呼吸と循環 27巻8号 (1979年8月)

巻頭言

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 ヒポクラテスの時代には,心臓内の液体は肺臓に入った飲料が心臓に利用される目的のためにそこに吸収されているので,その為に全く漿液化されていると考えられ,その一部は心臓の中へ出てゆき,残りは空気と一緒に排出されるものとされた。また,心臓は厚い壁を有し,一個の洞中にあり,肺臓に囲まれて温度が調節されているし,その肺臓は外気により冷却されているものと信じられていた。昨年生誕400年を迎えたハーベイが「血液循環の原理」を発見するまでの約1800年間は暗黒時代である。その中でプノイマと称する気体が体内を循環すると唱えた説が注目される。この説は宗教的影響が強いものであるが,人類がヒポクラテス以来,心臓と肺臓との関係,それらと全身の循環との関連について疑問をもちつづけたことを示すものとして興味深い。

 18世紀になると打診法の開祖として名高いアウエンブルガーが現れる。叩打音により物体の質を判断する方法は文明が始るとともにあり,特に樽の様な容器に入った内容の量を調べるのには好都合とされていた。

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 Alveolar hypoxiaが肺循環におよぼす影響について古くから多数の報告がある1〜7)。しかし,臨床上acute alveolar hypoxiaにより誘発される肺高血圧症は早急に治療を要するものであり,またhypoxic pulmonary vasoconstrictionに対する薬物の影響も不明確な点が多い。今回筆者らは臨床および各種実験に基づくalveolar hypoxic vasoconstrictionの機序と薬物のおよぼす影響について述べたい。

人工弁の機能評価(I) 小松 行雄
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 1960年のHarkenら1)のball弁による大動脈弁置換の成功,1961年のStarrら2)の僧帽弁置換の成功から10余年の今日,人工弁は弁膜症の欠かすことのできない治療法として認められ,受け入れられてきている。人工弁置換患者も,近年,年々急速に増加の傾向にある。我が国の人工弁の歴史は昭和35年に始まるが,昭和39年以降急速に人工弁置換手術数が増加している。和田の集計3)によると,昭和38年までは年間20例以下であった人工弁置換術が,昭和39年には110例に急増し,昭和50年には895例に達している。現在では年間1,000例を越える手術が行われ,これまでの人工弁置換患者総数は約8,000例に及ぶものと推定される。人工弁の治療成績は近年一段と向上してきてはいるが,人工弁の合併症,とりわけ機能不全の問題は,人工弁の歴史が変遷しても,絶えず解決されない問題としてつきまとっており,その報告も数多い。

呼と循ゼミナール

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 正常な生体は自然呼吸に際して,外気の温度,湿度のいかんを問わず,体内に入った吸入気を体温に近い温度に変化させ,また気管下部に達するまでに,ほぼ100%飽和状態の湿度にまで調節してしまう。このair condition—ingの役割を果すのが鼻,咽頭,喉頭の粘膜層でいわば非常に効率のよい熱湿交換器ということになる。

 ところで,もし生体が鼻を通さず口呼吸をしている場合には気管上部における温度,湿度は外気温に近くなりすでに異常状態を生体に強いることになってくるが,気管切開をしたり,気管内挿管をして鼻,咽喉頭をバイパスして呼吸管理を行う場合にはさらに無理を強いることになることは,既に多くの報告にみられるごとくである。

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 左室下壁梗塞症例でCross-sectional echocardio—graphy (CSエコー)により左室下後壁のakinesis,乳頭筋の線維化,収縮性低下を証明し,乳頭筋機能不全症を診断しえた例を前回提示した1)。今回はBurch 2)の言う第2の機序,すなわち左室拡大に伴い乳頭筋の収縮が僧帽弁に対して過剰の,あるいは異常方向の張力を加える結果生ずる僧帽弁閉鎖不全症例である。

 51歳の男性で数年来,うっ血型心筋症として治療を受けている。心尖部に聴取されるLevine II度のsoftな全収縮期雑音は左腋窩部へ放散する。図1に示したMモードエコーは,いわゆる"Condensed scan"3)と呼ばれる低速度(10mm/秒)での記録である。図左端で大動脈(AO),左房(LA)のみえる位置から開始し,探触子を連続的に僧帽弁→左室へと向け(図中央),再び大動脈へ戻して記録したものである。左房径は4.2cmと軽度に拡大し,左室径(LV)は腱索エコー(ch)の見える位置で9cmと著明に拡大し,心室中隔(IVS),後壁(PW)運動も低下している。

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 呼吸終末単位における気相内拡散に基づくstratified inhomogeneityの存在に,理論的支持を与えたCum—mingら1)のモデルについて説明する。

 彼らは呼吸終末単位においてガス拡散を考えるさいにいくつかの前提をかかげた。まず吸入気が呼吸終末単位に達した場合,既存のガスとの間には必ずinterfaceが形成されるべきで,その後ガス平衡が生じるであろうと考えた。

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 冠血流量が減少したならば結果として心筋組織に虚血性の代謝が生じているか否かを知ることが必要となる。

 まず問題は虚血性代謝を心臓の組織のどの大きさの単位で診断すろのかということである。その単位をある大きさの心筋組織,1個の心筋細胞,あるいは心筋細胞内の1構成成分(例えばミトコンドリア)等の内のどれにするかによって方法論が異ってくる。その単位は小さい程実験室内では処理し易いが,臨床的にはむずかしくなる。また得られた成績の意義も扱う単位によって相互に普遍化して考えにくくなる。例えばミトコンドリアの変化から臨床的な心臓全体の変化を考えてゆくとなるとどうしてもたきな溝ができてくる。

解説

高圧神経症候群 関 邦博
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 人間が水中に深く潜水すればするほど新しい生理学的な問題が発生してくる。事実,圧縮空気を呼吸することによって,深度4ATAから窒素の麻酔作用が発現することが知られている(Benke et al, 1935;Bennett,1966)。しかし,人間は,圧縮空気をHe-O2の混合ガスに変えることによって11ATAよりも深く潜水することもできるようになった。しかしながら,このHe-O2も深度21ATAを超えると高圧神経症候群(HPNS:High Pres—sure Nervous Syndrome)がみられる。この症候群は,Fructus et al (1969)がPHYSALIE-III (37.5ATA,He-O2加圧速度180m/hr)の実験中に見い出した。

 臨床的には,21ATAから顕著な振戦(Tremor)がみられ,深度が増大するとともに振戦の亢進がみられる。また注意力(vigilance)の低下が31ATAからみられた。脳波上の所見では,安静開限状態にもかかわらず睡眠段階Iを示すθ律動がみられた。

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 Medical mass-spectrometer (医用質量分析計)が本邦に導入されてから,まもなく10年が経過しようとしている。この間に諸外国また本邦においても各分野で種種の応用がなされ,数多くの報告が見出される。本装置は医学分野では大別して,呼吸気ガス分析,血液ガス分析,組織ガス分析の3分野に使用されている。本分析計本体の測定原理,呼吸気ガス分析法とその応用の1部に関してはすでに本誌に紹介してある1)ので,今回は,本分析計を用いての血液ガス分析,組織ガス分析の実際とその問題点,応用面などに関して紹介する。

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 近年本邦における感染症の変貌は驚くべき程であるが,その変貌の原因に対する理解やその根本的対策についての考えは不十分を免がれない。ことに呼吸器にあっては,絶えざる呼吸によって各種病原の侵入があり,宿主の条件如何によっては,感染,炎症を招来するであろう。しかしある感染症が発症したとして,その感染発症には必然性があるのか,偶然性が主体なのかについての考察はきわめて少ない。前者が主体ならば,その対策は立て易く,後者では困難であり,臨床家にとってもこの吟味はきわめて重要なことである。

 そこで肺のOpportunistic infectionについて最近経験した症例を提示して,以上の点に焦点を合せて記述したいと思う。

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 Impedance cardiographyは,循環系の無侵襲的計測法として注目されてきた。心拍出量の測定のみならず,各種心疾患での波形解析による診断15,18,21)や,心機能の予備力判定に応用されつつある14)。しかるにその個々の波形の成因については,未だ充分解明されていない。

 従来は,研究の主眼が左心機能に向けられてきたが,impedance cardiogramには左心系だけでなく,右心系の変化も含まれていると考えられる12)。著者はimpedance cardiogramの中,肺循環動態が関与する部分を明らかにする為に,左房内にバルーンを挿入し,左房負荷に伴う肺うっ血がΔZの拡張期波に影響を及ぼすことをすでに証明した6)

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 血液ガス運搬体としてのPerfluorochemical乳剤は,近年その有効性と安全性が,物理,化学,生物学的基礎研究により充分検討され,広範囲な臨床応用の可能性も近いと考えられている3)〜6)

 現在Perfluorochemical乳剤(以下,PFC乳剤)の臨床応用として考えられているものは,①外傷による大出血,②消化管大出血,③大出血が予想される手術,④体外循環のPFC乳剤による無血充填,⑤全血交換(劇症肝炎等),⑥移植臓器保存,⑦一酸化炭素中毒の救命,⑧臓器灌流による臓器機能,ホルモンや化学物質の作用に関する基礎的研究等が考えられている。

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 心血管系は,ポンプである心臓と,導管である血管とからなる比較的単純なシステムである。その閉鎖循環系を血液が流動している。従来,循環系は電気回路で類似されたシミュレーションで解析されることが多かった。それに対し,近来流体力学的な立場からの検討がなされつつある1〜4)。しかし,多くの場合,動物実験での知見と,それの数理的な解析が主である。ヒトに関するデータはその方法論的限界からもきわめて報告が少ない。したがってヒトに関しては,流体力学的な理論解析も充分に行いえないのが現状である。

 著者らは,開心術の機会をとらえ,大動脈起始部に電磁血流計プローブを装着し,電磁血流計で大動脈血流を計測した。開心術時にヒトの大動脈起始部の血液の流れを流体力学的観点より検討し,同時に血行動態的検索もあわせて行った。

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 脚ブロック等の心室内伝導障害(Intraventricular Conduction Defect以下IVCDと略す)は急性心筋梗塞にしばしば合併し,その急性期予後は非合併例に較べて悪い。また,これらのIVCDは高度ないし完全房室ブロックの前状態としても注目され1〜8),いわゆるbifasci—cular blockとしての長期予後をみた報告も多い9〜19)。しかし,心筋梗塞後のIVCDをいろいろの角度からとらえた報告は少なく20〜23),長期予後でも同様の試みをしたものはきわめて稀で8,24),本邦ではまだ報告をみない。今回梗塞後のIVCDについて,そのpatternやQRS幅について細かく検討したので報告する。

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 1950年Gaisböckは,脾腫のない,高血圧をともなう,肥満した多血症の症例をまとめて報告した。これを基礎に1950年代1)から,検査法の進歩を背景として,relative, pseudo, stress,あるいはspurious polycythe—miaなどと呼ばれる多血症として再定義されてきている2,3)

 我々は相対的多血症,肥満,高血圧,不安緊張感,高尿酸血症を示し,再定義されているGaisböck症候群2,3)と考えられる症例を経験した。この症例には,臥位で著しく増悪する低酸素血症が確認され,多血症との関連が考えられた。

基本情報

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呼吸と循環
27巻8号 (1979年8月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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