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はじめに
昨今の医療技術の向上にもかかわらず,循環器領域では不整脈疾患を含む難治性致死的疾患が依然として多数存在する.その原因の一つに心臓疾患研究の難しさがある.病態の解明や新規の治療法を開発するためには病的細胞の動態を直接解析することが最も重要であると思われるが,心筋細胞は患者から容易に採取できないうえ,増殖能を有さない終末分化細胞であるために生きた病的心筋の解析を行うことは事実上不可能である.
その積年の課題を克服し得る手段として,京都大学の山中らが開発した人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS cells)技術が挙げられる1).iPS細胞は人工的に作出可能な多能性幹細胞であり,心筋細胞を含む三胚葉すべての細胞に培養皿上で分化誘導させることができる.2009年にヒトiPS細胞の心筋分化誘導に関する報告がなされたのを皮切りに2),その後もヒトiPS細胞由来誘導心筋の多面的な解析結果が多数報告され,iPS細胞由来心筋が,細胞構造,遺伝子発現,電気生理学的性質において生体の心筋とほぼ同様であることが明らかになりつつあり,iPS細胞由来誘導心筋研究の妥当性が確立されると考えられる.
iPS細胞は再生医療における細胞移植療法の細胞ソースとしての役割が期待されているが,実現までには解決すべき障壁も多い.一方で誘導心筋を用いた直接的なヒト心筋細胞の解析は,in vitro研究が主体であり,現在のiPS細胞技術や従来の不整脈研究技術がそのまま応用できるため早期の臨床応用が期待され,創薬研究や病態解明研究などの点で不整脈疾患分野を含めた循環器領域の発展に大いに貢献する可能性がある.
またiPS細胞の重要な特徴のひとつとして,細胞検体さえ手に入れば,基本的には誰からでも安定的に樹立することができる点がある.そのため遺伝性疾患患者などからiPS細胞を樹立し,心筋細胞に誘導することで患者の疾患心筋細胞も直接解析することができるようになると期待されている(図1)3).実際に,患者由来iPS細胞を用いた家族性突然死症候群(QT延長症候群)の解析研究が複数の施設から報告された4~7).
本稿では,現状の不整脈研究の背景を踏まえ,最近注目を集めているiPS細胞がどのような形で今後の不整脈研究に寄与していけるのかという点を中心に,iPS細胞を用いた1型遺伝性QT延長症候群の病態解明研究の実際を引用し,言及していきたい.
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