- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
日本において脳卒中は死亡原因としては第3位であるが,要介護要因と高齢者医療費の第1位を占める疾患である.超高齢社会において今後もこの傾向は持続していくことが予想され,脳卒中後のリハビリテーションは社会的にも重要な問題である.
脳卒中急性期での機能回復は主に血行再開や脳浮腫の軽減によって起こり,廃用症候群の予防やADL(activities of daily living)向上のために早期からのリハビリテーションが行われ,その有効性が認められている1).本邦では,急性期治療後に障害が残存する場合,回復期リハビリテーション病棟において集中リハビリテーションが行われることが多いが,この時期の神経症状の回復は急性期とは異なったメカニズムによって起こると考えられている2).
近年,成人においても運動機能などの回復に伴い脳の機能的再構成が起こっていることが明らかとなり,適応的な脳の可塑性を促進するアプローチ(神経リハビリテーション)が提唱されている.このアプローチの理論的基礎として重要なのがNudoら3)による報告である.Nudoらは,リスザルを用い,一次運動野損傷後に適切にデザインされた訓練を実施することで,麻痺側前肢の機能回復とともに,病変側の一次運動野の手指領域が拡大することを示し,大脳皮質の機能的再構成が起こることを証明した.また,一次運動野以外の脳領域の再構成が起こることも知られている.
1990年代初頭から,PET(positron emission tomography)や機能的MRI(magnetic resonance imaging)を用いて,脳卒中患者が運動課題を行っている際の脳活動を対照と比較することにより,亜急性期以降の上肢の運動機能回復は麻痺肢の使用に依存した可塑性(use-dependent plasticity)に基づいた脳の機能的再構成によって生じていることが明らかになってきた4).その後,Miyaiら5)は動きに対する制約が比較的少ない機能的近赤外分光法によって,脳卒中後の片麻痺歩行が改善するに従い,初期は低下していた病変半球の内側一次運動野の賦活を認めるようになることや,病変部位や広がりによって,補足運動野,運動前野などの活動がみられることを報告した.
適応的な脳の可塑性を促進,修飾するリハビリテーションの手法を求め,さまざまなアプローチが検証されつつある.上肢に関してはconstraint-induced movement therapy(CIMT),ロボット補助訓練,歩行に関してはロボット補助訓練(Gait Trainerなど),課題指向型歩行訓練,フィットネス訓練,歩行集中訓練,歩行と移乗の反復訓練,速度漸増型トレッドミル訓練が,複数のrandomized controlled trial(RCT)に対するメタ解析から有効性が示唆されている6).
また,今後有効性が立証されることが期待されている新規な治療として,経頭蓋磁気刺激,経頭蓋直流電流刺激,リハビリテーションと薬物の併用などがある6).これらはリハビリテーション介入に対して生じる脳の可塑的変化を修飾しよう(neuro-modulation)という試みである.
本稿では神経リハビリテーションのトピックスのうち,運動麻痺に対してのCIMT,課題指向型歩行訓練の1つであるBWSTT(body weight support treadmill training),上肢や歩行に対するロボット補助訓練,経頭蓋磁気刺激などについて,その背景と考え方について述べ,エビデンスレベルについても記述する.
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.