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はじめに
失語症の評価は従来,狭い意味での言語機能(音韻,統語,語彙の操作能力)の分析中心であったが,近年は包括的なコミュニケーション能力という面から捉え直す気運が高まっている1).その理由の一つとしては,言語の使用面(語用論的側面)についての検索,非言語的コミュニケーション行動の検討などが進んだ結果,日常のコミュニケーション場面における言語と言語以外の多様な文脈(その場の状況,対話の相手や話題などについての知識,記憶,思考,感情,非言語的な情報など)のかかわりについての理解が深まってきたことがあげられる2).
言語の使用面についての研究からは,失語症患者は狭い意味での言語機能には障害を示すものの,語用論的側面の障害は少ないことが示唆されている1,3).その一方,表面的な言語機能には障害が少ないため,コミュニケーション上の問題が見過ごされていた患者群が,実は語用論的側面に特異な障害を持ち,現実のコミュニケーション場面では様々な問題を呈することがクローズアップされてきた1,2,4~8)すなわち,右半球障害,痴呆,閉鎖性頭部外傷などの患者である.これらの患者では,狭い意味での言語機能には大きな障害がなく,失語症検査場面のように,一定の枠組みに沿ってコントロールされた刺激が与えられる状況下では,コミュニケーション上の問題が検出されにくい.しかし,様々な出来事が流動的に起こる雑然とした現実場面では,認知能力,実行機能の障害の影響が二次的にコミュニケーション行動の破綻という形で姿を現す(表1)8).こうした語用論的側面の障害を主体とするコミュニケーション障害に対してcognitive-communicative impairments(認知能力障害を基盤としたコミュニケーション障害)という用語が用いられるようになったのは最近のことである9).
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