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京都大学の山中伸弥教授が2006年に誘導性多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS細胞)を報告して以来,臨床医学への応用が検討されてきた.iPS細胞はES細胞が発現する4つの転写因子(Oct3/4,Sox2,KLF4,c-myc)の遺伝子を皮膚由来の線維芽細胞に遺伝子導入するとES細胞と同様の細胞増殖能,自己複製能,多分化能を有する細胞が得られるとしたところから研究が始まった.iPS細胞の臨床医学への応用には1)再生医療の材料としての多能性幹細胞としての応用と,2)様々な疾患を有する患者から細胞を採取してiPS細胞を作出し,これを用いて目的の臓器の細胞に分化誘導し,疾患の病態解明や治療法の開発に利用しようとする2つの流れがある.循環器領域では,心臓移植の代替医療としての心筋細胞移植の材料としての利用,遺伝性心筋疾患の病態解明の2つの点で最もiPS細胞が必要になる領域であると考えられる.本特集号ではこのうちの後者に焦点を当て,現在本邦でiPS細胞を用いて疾患の病態解明を行われている先生方に執筆をお願いしたが,論文をまとめている途中の段階であることもあり,その際にはご自身の研究室からのデータでなく世界で行われている研究をご紹介していただいた.
iPS細胞を用いた疾患研究で最も有用であると考えられているのは,遺伝性QT延長症候群(LQT症候群)をはじめとした家族性突然死症候群の解析であろう.LQT症候群は心筋細胞に発現するKチャネル,Naチャネル,Caチャネルに遺伝子異常に起因し,心電図上QT時間の延長とTorsade de Pointesと呼ばれる多型性心室頻拍を有し失神や突然死を来す症候群である.原因遺伝子は現在13種類のものが知られ,1型(LQT1)から13型(LQT13)が知られている.このうち1型から3型の頻度が高く,1型はKチャネルのうちIKr電流,2型はIKs電流,3型はNaチャネル遺伝子のSCN5aが障害され,それぞれ全体の45%,45%,5%程度を占めるとされている.
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