました.私のみならず,多数の臨床の先生方が吉井先生の教えをうけ,大そうお世話になりました.いまさらのごとく,先生の活動力の大きさを感じると共に,その早逝が惜しまれます.研究会場の薄闇の中で,先生は最前列の席で顕微鏡をみていましたが,いまなお「吉井先生,この標本は……」と,うっかり話しかけてしまうことがあります.その様に,突然,先生はわれわれと別れ去ってしまいましたが,研究会のたびに,先生の面影は,われわれの心の中になつかしくよみがえって来,われわれの勉強を励して下さるとおもいます.心から御冥福をお祈り申上げます.

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 1965年,奥田らはコンゴーレッド(Cと略す)を胃粘膜に撒布して,内視鏡的に塩酸分泌領域を観察する方法を考案した.本法は内視鏡による一種の機能検査として普及しているが,粘膜の色調や形態の変化を正確に観察することは難しい.われわれはこの点に改良を加えた.

 C液は胃粘膜の色調と同系の赤色を,酸による変色後は黒紫色を呈し,いずれも形態観察には不適当な色調である.そこでCに青色系色素を加えて色素原液を胃粘膜とcontrastをなす色調とし,かつC変色後は色素原液と色調差が生じて変色域,不変域の判定も容易にできるように,in vitroで基礎的検討を加えた.その結果C0.2g,エバンスブルー(E)0.2gを水100mlに溶解した液が上記目的を満足させることを確認した.この色素混合液の撒布によってcontrast効果を高め,胃粘膜面の微細形態の観察も可能にするために,われわれの考察した胃粘液除去法を本法の前処置として応用した.具体的には次のような手順で行う.

入門講座 胃癌診断の考え方・進め方・1

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 市川 これから「入門講座:胃癌診断の考え方・進め方」を始めてまいりますが,まず編集室に興味深い質問がいくつか寄せられておりますので,それらを織りまぜながら話を進めていきたいと思います.

 <質問1>読影の基本通り読んでいても,同じ期間に同じぐらいの熱心さで研究会に出席していても,上達の早い人,遅い人があります.このための上達のポイントは何ですか.

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欧文目次

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 呼吸という燃焼の過程が動物のエネルギー代謝の基本にあることは,ラボアジェにさかのぼる知識である.つまり,人間もロウソクと同様に燃えてその生命を維持しているのである.ところで,その最初の過程である肺におけるガス交換の成否は直ちに血液ガスの値にはね返ってくるわけで,いわばこの値は生体の基本的な生理恒数の1つといってよい.

 血液ガス測定の最初はVan Slykeの検圧法,あるいは検量法に始まり,現在では種々の電極の組み合わせによる自動化機器がもっともポピュラーになっている.このため,血液ガスの用語には検圧法に関連した用語も多く,また多くの歴史的由来をもつ概念も多い.また使用される記号の体系もかなり複雑になって初学者にとりつきにくさを与えていることも事実である.

編集後記 熊倉 賢二
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 私は,この数年間,機械のブローカーまがいのことばかりしてきた.それというのも,X線写真が悪すぎて,読影できなかったからである.絶えずまわりの放射線技師と語らい,何回となく工場の技術者と会合して想をねってきた.最近,ようやく実用的な遠隔TVができた.目下,近接TVや暗室透視台の改造をいそいでいる.これが本命である.

 こんなとき,多くの人々の意見をまとめ,方向づけをするのに役立ったのは,『零式戦闘機』(柳田邦男著)であった.かつての日本人技術者魂の記録である.そして,この後記をまとめるのに利用しているのが,『思考の技術』(立花隆著)である.

基本情報

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胃と腸
14巻1号 (1979年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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