総合リハビリテーション 19巻11号 (1991年11月)

特集 心疾患リハビリテーションの新しい考え方

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 心臓リハビリテーションの概念

 WHO(世界保健機関)の定義によれば,心疾患患者のリハビリテーションとは,「患者が可能なかぎり良好な,身体的・精神的・社会的状態を確保するのに必要な行動の総和であり,患者自身の努力により,社会・地域生活における,できるだけまともな地位を確保することである」とある.すなわち,心臓リハビリテーションは身体的のみならず,精神的・社会的に,より質の高い復帰を目指すための再調節過程であり,心筋梗塞を発症した時点からその患者に生涯にわたり関わってくる概念である.

 このように,心臓リハビリテーションは長期にわたるため,図1)に示すように3つの時期に分けて考えられている.ここでは急性期リハビリテーションを中心に述べる.

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はじめに

 虚血性心疾患(心筋梗塞と狭心症)の急性期リハビリテーションが本邦においても定着しており,その内容も運動療法,栄養指導,そして日常生活指導などで包括的に構成されている.しかしながら,運動療法に限ってみると,運動負荷量が少なく治療期間が短いために,心身の回復が十分に得られていない症例がみられる.ここ数年来,一部の大学病院や循環器専門病院では,虚血性心疾患患者のうち急性期(発症から3~4週間まで)の運動療法を行ったときに,心不全などの著しい合併症を認めなかった症例に対して,さらに負荷量の多い運動療法を試みてい1~3).一般的に急性期を過ぎてから1~2か月の期間を回復期とし,それ以後を維持期としており,それぞれの期間の運動療法で精神身体機能の改善2~6)を認めたことから,急性期を過ぎた後の運動療法の発展と普及が期待される.

 一方,虚血性心疾患以外の運動療法については系統的な報告が少なく,専門施設においてでさえ必ずしも十分に進められていない.近年,慢性心不全状態における骨格筋の病態生理学的な知見7~10)が得られるとともに,心筋症や心臓手術後に運動療法が有効であることが報告11,12)された.これらのことから,種々の心疾患や心不全状態における運動療法の実践が検討されなければならないと考えられる.

 本稿では虚血性心疾患の回復期および維持期,そしてその他の心疾患の慢性期のリハビリテーションのうち,運動療法についての現状を一総合病院の立場から紹介する.

運動と側副血行 土肥 豊
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 冠動脈疾患とは?

 心疾患の中で,特に狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は,一名冠動脈疾患とも呼ばれるように冠動脈の狭窄を主な原因として生ずる疾患である.冠動脈はその名のように心臓をあたかもギリシャ時代の月桂樹の冠のように取り巻き,次第に細い枝に分岐しながら心筋内に動脈血を送り込んでいる.その大きな血管は右冠動脈,左冠動脈前下行枝および回旋枝の3本であり,各1本のみが有意の狭窄(内腔の75%以上の狭窄)を示した場合を1枝病変といい,2本おかされた場合を2枝病変,3本ともおかされた場合を3枝病変という.これら冠動脈の病変がただちに臨床症状の出現に結びつくとはいえないが,ある冠動脈分枝に75%以上の狭窄があった場合,その分枝が血液を送り込んでいる領域,すなわち灌流領域は,安静時においては需要を満たすだけの血液の(すなわち酸素の)供給がなされていたとしても,肉体的労作(身体運動や食事など)に伴って現れる酸素需要の増大に対応し得るだけの灌流血流量の増加は認められず,したがって心筋内における酸素の需要と供給の間に不均衡を生じ,好気性代謝によってまかなわれていたエネルギー産生が,嫌気性代謝に転換せざるを得なくなってくる結果,ブドウ糖分解によるATP産生の際のTCAサイクルの結果生ずるピルビン酸の産生に代わって乳酸が大量に心筋内に出現してくることになり,これが神経終末を刺激して狭心痛を引き起こすことになる.これが労作狭心症の成り立ちである.また,時には冠動脈の比較的太い部分にスパズムといわれる,いわゆるけいれんを生じ,そのためにそれより末梢の血行が一時的にほとんど流れなくなる状態となり,やはり心筋に虚血をきたす結果,狭心症発作を引き起こす.これが安静時に起こる狭心症の成り立ちである.

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はじめに

 近年,温泉健康施設やクアハウスが各地につくられ,入浴や温泉に対する関心が高まってきている.入浴が身体に与える最大の効果は,表に示す温熱効果と水中浸漬による水圧,浮力の影響であるが,温泉地等での長期連浴効果も重要と思われる1~3)

 しかし,入浴や温泉の作用については,従来,その最も顕著な循環器系への作用についてさえ漠然とした循環促進等の言葉でしか語られず,その効果,作用機序,疾患への適応についても極めて曖昧なままであった.入浴は日常生活に密着した行動であり,高血圧,心疾患患者への適応や禁忌とともに,種々の疾患のリハビリテーションへの応用についても検討すべき課題は多い.

 入浴,水治療には種々の臨床的応用が考えられ,その対象も多岐にわたるが,ここでは主に循環に関したものについて我々の経験をもとに述べる.

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はじめに

 普段,いわゆる健康に生活してきた人が,ある日突然,心臓発作で倒れた場合,最初に患者自身が考えることは生命に対する不安である.急性期を過ぎてからは,退院後どのように生活すればいいか,もとの仕事に戻ることが可能なのか,などの心配が出てくる.

 心疾患のリハビリテーションは特に心筋梗塞のリハビリテーションの流れの中で,退院し,社会復帰し,ある程度の日常労作が可能となり,その後復職させることが,再発作予防など予後の改善とともに一つの大きな目的でもある.

 しかし,心筋梗塞慢性期の病態は症例により様々である.幸いに退院できた症例でも,心機能の低下が著しく,かろうじて軽度の日常労作が可能な例から,心機能は十分に回復して,再発作などの危険もなく,健康な人と同じように生活できる例まで広い範囲にわたっている.復職をあせるあまり,心機能が悪い例に無理して早期に復職させ,再発作,梗塞後狭心症,心不全,不整脈などの合併症が出現して再入院する場合もある.また逆に安全をとるあまり,心機能がよく,なんら危険性のない例を長期間復職させないでいる場合もある.

 しかし,復職については病態の重症度のみから決められるものではない.年齢,性別,社会的地位,経済面,家族構成,精神面,病気に対する理解度,職業の種類など様々な因子が複雑に絡み合っている.

 医師は急性期の病態,入院中のリハビリテーションの進行度,心カテーテル所見,運動負荷試験の成績,退院後のリハビリテーションの進行度などを参考として職場復帰の時期を決めるべきである.

 我々は当院第3内科に急性心筋梗塞で入院した患者に対して,退院後アンケート調査を行っているので,本稿においてはこの成績を中心に述べる.

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 リハビリテーション科に入院または外来通院している患者が労働年齢にある場合,治療終了時に職業復帰できるか否かは大変重要な問題である.身体障害者の一般雇用に関しては,昭和35年に制定された身体障害者雇用促進法により身体障害者を一定の割合で雇用することが定められ,昭和51年の改正で身体障害者の雇用が法的義務へと強化され,身体障害者の就労も稀ではなくなりつつある.リハビリテーション科の患者が職業復帰に成功するか否かは,原疾患の種類と重症度,性,年齢,機能障害,能力障害などが関係しており,さらに本人や家族の障害受容や就労に対する意欲,雇用者の身体障害者受け入れへの理解に基づいている.我々の病院ではリハビリテーション科入院患者の高齢化,重症化のため,職業復帰に成功する患者は数パーセント未満に過ぎず,現実はなかなか厳しい印象がある.

 それでは,どうすれば身体障害者の職業復帰を押し進めることができるのであろうか.現在のところ,適切な職業関連活動の評価と訓練,カウンセラーの有効的活用,身体障害者就労に関する啓蒙活動が大切であると考えている.

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はじめに

 本稿は聴覚的理解が比較的良好である失語症者への言語療法における心理学的アプローチの一つの試みを,実例を通して紹介することを目的としている.

 言語療法における心理学を考えるとき,それは2つに大別される.治療環境としての心理学と治療方法における心理学である.前者は患者の治療意欲や心的安定に関わるものであり,患者との接し方や建物,家族の問題,患者の精神状態など,いわゆる多くの人が心理学といえば頭に思い浮かべるものである.一方,後者は治療方法自体に関わるものであり,治療方法の発想・構成に生かされている心理学といえよう.

 現在,言語療法において中心となっている技法は,Schuellら(1964年)によってまとめられた刺激法である.統制された刺激(主として聴覚刺激)を反復して与えることにより言語機能が再組織化されるという考えに基づくものである.実際の訓練としては,絵カード等を用いての指さし・復唱・呼称等が中心として行われている.この方法は実績を持つ方法として広く用いられており,オペラント条件づけに基づくプログラム学習法同様,単純化・構造化されているが故に,その適用範囲も広いという特徴を持っている.一方,思考やコミュニケーションを重視するWepman(1972,1976年)らの考え方は,PACE(Promoting Aphasics' Communicative Effectiveness)(DavisとWilcox,1985年)へと発展した.これには新しい情報交換を主とした対話構造,コミュニケーション手段の自由な選択などが導入されており,直接法といえる刺激法の一方通行性,言語偏重性に一石を投じる実用性と,自由さを持った方法ということができ,我が国でも伊藤(1988年)によって有効事例が紹介されている.

 これらの方法は,いずれも理論的妥当性と有効性を持っている.発語やコミュニケーションの“メカニズム”に対する考察が深くなされている方法といえよう.しかしながら,言語療法としての方法の中により心理学を生かすべく,さらなる検討を行っていく必要が感じられる.

 今,“生きた言葉”というものを考えてみたい.言葉には,意味を伝える記号としての役割があるが,りんごを食べたいなという思いが言葉となった「りんご」と,「りんごと言ってみましょう」と促されて発せられた「りんご」とは,その質においてまるで違うものである.前者は気持ち・感情のこもった言葉であり,その発生過程には前言語的“思い”の段階がある.後者は、たとえそれがきれいな言葉であっても気持ち・感情のこもっていない言葉である.その発生過程に前言語的“思い”はない.前者を“生きた言葉”,後者を“記号としての言葉”と呼ぶことにするとき,我々言語療法士は患者から“生きた言葉”をこそ引き出すことに努力しなければならないのではないだろうか.とりあえずは「りんご」が「いんご」になろうとも「んご」になろうとも構わないと思われる.“生きた言葉”を使う体験の積み重ねによって,失語症者の言語的改善が効果的に促進されると思われる.

 次に我々が働きかけるべき対象について考えてみたい.我々は言葉に障害を持つ患者を前にしたとき,つい言葉をなんとかしようと思いがちである.結果として,人間不在の機械的セラピーとなってしまうことが多い.評価に終始するセラピーもこのタイプである.そこで,言葉の持ち主であり,言葉を操る“主体”の存在を仮定してみたい.もちろん,これは目には見えないし,存在の証明も不可能であるが,“俺”あるいは“私”として誰でもが存在を感じているものである.長年失語症の患者と接してきて感じられることは,主体に働きかけることの重要性である.すなわち,主体がどう感じ,どのような体験をするのかを主眼に置き,場と課題を設定することが必要であると思われる.そして,そのとき,セラピストは主導権を持ちつつもあくまで援助者であり,主役は患者自身であるという自覚を持つことが必要と思われる.

 ここで紹介する心理学的アプローチの試みは,このような考えのもとに,主体が生き生きとした体験をし,心を動かし,結果としてそれが言葉になることを狙ったセラピーである.症例数も100例に満たないが,その効果が確かめられたので紹介したい.

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はじめに

 一般に,肥満症はいわゆる“肥満”が主体で,本態性肥満ともいわれる単純性肥満と,何らかの基礎疾患により肥満の病態を発現する症候性肥満の2種類に大別される.症候性肥満は原則的には基礎疾患の改善に伴い肥満は解消する.肥満症の90%は単純性肥満が占めるといわれており,一般に肥満症とは単純性肥満を指す1)

 単純性肥満(以下,肥満症と略す)の成因としては,過食,食習慣の変化,遺伝,運動量減少などが考えられるが,とりわけ食物供給の増加,食事の西欧化による食事内容の構成の変化,ストレス解消の手段などによる過食と,乗り物などの社会習慣や生活様式の変化に伴う日常生活での運動量の減少,不足が重要な要因として挙げられる1,2).近年,これら生活様式,食生活の変化に伴い肥満症患者は増加傾向にあり,その症状も重度化の傾向にある.

 これまで肥満症治療については様々な報告がなされているが,肥満症治療の原則はエネルギー出納のバランスを長期的,かつ継続的に負の状態に保つことにあり,減食による摂取エネルギーの制限が治療の主体を占めているといえる.しかしながら,食事療法のみでは減量効果が停滞する適応現象が必ず出現するので,最近では食事療法に運動療法を加え,適応現象を克服する併用治療が重視されるようになり3),リハビリテーション科の理学療法部門が運動療法を行い協力するようになった.

 当院第3内科では,通常の食事療法では効果の不十分な重症肥満患者に対して,超低エネルギー食(very low calorie diet: VLCD)を用いた半飢餓療法により肥満症治療が行われてきた.

半飢餓療法4,5)とは,1日の摂取エネルギーを200~600kcal以下に制限する食事療法である.これは重症の肥満症や,通常の低エネルギー食ではなかなか痩せられない治療抵抗性を示す肥満症に用いられ,短期間に大きな減量効果を得ることを目的としている.また半飢餓療法においては,絶食療法にみられるような重篤な副作用を防止し,かつ絶食療法に匹敵する体重減少効果が得られるといわれている.

 これまで糖尿病を中心とした運動療法の治療目的・効果については,いくつかの報告があるが,特に肥満症に対し半飢餓療法と併用された運動療法の報告は極めて少ない.

 そこで今回,我々は半飢餓療法による肥満症治療において,運動療法が及ぼす効果について検討するとともに,運動療法のあり方について若干の知見を加え報告する.

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はじめに

 モーズレイ性格検査(以下,MPIと略)はアイゼンクによって開発された質問紙法による検査で,神経症傾向および向性(内向性・外向性)の2つの特性によって,パーソナリティを類型化することを特徴としている.同じような質問形式をとるMMPIに比べて,質問項目が大幅に少ないため短時間に施行でき,本邦においても精神科領域の患者や一般成人の性格検査として広く利用されている.また,MPIの背後にあるアイゼンクの人格理論は,明確な生物学的・神経学的基盤を有しており,神経心理学的領域からも研究がなされている1)

 当院臨床心理科では1年前より入院中の脳血管障害例のパーソナリティの評価にこのMPIを用いているが,その中でいくつかの知見を発見し,本検査の有用性を確認しえたので報告したい.

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はじめに

 片麻痺患者における歩行の評価は,これまで床反力計など機械器具を用いる方法,歩行速度の測定など,課題テストを用いる方法が行われてきた1~5).しかし,これらの研究は歩行障害が軽いものを対象としたものであり,リハビリテーション医学で特に重要な歩行不能の対象を歩行可能にする段階ではあまり役に立たない6).こういった症例は従来,臨床的な分類7~9)が行われてきたが,いずれも歩行時に使用する下肢装具・歩行補助具によって,間接的に歩行能力を推測するものであって,歩行の運動学的な要素を十分に表していない.

 以上の問題点に対して,歩行観察によれば,対象を選ばずに歩行能力を直接的に評価することが可能である6,10).しかし,主観的評価法であるために,観察者によって評価が一定しない欠点がある11).そこで我々は歩行観察における観察者の主観的判断の特性を調査し,その結果をもとに一致性の高い評価基準づくりを試みたので報告する.

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はじめに

 低出力半導体レーザーは,従来,除痛を目的に使用きれてきた.

 今回,我々は痙性麻痺,特に痙性尖足を有する症例に対して,痙性の緩解を目的に低出力半導体レーザー(以下,レーザーと略す)の照射を行う機会を得たので,その小経験を報告する.

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はじめに

 正常歩行の研究はこれまでに主として筋電図,床反力計,ムービーなどを用いて行われてきだ1).しかし,その多くは成人を対象としたものであり,小児の発達期歩行に視点を当てた研究は非常に少ない.しかも,この領域は依然として統一見解が得られていない分野ともいえよう.

 我々はこれまでに2歳から12歳までの48人の健常男子を対象として歩行周期の検討を行ってきた.その結果,フットスイッチによるデータから1歩行周期の立脚期割合と遊脚期割合が年齢を問わず一定であることを明らかにした2).また,フットスイッチと歩行分析システムであるSelspot Ⅱを組み合わせた研究を行った結果,真の踵接地は膝関節の最大伸展位よりも遅れ,真の足尖離地は足関節の最大底屈点よりも早まることを示した.しかし,Selspot Ⅱを用いる上で膝関節の最大伸展位を踵接地に,また足関節の最大底屈位を足尖離地に定めても,得られた歩行周期データはフットスイッチ単独によるデータと強い相関を示すことが分かった.

 これらの結果から,我々は厳密な定量評価を必要としない場合には,Selspot Ⅱ単独による歩行周期の時間因子分析を行っても十分な結果が得られるとの結論に至った3)

 今回の研究では,以上の結果を受けてSelspot Ⅱ単独による歩行周期の検討を行った.

講座 日常生活動作の再検討(11)

コミュニケーション障害 綿森 淑子
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はじめに

 失語症の評価は従来,狭い意味での言語機能(音韻,統語,語彙の操作能力)の分析中心であったが,近年は包括的なコミュニケーション能力という面から捉え直す気運が高まっている1).その理由の一つとしては,言語の使用面(語用論的側面)についての検索,非言語的コミュニケーション行動の検討などが進んだ結果,日常のコミュニケーション場面における言語と言語以外の多様な文脈(その場の状況,対話の相手や話題などについての知識,記憶,思考,感情,非言語的な情報など)のかかわりについての理解が深まってきたことがあげられる2)

 言語の使用面についての研究からは,失語症患者は狭い意味での言語機能には障害を示すものの,語用論的側面の障害は少ないことが示唆されている1,3).その一方,表面的な言語機能には障害が少ないため,コミュニケーション上の問題が見過ごされていた患者群が,実は語用論的側面に特異な障害を持ち,現実のコミュニケーション場面では様々な問題を呈することがクローズアップされてきた1,2,4~8)すなわち,右半球障害,痴呆,閉鎖性頭部外傷などの患者である.これらの患者では,狭い意味での言語機能には大きな障害がなく,失語症検査場面のように,一定の枠組みに沿ってコントロールされた刺激が与えられる状況下では,コミュニケーション上の問題が検出されにくい.しかし,様々な出来事が流動的に起こる雑然とした現実場面では,認知能力,実行機能の障害の影響が二次的にコミュニケーション行動の破綻という形で姿を現す(表1)8).こうした語用論的側面の障害を主体とするコミュニケーション障害に対してcognitive-communicative impairments(認知能力障害を基盤としたコミュニケーション障害)という用語が用いられるようになったのは最近のことである9)

実践講座 リハビリテーション処方実例集(5)

切断・義肢 木村 彰男
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はじめに

 切断と義肢に関するリハビリテーション上の問題は極めて多岐にわたる.すなわち,切断術施行前からの理学療法・作業療法・心理的問題への対応をはじめ,手術後の切断端の管理,義肢装着法,義肢の処方など多くの問題に対応しなければならない.さらに上肢と下肢で違いがあることは勿論,原疾患や患者の年齢などによっても,その処方の内容は違ってくる.誌面の制約もあり.これらのすべてに言及する余裕はないので,本稿では成人の下肢切断に限定して,手術前からの流れに沿いながら,ナースや療法士への断端の管理・運動療法に関する処方と,義肢製作者に対する義肢作製上の処方の問題を中心に,症例も交えながら解説したい.

一頁講座 リハビリテーション関連用語集(11)

機関委任と団体委任 今田 拓
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 「委任」とは,民法上で当事者の一方が法律行為をなすことを相手方に委託し,相手方がこれを承諾することによって成立する契約と説明されるが,もう一つ行政権限の委任という意味があり,行政行為や処理に際し重要な背景を持つもので,機関委任と団体委任はそのあり方の区分につけられたもである.

 行政権限とは,法律上行政が有している行政行為や処分能力の範囲を指すもので,そのあり方として行為そのものの質的階層範囲(例えば,複雑な事例の解決は上級の行政庁が担当するなど)の場合もあれば,町とか村のような行政区域を意味する場合などがある.一般に隣接した権限との境界線は非常にハードにできあがっており,これが縦割行政をもたらすことになる一方で,境界線にあって,まだどちらの行政範囲にもなっていない,いわゆる行政の谷間といわれる問題も少なくない.

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 第65回関東リハビリテーション医学懇話会は平成3年2月16日,隅田川の河畔に新装開院したばかりの東京都リハビリテーション病院で開催された.この病院は都市型リハビリテーション専門病院として東京都が設立し,東京都医師会が運営を委託されたユニークな病院で,病院建築学上も,各種設備でも注目されているので,開会に先立って病院見学会も催された.

 11題の演題発表があり,約80名の参加者があった.アット・ホームな雰囲気の中にも活発な質疑応答があり,多大の成果を得ることができた.会後食堂で懇談会を催し,同志相集うて交遊を深めることもできた,次回は6月22日,埼玉医科大学リハビリテーション科(近藤徹教授)担当で開催されることになった.

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 医・歯学生のみならずコメディカルの学生の教育に第1に要求されるのが生理学と解剖学の教育である.

 解剖学は人体構造の基本形態および構造の相互関係を理解することにある.コメディカルの解剖学教育には,多くの努力を費やしてなおいきわたらない恨みがあるのは,解剖学教育に携わっている者の実感である.中でも苦しむのは学生が構造の相互関係を理解し,把握することの困難さである.このようなことでなにか簡明でわかりやすい図書なり,アトラスがないのものかと思案していた昨今であった.

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 「うまい英語で医学論文を書くコツ」という英文論文の書き方のコツを示した本が,植村研一教授により出版された.

 私はLS King著の『なぜ明快に書けないのか』(メディカル・サイエンス・インターナショナル,1981年)という,元米国医師会ジャーナル(JAMA)の名編集長の著書を監訳したことがあるので,英語での文章づくりに非常に興味をもっていた.これは主に英語で語る専門職の間で非常によく読まれた本であるが,植村先生の本は,日本人にはどこが間違いやすいかということを十分承知の上で,日本人向きに書かれてあるので非常に役に立つ.

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文献抄録

編集後記 千野 直一
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 リハビリテーション医学のアイデンティティが叫ばれて久しい.この背景には,従来の臓器別の医学の進歩と異なり,“運動機能の障害”を中心とするリハビリテーション医学は他の専門分野の医療職からも完全には認められているとは言いがたい面があるからである.

 “心疾患のリハビリテーション”は,循環器を専門とする医師も当然施行しているが,最近はリハビリテーション医学の分野でも多くの患者を取り扱うようになった.この領域は患者に対して医療者側のより密接なチームワークが必要とされる.十数年前に,筆者の病院で“心疾患リハビリテーション”を開始したとき,循環器内科の医師と我々で“合併症のない心筋梗塞症の患者で,急性期を過ぎたものはリハビリテーション科のスタッフが日常生活などの面で患者のケアに携わる”という役割分担を行い,チーム医療を進めてきた.すなわち,循環器内科の医師は急性期の心疾患患者の治療に忙しく,また研究課題の多さゆえに日常生活動作や社会復帰などの問題はリハビリテーション科に任せたいという合意を得て現在に到っている.

基本情報

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総合リハビリテーション
19巻11号 (1991年11月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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