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本書は,15年にわたって総合リハビリテーション誌上に「映画に見るリハビリテーション」を連載している二通諭氏が,特別支援教育という視点から,近年の映画に描かれた障害ならびに障害のある人々を論じた作品である.本書の目次を見ると,ADHD,アスペルガー症候群,自閉症,人格障害,児童虐待,不登校などの言葉が並んでいて,特別支援教育と言っても,本書が最近話題の発達障害に焦点を当てたものであることがわかる.それは,著者自身の関心ということもあろうが,おそらくは発達障害に対する社会全体の関心の高まりを反映して,そうした問題を扱う映画が多くなったということなのであって,その意味でも本書は時代のニーズに即した内容になっている.
個々の映画をリハビリテーション的な観点から論ずるということは,氏がかねてより本誌上で試みてきたことであるが,本書の魅力はそれにとどまらず,時代精神のようなものに対する氏の鋭い洞察が語られていることである.たとえば,「補章1 映画の中の障害者像」には,「1990年代は障害者映画の時代でした」という書き出しの文章をはじめ,「障害に内面形成上の意味を与えたという点で本作(1991年「心の旅」)は際立っていましたが,これこそ1990年代の障害者映画群に通底する特徴なのです」,「障害者の権利を守り発展させてきた成果が,1990年代のエイズ患者の権利を支え,救済したという物語であり(1994年「フィラデルフィア」),障害者の権利擁護の運動は当事者のためだけではなく,近未来人をも助ける性格をもっているということがよくわかります」,「2000年代に入ってからは,映画も特別支援時代へと移行し,発達障害や精神障害についての描き分けもていねいになってきました」などの文章があって,二通氏が個別事例的に映画を論じるだけでなく,時代的な背景や社会的な文脈のなかで各々の映画が有する意味についても考えていることがわかる.
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