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このあとがきを書いているのは8月の猛暑の中である.とくに今年は節電の影響で余計暑苦しいが,今までの放漫冷房を反省し,計画停電を避けたいと思えばかなり我慢できる.毎年8月になると,太平洋戦争,原爆についてメディアの特集が組まれ,悲惨な歴史が語られる.今年はそれに輪をかけて3月11日の東日本大震災,福島原発事故の被災がくりかえし報道され,敗戦以来の非常時であると皆が感じている.この難局をいかに乗り切るか,戦後の復興に倣って震災からの復興再建が叫ばれているが,当時の状況とは同じであるはずはなく,高度成長は望むべくもない.この暗い世相の中で,なでしこジャパンのワールドカップ優勝という,おそらく誰も予想していなかった快挙は大きなインパクトを与えた.最後の土壇場で追いついてPK戦で勝利を手にし,何か神憑り的なものを感じた.被災地の方々にも彼女らのあきらめない姿勢が大きな勇気を与えたに違いない.そして,やはり8月の風物詩である甲子園の高校野球がいつにもまして感動的に思えるのは,震災の年だからであろうか.確かに今年は延長戦,逆転劇が多く,東北地方の高校も健闘している.なでしこジャパン,高校野球に共通するキーワードは,「ネバー・ギブアップ」と「チーム・リーダー」であろう.いずれも今の日本に求められているものである.政界でのリーダー不在が叫ばれ,リーダー論がかまびすしい.なでしこジャパンの佐々木則夫監督や澤 穂希選手が書いた著作はワールドカップ以前にも出版されているが,彼らを扱ったリーダー論もさらに出てくるに違いない.また,高校野球の監督はリーダーとしては具体的で分かりやすい存在である.甲子園の常連校には必ず名監督と呼ばれる指導者がいる.リーダーの違いで組織の運命が分かれる典型的な例は新田次郎の「八甲田山死の彷徨」に描かれている.映画にもなって有名だが,原作の格調には到底及ばない.一級のリーダー論であり,若い諸君に一読をお勧めする.
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