総合リハビリテーション 39巻12号 (2011年12月)

特集 脳卒中リハビリテーションの新しい展開

今月のハイライト
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 脳卒中治療に関する国内外のエビデンスが飛躍的に増え,「脳卒中治療ガイドライン2009」としてガイドラインが改訂され,それに基づいた治療・リハビリテーションが実施されている.その後も脳卒中リハビリテーションの進歩,回復期リハビリテーション病棟や地域連携パスなどの変化など,新たな展開がみられている.今回の特集では,ガイドライン2009以降の進歩や知見を加味して,現在注目されているトピックスについて解説いただいた.

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はじめに

 わが国における脳卒中診療は,この6年間に大きく変化してきた.まず,脳梗塞の特効薬とも言える血栓融解薬rt-PA静注療法が2005年に保険診療の対象になり,24時間それに対応できる脳卒中ケアユニット(stroke care unit;SCU)といった脳卒中の初期治療システムが注目されるようになった.つぎに,脳梗塞発症後,rt-PA投与まで3時間以内という制約があり,病院到着から診断,投与までの院内体制の確立は必須であったため,地域住民の認識や救急隊の予診能力などにも焦点が当てられるようになった.また,亜急性期,慢性期を支える医療保険や介護保険でのリハビリテーションのシステムの充実が図られ,地域の病病連携,病診連携,回復期リハビリテーションの充実が図られた.

 さらに,理想的な脳卒中治療システムとして脳卒中ユニット(stroke unit;SU)が登場した.脳卒中の急性期リハビリテーションのあり方も見直されるようになり,脳卒中診療にかかわる5学会,すなわち,脳卒中学会,脳神経外科学会,神経学会,神経治療学会,リハビリテーション医学会が合同で発表した脳卒中ガイドライン20041)では,今まで以上に急性期からのリハビリテーション介入の重要性が説かれるとともに,急性期からのリハビリテーション介入の安全性と有効性が明記され,特にSUによるリハビリテーション介入効果のエビデンスはⅠaと高く評価された.また,脳卒中専門職の集団が関与するSUリハビリテーションもグレードAで推奨された.

 また,2006年4月にリハビリテーション分野では大きな診療報酬体制の変更があり,疾患別リハビリテーションの導入とリハビリテーションの算定日数の上限が設けられた.脳卒中も運動器や呼吸器,心疾患などとともに,1つのリハビリテーション疾患単位に位置づけられ,原則として180日以内にリハビリテーションを終結することが求められた.2007年4月には従来から促されていた早期リハビリテーション介入重視の路線が再浮上し,同じ180日でも後半からは診療報酬が漸減することになった.リハビリテーションの診療報酬は包括支払制の外にあるが,DPC(diagnosis procedure combination)包括医療の浸透による平均在院日数短縮の流れはリハビリテーションの急性期介入,効率的介入に拍車をかけている.したがって,SUに求められるリハビリテーションの役割は今後の急性期リハビリテーション医療を占う意味でも重要と考えられる.

 一方,マスコミでは2007年7月からはACジャパン(旧公共広告機構)のテレビによる脳卒中キャンペーンCMとして,元日本サッカーチーム代表監督のオシム氏が出演して話題になった.これにより,社会的にも脳卒中治療が注目されるに至った.

 また2009年には,脳卒中治療ガイドラインの改訂2)でも,SUは発症1年後や10年後の長期的なADL(activities of daily living)の改善のみならず生存率も改善するとし,SUのチーム医療精神の重要性を改めて強調している.しかし,付記としてわが国では,まだ海外のような多面的リハビリテーションを行うSUは少ないことを指摘している.

 本稿では,わが国における脳卒中リハビリテーションの新しい展開として,SUのシステムの今後のあり方,地域連携システムの新しい構築とその重要性などについて文献考察も含めて概説する.

薬物療法 森 真由美 , 岡田 靖
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はじめに

 脳卒中の年間発症者数は現在30万人前後と推測され,要介護に至る原因疾患の第1位である1).1960年代以降,血圧コントロールの重要性の周知に伴い脳出血発症率は減少したが,人口動態の高齢化と生活様式の欧米化に伴い,動脈硬化危険因子を抱えた高齢の脳梗塞患者が顕著に増加している.本稿では,脳卒中再発予防の観点から脳梗塞と脳出血に分けて特に薬物療法について言及し,さらに,回復期・地域生活期にかけてリハビリテーションや自宅復帰の妨げとなりうる脳卒中合併症に対する薬物療法についても概説する.

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はじめに

 日本において脳卒中は死亡原因としては第3位であるが,要介護要因と高齢者医療費の第1位を占める疾患である.超高齢社会において今後もこの傾向は持続していくことが予想され,脳卒中後のリハビリテーションは社会的にも重要な問題である.

 脳卒中急性期での機能回復は主に血行再開や脳浮腫の軽減によって起こり,廃用症候群の予防やADL(activities of daily living)向上のために早期からのリハビリテーションが行われ,その有効性が認められている1).本邦では,急性期治療後に障害が残存する場合,回復期リハビリテーション病棟において集中リハビリテーションが行われることが多いが,この時期の神経症状の回復は急性期とは異なったメカニズムによって起こると考えられている2)

 近年,成人においても運動機能などの回復に伴い脳の機能的再構成が起こっていることが明らかとなり,適応的な脳の可塑性を促進するアプローチ(神経リハビリテーション)が提唱されている.このアプローチの理論的基礎として重要なのがNudoら3)による報告である.Nudoらは,リスザルを用い,一次運動野損傷後に適切にデザインされた訓練を実施することで,麻痺側前肢の機能回復とともに,病変側の一次運動野の手指領域が拡大することを示し,大脳皮質の機能的再構成が起こることを証明した.また,一次運動野以外の脳領域の再構成が起こることも知られている.

 1990年代初頭から,PET(positron emission tomography)や機能的MRI(magnetic resonance imaging)を用いて,脳卒中患者が運動課題を行っている際の脳活動を対照と比較することにより,亜急性期以降の上肢の運動機能回復は麻痺肢の使用に依存した可塑性(use-dependent plasticity)に基づいた脳の機能的再構成によって生じていることが明らかになってきた4).その後,Miyaiら5)は動きに対する制約が比較的少ない機能的近赤外分光法によって,脳卒中後の片麻痺歩行が改善するに従い,初期は低下していた病変半球の内側一次運動野の賦活を認めるようになることや,病変部位や広がりによって,補足運動野,運動前野などの活動がみられることを報告した.

 適応的な脳の可塑性を促進,修飾するリハビリテーションの手法を求め,さまざまなアプローチが検証されつつある.上肢に関してはconstraint-induced movement therapy(CIMT),ロボット補助訓練,歩行に関してはロボット補助訓練(Gait Trainerなど),課題指向型歩行訓練,フィットネス訓練,歩行集中訓練,歩行と移乗の反復訓練,速度漸増型トレッドミル訓練が,複数のrandomized controlled trial(RCT)に対するメタ解析から有効性が示唆されている6)

 また,今後有効性が立証されることが期待されている新規な治療として,経頭蓋磁気刺激,経頭蓋直流電流刺激,リハビリテーションと薬物の併用などがある6).これらはリハビリテーション介入に対して生じる脳の可塑的変化を修飾しよう(neuro-modulation)という試みである.

 本稿では神経リハビリテーションのトピックスのうち,運動麻痺に対してのCIMT,課題指向型歩行訓練の1つであるBWSTT(body weight support treadmill training),上肢や歩行に対するロボット補助訓練,経頭蓋磁気刺激などについて,その背景と考え方について述べ,エビデンスレベルについても記述する.

ADL評価・訓練 小山 哲男 , 道免 和久
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はじめに

 人口の高齢化に伴い,本邦の脳卒中患者数は今後増加することが予想される1).ほとんど後遺症のない患者がいる一方で,重度の片麻痺や失語症・失行などの重い高次脳機能障害のために日常生活機能(activites of daily living;ADL)が著しく低下する患者も少なくない.このように脳卒中患者に対するリハビリテーションは社会的に大きな課題となっている2).効率的で有効なリハビリテーションを実施するためには,患者ごとに適切な目標設定に基づいた計画的な取り組みが必要である.そのためにはADLの回復の実際3)やADL項目の難易度4,5)に関する知見が重要である.また近年,脳MRI(magnetic resonance imaging)拡散テンソル法が脳卒中の予後予測に応用されはじめている6,7).本稿は筆者らがこれらの領域で行ってきた研究より得られた知見を紹介するものである.

うつ,アパシー 岡田 和悟 , 山口 修平
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はじめに

 脳卒中後にうつ状態やアパシーなどの情動行動障害を呈することは,1980年代より知られており,脳卒中のリハビリテーションを行ううえでの注意点の1つであった.脳卒中ガイドライン20091)でも,脳梗塞,脳出血とも慢性期の管理のなかでそれぞれ,「脳卒中後うつ状態に対して,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を含む抗うつ薬の投与が推奨される(グレードA)」,「脳卒中後に高率に出現するうつは,脳出血後にもみられ,認知機能や身体機能,日常生活動作(ADL)を障害する因子となるため,積極的に発見に努めるべきである(グレードB)」,「脳卒中後うつ状態に対する薬物療法は,うつ症状や身体機能の改善が期待できるため推奨される(グレードB)」と記載されており,その評価や治療に関するその後の知見が注目されるところである.

 本稿では,脳卒中リハビリテーションの観点から,脳卒中後うつ状態(post-stroke depression;PSD)および脳卒中後アパシー(post-stroke apathy;PSA)について,脳卒中ガイドラインの基礎資料となった2006年以降の主要な文献を中心に,その評価,対応,治療などについて概説する.

巻頭言

未来予想図 大高 洋平
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 日本リハビリテーション医学会もそろそろ50周年を迎える.この50年の歴史の最後のほうの10数年間に登場した私は,それ以前のことについてはよく知らない.そこで,巻頭言執筆の依頼をいただいたことをきっかけに,昔の巻頭言をひもといてみることにした.読み進めていくと,リハビリテーションの歴史の重みを少し感じ取ることができた.とくに,黎明期の巻頭言は,リハビリテーションのidentity探求などリハビリテーション医学・医療の確立への真摯な使命感に満ちたものが多く,現在のリハビリテーション医学・医療を形作ってきた源泉となるエネルギーを感じた.そうしているうちに,ふと,次の50年では,リハビリテーション医学・医療はどうなっているのだろうか,どのような未来が描かれるのか,描くのか.そんなことが気になった.

 中枢神経系の障害,とくに麻痺に対する対応を念頭に考えてみる.最初に空想されるのは,治療・代替手段として使用されるロボットである.対麻痺,四肢麻痺や片麻痺などの患者は,軽量なロボットスーツに超急性期から身を包み,難易度を最適化するように関節運動を制動し,バランスを調節し,同時にバイタルサインや血糖をモニターしながらリハビリテーションを受けることが可能になる.動きや行動の評価は,実際の日常生活の中で三次元の定量データとして蓄積・解析ができる.脳情報は,非拘束的にオンラインで容易に読み取ることができ,課題の最適化やフィードバックに利用ができるようになる.また,洗練された再生医療やニューロモジュレーションの技法は中枢神経系の可塑性を促し,麻痺自体の回復は数倍にもなり,ホルモン療法,アンチエイジングなどの知見は,体力,筋力などの回復,増強を飛躍的に向上させる(だろう).

講座 磁気刺激の臨床応用・第4回

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はじめに

 反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation;rTMS)は磁気刺激装置を用い頭皮上から反復してパルス誘導電流を発生させ,脳の興奮性を一時的に変化させる手法である.Pascual-Leoneら1)が初めてパーキンソン病患者への治療としての有効性を報告して以来,既に20年近い研究の経過においてさまざまな知見が蓄積されている.一般にrTMSは5Hz以上の高頻度で運動野を刺激した場合に皮質興奮性を高め2),1Hz以下の低頻度では逆に抑制する作用を有する3).これらの作用機序として,運動学習や記憶などに関連して大脳皮質のシナプスに生じる可塑性変化である長期増強(long term potentiation),あるいは長期抑制(long term depression)に類似した作用機序が考えられている3,4).近年,brain-derived neurotrophic factorのシナプス可塑性への関与が注目され,rTMSとの関連性を示唆する報告もみられる5)

 さて,現在リハビリテーション領域においてrTMSの臨床応用で最も期待が大きい治療対象は脳卒中である.脳卒中リハビリテーションへのrTMSの応用について以下に概説する.

実践講座 福祉的就労の実際・第4回

発達障害者の福祉的就労 朝日 雅也
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はじめに

 本稿では,従来の身体障害,知的障害,精神障害の3つの障害領域における福祉サービスの対象となりにくかった発達障害に焦点をあてて,福祉的就労における発達障害者の現状と課題,並びに今後の展望について論じる.特に,発達障害による障害特性を踏まえつつ,福祉的就労の場面ではどのような支援の視点が必要なのかを明らかにしたい.

 ここでは,発達障害者を発達障害者支援法(2005年)の定義に則して「自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害を有するために日常生活又は社会生活に制限を受ける者」として捉えることにする.すなわち,脳性麻痺や知的障害など発達期に発生する広義の発達障害ではなく,同法の対象となる発達障害とする.

 発達障害については,近年,教育,福祉,雇用など障害者の生活にかかわるさまざまな分野でその課題が認識されてきており,前述の発達障害者支援法が制定される背景となってきた.知的障害を伴う場合には,療育手帳制度をはじめとした同障害に対するサービスの活用が可能であり,また,最近では精神障害者保健福祉手帳の交付を受ける発達障害者も増加しつつあるが,本人や家族が障害の認識をもたない場合や,生活上の課題を抱えながらも福祉サービス利用のための適切な相談に結びつかない場合などもある.また,支援制度の未整備ともあいまって,発達障害は支援が行き届かないことが指摘されてきた障害である.なお,主な発達障害の特徴は,表に示すとおりである.

 ところで,2010年の障害者自立支援法の改正によって,発達障害が同法の対象となることが明記された.具体的には,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条に規定する精神障害者〔発達障害者支援法(平成16年法律第167号)第2条第2項に規定する発達障害者を含み,知的障害者福祉法にいう知的障害者を除く.以下「精神障害者」という.〕のうち18歳以上である者をいう」(下線は筆者)と規定されたことを指す.これによって今後も,身体障害,知的障害,精神障害といった障害者としての認定を前提にするものの,従来の発達障害を重複する者に加え,発達障害単独の場合の同法に基づく福祉サービスの利用がさらに促進するものと思われる.

 なお,一般就労に関連するが,障害者の雇用の促進等に関する法律においては,発達障害者は同法に規定される職業リハビリテーションの対象とされている.同法第47条の「身体障害者,知的障害者及び精神障害者以外の障害者に関する特例」により発達障害者は厚生労働省令に定める者として位置づけられ,発達障害であることの確認は,原則として都道府県障害福祉主管課,精神保健福祉センターまたは発達障害者支援センターが紹介する「発達障害に関する専門医」による診断書によるものとされている.

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要旨:〔目的〕がん術後リンパ浮腫患者に対する外来通院による集中的な複合的理学療法(以下,外来集中療法)の短期・長期的効果を明らかにする.〔対象・方法〕がん術後リンパ浮腫患者46名(上肢21名,下肢25名)を対象として,外来集中療法を行った.治療効果評価項目は,浮腫体積,QOL調査アンケートであるSF-36v2TM(日本語版),蜂窩織炎の発症回数とした.〔結果〕浮腫体積は,外来集中療法開始前に比べて終了時には上肢47%,下肢50%と有意(p<0.001)に減少した.治療開始1年後では,外来集中療法終了時に比べて,上肢13%,下肢9%の増加を認めた.外来集中療法後のSF-36v2TMは上肢で精神面,下肢で身体面の項目で有意(p<0.01)に改善し,蜂窩織炎の発症回数は有意(p<0.05)に減少した.〔結語〕がん術後リンパ浮腫患者において,外来集中療法は短期・長期的に浮腫を軽減し,QOLの改善に有効であることが示唆された.

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要旨:〔はじめに〕今回,われわれはconstraint-induced movement therapy(CI療法)におけるTransfer Package(TP)が,CI療法の前後で麻痺側上肢に与える影響とその効果について検討したので報告する.〔対象・方法〕当院のCI療法の適応基準を満たした21名(男性12名,女性9名)の初発の脳卒中後片麻痺患者を,TPを導入したCI療法を行った患者群(TP+群)とTPを導入していないCI療法を行った患者群(TP-群)に分けた.両群ともに,訓練時間は1日5時間,平日10日間とした.TP+群には,5時間の訓練時間のなかで毎日0.5~1時間程度,TPに関わる時間を設定した.麻痺側上肢機能の評価はFugl-Meyer Assessment,Simple Test for Evaluating Hand Function,Motor Activity LogのAmount of Useを用いた.〔結果〕TP+群はTP-群に比べ,介入直後における麻痺側上肢の機能と日常生活内の使用頻度が有意に向上していた.〔結語〕患者の麻痺側上肢に関連した行動を変容させるTPは,効果的で本質的なアプローチである.

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要旨:上腕骨外側上顆炎鏡視下手術後のリハビリテーションプロトコールの有効性を検討するために,リハビリテーションプロトコール介入群14例と非介入群11例の術後成績を後ろ向きに評価,比較した.術前,術後1か月,2か月,3か月時の安静時痛VAS,動作時痛VAS,最大握力を評価した.また,術前,術後3か月時のDASH scoreを評価した.術前と比較した術後1か月間の最大握力改善率は,介入群が健側比平均155.3±70.0%,非介入群が104.6±36.8%で,介入群が有意に高かった.安静時,動作時痛VAS,DASH scoreは,2群間で有意差を認めなかった.早期の握力改善の要因は,術部へのストレスが軽減するような手関節屈筋群を使用した手の使用方法と,術後1か月間,過度な負荷となる作業を抑制する指導の効果が考えられた.本研究より,外側上顆炎鏡視下手術後リハビリテーションプロトコールは,早期の握力改善に有用と考えられた.

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はじめに

 肘関節は,骨折などの外傷後に不動・固定を強いられることによって容易に関節拘縮を惹起するため,手術によって解剖学的整復位が得られれば,可及的早期に関節可動域訓練(以下,ROM ex)を開始する必要がある.しかしながら,肘関節の可動域は外傷後の腫脹や浮腫による制限を受けやすく,しばしば日常診療において拘縮発生後の可動域改善に難渋する症例を経験することがある.このような外傷後の肘関節拘縮に対するリハビリテーションとしては,従来より物理療法や徒手的な治療に加えて装具療法1-7)が併用されており,その有用性が報告されているものの,orthosisを用いた報告が散見され,splintを用いた報告例はきわめて少ないのが現状である.

 今回,われわれは外傷後の肘関節軟部組織性拘縮に対して,術後早期から,より円滑で,安全かつ効果的な屈曲可動域獲得への取り組みを模索した.そこで,組織の修復時期や治療段階に応じて安静固定目的として使用した肘関節安静用スプリント(elbow immobilization splint;EIS)を一部修正し,徒手での訓練の補助として肘関節の屈曲可動域改善を促す肘関節矯正用スプリント(elbow flexion splint;EFS)への転用を図るコンバート式スプリント療法を考案した(図1).

 新しい方式でのスプリント療法を併用した経過から,その効果について若干の知見を得ることができたので,考察を踏まえて報告する.

インタビュー 「リハビリテーション温故知新」・第4回

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 1963年に日本リハビリテーション(以下,リハ)医学会が創設され,もうすぐ節目の50年目を迎えます.今後の発展には,過去の歴史を正しく理解するとともに,先達の知恵をうまく活用し応用することが重要です.そのため,本誌では,わが国のリハを支えてきたパイオニアの先生方に,日本のリハの歴史,ご自分の経験や,今後の課題についてお話いただくインタビューを企画しました.

 第4回目は,長年にわたり日本のリハ医療,教育,研究を支えてこられた千野直一氏を迎え,弊誌・編集委員の木村彰男氏がお話を伺いました.

連載 新しいリハビリテーションの取り組み紹介

介助犬 高栁 友子
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介助犬とは

 介助犬とは,肢体不自由者の日常生活動作を助け,自立と社会参加促進をすることを目的として訓練され,認定された犬を言う.落としたものを拾って渡す,手が届かないものを取って来る,段差などで車いすを引っ張る,緊急時連絡手段の確保として携帯電話などを持って来るなど,個々のニーズに合わせた介助を行い(図),希望者との合同訓練ののち,認定指定法人により,使用者と訓練犬がペアで認定を受けている.2002年に制定された身体障害者補助犬法のなかで法的位置づけをもった介助犬は,未だ歴史が浅く,全国で実働数は55頭にとどまる.

 身体障害者補助犬法による認定を行う厚生労働大臣指定法人は,全国に7法人ある.横浜市,名古屋市,兵庫県,千葉県の総合リハビリテーションセンターなどである.

連載 印象に残ったリハビリテーション事例

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四肢麻痺から長下肢装具・松葉杖歩行へ

 彼女との最初の出会いは20年近く前のことです.当時24歳の彼女は,W医科大学の内科に痙攣発作と意識障害で入院し,まるでlocked-in症候群のような状態でリハビリテーション目的に紹介され,ベッドサイドへ往診したのが始まりでした.そのころ私は整形外科に所属し,リハビリテーションを担当しはじめたところでした.

 少し前,1993年(23歳時)に左足背部蜂窩織炎の診断で他病院に入院して治療を受けた時の対応で医療不信になったらしい(詳細は不明)のですが,左下肢麻痺となり,他病院からの紹介で京都市内の病院を受診し,転換性障害と診断されていました.

Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション

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 インド独立の父と呼ばれるマハトマ・ガンジー(1869~1948)の『自伝』(蠟山芳郎訳,中央公論社)第二部「引込み思案,わたしの心の楯」という章には,18歳で英国に渡ったガンジーの対人恐怖症を思わせるエピソードが記されている.

 英国滞在中のガンジーは,「わたしは,イギリス滞在中,ずっとはにかみやであった」と語るように,「ひとを訪問した場合でも,訪問先に,6人かもっとそれ以上の人が居合わせると,黙り込んでしまった」というほど内気な男だった.そんな彼が3年間の英国滞在を終えて帰国する前夜のことである.友人たちをレストランに招待したガンジーは,宴会の余興として演説をしようと考えた.彼は事前に注意深く幾つかの短い文章からなる演説文を用意したが,いざ話そうとすると「最初の文章のところで,先へ進めなくなった」.

Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション

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 日本を抜き世界第二位の経済大国となった中国だが,障害児教育や障害者福祉は,かつての日本もそうであったように遅れた分野になっている.ここは個別の事例をテキストにしながら大衆レベルで実態を直視し,改善に向けてのスピードを加速せねばならない.その任を担ったのが「海洋天堂」(監督・脚本/シュエ・シャオルー)だ.

 開巻一番,父親のワン・シンチョン(ジェット・リー)と息子のワン・ターフー(ウェン・ジャン)による無理心中.これは,未遂に終わるものの,ここから中国における障害者と家族の状況が浮かび上がってくる.

スコープ

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 筆者は以前,本誌本欄で米国とカナダの小児脳外傷プログラムを紹介し,北米ではかなり充実したリハビリテーションが行われていることを伝えた1-3).今回,英国の小児後天性脳損傷リハビリテーション実情の一端をみる機会を得たので報告したい.筆者は1999年に英国の脳外傷自主組織であるHeadwayを訪問したことがあるが,Headwayは成人を対象としており,小児の脳外傷後のフォローは急性期の病院と教育機関が担っているとのことであった4)

 今回訪問したThe Children's Trust Tadworthの前身であるThe Tadworth Court Children's Hospitalを,当時英国に住んでいた筆者は1987年に訪問したことがあった.The Tadworth Court Children's HospitalはNational Health Service管轄の病院の1つであり,ロンドン小児病院で急性期治療を受けた小児がその後のリハビリテーションを行うため,あるいは重度重複障害をもって自宅に帰れない小児を長期に収容してケアするための役割をもっていた.しかし経済難のため,The Tadworth Court Children's Hospitalは1980年代に入ってから存続の危機に至り,閉院が予定されていた.そこに働くスタッフ,患者家族などが存続の必要性を社会に訴え,独立したチャリティ組織(英国では財政を寄付によって賄うことが多い)として再興されたのがThe Children's Trust Tadworthである.

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23.労災患者の職場復帰状況

 山口労災病院リハビリテーション科

  幸田 英二・砥上 恵幸・八木 宏明

  古賀隆一郎・富永 俊克

 われわれは2004年より,勤労者の職場復帰支援に積極的に取り組んできた.今回,労災患者の職場復帰状況を調査したので報告した.〔対象・方法〕2009年度に当科で診療した労災患者46名を対象にアンケート調査を行った.〔結果〕46名中27名から回答を得ることができた.職場復帰状況は,20名が職場復帰していたが,そのうち10名(上肢障害4名,下肢障害6名)が職場復帰に際して不安を感じていた.職場復帰までの期間は,1か月以内が12名,3か月以内が5名,6か月以内は2名であった.今回の調査で,患者の職場復帰への不安に対して,早期から職場復帰支援をしていくことは意義深いと推察された.これからもさまざまな工夫をし,職場復帰支援を主体としたリハプログラムを創造し,実施していきたい.

ニュース

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 本書は,15年にわたって総合リハビリテーション誌上に「映画に見るリハビリテーション」を連載している二通諭氏が,特別支援教育という視点から,近年の映画に描かれた障害ならびに障害のある人々を論じた作品である.本書の目次を見ると,ADHD,アスペルガー症候群,自閉症,人格障害,児童虐待,不登校などの言葉が並んでいて,特別支援教育と言っても,本書が最近話題の発達障害に焦点を当てたものであることがわかる.それは,著者自身の関心ということもあろうが,おそらくは発達障害に対する社会全体の関心の高まりを反映して,そうした問題を扱う映画が多くなったということなのであって,その意味でも本書は時代のニーズに即した内容になっている.

 個々の映画をリハビリテーション的な観点から論ずるということは,氏がかねてより本誌上で試みてきたことであるが,本書の魅力はそれにとどまらず,時代精神のようなものに対する氏の鋭い洞察が語られていることである.たとえば,「補章1 映画の中の障害者像」には,「1990年代は障害者映画の時代でした」という書き出しの文章をはじめ,「障害に内面形成上の意味を与えたという点で本作(1991年「心の旅」)は際立っていましたが,これこそ1990年代の障害者映画群に通底する特徴なのです」,「障害者の権利を守り発展させてきた成果が,1990年代のエイズ患者の権利を支え,救済したという物語であり(1994年「フィラデルフィア」),障害者の権利擁護の運動は当事者のためだけではなく,近未来人をも助ける性格をもっているということがよくわかります」,「2000年代に入ってからは,映画も特別支援時代へと移行し,発達障害や精神障害についての描き分けもていねいになってきました」などの文章があって,二通氏が個別事例的に映画を論じるだけでなく,時代的な背景や社会的な文脈のなかで各々の映画が有する意味についても考えていることがわかる.

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文献抄録

投稿規定

投稿および著作財産権譲渡承諾書

次号予告

編集後記
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 引越した家の近くに大きな公園があることがきっかけで,8月からジョギングを始めました.自慢ではありませんが,私には根気というものがありません.しかもつらいことは大嫌いです.どうせ3日と続かない……と思いきや,何と,現在に至るまでほぼ毎朝走っています.自分でもびっくりです.個人的に重大ニュース2011です.しかし続くには理由があります.それは意外にも,ジョギングが「気持ちいい」,そして何より「楽しい」からです.

 さて,毎朝走っていると同じ人たちとすれ違う事に気がつきます.美空ひばりの似顔絵が大きくプリントされた派手なTシャツで一所懸命ウォーキングするおばあさん.すごい勢いで颯爽と私を追い抜いていくおじいさん.手を胸の前でクネクネさせるという不思議なフォームで走るお兄さん(しかも速い!)などなど…….そして,毎朝追い抜く老夫婦.ご主人は片麻痺があるようで,奥さんがご主人の腕を支えゆっくり歩いています.リハビリとしてウォーキングをされているようです.暑い日も,寒い日も,小雨の日も,毎日本当によく続くなあと関心していました.そして先日逆周りで走ったときお二人の表情を始めて見て納得しました.やっぱり楽しいことは続くんです.

基本情報

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総合リハビリテーション
39巻12号 (2011年12月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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