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冠動脈疾患とは?
心疾患の中で,特に狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は,一名冠動脈疾患とも呼ばれるように冠動脈の狭窄を主な原因として生ずる疾患である.冠動脈はその名のように心臓をあたかもギリシャ時代の月桂樹の冠のように取り巻き,次第に細い枝に分岐しながら心筋内に動脈血を送り込んでいる.その大きな血管は右冠動脈,左冠動脈前下行枝および回旋枝の3本であり,各1本のみが有意の狭窄(内腔の75%以上の狭窄)を示した場合を1枝病変といい,2本おかされた場合を2枝病変,3本ともおかされた場合を3枝病変という.これら冠動脈の病変がただちに臨床症状の出現に結びつくとはいえないが,ある冠動脈分枝に75%以上の狭窄があった場合,その分枝が血液を送り込んでいる領域,すなわち灌流領域は,安静時においては需要を満たすだけの血液の(すなわち酸素の)供給がなされていたとしても,肉体的労作(身体運動や食事など)に伴って現れる酸素需要の増大に対応し得るだけの灌流血流量の増加は認められず,したがって心筋内における酸素の需要と供給の間に不均衡を生じ,好気性代謝によってまかなわれていたエネルギー産生が,嫌気性代謝に転換せざるを得なくなってくる結果,ブドウ糖分解によるATP産生の際のTCAサイクルの結果生ずるピルビン酸の産生に代わって乳酸が大量に心筋内に出現してくることになり,これが神経終末を刺激して狭心痛を引き起こすことになる.これが労作狭心症の成り立ちである.また,時には冠動脈の比較的太い部分にスパズムといわれる,いわゆるけいれんを生じ,そのためにそれより末梢の血行が一時的にほとんど流れなくなる状態となり,やはり心筋に虚血をきたす結果,狭心症発作を引き起こす.これが安静時に起こる狭心症の成り立ちである.
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