呼吸と循環 60巻5号 (2012年5月)

特集 iPS細胞を用いた心臓病の診断と治療

序文 福田 恵一
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 京都大学の山中伸弥教授が2006年に誘導性多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS細胞)を報告して以来,臨床医学への応用が検討されてきた.iPS細胞はES細胞が発現する4つの転写因子(Oct3/4,Sox2,KLF4,c-myc)の遺伝子を皮膚由来の線維芽細胞に遺伝子導入するとES細胞と同様の細胞増殖能,自己複製能,多分化能を有する細胞が得られるとしたところから研究が始まった.iPS細胞の臨床医学への応用には1)再生医療の材料としての多能性幹細胞としての応用と,2)様々な疾患を有する患者から細胞を採取してiPS細胞を作出し,これを用いて目的の臓器の細胞に分化誘導し,疾患の病態解明や治療法の開発に利用しようとする2つの流れがある.循環器領域では,心臓移植の代替医療としての心筋細胞移植の材料としての利用,遺伝性心筋疾患の病態解明の2つの点で最もiPS細胞が必要になる領域であると考えられる.本特集号ではこのうちの後者に焦点を当て,現在本邦でiPS細胞を用いて疾患の病態解明を行われている先生方に執筆をお願いしたが,論文をまとめている途中の段階であることもあり,その際にはご自身の研究室からのデータでなく世界で行われている研究をご紹介していただいた.

 iPS細胞を用いた疾患研究で最も有用であると考えられているのは,遺伝性QT延長症候群(LQT症候群)をはじめとした家族性突然死症候群の解析であろう.LQT症候群は心筋細胞に発現するKチャネル,Naチャネル,Caチャネルに遺伝子異常に起因し,心電図上QT時間の延長とTorsade de Pointesと呼ばれる多型性心室頻拍を有し失神や突然死を来す症候群である.原因遺伝子は現在13種類のものが知られ,1型(LQT1)から13型(LQT13)が知られている.このうち1型から3型の頻度が高く,1型はKチャネルのうちIKr電流,2型はIKs電流,3型はNaチャネル遺伝子のSCN5aが障害され,それぞれ全体の45%,45%,5%程度を占めるとされている.

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はじめに

 2006年に人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS cell)の樹立が初めて報告された1).最初の報告はマウスを用いたものであり,ヒトiPS細胞の樹立が可能となるまでにはかなりの時間が必要なのではないかと考えられていた.しかしながら,翌2007年にはヒトiPS細胞の樹立が報告され2),間もなく世界中で爆発的にヒトiPS細胞研究が進み始めた.iPS細胞が発明されるまでは,再生医療を目的とした幹細胞利用という点では胚性幹(embryonic stem;ES)細胞や様々な成体幹細胞があった3).成体幹細胞は大人の体内にある幹細胞であり,再生医療目的に用いる際には自分の体から採取可能であり倫理的問題が少ない.しかしながら,成体幹細胞は存在する細胞数が少ないこと,増殖能が低いこと,分化能が限られていることなどにより思うように臨床応用が進んでいなかった.一方でES細胞は,増殖能や多分化能は非常に優れているが,ヒトES細胞を採取するにはヒトの初期胚を使う必要があることなどによる倫理的問題に加えて,移植した際には免疫学的拒絶という大きな問題がつきまとっていた.しかしながら,ES細胞が持つ多くの可能性から,心筋細胞分化などの基礎研究が着実に進んでいた4,5).また,幹細胞としての能力はiPS細胞はES細胞とほぼ同様とされているために,これらのES細胞を用いた研究の知見はiPS細胞研究に応用可能である.

 当初のiPS細胞研究の世界的な流れは,基礎的なiPS細胞の解析や新規樹立方法の開発に重点が置かれていた.現在iPS細胞の臨床応用として最も期待されているものは,再生医療への応用である6).様々な疾患によって臓器障害に陥った際には,各臓器で機能細胞が減ってくることが知られている.そのような傷害された臓器に対してiPS細胞由来の元気な分化成熟細胞を移植することにより再生医療を開発しようとする試みがなされている.現在のヒトiPS細胞を用いた再生医療開発の取り組みとしては,効果的な細胞移植医療の開発と移植細胞の長期的な安全性の検証などが活発に試みられている.すなわち,通常の薬剤開発と同様に安全性と効果を確認している段階である.

 一方で,遺伝性疾患の病態解明と新規治療方法の開発に向けた,疾患モデル作製としてのiPS細胞研究は既に広く使われ始めている.すなわち,遺伝性疾患の患者に皮膚生検を行うことにより得られた皮膚組織より線維芽細胞の樹立を行い,iPS細胞樹立に向けてリプログラミング因子の遺伝子導入を行うことでiPS細胞樹立を行う.このようにして樹立されたiPS細胞は患者のゲノムにコードされた全ての遺伝情報を受け継いでいるために,遺伝性疾患の原因遺伝子も受け継いでいる.このiPS細胞を用いることにより,心筋症などの患者からiPS細胞を樹立し心筋細胞を分化誘導することにより,病気のヒト心筋細胞がin vitroで容易に作れるようになる.さらに,この病気のヒト心筋細胞を分子生物学的,生理学的に解析することにより,未解決だった病気の原因解明や,同細胞を用いたドラッグスクリーニングなどにより新規治療方法の開発ができるのではないかと考えられ,活発に研究が行われている.

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はじめに

 内閣府ではヒトiPS細胞の医療応用の可能性として,下記の3つを挙げている(表1).

 ①iPS由来ヒト細胞を用いた薬物の毒性・効果の評価.

 ②疾患iPS由来ヒト細胞を用いた病態解明と治療法開発.

 ③iPS由来ヒト細胞を用いた組織再生.

 本特集において,②,③は別の章で取り上げられるので,筆者らはiPS細胞由来ヒト再生心筋の電気生理学的解析に加えて①に言及する.

 従来薬物の毒性・効果の評価は,動物細胞を用いて行われてきた.ところが,動物とヒトでは薬物の代謝系も異なっており,毒性・薬効を十分に評価できていたとは言い難い.事実,動物実験段階では見つかっていなかった副作用が臨床試験で見つかることはしばしば起こることである.逆に言うと,動物実験では薬効が見つからなかった化合物にヒトでは重要な薬効が存在するものが見逃されている可能性もありうることになる.そこで,iPS由来ヒト細胞は,ヒトの細胞を使って薬物の評価が可能となることから,製薬業界を中心として大きな期待が寄せられている.なかでも期待が大きいのが心毒性の評価系である.図1に市場からリコールされた薬物のリコール原因を示す.肝毒性とともにQT延長による不整脈が最多の原因となっている1).そこで,本稿ではiPS細胞由来ヒト再生心筋の電気生理学的解析に加えてQT延長性副作用への応用に関する現状と問題点を概要する.

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はじめに

 昨今の医療技術の向上にもかかわらず,循環器領域では不整脈疾患を含む難治性致死的疾患が依然として多数存在する.その原因の一つに心臓疾患研究の難しさがある.病態の解明や新規の治療法を開発するためには病的細胞の動態を直接解析することが最も重要であると思われるが,心筋細胞は患者から容易に採取できないうえ,増殖能を有さない終末分化細胞であるために生きた病的心筋の解析を行うことは事実上不可能である.

 その積年の課題を克服し得る手段として,京都大学の山中らが開発した人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS cells)技術が挙げられる1).iPS細胞は人工的に作出可能な多能性幹細胞であり,心筋細胞を含む三胚葉すべての細胞に培養皿上で分化誘導させることができる.2009年にヒトiPS細胞の心筋分化誘導に関する報告がなされたのを皮切りに2),その後もヒトiPS細胞由来誘導心筋の多面的な解析結果が多数報告され,iPS細胞由来心筋が,細胞構造,遺伝子発現,電気生理学的性質において生体の心筋とほぼ同様であることが明らかになりつつあり,iPS細胞由来誘導心筋研究の妥当性が確立されると考えられる.

 iPS細胞は再生医療における細胞移植療法の細胞ソースとしての役割が期待されているが,実現までには解決すべき障壁も多い.一方で誘導心筋を用いた直接的なヒト心筋細胞の解析は,in vitro研究が主体であり,現在のiPS細胞技術や従来の不整脈研究技術がそのまま応用できるため早期の臨床応用が期待され,創薬研究や病態解明研究などの点で不整脈疾患分野を含めた循環器領域の発展に大いに貢献する可能性がある.

 またiPS細胞の重要な特徴のひとつとして,細胞検体さえ手に入れば,基本的には誰からでも安定的に樹立することができる点がある.そのため遺伝性疾患患者などからiPS細胞を樹立し,心筋細胞に誘導することで患者の疾患心筋細胞も直接解析することができるようになると期待されている(図1)3).実際に,患者由来iPS細胞を用いた家族性突然死症候群(QT延長症候群)の解析研究が複数の施設から報告された4~7)

 本稿では,現状の不整脈研究の背景を踏まえ,最近注目を集めているiPS細胞がどのような形で今後の不整脈研究に寄与していけるのかという点を中心に,iPS細胞を用いた1型遺伝性QT延長症候群の病態解明研究の実際を引用し,言及していきたい.

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はじめに

 先天性QT延長症候群は,再分極の遅延による心電図QT時間が延長し,多形性心室性頻拍(トルサード・ド・ポアン;TdP)による急性心不全の怖れもある重篤な遺伝子疾患である.遺伝子型により12の型に分類されるが1~3),これまでに遺伝子異種発現系2)やモデル動物はあったものの4),ヒトの個人差を反映するような疾患モデルの確立が求められていた.近年,遺伝性QT延長症候群においても,患者体細胞からiPS細胞を樹立し,さらに心筋細胞に分化させて,その細胞電気生理学的特徴ならびに薬剤の効果を検討して病態の解明とその治療法を探索する試みがなされている5).先天性2型QT延長症候群(LQT2)に関しては,最近イスラエル6,7)と英国8)から相次いで報告されている.これらの研究では,いずれもカリウムチャンネル遺伝子変異による先天性2型QT延長症候群患者の体細胞からiPS細胞を樹立しさらにそれから分化させた心筋細胞を疾患モデルとして用いることで,パッチクランプ法などにより活動電位持続時間の延長など,疾患を特徴付ける機能異常の仕組みを解析するとともに,治療に有効な薬剤を検討している.

 本稿では,LQT2患者iPS細胞から分化させた心筋細胞を用いた最初の報告であるItzhakiらの論文6)の内容を主として紹介する.

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はじめに

 2004年に初めてその詳細が報告されたTimothy症候群1,2)は,QT延長症候群のひとつのサブタイプ(LQT8)として分類された.しかし,その表現型は,QT延長に加えて致死的な心室性不整脈,房室伝導障害,手指・足指の癒合(合指症),顔貌異常,先天性心疾患(VSD,PDA,Tetralogy of Fallot),免疫不全,低血糖など多彩であった.その意味で,LQT7と分類されたAndersen-Tawil症候群と似通った点がある.遺伝子検索では,L型カルシウム・チャネルのαサブユニットをコードするCav1.2の共通したミスセンス変異(G406R;406番のグリシンがアルギニンに変換)が同定され,一躍注目された(図1).循環器病として最初のカルシウム・チャネル病であった.最初に報告された全例で認められた,このCav1.2 G406Rは,いわゆる体変異(somatic mutation)であり,死亡時の平均年齢は2.5歳で,生存例では,認知障害,自閉症,発育障害がみられた.この変異チャネルの機能解析では,従来,カルシウム・チャネルが示す膜電位依存性の不活性化がほぼ消失しており,そのためカルシウム・チャネルのgain-of-functionが起こり,QT延長さらに細胞内Ca負荷によると考えられる重症不整脈が起こることと想定された.

 その後,多くの方法論を用いて本症候群の発症メカニズムが解明されており,さらにtransgenic mouseも作製され機能解析が行われている3).また最近,このヒトCav1.2 G406R変異に対応するウサギCav1.2 G436R変異を用いた解析では,カルシウム・チャネルC末端のIQドメインが,チャネル同士のclusteringに必要な部位で,このドメインからカルモジュリンが外れることにより,チャネルの機能的な統合(coupled gating)が行われ,より大きな電流を流すことが示された.そして,このG436R変異は,カルモジュリンとその結合部位であるIQドメインの親和性を障害して,coupled gatingが増強しチャネル活性を促進する可能性が報告された4)

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はじめに

 近年,重症心不全患者に対する心機能回復戦略として,細胞移植法が有用であることが報告されており,既に自己骨格筋筋芽細胞による臨床応用が欧米で開始されている.われわれも,温度感応性培養皿を用いた細胞シート工学の技術により,細胞間接合を保持した細胞シート作製技術を開発し,従来法であるneedle injection法と比較,組織,心機能改善効果が高いことを証明し,骨格筋筋芽細胞シート移植による心筋再生治療の臨床研究も大阪大学附属病院未来医療センターにて開始した.

 一方,2007年11月,日本の山中らとアメリカのThomsonらのグループがヒトiPS細胞の樹立に成功したニュースは世界中を駆け巡り,再生医療実現化に対する期待は大いに高まっている.実際に,ヒトiPS細胞の樹立が報道され,山中らが報告した雑誌「Cell」のオンラインサイトで閲覧できる,iPS細胞から作製された心筋細胞が拍動している動画を見たときの衝撃は記憶に新しく,再生医療の新たなブレイクスルーを目の当たりにした瞬間でもあった.

 本稿では,今,注目を集めているiPS細胞について概説するとともに,iPS細胞を用いた心筋再生治療の現状と課題について,私見を交えて概説する.

巻頭言

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 喘息の炎症病態はアレルゲンに対する抗原特異的なIgE抗体の獲得(アレルゲンへの感作),それに引き続く気道でのアレルギー性炎症として理解されてきた.一方で現在の若者は90%以上がダニなどの吸入抗原に感作されているが,すべてに喘息が発症するわけではない.さらに,中高年に発症する喘息の約半数はいずれの吸入抗原にも感作されていない.感作という獲得免疫の視点からだけではなく,個々の患者における気道組織の感受性,さらにはその多様性を抜きにしては喘息病態を語ることはできない.

 喘息という疾患名は未だ発熱や貧血といった症候名の域を超えていないといわれるが,事実,われわれが日常接している喘息は数多くの分子病態から構成される症候群であり,明確な診断基準すら存在しない.外的因子と宿主因子とは複雑に絡まり,それらの因果的繋がりの複雑性が病態の多様性を創り出す.喘息症候群における個々の分子病態を明確にすることができれば,それぞれの病態における治療ターゲットの明確化,個々の分子病態をターゲットにした臨床試験の実施,診断や治療効果の判定に有用なバイオマーカーの開発などが期待される.

連載 呼吸器診療での肺機能検査の必要性とその活用・5

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はじめに

 健常人でも,重力の影響や解剖学的構造により換気と血流は不均等に分布する.疾患になれば不均等性が一段と増大し,換気血流比不均等の結果,ガス交換障害が招来され低酸素血症が生じる.換気血流比の不均等を検出する方法として,歴史的には多種不活性ガス洗い出し法(multiple inert gas elimination technique;MIGET)が重要となるが,現在日常臨床検査の一環として施行する施設はないため,残念ながら名前のみの紹介にとどめる.

 本稿では,まず換気・血流不均等の考え方とVA/Qラインについて概説し,臨床検査として実際に行う肺内ガス分布とクロージングボリュームの測定について,臨床的意義に触れながら解説したい.

綜説

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はじめに

 肺移植は,Toronto Lung Transplant Groupにより最初の長期生存例となる手術1)が行われた1983年以降,終末期肺疾患患者に対する有効な治療法と認識されるようになり,1990年代に世界各国へ急速に普及した.今日では欧米を中心に年間3,000例を超す肺移植手術が行われており,累計症例数は38,000例を超える2).わが国においても,1998年の最初の生体肺葉移植,2000年の最初の脳死肺移植以来,肺移植手術数は年々増加傾向にある.

 本稿では,肺移植の世界とわが国における現状をそれぞれ記しながら,今後の課題と展望について解説する.

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はじめに

 かつて日本のお家芸とまで言われたマラソンであるが,ケニアやエチオピアなどアフリカ勢の台頭で日本人のメダル獲得が脅かされる現状となっている.その要因については評論家の方々に譲るが,国内の競技人口の減少がその要因ではないことは容易に理解できる.2008年4月から特定健康診査(いわゆるメタボ健診)が開始され,国民のメタボリック症候群に対する関心が高まっている.スポーツは減量や健康維持の手段として用いられ,ランニングやウォーキングは特別な道具を必要とせず,シューズさえあれば始められるために愛好者が多い.実際,筆者の医学部時代の同級生がマラソン大会に参加したという連絡をくれることがあり,市民ランナーの増加を感じる.また,各地で開催されているマラソン大会には日頃の練習成果を発揮しようと,多くの市民ランナーが参加している.美ジョガーと呼ばれる女性ランナーも出現し,そのファッションに対する注目も集まっている.また,様々な携帯端末を使って,走行距離を自動計測して管理することができるようにもなっている.その一方で,練習中の市民ランナーのマナー違反も指摘されており,社会問題の一つになっている.

 現在,日本国内で行われているマラソン大会,ロードレースは,1年間に2,000を超えている.大会参加に際しての健康状態の管理は各自に任されているため,医師の判断を仰がずに参加していることもありうる.事実,筆者が以前勤務していた病院の外来で,重症の狭心症患者から「この前の東京マラソンも完走できましたから元気ですよ」という言葉を耳にし,大変驚いた経験もある.参加者が多くなればなるほど,レース中の心肺停止例も発生することがある.

 2004年7月1日より一般市民でも自動体外式除細動器AEDを使用することができるようになった.日本国内のマラソン大会において心肺停止状態の人にAEDを使用して救命されたのは,2005年2月の「第12回泉州マラソン」が最初である.AEDによる救命事例については,最近ではマスコミなどでもあまり報道されなくなっており,その情報入手は困難となっている.ロードレースにおける心肺停止例に関して日本陸上競技連盟(日本陸連)には事故報告書という形式で報告されていたが,傷病者の既往歴や転帰についての情報は記載されておらず,またそれらの情報を集積するシステムも構築されてはいなかった.

 本稿では,ロードレース中の突然死の現状,日本陸連の突然死防止への取り組み,日本最大のマラソン大会である東京マラソンの救護体制や同大会での心肺停止例を紹介し,ロードレースにおける心肺停止例に対する日本陸連医事委員会の調査について概説する.そして最後にロードレースにおける心肺停止の特徴について検討する.

Bedside Teaching

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はじめに

 医療技術の進歩や人口の高齢化に伴い,深在性真菌症の臨床的重要性は高まりつつある.今世紀以降,国内でも新規抗真菌薬が出揃いつつあり,薬剤の適正選択がさらに強く求められると同時に,治療成績の向上にも期待が寄せられている.しかし,深在性真菌症の治療成績は必ずしも満足できるものではないのが現状であり,早期診断・早期治療が予後改善の鍵となる.

 肺真菌症の確定診断も他の感染症と同様に無菌検体の培養や病理学的検査で得られる.しかし,全身状態の不良さや出血傾向など宿主の有する様々な障壁から,培養や病理学的検査で本症の確定診断を早期に得ることは困難な場合が多い.そこで特にわが国ではこれに代わる補助診断法として血清診断法が重視されてきた.

 代表的な肺真菌症には,侵襲性肺アスペルギルス症(IPA),肺アスペルギローマや慢性壊死性肺アスペルギルス症(CNPA)などの慢性型肺アスペルギルス症,肺クリプトコックス症,肺接合菌症などが挙げられる.これらのうち,肺接合菌症には血清診断法を応用できないので注意を要する.

 本稿ではアスペルギルスとクリプトコックスによる肺真菌症に応用可能な血清診断法を紹介する.

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早期再分極とは何か

 心筋の活動電位第2相(プラトー相)において,全ての心室筋が同じ膜電位レベルに脱分極すると電気ベクトルは消失し,ST部分は基線に戻る(図1a).しかし,40歳以下の若年者においてはいずれかの誘導(特にV1-3)で生理的にJ点が上昇していることが多く,何らかの原因により内膜から外膜方向への電気ベクトルが形成されている.これは以下のような機序で説明される.すなわち,①外膜側第0相(脱分極ピーク時)の電位が内膜のそれより低い,②外膜側が第1相の早期に再分極を開始し,膜電位レベルが内膜側のそれより低くなる,③外膜側に豊富な一過性外向き電流によってノッチ(J波)が形成される,の3つである(図1b,c,d).②と③は早期再分極という定義に該当するが,①は不完全な脱分極と言うべきかもしれない.さらに,生理的なJ点上昇を認める誘導でST部分は右上方に向かう.これはT波に移行するに従い,内-外膜間の電位差が拡大していくことを示し,外膜側の第2-3相の傾きがより急峻であることと関連する(図1c).このようにJ点(ST)の上昇や陽性のT波は内膜-外膜間の活動電位の形態や持続時間の違いによって説明され,多くは生理的な現象と考えられてきた1).しかし,近年,特発性心室細動と診断された患者の30~40%に下壁,側壁誘導のJ点上昇(J波の形成)が認められることが明らかになり,大きな注目を浴びている(図2).また,これらはBrugada症候群との関連や類似性も示唆され,同症候群も包括したJ wave syndromeという概念も提唱されるようになった.

 本稿では,まず早期再分極症候群の疫学と病態について記述し,その後,Brugada症候群を包括したJ wave syndromesという考え方にも言及する.一方,QT短縮症候群は活動電位の短縮が疾患の本態であり,広義の意味で捉えると早期再分極症候群のひとつかもしれない.しかし,ほとんどすべての心筋の活動電位が極端に短縮する病態は極めて特異であり,今回は他稿に譲ることとする.

Current Opinion

心拍数と心不全 安斉 俊久
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心拍数と予後,心不全の病態との関連についての概要

 [1]生命の寿命と心拍数

 哺乳類においては,マウスのような心拍数600/分の動物が数年の寿命であるのに対して,ゾウのように心拍数30/分程度の動物は数十年の寿命を有し,一生の間の総心拍数は,20~25億回でほぼ一定であることが知られている.ヒトの寿命は衛生管理や医学の発達により,この範囲を逸脱して,相対的に長くなっているが(図1)1),ヒトのなかでも,高血圧,虚血性心疾患2,3),心不全4)などを対象とした研究では,心拍数の増大が予後不良の予測因子であることが過去の研究で明らかにされている.しかし,これは心拍数が高くなるような背景因子が影響している可能性も否定できず,心拍数増大そのものがもたらす影響については未だ明らかにされていない.

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要旨 患者は70歳,男性.2009年3月,肺腺癌に対して右上葉の肺葉切除を受けた2日日から発作性心房細動が出現.1年間の経過観察にても発作が頻発し治療目的で当院へ紹介.2010年7月に両側肺静脈拡大隔離術,三尖弁下大静脈間の線状焼灼を行い,以後45日間は発作なく経過したが,心房細動が再発し再度アブレーションを施行.左右肺静脈とも焼灼部位の伝導再開を認め拡大隔離を追加した.心房細動中に左肺静脈の隔離を行ったが細動は停止しなかった.右肺静脈の隔離を進めると心房頻拍へ移行し,隔離の完成とともに洞調律復帰を得た.以後発作は消失した.

 右肺上葉の切除を発症の契機としていたことから,心房細動は右肺静脈からの由来が考えやすく,アブレーション中の所見からも右肺静脈の関与が疑われた.

 肺切除後の心房細動発症は手術の合併症として少なからず報告されており,その原因は特定されていないが,本例はその機序を考えるうえで重要と考えられた.

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要旨 患者は79歳,男性.慢性腎不全に対して血液透析中,胸部異常陰影を指摘され紹介受診.精査の結果,肺小細胞癌と診断された.従来どおり血液透析を行いながら肝代謝・胆汁排泄型薬剤である塩酸アムルビシン(AMR)を開始した.4コース終了した時点で原発巣の著明な縮小を認めたため,化学療法を6コースまで継続した.副作用に関してはGrade 1の悪心を認めたものの骨髄抑制は軽微であり,G-CSF製剤や輸血を要しなかった.透析患者に発症した肺小細胞癌の化学療法としてエトポシドや塩酸イリノテカンの報告例が散見されるが,AMRの報告例は少ない.透析患者における肺癌の発生頻度は増加傾向にあり,治療方針決定に苦慮することが少なくない.AMRを含め化学療法の有効性・安全性を確立していくため,今後症例を蓄積していくことが重要と考えられた.

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欧文目次

次号予告

投稿規定

あとがき 小川 聡
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 さる3月16~18日,福岡において第76回日本循環器学会学術集会が開催された.その中で,2009年度に発足したTranslational Research振興事業の第1回助成対象「ヒトiPS細胞由来心筋樹立による家族性突然死症候群の病態解明と治療法の確立」の最終報告会があった.iPS細胞から心筋細胞を分化させる画期的研究は,心筋再生療法の分野のみならず,種々の遺伝性疾患の病態解明あるいは治療法開発のツールとして大きな期待がかけられている.当時,日本循環器学会理事長を務めていた私が,本事業を理事会に提案し発足させた経緯があるが,第1回には,将来の臨床応用を見据えた世界的レベルの研究が10題近く応募されたのを記憶している.学術委員会で厳正な審査が行われ,その中から断トツの評価で採択された演題が前述の課題である.それから2年余り,研究は進展しているが,課題も明らかになってきた.iPS細胞から分化した心筋細胞は,患者さんの遺伝子異常をそのまま継いでいることは示されているが,未だ幼若で,心房筋や心室筋,あるいは刺激伝導系細胞として分化しきれていないようである.QT延長症候群は心室筋のチャネル異常だが,このように多様な細胞が混在していると,その機能解析の精度も上がらない.過去には,イオンチャネルを発現していない培養細胞に変異遺伝子を導入して機能解析が行われてきたが,iPS由来心筋細胞で得られたデータと矛盾する点があることも指摘されている.この細胞を心室に移植して心不全治療に応用する際にも,電気生理学的に不均一な細胞が混在することは催不整脈作用にもつながりかねず,将来的には分化誘導した細胞をきちんと種分けする方法の開発も必要となろう.

 本号の特集テーマは,この研究班からの最新の研究成果が中心に組まれており,大変興味深い.

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基本情報

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呼吸と循環
60巻5号 (2012年5月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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