Japanese
English
特集 手術と肺塞栓
周術期にみられる空気塞栓症
Perioperative Gas Embolism
長田 理
1
Osamu Nagata
1
1東京大学医学部附属病院分院麻酔部
1Department of Anesthesiology, The University of Tokyo Branch Hospital
pp.883-888
発行日 2000年9月15日
Published Date 2000/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404902152
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はじめに
肺塞栓症とは肺血管が何らかの物質により閉塞した状態である.肺塞栓症を引き起こす物質として,表1のように血栓をはじめ脂肪塊,腫瘍塊,気泡(空気),羊水などが知られている.このうち空気塞栓症は,血管内に流入した気体が大静脈・右心房・右心室を経て肺動脈に至り,気泡となって肺毛細血管を閉塞するものである.血栓や脂肪塊,腫瘍塊などは生体内で産生される物質であるため,これらの物質が日常生活で血管内に流入していることもあり得るが,血液が充満している血管内に何らかの形で空気が流入することは日常生活ではまず起こり得ない.しかしながら,周術期においては手術操作,手術体位,生体内への気体の注入など人為的な操作が加わるため,血管内に気体が流入する状況は稀ではない.このように考えると,空気塞栓は周術期に特有な塞栓症ということができる.
一般に肺塞栓症というと,場合によっては死に至る重篤な疾患で治療方法も確立されていない.これは,肺毛細血管を閉塞した血栓・塞栓を溶解したり物理的に除去して閉塞を解除するための即効性・確実性のある治療法が存在しないことを意味する.また,肺塞栓症の予見・予防についても,その原因物質が様々であるため,単一の方法で全てを網羅するような対策は困難である.とこうが空気塞栓症に限って考えると,肺毛細血管を閉塞する物質が血液に溶解する「気体」であるという点が肺血栓症や他の肺塞栓症と大きく異なり,このため治療方法や予見・予防,さらに予後が大きく異なる.
そこで,空気塞栓症の発生する状況と気体の流入パターンによって空気塞栓症を分類するとともに,その特徴について解説する.
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