呼吸と循環 31巻6号 (1983年6月)

巻頭言

心臓とentropy 田村 康二
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 心機能を評価するには,MechanicsとEnergeticsの両方を検討する必要があると考えている。ポンプ機構としての検討は,最近のポンプの壁運動の評価と合わせて,次第に解明されてきている。しかしながら,例えば左室駆出率の50%というのは何であるかということを考えてみると,単に1/2駆出する働きを心臓がもっているということだけでは,臨床上どうしても患者全体の印象とは異なった評価がなされることになる。つまり,50%駆出してもその駆出の仕方の効率というものがあるわけである。このポンプ機能の評価に当たっては,たまたま熱希釈法による心機能評価の方法論の揺籃時にその研究グループに巻き込まれていたことから,今日に至るまでこの方法によってポンプ機能評価するという研究を続けてきている。ところで,この熱希釈法とは,熱を指示薬とする方法である。すなわち,生体内での温度の差を検出することによって心血行動態の計測をしようとする方法なのである。この時に行なった1つの方法は,単一血管内の血流量を熱希釈法で量る持続的局所熱希釈法の開発である。この方法を用いて,冠静脈洞血流量を測定する場合に困った問題は,右房から冠静脈洞に血液が逆流するので,本当の冠静脈洞血流量だけを量るにはどうしたらよいかという問題であった。

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 高頻度換気high frequcncy ventilation (以下,HFVと略す)は,Sjostrandら1)スウェーデン学派がHFPPV(high-frequency positive-pressure ventilation)として発表して以来,十年余の間に,基礎的あるいは臨床的な多くの研究が進められ,とくにこの数年間は,論文数が飛躍的に多くなり,関心が高い。

 呼吸生理学には,HFVによるガス交換促進のメカニズムについて,強化拡散augmented diffusionや,いろいろな形の対流混合convective mixingなどが検討されている。臨床的には,呼吸管理に関して,Ashbaughら2)のPEEPの発表以来の重要な展開であるとするものもあり,conventionalな呼吸管理法でも限界を感ぜしめる症例も多少あることから,HFVに多大な期待が寄せられている現状である。

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 狭心症は異なった視点より分類されている。労作の有無,更に心電図変化の加味,狭心症の発症機転,心筋梗塞への移行し易さなどである。この為,一つの症例に異なった狭心症名を複数でつけることが可能である。特に,安静狭心症,異型狭心症,spastic angina,不安定狭心症の相互関係については,相互に重なりあい,不明な点が多い。不安定狭心症について,すでに邦文の総説1〜3)で文献が整理されているので,本文では,歴史的変遷を簡単にたどりながら,今日用いられている定義を紹介した後,自験例を中心に,問題点をひろいあげてみることにする。

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 心機図(ここでは心音図,心尖拍動図,頸動脈波などを組み合わせて記録した波形を指すが,今回は心音図は対象としない)は元来,生理学的異常(physiological abnormalities)を把握する非観血的検査法の一つとして重要であるが,解剖学的異常や構造上の異常(anatomic—al or structural abnormalities)を把握するには無力である。これに反して,心エコー図(Mモード図と断層心エコー図—Bモード図)は,とくに解剖学的異常をよく評価できる検査法として不可欠である。

 私共は,精密検査の対象となるすべての心疾患患者に対して必ず両検査法を施行し,ときには,両者を同記して(UCGポリグラフィー),各々の限界を相おぎないつつ患者ケアーの上で重要な情報源としている。

装置と方法

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 放射性同位元素(RI)を用いた各種の心機能検査,いわゆる心臓核医学は主に,シンチレーションカメラとミニコンピューターを用いた画像処理技術を中心に発達し,循環器疾患の日常検査として普及しつつあるが,大がかりで高価な装置を必要とするため,情報精度の高い反面,簡便さの点では問題がある。

 ここでのべる核聴診器は従来の方法であるプローブを用いた心放射図法(RCG)にマイクロコンピューターを用いたデータ処理を組み合わせ,画像処理に依存せず,簡便かつ短時間に心機能測定を行なう装置である1)〜6)。左心室の容量曲線,駆出分画EF,などがシンチカメラとミニコンピューターを用いる方法に比べて,非常に簡便かつ短時間にえられ,装置も小型であり,各種の心疾患の心機能検査,とくに,変化する病態や,負荷試験などのモニターとして有用である。

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 被検者の行動や環境を乱すことなく,その生理的状態を記録し,それらの関連性を調べることは身体機能を生理学的に解明する上で,きわめて重要である。しかし,従来,普通の生体計測法の多くは被検者を実験室内に拘束させる必要があり,限られた一定環境下での計測が主であった1,2)。このため特に運動時の身体機能を調べる場合など,家験室内では実際の運動状態に即して計測を行うことは不可能に近かった。

 このような状況から生体情報の無拘束長時間計測は運動生理学をはじめとして種々の分野で注目され,それに応じた計測法の研究もかなり以前から行われている3〜7)。一般に無拘束計測法の場合,どのような方法で情報を検出するかと言う問題と検出した情報をいかに記録するかと言う二つの大きな問題がある。前者の重要性は周知のことであるが,無拘束計測の場合,特に後者も大きな役割を占める。

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 前回まで,陽圧呼吸が一般的傾向として心拍出量を減少させる方向に働らくことの機序について,多くの報告と諸説を俯瞰し,特徴あるものをとりあげて紹介してきた。これらをまとめてみると,陽圧呼吸による心拍出量の減少は,静脈還流の減少によるとする報告群と,広い意味での心機能抑制によるとする報告群に二大別される。後者の内容は,冠血流減少,contractilityの低下,complianceの低下,ventricular interdependence,心の形状の変化,humoral factorによる抑制,などである。それぞれの報告はそれぞれの設定条件下ではいずれも正しいことなのであろうが,これらを統一してまとめることはまだかなり難しい現況にある。ただ,全く混沌として群盲象を撫でるに似たものとはいえず,一歩一歩よりよい方法の開発と知見の蓄積がなされつつあることは疑いをいれない。たとえば,静脈還流量の変化ということと密接に関連づけて考えられている心のfilling pressureであるが,これを大気圧に対するそれではなくて,trans—mural pressureとして表現されるべきであるとする認識はひとつの進歩といえよう。しかし,transmural pressure(tmP)で表わせば諸報告がきれいに一致した結果を示すことになるかというとそうはゆかない。

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 EIAの解説の終りとして運動負荷試験と吸入誘発試験の関連についてのべみたい。

 histamine,methacholineなどの薬剤も吸入させ気道収縮を誘発させ気道のsensitivity,reactivityを検索することは喘息の診断に重要であり広くおこなわれている。両薬剤の作用機序には差があると思われるが,喘息患者の大多数が正常者に比較じここれら薬剤に対し著るしい過敏性を示し,両薬剤への反応に明らかな相関か示されている(Juniperら:Thorax 33:705,1978)。Exerciseも喘息誘発の検査法としても知られているが,EIA陽性頻度は報告間に差があるにしても成人喘息例での陽性率は吸入誘発試験にくらべて明らかに低いように思われる。このEIA陽性と陰性の差が何によるかははっきりしないが,薬剤吸入試験との関速からEIA陽性例ほど著るしい気道過敏性を有するとの指摘がある。

Bedside Teaching

低血圧とA-aDO2 大村 昭人
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 人為的低血圧は術中出血の減少,脳動脈Clipping時の操作を容易にする為等の目的でしばしば行われ慎重に行えば安全なものである。しかし低血圧麻酔中に死腔が増大し同時に動脈血酸素分圧(PaO2)が低下しA-aDo2が拡大することは大分以前から判っていた。しかもPaO2の低下は症例によって全く異りその程度をあらかじめ予測することは困難である。更に低血圧を行わなくとも全身麻酔中には種々の要因で換気血流比の不均等分布.肺内シャントの増大等によりA-aDo2が拡大することは良く知られておりこれに加えて低血圧という新たな因子が加われば著しいhypoxemiaを来す可能性もある。この点に関しては最近数年間に臨床家の関心が集り低血圧によるA-aDo2拡大の機序も明らかにされて来た。本講では最近の研究によって明らかにされてきたA-aDo2拡大の機序と,それに関係する複雑に因子について説明し臨床上問題になる点について触れる。

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 異型狭心症は,特殊な病像を持つ狭心症(variant form of angina pectoris)として1959年にPrinzmetalら1)により報告された。いわゆる労作性狭心症と異なり安静時に起こり,とくに夜間から早朝にかけて好発し,発作時の心電図に一過性のST上昇を示し,不整脈を高頻度に合併するなどの特徴を持っている。本症は欧米よりもむしろ本邦において多数例が報告され,近年はとくに冠動脈攣縮との関連で注目される疾患である。本稿では,著者らの経験した頻回な心室頻拍発作を伴なった異型狭心症の症例を中心に,最近の知見を合わせ解説する。

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 高頻度陽圧呼吸(HFV)は,すでに多方面の臨床応用が試みられているが,しかしHFVのための必要換気量の予測法は未だに確立されていない。Radfordのノモグラム1)は50回/分以下の呼吸回数にしか使用できず.またNunnのpredictor2)は肺胞換気量を分時換気量の2/3としているため,解剖学的死腔換気量(分時)が分時換気量の大部分を占めるようなHFVには使用できない。Borgら3)はHFVのための一つのノモグラムを発表しているが,これも60回/分という固定された呼吸回数のしかも特殊な気管支鏡のために作られているので,一般的には使用できない。

 本研究においては,数学的な肺モデルを用い,PaCO2をある希望値に保つのに必要な換気量を算出するための方程式を理論的に導き出し,その方程式を用いて体重あたりの換気量表を作成した。そしてこの換気量表にもとづいて患者の換気量を設定し,種々の手術中に14から200回/分までの人工呼吸をおこなった結果,よく正常範囲のPaCO2とPaO2とを維持できることが判明した。本稿では,理論式の導き出し方,換気量表の作成方法および患者への適用結果について述べる。

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 重症呼吸不全患者に対するECMOの臨床応用1)が普及しない原因の一つは,ECMO自体の安全性が今一歩不足しているためと思われる。著者らはECMOの安全性確立のため数年来研究をかさね2,3),ヤギを用いた最長38日間までのECMOに成功した。これら長期EC—MOの肺に与える影響として摘出肺内水分量および呼気圧量曲線を測定したので報告する。

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 近年,肺機能温存の為,できるかぎり肺剔除(Pneumo—nectomy)を避けているが,やむをえずそうせざるをえなかった症例に対して著者等は多段階トレッドミルによる運動荷試験を行い運動許容能を知ると共に,術後の就労の可能性を検討したので若干の考察を加え報告する。

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 運動で誘発される心電図ST低下が心筋虚血によるものかどうかは議論の多いところであるが狭心痛を有する症候性患者では心筋虚血の存在ひいては冠動脈病変の存在を示唆する感度の良い指標と考えられている。他方普段症状がなく虚血性心疾患のスクリーニングテストとして行った運動負荷試験でたまたま心電図ST低下を示す症例が経験される。こうした無症候者でのST低下は非虚血性変化と考えられているがその原因や病態は不明である。そこで無症候者にみられる負荷心電図ST低下の病態を解明する目的でST低下時点の心筋灌流状態および左心室収縮能に関しそれぞれThallium−201心筋イメージングと核医学的心血管造影法を用い検討を加えた。

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 Gap現象は房室伝導系各部位における不応期に相違があるために出現し,心房あるいは心室早期刺激法を行うことにより,順伝導あるいは逆伝導におけるいくつかの型があることが報告されている1〜3)

 房室結節部の伝導遅延により再伝達が生じる型としてはDamatoらの分類のI型とIV型が知られている。著者らはI型における房室結節内伝導遅延の機序として,房室結節二重経路の関与が大きいことをすでに報告した4)

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 Ca++拮抗剤は細胞外からの内向きのCa++流入を阻止し,血管平滑筋を弛緩させるとともに,洞房結節や房室結節の電気生理的機能を抑制することが知られている。これらの機序によりCa++拮抗剤は主として,冠拡張薬および,抗不整脈薬として広く臨床上使用されている1,2)

 また,最近では,この薬剤の血管拡張作用が注目され,降圧薬,脳血管拡張薬としても効用が認められてきた,本邦で開発されたYC-93(Nicardipine Hydrochloride)3)もその一つであり,実験的4,5)にも,臨床的6,7)にも,それらの効果が認められている。臨床上,YC-93を降圧薬または脳血管拡張薬として使用する場合,Ca++拮抗作用が洞房結節,房室結節の電気生理学的機能を抑制することが考えられるが,ヒトの刺激伝導系にどのような影響を及ぼすか詳細に検討した報告は未だなされていない。我々はYC-93を洞不全症候群,第一度房室ブロック,完全右脚ブロックの症例および,伝導障害の認められない症例に投与し,刺激伝導系に及ぼす効果について電気生理学的に検討したので報告する。

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 近年心筋の興奮収縮関連機構が急速に解明されつつある。心筋収縮は,心筋細胞中の膜の興奮が伝達され,最終的には,アクチンとミオシンのslidingとして理解されている。この機序は,カルシウムイオン(Ca++)の移動により調節され,高リン酸エネルギーであるadeno—sine triphosphate (ATP)を利用することによって行なわれる。

 しかし,今日まで,血漿中の負の陽性変力作用を測定するためには,血漿中から物質を抽出し,乳頭筋の収縮力の変化を測定するbioassay法が行われ1),血漿そのものを測定されるにはいたらなかった。Hechtman groupは,血漿をラット乳頭筋で測定できるようにmembrane oxygenatorを装備したchamberを考察し2),bioassayできるように実用化した。その測定には,1回約6mlの血漿を必要とし,一検体当りの時間も最低30分を要した。

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 振動工具たとえばチェンソー,削岩機,チッピングハンマー等を使用している作業者に発症する振動病は手指に蒼白発作がみられることから,別名白ロウ病ともいわれている。二塚ら1)によれば本疾患は振動工具(チェンソー)を使用し始めて2〜3年後に発症し,その使用年数とともに発生率ならびに症状も重くなるという。臨床症状としてはレイノー現象の他に,四肢のしびれ,痛み,冷感等の末梢の神経ならびに循環機能や運動機能の障害がみられ,他に頭重,睡眠障害,手掌発汗,易疲労感等の中枢神経機能および骨関節系機能にも障害がみられる。したがって振動病患者では末梢循環機能障害がみられることを考えれば,指血行動態たとえば指動脈径や指血流量は健常者に比べて当然差異があるものと推定される。それ故著者らはこの点について調べた。すなわち入院前における振動病患者11名の指動脈径値を計測し,既報の健常者の値と比較した。さらに同患者が入院治療1ヵ月を経過した時点において指動脈径値に変化がみられるか否かについても調べた。

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 心臓弁膜症の外科的治療の発展に伴ない,リウマチ性心疾患のほかに粘膜変性を主病変とするfloppy valve syndromeの存在が注目されている。我々は粘液変性による健索断裂を伴なった僧帽弁閉鎖不全症の外科的治療を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

基本情報

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呼吸と循環
31巻6号 (1983年6月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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