呼吸と循環 27巻7号 (1979年7月)

特集 呼吸不全の対策

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 「呼吸不全の対策」の特集にあたり,筆者の最近の私見を2,3申し述べ,序にかえたいと思う。

 呼吸不全に関連したこれまでの業績の多くは,興味の中心が病態生理,それも肺と血液ガスを中心としたものであったことは否めない。呼吸不全の対策についても,動脈血ガスの異常のみに焦点を合わせ過ぎ,肺・胸郭系の機能維持ないし改善にばかり注意が向けられた傾向があるのも事実である。

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 人工呼吸は,レスピレータの改良普及,呼吸循環系病態生理の解明,呼吸管理技術の向上などにともない,集中治療や救急医療における呼吸不全治療から,今日ではさらに,全身管理の一環としての予防的呼吸管理へまで適応が拡大されている1〜3)。これらを含め,いかなる患者にいつ人工呼吸を行うか,なるべく実際的なタイミングに主眼をおいて論じてみよう。

酸素療法の選択と方法 川上 義和
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 酸素療法には古い歴史があるが,その概念,方法は次第に変化してきている。酸素の与える影響や酸素療法の対象となる呼吸不全の病態生理,生化学が明らかになってくるのに歩調を合せて,少しずつ変貌をとげて来たものである。その流れを要約すると,1900-1960年代の高濃度,短期療法から,現在の低濃度,長期療法へと変化したと言えよう。さらに最近では,ARDSなどを対象とする高濃度酸素吸入の必要性と安全性,適応基準が問題となろうとしている。ここでは,主として内科領域で対象となる呼吸不全の病態生理,生化学をまず述べ,それに基づく酸素療法の選択,方法,副次的作用,効果および評価について解説する。

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 近年,扱いやすくてしかも精度の高い優れたレスピレーターが広く普及し,各施設あるいは病院における呼吸管理の技術の向上によって,呼吸不全患者に対する呼吸管理方法は著しく進歩した。そのために,呼吸不全そのもので患者が死亡することはきわめて少なくなり,呼吸不全患者の死因としては感染,不整脈,消化管出血,腎不全等の合併症が,大きなウエイトを占めるようになった。

 これらの合併症の対処の仕方によって,患者の予後が大きく左右されるから,呼吸不全患者の治療に際しては絶えず合併症の発症に細心の注意を払い,その徴候があれば直ちに適切な処置をとらねばならない。

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 呼吸不全を人工呼吸を中心にして治療する方法は,当初の1950年ごろは神経筋疾患を対象として施行されたが,やがて肺自体の損傷に適応をひろげた。今では古典となった名著"Respiratory Care1)"が出版されたのが1965年,日本における教科書のスタンダードである「人工呼吸の基礎と臨床2)」が出版されたのは1968年であるから,このころまでに基本的な治療法はほぼ確立したといえる。

 本論文では呼吸不全に対する処置をより完壁なものとすべくここ数年来提案・施行されている改良点を紹介したい。ただし,各々を充分に解析することは紙面の都合上ゆるされないので,特にあまり知られていない部分および「何故そう考えるか」という面を主として解析していきたい。

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 a) IMP bronchospirometry 左右の胸壁上に別個に4電極をおき,これに5kHz程度の差の2種類の高周波電流を印加してIMPを計測すれば,それぞれの肺内にindependentにおきている事象に対応したIMPの変化を干渉なく検出しうることは前述した。肺動脈内食塩水注入の実験のみでなく,一側性の肺水腫,肺胞蛋白症での肺洗浄時の成績もこれを裏付けているし,共同研究者川上(慈恵医大放射線科講師)はbronchospirometryと対比して臨床的に十分な精度でImpedance bronchospirometryを実施しうることを明らかにした。これらのデーターからえられれば,本法の非侵襲性から左右肺間の不均等換気の検出に興味がもたれる。

 健康学生を対象に左右の胸壁上にそれぞれ4電極をおき,48kHz,53kHzの高周波電流を印加し,背臥位平静換気時の左右肺のΔZを計測した。

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 1.自律機能調節と呼吸・循環中枢

 生体の機能調節過程において,呼吸,循環機能などを含む自律機能は自律調節系の統合的活動によって外環境変化に対して最適活動パターンで応答し,内環境の恒常性を維持している。自律機能の中枢性調節機構は大脳皮質から脊髄にいたる各レベルに存在する。そして,それぞれのレベルで体性系調節機構と密接な機能的関連を保ちつつ活動している。自律機能の中枢機構のうち循環および呼吸の中枢性調節機構は各自律機能系のなかでも,より直接的に生体の生理的機能レベルを保つための基本的条件をととのえる機能系である。それゆえに両中枢機構に関する実験医学的ならびに生理学的研究は他の自律性中枢機構よりも遙かに早い時期にスタートがきられ,19世紀初頭以来の長い研究の歴史をもっている。しかし,中枢神経系における自律機能統合のメカニズムの理解にとって欠くことのできない基礎的知見,すなわち,呼吸中枢および循環中枢自体の神経生理学的中枢像,いわゆる循環中枢と呼吸中枢相互間(脳幹内自律性神経回路),さらに両中枢と他の自律性中枢機構との機能的連関に関する現在の生理学的知見は必ずしも十分なものとはいえない。

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 乳頭筋機能不全により僧帽弁逆流が生ずる機序は,Burchらによって提唱された1,2)。すなわち,(1)乳頭筋のasynergyにより収縮期に僧帽弁に十分な張力が与えられない状態,あるいは逆に,(2)乳頭筋の収縮が僧帽弁に対して過剰のあるいは異常方向の張力を加える状態で,前者では弁は左房内に逸脱し,後者では弁は逆に左室内に牽引される。いずれも弁接合面積が低下するため僧帽弁逆流が生ずると理解されている。虚血に伴う乳頭筋の壊死,線維化が前者に,左室拡大,心室瘤に伴う僧帽弁逆流が後者の場合に相当する。

 Mモードエコー法によるこの病態へのアプローチも報告されているが3〜5),いずれも非特異的な情報であり,確たる診断基準は出されていない6)。一方乳頭筋機能不全症では僧帽弁逸脱は見られないという記載もある6)

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 ヒトの心筋虚血をその局所で早期に定量的に診断して治療しようとする目的でこれまでに研究を行ってきた。そこでこの目的に向って進んできたこれまでの課程に生じた問題点をまとめて以下の6回のシリーズで別々に述べてみたい。

 まず心筋虚血とは何かと考えてみると心筋への酸素の需給の不均衡をいうとされている。この概念は分かったようで実はよく実証できない事なのである。従って心筋虚血は一体何を求めればその本質に到達するかという事がよく分からないことになる。上述の概念からするとまず心筋の酸素に対する需要を知る必要がある。しかし心筋の酸素需要を知る事は現在はできない。更に次に心筋への酸素の供給を知る必要がでてくる。そこでまずこの点を検討してみた(表1)。ヒトにおける冠血流量の測定ではDr. W. Ganzに協力して確立した方法論が持続的局所熱希釈法による冠静脈洞ならびに大心臓静脈血流量の測定法である1)

mobile unit 高木 誠
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 救命救急の目的は患者の生命を守ることにあり,そのためには最善の手段を求めて常に進歩改善の努力をすることが医療の基本とならねばならない。

 ナポレオン時代の戦場では軍医は前線から約2.5マイル後方の野戦病院にあり,戦傷兵は前線から馬車で病院まで後送されて初めて医師の治療が受けられる状態であった。戦線で負傷してから後送されて治療が開始されるまでには平均24時間前後を要し,多くの負傷兵は途中で死亡してしまうか,苦しみ続けて瀕死の状態に陥る者も少なくなかった。この状況をまのあたりに見た若い外科医Larreyは少しでも多くの負傷兵の命を守るために,自ら小型の馬車に乗り込み,必要な器具を積み込んで前線に至り,その場で負傷者の治療を開始することを思い立った。これが,救急医療での世界最初のmobile unitとされている。この方法は戦場外科の革命的改善をもたらしナポレオンもこのmobile unitを当時の最も優れたアイデアの一つであると賞讃している。

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 肺胞蛋白症は1958年Rosen1)らによって初めて報告されたが,その治療法としての肺洗浄法が確立したのは1963年のRamirez-R2)らの報告以来である。本邦でも既に40例以上の報告例の中に肺洗浄療法を行ったものが次第に増えてきており,その術中のhemodynamicな変動の仕方も知られるようになった3〜6)。しかし,どのような洗浄液を用いるのがよいかに関しては未だ明確なる報告がなされていない。

 今回,本症の2症例につき計4度の肺洗浄の機会を得た。ここにその経過ならびに洗浄回収液の分析結果などから洗浄液に関するいささかの知見を得たので,その詳細を報告し若干の考察を加えてみた。

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 今日,臨床的な局所脳血流測定法として,RI—クリアランス法が最も広く使用されている。その計算法としてstochastic analysis16), two compartmental analysis8)およびinitial slope analysis5,11)が用いられている。近年,この放射性同位元素を用いた局所脳血流の測定装置として,数百のscintillation detectorを使用し,クリアランス曲線の解析にはコンピュータが使われるようになっている。コンピュータ使用による多チャンネルのクリアランス曲線のtwo compartmental analysisのために,1975年Capraniら1)はinitial slope (S), initial height(H),area (A)およびfirst time moment (M)といった4つのparameterを使用しての計算法(SHAM法)を発表し,実際のデータ解析上広く用いられて来ている。

 著者らは,このSHAM法の使用の際,緩徐相の血流値に負の値が出現し,解析が不能ないくつかの例に遭遇した。

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 His束刺激はHis束を確認する1つの方法として臨床応用されているが,選択的にHis束のみを刺激する事は必ずしも容易ではない。一口にHis束刺激といっても,刺激される部位は房室接合部領域の種々のソシキであり,体表面心電図のみからでは実際にどの部位が刺激されているのかを的確に推定する事は困難である。今回我我は,犬を用い,刺激条件をかえて直視下に房室接合部領域を刺激した時の被刺激部位について検討した。これに加えて,一部の例ではI度〜III度のHis束内ブロックを作製し,His束遠位部刺激を試みた。

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 ペースメーカー心内膜電極には双極と単極があり,本邦ではペースメーカー植込み症例の約8割に単極心内膜電極が使用されている。デマンドペースメーカーは植込まれた電極からくる心内心電図波により作動しているので,R波波高が高ければ,デマンド機能は容易となる。従来,単極で心内心電図を記録した方が双極で記録するより,R波が高く記録され,デマンドペースメーカーには有利であると言われてきた1)

 われわれはこの点を明らかにするため,40例の患者に単極と双極とで心内心電図を記録し,R波の波高,R波形を比較検討した。

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 膜性部中隔動脈瘤(以下中隔瘤と略す)は,心室中隔の膜性部が右室腔内へ瘤状に突出したものである。本症は稀れな先天性心疾患の1つとされていたが,その後左室造影法や開心術が普及するに及び,本邦でも報告例が増加している1〜5)。最近,心エコー図は心疾患に対して必要欠くべからざる検査法の1つになっており,中隔瘤に対する心エコー図の報告も散見されつつある6,7)。われわれは,根治手術を行った2例の本症と心血管造影上類似所見を呈する1例のpouch of the septal leaflet8)いわゆる三尖弁瘤9)の症例に対して,心エコー図上の検索を行ったので若干の文献的考察を加えて報告する。

 図1に,中隔瘤の模式図と超音波のビーム方向を示す。

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 電気的交互脈は比較的稀な心電図異常と言われ,P波1),QRS波2,3),ST部4〜7)およびT波8)にそれぞれ単独あるいは組み合された状態で出現する5)。とくにST部およびT波の交互脈は13)動物実験ではしばしば認められるものの,臨床的にはきわめて稀な現象とされている5)

 異型狭心症発作時ST,Tの交互脈に関しては,本邦では未だ報告はなく,諸外国においてもWilliamsら6),およびKleinfeldら7)によるわずか2編をみるに過ぎず,その臨床的意義およびメカニズムは,今なお明らかでない。

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 左房粘液腫の心エコー図診断については,1959年Effertら1)が報告して以来,数多くの報告2〜5)がみられる。本症の特徴的所見として,拡張期に僧帽弁前尖の背方に出現する点状または苺状の異常エコーが知られている。一方,大動脈背方の左房における腫瘍エコーの出現は,腫瘍の可動性や大きさによって影響を受ける。腫瘍が小さく可動性が良好な場合,腫瘍エコーは全く認められず,腫瘍が増大し可動性が不良になるにしたがい,腫瘍エコーはまず収縮期のみに,ついで心周期を通じて左房内に出現するようになる6)

 最近われわれは,Mモード心エコー図にて左房内に充満しているがごとき層状異常エコーを呈した3症例を経験したが,超音波心臓断層法による検討では,1例が左房後壁より発生した左房内腫瘍であり,2例は左房後壁を背方より圧排する心外腫瘍であった。本論文の目的は左房内腫瘍にきわめて類似した心エコー図所見が後縦隔から発生した,心外腫瘍においても認められることを示し,両者の鑑別診断が超音波心臓断層法により可能であることを報告することにある。

基本情報

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呼吸と循環
27巻7号 (1979年7月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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