看護教育 60巻12号 (2019年12月)

特集 自ら学び、生きる力を育む―ポートフォリオが照らすそれぞれのキャリア

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アクティブ・ラーニング、教育のICT化など、世界的に教育に大きな変革がうたわれています。そこには、一斉授業による、すべての学生へ同質の教育を実施するあり方への見直しが通底しています。価値観や働き方がさらに多様化していく時代において、自らで目標を定め、個々人で学びながら生きていく力が求められています。

現在、そうした個人の学びを支えるものとして、初等・中等・高等すべての教育において、ポートフォリオに注目が集まっています。これまでも、看護基礎教育では、さまざまな形でポートフォリオが活用されてきました。今特集ではあらためて、個々の学びを支えるポートフォリオの教育的意義を確認し、豊かな実践例をご紹介します。

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教育は未来をみつめるところから

―今、社会構造の変化やAIなどテクノロジーの発展などを受けて、社会全体で「働き方改革」が進められています。厚生労働省はこれを「働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革」と位置付けています。看護分野においても、社会や医療の動きに伴い、「働き方」「学び方」が変わりつつあるといえるでしょう。

 今回はあらためて、ポートフォリオの取り組みの第一人者であり、次世代プロジェクト学習を全国で実践し確実な効果をあげ、発信を続けてきた鈴木敏恵先生に、こうした激変する時代におけるキャリアの考え方や教育機関がこれから目指す未来の教育の方向などについて、お伺いできればと思います。

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ポートフォリオ導入に至った経緯

 2011年頃、私の所属するパナソニック健康保険組合立 松下看護専門学校(以下、本校)では、休・退学者および就職先病院での1年未満の離職者が増加していた。この状況は、すなわち数ある職業のなかから看護師を選択し、当校に入学してくれた学生たちの夢を叶えるような支援ができていないのではないかと悩み、打開策を模索していた1)。こうした時期に、鈴木敏恵先生が書かれた『看護師の実践力と課題解決力を実現する!ポートフォリオとプロジェクト学習』2)に出会った。

 近くの大学で研修会が行われた研修会は、ポートフォリオを手段としたプロジェクト学習の目的に始まり、意志ある学びが実現すると、教員側が設定した学習目標を学習者たちが簡単に超えていく、しかも活き活きと学びながら3)……。そんな内容であった。

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キャリアデザインを取り入れたきっかけとねらい

 日本赤十字秋田看護大学(以下、本学)は看護の単科大学です。資格取得というはっきりとした目的をもって入学をしてくる学生が多いものの、なかには在学中に看護職としての適性について悩んだり、座学での順調さが一転、臨地実習での単位取得に苦労したりする学生も一定数います。現状、国家試験さえ受かれば就職は保証されていますが、1年未満で辞めてしまったという話を聞くこともめずらしくはありません。若いうちの試行錯誤は将来の役には立つと思いますが、渦中の本人は挫折だと感じて苦しむ場合もあるでしょう。

 学生が在学中に、もう少し将来のことを「具体的に」「主体的に」考える機会があってもよいかもしれないと、大学教育においてのキャリアデザインの必要性を感じていたところ、ちょうどよいタイミングで秋田県企画振興部少子化対策局関係補助金等交付のチャンスをいただきました。この補助金は、大学卒業後、秋田での暮らしや就職、結婚や妊娠・出産、家族との生活など、将来を見通したキャリアを考えるための知識や情報を学生に適切に提供するとともに、個人の意志を尊重した自然な意識の醸成を目指すプログラムに対して交付されるものです。

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在宅チームとして見えてきたこと

 私は、5年前に日本赤十字秋田看護大学に在学中、キャリアデザイン作成に取り組みました。

 秋田県で育った私は、在学時より、看護師として秋田の地域で病院と自宅との懸け橋になりたいと思っていました。2年次の講義で「地域包括ケアシステム」について学習し、このシステムは、高齢化の進んでいる秋田にとって、とてもよいものだと感じました。

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生涯学び続ける力の育成を目指して

学校の概要

 埼玉県立常盤高等学校看護科(以下、本校)は、看護科3年+看護専攻科2年の5年一貫教育による看護師養成を行う専門高校である。1970(昭和45)年に准看護師を養成する常盤女子高等学校として創設され、今年50周年を迎えた。目指す学校像は、「豊かな人間性、確かな知識・技術を兼ね備えた看護のスペシャリストの養成」であり、地域社会の保健衛生の充実、発展に貢献し得る優秀な看護職者を養成することを教育目標に教育活動を行っている。

 本校は2014〜18年の5年間、文部科学省より「社会の第一線で活躍できる専門的職業人の育成」を目指したスーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(以下、SPH)の指定を受け、「生涯学び続ける力の育成」の一環としてポートフォリオを導入した。ポートフォリオの活用をとおして見えてきた本校の変化について報告する。

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 国際ティビィシィ小山看護専門学校(以下、本校)は、2015年栃木県小山市に初めて誕生した1学年定員80名の3年課程(総学生数240名)の看護専門学校です。学校法人TBC学院としては、2校目の看護専門学校で、開校5年目を迎えました。緑に囲まれた静かな環境の学校です。現在の5回生は、現役生7割、社会人3割程度で、2割が男子学生です。

 2019年から「意志ある学び」を大切にされている鈴木敏恵先生の指導を受けながら教育改革を進めている状況です。

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血液透析受療者の授業参加

リアリティのある看護学教育のために

 医療教育の方法の1つであるOSCE(Objective Structured Clinical Examination/客観的臨床能力試験)*1は、医学部および歯学部、薬学部(6年課程)での卒業要件である他、看護学においてもその重要性は意識され、演習などの形式で導入されている。OSCEにおいては、SP(Simulated Patient/模擬患者)*2として養成された一般市民が患者役を担い、学習に沿って作成されたシナリオどおりに演じる。SPを起用した演習は、机上で学ぶことが難しいチームワークやコミュニケーションのスキルを主体的に学ぶ機会となり1)、臨地実習に準ずるようなリアリティのある学習を可能にする。しかし一方で、臨床技能習得を叶えるシナリオ作成などの教員の負担が指摘され2)、特にOSCEにもとづく評価における「演技の標準化」についての課題が報告されている3)

 このようなリアリティのある教育方法は、わが国における看護教育史にも見て取れる。患者の世話をその家族や付添婦*3が行うのではなく、看護師がその役割を担うとされた*41950(昭和25)年の完全看護体制では、看護師不足を背景として、看護学生は「実習」と称した医療機関での貴重な労働力となっていた4)。主に大部屋の患者の身のまわりの世話が看護学生の実習となっており、その大部屋は「実習病棟」とされ、医学生にとっての医術習得の場にもなっていた5)。また、看護師養成においても、演習では生身の人間を対象としていたことから、現代のようなモデル人形の使用はやむを得ない手段であった6)といえる。

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 今回、聖路加国際大学で行われた映画『人生、ただいま修行中』の試写会と本作の監督であるニコラ・フィリベール氏の特別講義に参加しました。私は消化器外科病棟で8年間臨床を経験し、現在、聖路加国際大学大学院看護学研究科にて、「看護を教えること」について学んでいます。その立場から、この映画と特別講義を通じて感じたことや考えたことなどについて述べたいと思います。

 本作はフランス、パリ郊外の看護学校を舞台に、看護学生がさまざまな経験を積み看護師へと成長していく姿を描いた物語です。授業の様子から始まり、実習、実習終了後の教員との面談と進んでいきます。監督は自身の肺塞栓の体験をきっかけに、この作品を企画したそうです。特別講義にて監督は、「フランスでは看護師の社会的地位が低く、医療者ではない人々に看護師の仕事を知ってもらうことで、この仕事がいかに社会にとって重要であるかを伝えることが趣旨である」と話していました。さらに本作では、さまざまな人種や宗教の学生や患者が登場します。それらの人々のかかわりのなかで成長する看護学生の姿を描くことにより、社会の多様性と、社会が変わっても変わらない重要な価値観について示唆しているともおっしゃっていました。

連載 つくって発見! 美術解剖学の魅力・24【最終回】

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 肺は、胸郭内にややふくらませた状態で留められた風船のような臓器です。ただし、その内部は肺胞という極小の袋の集合体で、細かい泡が固まったスポンジに似ています。胸郭が呼吸筋の働きで拡張すると、内部の圧力が下がって肺がふくらみます。ふくらんだ肺は、その弾性によって縮もうとします。

 まず、粘土でドーム状の土台を作り横隔膜とします(①下)。次に、胸郭を上が尖った卵形に作り、前後から押して扁平にします。後ろ側は背骨が通る部分に深い縦溝を刻み、底面は横隔膜のカーブに合わせて深くえぐります(②)。これを正中で半分に切って左右の肺にします。切断面を整えながら、気管支が肺に出入りする肺門を形成します。左右の肺の間には心臓や気管、食道がはさみ込まれています。心臓は若干左に寄っているので、左肺の内側を大きく凹ませます。心臓を涙形に作り、これを横隔膜の上に乗せ、左右の肺ではさむように調節します(①)。

連載 〈教育〉を哲学してみよう・5

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 人はどのようなときに学ぶのだろうか。連載の前回、「アクティブ・ラーニング」(主体的・対話的で深い学び)を問い直し、人が主体的に「考える」のは、これまでのやり方ではうまくいかない状況に遭遇したり、謎や不思議さに出会ったりしたときが多いということがわかった。人は外側から自分の思考枠組みが揺さぶられるときに、「なぜ」「どうして」と能動的・主体的に考えるよう促されるのである。

 しかし、それでも人は本来、興味や関心が湧いてきて学びたくなるものなのではないか。何かしらの褒美や報酬のために学ぶこともあるだろうが、「内発的動機づけ」という言葉があるように、純粋に学ぶ内容に対する興味や関心から学びたいと思えることこそが、学びの出発点にあるべきではないか。たとえば、指導する学生や実習生に「どんなことに興味があるのか」を聞き、できる限りそれに沿って指導することが大切だと考える読者もいるだろう。学習者中心の授業を心がけることで、学習者が学びがいを感じやすくなり、授業に取り組む態度を変えてくれるかもしれない。一方的に教師が語り、それをありがたく学習者がメモをとるという旧態依然とした授業に批判的な目が向けられるなか、学習者の興味や関心を出発点にすることが一層求められている。

連載 専門看護師とともに考える 実習指導のポイント 昭和大学の臨床教員の立場から・9

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 本連載では、臨床教員である専門看護師が、自分の担当する実習科目について、看護スペシャリストとしての視点をふまえた実習指導の「概要・ポイント」と「実践」に分けて説明する。「概要・ポイント」回では、実習領域の特徴を説明したうえで学生への指導ポイントや臨床との連携について紹介し、「実践」回では、実践例を具体的に説明する。また連載とは別に、昭和大学の臨床教員制度の詳細について毎回異なるテーマのコラムを掲載する。

大﨑千恵子(昭和大学保健医療学部 同学統括看護部)

連載 医療通訳inバンクーバー・9

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 私たち医療通訳の仕事は言葉の壁を取り除き、会話をスムーズにすることです。ときには、異なる文化や立場の人たちの間に入り、コミュニケーションをつなぎます。しかし、お互いの言ったことを正確に訳していても、習慣や文化の違い、あるいはちょっとした言葉のずれで、対話が円滑に進まなくなることがあります。今回はそんなエピソードをいくつか紹介します。

 日本人の方から「高熱が続き歩くのも困難」という連絡があり、すぐに緊急病院へ連れて行きました。その患者さんは寒気がすると言ってガタガタふるえ、自宅から電気毛布を持って来ていました。しかし、それを見た看護師は「熱があるなら毛布はいらない」と言うのです。また、医師は診察後に「冷たいシャワーを浴びたり、水風呂に入ったりしなさい。そして冷えた飲み物を飲みなさい」と言いました。カナダでは「熱があるなら、とにかく体を冷やす」というのが常識のようです。このように、患者さんが日本の習慣とは異なることを言われたときは、カナダの文化や発言の意図を説明します。また反対に、カナダの医師に日本の事情を伝えることもあります。

連載 核心に迫る授業改善 インストラクショナルデザインによる事例検討・9

お悩み解決の振り返り 平岡 斉士
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 さて、もう12月、今年も終わりですね。この連載も残り4回となったので、ここで一度、これまでやってきたことをふまえて、連載第1回で示した看護教育にかかわるお悩みをどれだけ解決できそうか、見直してみたいと思います。

 伯方さん、豊宮さん、三沢さん、第1回のお悩みについて、これは解決案が思い浮かぶ、というものがあったら教えてください。

連載 臨床倫理を映画で学ぼう!・12【最終回】

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作品紹介

 最終回は『火の山のマリア』(ハイロ・ブスタマンテ監督、2015年、グアテマラ・仏)を紹介します。本作の舞台は、かつて古代マヤ文明が繁栄したグアテマラの高地です。自然に満ちたその場所で、先住民族のマヤ人はマヤの言葉を話し、呪詛や精霊を信じながら暮らしています。マヤ人のマリアは17歳で、両親とともに火山の麓のやせた土地を耕して細々と生計を立てていました。一家は地主のイグナシオから土地を借りており、マリアはイグナシオが経営するコーヒー農園でも働いています。しかし、一家の生活は貧しく、いつ借地から追い出されるかわかりません。

 イグナシオは妻を亡くしており、両親はマリアを後妻として嫁がせようとしますが、マリアは農園で働く青年ペペに好意をいだいていました。ある晩、マリアはペペのもとを訪れ、2人は一夜をともにします。アメリカに憧れていたペペは、いずれマリアと一緒に密入国する約束をしました。しかし、ペペはマリアを妊娠させたあげく、彼女を見捨ててひとりで村を出てしまいます。母親は妊娠を地主に知られないうちにマリアを流産させようとしますが、うまくいきません。最終的に母娘は、赤ちゃんを産むことを決意します。

連載 看護師のように考える コンセプトにもとづく事例集・12【最終回】

排泄・免疫 畠山 有希
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episode1

あなたは、日中緊急入院をした杉下さんを夜勤帯で担当しています。

杉下さん まったくこんなことになるなんて……。1人暮らしだから、起き上がれなくなっちゃって一晩じっとしていたわ。まだ全然動けないし、トイレも行けないし困ったわ。

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目次

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授業づくりの先達が導く、学生に気づきの愉しさを届ける手引書

 授業の設計や準備・実施は、看護教員に求められる教育実践能力の鍵である。教育のやりがいを感じられるのが授業であると同時に、それは多くの教員の悩みや課題でもある。とくに3年目までの新任教員の80%が「授業に困難や負担」を感じているという調査結果も示されている。また中堅・ベテランの多くも、時代の変化のなかで様変わりしている学生に対し、教員主体で何を教えるかだけでなく、学生が何を学びたいのかを軸にした教育方法を模索して悩んでいる。そんな現場の助けになるのが本書である。著者たちの経験知に基づいた学習指導案づくりのコツや、授業で用いられている実例およびアクティブラーニングの実践などが多数紹介されている。

 本書は3章構成である。第1章「学習指導案からはじめる授業づくり」では、授業の成否を分ける学習指導案(授業づくり)の基本となる知識が整理され、具体例を示しながら紹介されている。第2章「学習指導案に基づく授業の実際」では、教材でもあり教具ともいえるワークシートを使った著者たちの実際の授業づくりが紹介されている。第3章「対話―教育学からみた看護の授業づくりと新時代の学び」は、教育学の専門研究者を交えて、前章までに紹介された授業づくり、学習指導案、ワークシートについての学びを深める内容となっている。また序章の用語解説や、教育学の立場から解説されているcolumnは、本書をより深く理解する助けとなる。さらに、付録のワークシート集は、ひと目で授業の構造が見渡せるようになっており、学習のプロセスや、その時どきでどういった知識が必要であるかが構造的に示されている。こんな授業が実施できたら、学生は授業に没入し、「気づいた、わかった、愉しい!」と感じられるのではと思える内容である。第3章で語られている、学生と教員にとってのワークシートの意義をふまえた上で、それぞれのワークシートを見るとその意味がさらに理解できる。

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卓越した看護師の「技」と思考を学ぶ教材にも

 本書は、地域で実践している支援者、特に「難しい人」と感じる対象者を支援している人には、まず手にとってほしい本です。日々の実践で感じている「誰かに相談したい」「明日から実践できる具体的な対応方法が知りたい」そんな思いに応えてくれる道標となる本です。多くの人が一歩引いてしまうようなケースの考え方と対応方法について、[精神科認定看護師であり訪問看護師]である小瀬古さんが、地域で生活している利用者に向き合い思考錯誤しながら協働する支援者らとともに見出してきた「技」と「型」が余すところなく書かれています。その提示は精神疾患の症状別ではなく、生活や行動という目に見える特性ごとにケースを解説しています。

 サブタイトルにある“横綱級”は疾患の重症度ではなく、対人関係的な意味です。『精神疾患をもつ人を……』と題されていますが、本書で紹介された「技」は、精神疾患の有無にかかわらず使えるものが多く、幅広い領域で参考になるでしょう。

新刊紹介

INFORMATION

看護教育 総目次

基本情報

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看護教育
60巻12号 (2019年12月)
電子版ISSN:1882-1391 印刷版ISSN:0047-1895 医学書院

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