臨床外科 66巻10号 (2011年10月)

特集 進歩する癌転移診断―外科臨床はどう変わるのか

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 癌の転移診断については,画像診断の新しいモダリティによる細小病変や疑病変の質的診断,あるいは分子生物学的な手法による微小転移(micrometastasis)の検出など,最近の進歩は著しい.リンパ節転移ではセンチネルノードの概念が普及し,その方法論についても多くの研究がみられる.肝転移では造影超音波や近赤外光を用いる方法などが術中診断に応用され,微小転移の同定が可能になった.一方で,微小な腹膜転移は現在でも術前診断は困難であり,そのbreakthroughが期待される.本特集では,これらの転移診断について,この2~3年の進歩と,それをどのように外科治療に利用するかについて,転移巣別,原発巣別に解説していただいた.

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【ポイント】

◆癌転移の過程で起こる癌細胞の上皮間葉移行(EMT)を検出することで,癌転移や患者予後を予測できる可能性がある.

◆循環血中癌細胞(CTC)の数の評価が転移性癌患者の予後予測や治療効果判定に有用である.

◆癌間質細胞などの宿主側(患者側)因子を調べることで,癌転移のリスクを評価することができる.

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【ポイント】

◆リンパ節微小転移の診断法としては,分子生物学的手法を用いて形態学的に癌細胞を検索する免疫組織学的検出法やRT-PCRに代表される遺伝子学的検出法などがある.

◆リンパ節微小転移の診断では,標的遺伝子マーカーの選択が極めて重要であり,特にRT-PCR法では,感度および特異度の面からmultiple-markerによる診断がその精度を向上させるものと期待される.

◆今後,リンパ節郭清範囲の省略を伴う縮小手術を行う際には,微小転移を含めた正確な術中リンパ節転移診断の確立が必須であり,その臨床応用にあたっては,簡便かつ迅速な診断システムの構築が重要である.

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【ポイント】

◆肝微小転移の画像診断では,ソナゾイド®による造影超音波のKupffer imageでのdefect所見が診断に有用である.

◆プリモビスト®を用いた造影MRI(EOB-MRI)では,造影剤投与15~20分後の肝細胞造影相において,腫瘍性病変(転移)に造影剤が取り込まれず低信号を示す.

◆MRIの拡散強調画像(DWI)では,悪性腫瘍は細胞密度が高いため細胞間質が減少し水分の拡散制限がみられるため,周囲正常組織との間にコントラストが生じ異常信号として描出される.

腹膜転移の診断 清水 輝彦 , 井口 東郎
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【ポイント】

◆造影PET/CTは1回の検査で存在診断,質的診断,局所診断および転移診断のすべてが完結する非侵襲的な画像検査で,各種癌の診断や経過観察に有用である.

◆腹膜播種の検出率(診断率)は従来の画像モダリティ(CT,MRI,US)に比較して造影PET/CTが有意に優っており,腹膜播種診断における第一選択の画像モダリティとして造影PET/CTが推奨される.

◆造影PET/CTは腹膜播種の診断のみならず,PET画像におけるSUV値から個々の播種性病変の治療効果判定にも有用で,治療経過観察の画像モダリティとしても重要な位置を占めている.

〔原発巣別〕

乳癌 井本 滋
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【ポイント】

◆浸潤性乳癌は早期の段階からリンパ節に微小転移,骨髄に播種性腫瘍細胞(DTC),末梢血に循環腫瘍細胞(CTC)が同定されるが,その生物学的特性について不明な点が多い.

◆センチネルリンパ節生検によって同定された微小転移〔isolated tumor cells(ITC)とmicrometastases(MIC)〕は予後不良因子であるが,補助療法によって微小転移症例の予後の改善が報告された.

◆DTCあるいはCTCは予後不良因子である.転移性乳癌における薬物療法に伴うCTCの変動は効果予測因子として報告された.今後,臨床試験に連動したトランスレーショナル研究が必要であり,DTCとCTCの診断とその結果に基づく治療選択は現時点で推奨されない.

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【ポイント】

◆食道癌治療は,手術に大きく頼っていた時代を終え,集学的治療の時代を迎えている.

◆センチネルノード理論に基づいた診断や,分子生物学的手法による微小転移の検出など,様々な転移診断の取り組みがされてきた.

◆FDG-PET検査の有用性は広く認識されている.PET/CT fusion imageやFAMT-PETなどの新しい手法の有用性も報告されている.

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【ポイント】

◆Sentinel nodeによるリンパ節微小転移診断は,早期胃癌では臨床応用できる可能性が高い.しかしながら,術中迅速診断の精度が確立されていない.

◆腹膜播種微小転移診断はいまだ日常診療において確立されていない.腹水細胞診を凌駕する鋭敏な手法が期待されている.

◆アプローチとしては,transumbilicalなどのsingle port surgeryによって,比較的非侵襲的に診断材料を採取することが可能になっている.

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【ポイント】

◆微小肝転移診断は,SPIOあるいはEOB造影MRI検査が有用である.

◆ソナゾイド®造影を用いた術中超音波検査は微小転移診断や肝切除範囲決定において有用性が高い.

◆直腸癌所属リンパ節転移診断は,各モダリティの技術進歩により向上しているが十分ではなく,ある程度の安全域を見越した治療法選択が必要である.

膵癌 杉本 博行 , 中尾 昭公
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【ポイント】

◆MDCTによるthin sliceの多相ダイナミックCTが膵癌進展度診断に必須であり,小さな肝転移も検出されるようになった.

◆造影超音波検査やEOB-MRIがMDCTのみで診断困難な10mm以下の肝転移の診断に用いられる.

◆遠隔リンパ節転移や腹膜播種の診断にPET/CTや腹腔鏡検査が行われているが,標準化するには今後の検討が必要である.

胆囊癌 若井 俊文 , 白井 良夫 , 畠山 勝義
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【ポイント】

◆早期胆囊癌の肉眼的特徴,進行胆囊癌の進展様式を理解したうえで画像診断することが肝要である.

◆胆囊癌の進展様式の主体はリンパ行性転移であり,術前リンパ節転移の評価にはCT・PET検査が有用である.

◆術前に隣接臓器浸潤を強く疑う場合は,ERCやMDCTなどの検査を積極的に行ったうえで,病巣所見に応じた適切な術式選択を立案し,手術に臨む必要がある.

読めばわかるさ…減量外科 難敵「肥満関連疾患」に外科医が挑む方法・16

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 皆さん,元気ですかーっ!!

 はじめまして.私は手術室看護師の園田と申します.Dr. 笠間が四谷メディカルキューブに赴任する以前,堀江病院に1998年に赴任されたときからすでに手術室で一緒なので,Dr. 笠間のその暑い……いやいや,熱い猪木節を誰よりも熟知しています.チームメンバーのなかでもDr. 笠間との付き合いは,深さについてはさておき,長さだけなら一番古く,減量外科を開始する以前からに遡ります.2002年にDr. 笠間がはじめて執刀した腹腔鏡下胃バイパス切除術の歴史的瞬間には器械出しとして(9時間03分!)ノンストップでかかわりました.その後もDr. 笠間と一緒に歩んできたため,減量外科にかかわってきた経験数は計り知れません.

 Dr. 笠間のあくなき情熱と向上心により,卓越した技術に磨きがかかっていくのと同様に減量外科チームも発展してきました.皆様ご存知のように,この減量外科治療にはチームなくして成功はありえません1).2006年にDr. 笠間,中里ソーシャルワーカーと私が四谷メディカルキューブに異動した当初から私たちは多職種を集めたチーム体制を作り,そのチームは現在に至っています.今までの経験を踏まえ,減量外科チームの重要性とその体制について今回筆を執らせていただきます.

 元気があればチームも作れるっ!ダーッ!!

ラパロスキルアップジム「あしたのために…」・その⑧

“スコープ=目” 内田 一徳
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「目は口ほどに物を言う」ものなり.

「眼鏡にかなう」スコープは「弱り目に祟り目」な状況を一変させるものなり.

「眼鏡は顔の一部」です.

病院めぐり

木沢記念病院外科 尾関 豊
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 当院は中山道太田宿で知られる岐阜県美濃加茂市に位置し,昭和27年4月1日に開設された民間病院です.現在の病床数は,運営受託している交通事故療護センターの50床を含めて452床です.脳神経外科出身の理事長の方針で医療・保健・福祉の連携を実践しており,関連精神科病院,多数の老人福祉施設とともに看護福祉専門学校および健康増進施設を有する社会医療法人厚生会として包括医療を推進しています.

 当院の理念は「病める人の立場にたった医療,地域から求められる新しい医療サービスの提供」であり,地域がん診療連携拠点病院をはじめ,日本医療機能評価機構認定病院など多数の施設認定を取得しています.最大の特徴は最先端の医療機器が整備されていることで,320列CTを世界ではじめて導入し,PETを2台保有し,強度変調性放射線治療機器IMRTトモテラピーを日本で唯一2台導入し,そして日本の民間病院では2番目にDa Vinciを導入しました.これらの最先端機器は理事長のトップダウンで必要とあらば即座に導入が決定されるため,公的病院の年間予算で決定される年単位とは異なり,当院の進歩の速さに驚かされます.

敬誠会合志病院外科 竹村 雅至
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 当院は兵庫県の東端で大阪府に隣接する尼崎市にあり,JR尼崎駅から徒歩5分という交通の便にも恵まれた場所に立地する私立の病院です.1955年の開設ですが,施設が老朽化したことと,高度な医療の提供を目的に2006年に新築・移転し,新たなスタートを切りました.病床数は100床で多くはありませんが,現在の常勤医師数は11名です.診療科は外科系を中心とし,外科,脳外科,整形外科,消化器科,内科で,脳外科の手術件数では兵庫県でも常にトップクラスにある急性期病院です.

 外科のスタッフは常勤医師3名と非常勤医師1名で,年間手術件数は消化器外科疾患を中心に200件以上です.これまでは消化管疾患に対しては開腹下に手術を行っていましたが,2010年5月から兵庫医科大学外科との連携によって胃癌,大腸癌に対する腹腔鏡下手術を導入しました.2011年5月までの1年間で腹腔鏡下胃切除術9件,腹腔鏡下大腸切除術22件などを行いました.安全性の向上のためハイビジョン腹腔鏡システムを導入するとともに,術者・助手の役割や手術手順を定型化し,さらに外科医師の知識の共有のために様々な手術の手順書を作成するなど工夫を行っています.これに伴って腹腔鏡下手術に対するスタッフの習熟が進み,現在では消化管穿孔や腸閉塞に対する緊急手術を含め当院の外科手術の90%以上を腹腔鏡下に行うまでになりました.

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要旨

単孔式腹腔鏡下手術の普及はめざましい.手術創が目立たないことは美容性,整容性に富み,入院期間の短縮が望まれている.われわれはスポンジによる単孔用ポートを自作し腹腔鏡下手術を施行し,その有用性を検討した.胆囊摘出術,鼠径ヘルニア修復術において,手術時間は長い傾向があるものの,術後経過に差を認めなかった.スポンジによる単孔用ポートを使用した腹腔鏡下手術は,症例を選べば通常の手術と同等の手術が可能で,さらに安価で容易に交換できる点からコストパフォーマンスに優れるものと思われる.

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要旨

症例は66歳,女性.下腹部痛を主訴に前医を受診し,造影CTで左内腸骨動脈に径9cm大の囊状瘤と後腹膜血腫を認め,左内腸骨動脈瘤破裂の診断で当院に緊急搬送された.高リスク患者(高血圧,糖尿病,脳出血後,関節リウマチのためステロイド内服中)で巨大な内腸骨動脈瘤であり,開腹手術のリスクは大きいと考え,緊急ステントグラフト内挿術(EVAR)を施行した(局所麻酔下に,左内腸骨動脈のコイル塞栓と左総腸骨~外腸骨動脈にステントグラフト留置).EVARは循環動態の安定した高齢・高リスク患者の腸骨動脈瘤破裂症例に対して有効な選択肢となると思われた.

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要旨

症例は80歳女性,右腋窩に4cm大の硬い腫瘤を認めた.マンモグラフィ,乳腺超音波検査およびMRIで乳房内病変は認めなかった.針生検は浸潤性導管癌であったが,造影CTで腫瘍と皮膚との連続性を認めず,また,他臓器に腫瘍性病変を認めなかったため,右腋窩原発副乳癌と診断し,非定型的乳房切除術を施行した.病理診断は充実腺管癌で,乳房内潜在性乳癌は認めなかったが,腫瘍周囲に正常乳腺組織を確認できなかった.高齢による乳腺の萎縮が原因と考え,本例は副乳癌として矛盾しないと判断した.腫瘍周囲に正常乳腺を認めなかった副乳癌症例の特徴について,統計学的な解析を行い考察した.

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要旨

症例は69歳,男性.肛門縁から4cmの部位に結節集簇様の腫瘍を認め,生検の結果,悪性リンパ腫と診断されたため,2008年2月に超低位前方切除術,D2リンパ節郭清術を施行した.術後の病理組織学的診断でMALTリンパ腫と診断した.大腸原発MALTリンパ腫の予後は,腸管悪性リンパ腫のなかでは比較的良好であると報告されている.進行した病変に対しては,リンパ節郭清を伴う手術が必要であるとの報告がある一方で,Helicobacter pylori除菌,化学療法,放射線療法といった内科的治療が有効であったとの報告もある.治療法の選択には,今後の症例の蓄積が必要であると考えられた.

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要旨

3症例は81歳男性,58歳女性,90歳女性で,いずれも腹部CT検査にて腸重積症と診断された.1例は腹部超音波検査と腹部CT検査にて重積先進部の腸管内に小腸腫瘍を描出し,その特徴から小腸gastrointestinal stromal tumor(GIST)を疑った.3例とも開腹手術を行い,小腸腫瘍による腸重積症と診断され小腸切除を施行した.切除標本は,高見の肉眼的分類による内腔発育型とダンベル(混合)型の粘膜下腫瘍であり,病理診断にて小腸GISTと診断された.医学中央雑誌で「小腸GIST」「腸重積症」をキーワードにその参考文献まで含めて1998~2010年まで検索した結果,自験例を含め16例の報告があった.この16例の術前画像診断や腫瘍の発育形態,大きさについて腸重積症の誘因となりうる特徴を考察したので報告する.

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要旨

患者は40歳代の肥満体型の男性.17年前に特発性血小板減少性紫斑病に対し開腹脾摘術を施行された.当初の血液学的反応は良好であったが,脾摘後12年ごろより再び血小板が減少した.腹部CT検査および99mTc-スズコロイドシンチで下行結腸背側に副脾の存在が明らかとなった.肥満と前回の術創による癒着のため,通常の手術アプローチでは困難が予想されたため,PDBバルーンを用いた後腹膜アプローチによる腹腔鏡下副脾切除術を施行した.後腹膜アプローチで,下行結腸と後腹膜の間の癒合層を慎重に剝離していくと副脾が同定され,安全に切除された.後腹膜に存在する副脾に対して,後腹膜アプローチによる腹腔鏡下手術は有用な選択肢であると考えられる.

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要旨

患者は61歳,男性.右下腹部痛を主訴に受診した.CT検査で膿瘍形成を伴う穿孔性虫垂炎と診断し,緊急虫垂切除術を施行した.切除標本では虫垂根部の肥厚が著明であり,病理診断に提出した.その結果,虫垂goblet cell carcinoidの診断であったため,1か月後に腹腔鏡補助下回盲部切除術+D2郭清を追加した.追加切除腸管や郭清リンパ節に腫瘍遺残はなかった.虫垂goblet cell carcinoidは,わが国では98例の報告があるにすぎない稀な疾患である.穿孔性虫垂炎で発症した症例はさらに少なく,長期予後も明らかでないが,追加治療として腹腔鏡下手術は優先的な選択肢となりうると思われた.

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要旨

手術室内だけでなく,その外での効率的な外科教育の必要性が増すなか,開腹手術に比べ難易度が高い内視鏡外科手術には,専門のトレーニングが必要とされている.医療用シミュレーターの発展に伴い,内視鏡外科分野でもトレーニングを目的とした様々なタイプのシミュレーターが開発されてきた.しかしわが国では,シミュレーターの使用を含めた内視鏡外科トレーニング共通のガイドラインやカリキュラムは存在しない.Fundamentals of Laparoscopic Surgery(FLS)プログラムは北米で開発された腹腔鏡下手術のための知識・基本手技トレーニングプログラムであり,American Board of Surgery認定に必須のプログラムとして採用されている.本稿では,このFLSプログラムについての解説と北米外科研修における現状を紹介する.

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日  時:2012年2月18日(土)13:30~18:30(予定)

会  場:第一ホテル東京

     〒105-8621東京都港区新橋1-2-6 TEL 03-3501-4411(代表)

第20回肝病態生理研究会
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日 時:2012年6月6日(水)13:00~17:00(予定)

場 所:ホテル日航金沢 〒920-0853石川県金沢市本町2-15-1

    Tel:076-234-1111(代表) Fax:076-234-8802

勤務医コラム・29

開業医vs勤務医 中島 公洋
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 「“母を尋ねて三千里”は絵になるが,“当直続けて二千回”はちょっとネ~」などと酒の席で話していたら,自営業の同級生から「開業という手もあるんじゃないか?」とのご指摘.確かに,開業すれば当直はない.しかし,開業した先輩や後輩をみていると,「大変そうだな」と感じる.①開業医は孤独である.日常診療のちょっとしたことをface to faceで同僚と議論できる環境というものはものすごく貴重であり,勤務医にはそれがある.②開業医は経営のことを本気で考えなければならない.世のため人のための仕事をしながら,なおかつ経営もうまくいかせるなんて,私などには絶対無理だ.③開業すると人を雇う必要があるが,この「人を雇う」ということほど恐しいものはない.労務管理のドロ沼で法律の本をめくる自分の姿など想像もできない.④開業医はクレーマーに一人で対処しなければならないが,これはキツイだろう.⑤予防接種のような学校保健の仕事,検死のような警察関連の仕事,医師会主催行事のmanageや講演会の世話,看護学校の運営,福祉関係の書類づくり……などなど,開業医の先生方はextraの仕事を山ほどかかえている.一時期,“開業医に比べて勤務医は,収入が少なく就業時間が長いから可哀そう”などという風潮が広まったことがあったが,それはマスコミ主導の浅薄な考えであろう.勤務医生活30年近くになり,日当直が多くてブウブウ言っている私ですが,心の底では,①同僚がいて,②お金のことを気にせず,③労務のことに無頓着で,④トラブルがあったら皆に相談でき,⑤socialな意味での責務が軽い,今のこの自由な環境がbestだと思っています.

1200字通信・31

人はなぜ山に登るのか 板野 聡
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 今から58年前の1953年5月に,エドモンド・ヒラリー氏とシェルパのテンジン・ノルゲイ氏がエベレストに初登頂したことは有名ですが,登山家が山に登るのは「そこに山があるから」という有名な言葉をはじめて言ったのは,一体誰なのでしょうか.そのことが気になって調べてみたところ,これもまたエベレストが絡んだことであったのですが,1924年にエベレストに登ったまま消息を絶った英国の登山家ジョージ・リー・マロリー氏の言葉とわかりました.新聞記者に「なぜエベレストに登るのか」と問われたマロリー氏が“Because, it is there”と答えたそうで,これが日本で「そこに山があるから」と訳されて有名になったようです.

 死のリスクを伴う危険な登山をなぜ続けるのかという問いに対してストイックなまでにシンプルな答えであり,そう答えたマロリー氏自身も還らぬ人となったこともあって有名になったものと想像できます.また,そうしたマロリー氏の逸話から,この言葉が「運命」とか「宿命」といった意味合いを持たされて使われることになったことも頷けます.あるいは,ただ単に,山登りを愛する人たちがいちいち山登りの理由を言わなくてもよい口実として,ちょっとニヒルな気分でこの言葉を使ったために広がっていっただけなのかも知れません.

ひとやすみ・77

大災害への備え 中川 国利
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 私が勤める仙台赤十字病院は,基本方針に地域医療および災害医療を担うことを謳っている.そして,災害拠点病院として災害派遣チーム4班を常備し,DMAT隊員を養成し,しばしば防災訓練を行ってきた.さらに2系統の自家発電装置を備え,医薬品,食糧,水を備蓄し,ほかからの援助なしでも48時間は医療を行える環境を確立してきた.それでは,当院の震災への備えは,今回の東日本大震災では十分に機能したのであろうか.

 築29年の病院であったが,現在の耐震基準をクリアしていたこともあり,震度6でも倒壊などの大きな損害は生じなかった.また,沿岸部から離れた場所に存在するため,津波とはまったく無縁であった.ライフラインこそすべて停止したが,自家発電や貯水槽の水によって確かに地震発生当初は病院機能を維持することができた.しかし,未曾有の規模の東日本大震災では,その後の想定がまったく異なっていた.地震,津波,放射線被曝と被害が甚大で,しかも被災地が広範囲に及んだ.さらに,強い余震が続いたため,交通網は長期間にわたって完全に遮断し,物資が底をついた.

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 ああ,またですか.抗菌薬の選択が議論にもならずスルーされていくのをみて,僕はため息をつきます.しかも,よりによってカテーテルをそのまま残しておいていただいているなんて,培養はどうなっているのでしょうか? もう提出済みですか? しかも,そのサンプルは2セットともカテーテルから取ったから問題ない? いやあ,感激です.これで緑膿菌が出たらコンタミでも何でも治療を開始できますね.え,もうメロペネムが使われている? それはもう神の一手ですね.文字通り言うことは何もありません.

 臨床感染症というのはもっといろんな科の先生が知っていてもいいのではないかと思います.その上で身近な疑問に答えていただけるエキスパートがいてくれるとありがたいのですが,そんなぜいたくは望んではいけませんよね.かといって成書を読んでもきめ細かいところがわかりません.分量も多いし,別にわかっていることを全部書いてくれなくてもいいのですよ.培養の取り方とカテ抜去のタイミング,そこが知りたいのです.

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 高橋孝先生が「臨床外科」誌に連載されていた『胃癌外科の歴史』が,このたび荒井先生の努力で見事に単行本として発刊されたことは,この連載を愛読していた筆者にとっても大きな喜びである.高橋先生を大腸の外科解剖の大家としてご存じの方も多いかと思うが,本書を一読すれば,高橋先生の胃外科,解剖に対する並々ならぬ情熱と,知識の深さを容易に理解できる.

 わが国における癌手術の確立に,癌研附属病院の梶谷鐶先生が最も重要な役割を果たしたことは紛れもない事実である.その元になる思想がどのように形成されてきたのであろうか.本書をひもとくことで,ビルロート,ミュックリッツ,三宅速先生から,梶谷先生の師である久留勝先生とつながる,胃癌リンパ節転移への「まなざし」こそが梶谷先生の偉業の礎になったものであることがよく理解できる.

昨日の患者

大震災を乗り越えて 中川 国利
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 東日本大震災はマグニチュード9.0という国内観測史上最大の地震で,直後に東北地方の太平洋沿岸を巨大津波が襲った.防潮堤を越えた海水は濁流となり,建物や車を押し流し,街は瓦礫の山となり廃墟となった.そして数多くの尊い命が失われた.

 30歳代半ばのHさんが血胸と多発性骨折をきたして緊急搬送されてきた.津波の濁流に飲み込まれ,瀕死の状態で消防団に救出されたのである.そして近くの病院に収容されたが,病院も津波で入院機能を停止したため,当院に転送された.

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あとがき 島津 元秀
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 このあとがきを書いているのは8月の猛暑の中である.とくに今年は節電の影響で余計暑苦しいが,今までの放漫冷房を反省し,計画停電を避けたいと思えばかなり我慢できる.毎年8月になると,太平洋戦争,原爆についてメディアの特集が組まれ,悲惨な歴史が語られる.今年はそれに輪をかけて3月11日の東日本大震災,福島原発事故の被災がくりかえし報道され,敗戦以来の非常時であると皆が感じている.この難局をいかに乗り切るか,戦後の復興に倣って震災からの復興再建が叫ばれているが,当時の状況とは同じであるはずはなく,高度成長は望むべくもない.この暗い世相の中で,なでしこジャパンのワールドカップ優勝という,おそらく誰も予想していなかった快挙は大きなインパクトを与えた.最後の土壇場で追いついてPK戦で勝利を手にし,何か神憑り的なものを感じた.被災地の方々にも彼女らのあきらめない姿勢が大きな勇気を与えたに違いない.そして,やはり8月の風物詩である甲子園の高校野球がいつにもまして感動的に思えるのは,震災の年だからであろうか.確かに今年は延長戦,逆転劇が多く,東北地方の高校も健闘している.なでしこジャパン,高校野球に共通するキーワードは,「ネバー・ギブアップ」と「チーム・リーダー」であろう.いずれも今の日本に求められているものである.政界でのリーダー不在が叫ばれ,リーダー論がかまびすしい.なでしこジャパンの佐々木則夫監督や澤 穂希選手が書いた著作はワールドカップ以前にも出版されているが,彼らを扱ったリーダー論もさらに出てくるに違いない.また,高校野球の監督はリーダーとしては具体的で分かりやすい存在である.甲子園の常連校には必ず名監督と呼ばれる指導者がいる.リーダーの違いで組織の運命が分かれる典型的な例は新田次郎の「八甲田山死の彷徨」に描かれている.映画にもなって有名だが,原作の格調には到底及ばない.一級のリーダー論であり,若い諸君に一読をお勧めする.

基本情報

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臨床外科
66巻10号 (2011年10月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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