- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
さる3月16~18日,福岡において第76回日本循環器学会学術集会が開催された.その中で,2009年度に発足したTranslational Research振興事業の第1回助成対象「ヒトiPS細胞由来心筋樹立による家族性突然死症候群の病態解明と治療法の確立」の最終報告会があった.iPS細胞から心筋細胞を分化させる画期的研究は,心筋再生療法の分野のみならず,種々の遺伝性疾患の病態解明あるいは治療法開発のツールとして大きな期待がかけられている.当時,日本循環器学会理事長を務めていた私が,本事業を理事会に提案し発足させた経緯があるが,第1回には,将来の臨床応用を見据えた世界的レベルの研究が10題近く応募されたのを記憶している.学術委員会で厳正な審査が行われ,その中から断トツの評価で採択された演題が前述の課題である.それから2年余り,研究は進展しているが,課題も明らかになってきた.iPS細胞から分化した心筋細胞は,患者さんの遺伝子異常をそのまま継いでいることは示されているが,未だ幼若で,心房筋や心室筋,あるいは刺激伝導系細胞として分化しきれていないようである.QT延長症候群は心室筋のチャネル異常だが,このように多様な細胞が混在していると,その機能解析の精度も上がらない.過去には,イオンチャネルを発現していない培養細胞に変異遺伝子を導入して機能解析が行われてきたが,iPS由来心筋細胞で得られたデータと矛盾する点があることも指摘されている.この細胞を心室に移植して心不全治療に応用する際にも,電気生理学的に不均一な細胞が混在することは催不整脈作用にもつながりかねず,将来的には分化誘導した細胞をきちんと種分けする方法の開発も必要となろう.
本号の特集テーマは,この研究班からの最新の研究成果が中心に組まれており,大変興味深い.
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.