臨床皮膚科 49巻5号 (1995年4月)

特集 最近のトピックス1995 Clinical Dermatology 1995

I 最近話題の疾患

職業性強皮症 石川 治
  • 文献概要を表示

 職場あるいは生活環境中の物質の暴露により強皮症様の皮膚変化が引き起こされることがあり,職業性強皮症あるいは環境誘発性強皮症と呼ばれる.原因物質により経過,臨床症状などに関して,通常の全身性強皮症とはいくつかの相違点が認められている.我々はエポキシ樹脂従事者に認められた職業性強皮症患者を15年にわたり経過を観察してきたが,本症は1)発症から皮膚硬化が極期に達する期間が1年と短いこと,2)その後,比較的速やかに皮膚硬化が改善したこと,3)Raynaud現象や内臓病変が認められないこと,4)抗核抗体陰性を含め,検査値異常がほとんど見られないことなどが全身性強皮症とは異なっていた.本症を含む職業性強皮症は暴露者全員に発症するわけではなく,原因物質の代謝過程あるいは原因物質に対する免疫応答などの個体側の因子も発症に関与していると考えられる.

  • 文献概要を表示

 臨床的にスギ花粉皮膚炎と考えられた症例,すなわちスギ花粉症があり,春先に出現または増悪する顔面の皮膚炎を呈する患者に,皮膚アレルギー検査として,スギ花粉エキスによるスクラッチパッチテストを施行した.その結果,late phase reactionやdelayed type hypersensitivityと考えられる反応がみられ,これらの反応がスギ花粉皮膚炎の発症に関与しているものと考えた.

  • 文献概要を表示

 ニューキノロン剤は光線過敏症を起こしやすいことが知られており,新薬の出現のたびに副作用としての光線過敏性皮膚炎が話題となる.ニューキノロンは一重項酸素を主とする活性酸素を介して光毒性物質としての性格,すなわちDNA切断活性などを示すが,活性の強さは各ニューキノロン間で異なる.同剤は光毒性の一つの特徴である蛋白との光結合能も有するため,マウス表皮細胞をニューキノロン溶液に浮遊させた後,長波長紫外線(UVA)を照射することにより,ニューキノロン光修飾表皮細胞を作製することができる.この光修飾細胞を同系マウスに皮下投与することにより過敏症反応を誘導し得る.すなわちニューキノロンは光ハプテンとしての性格を持ち,このため光アレルギー反応を起こすと考えられる.さらにニューキノロンはT細胞に対してサイトカイン産生増強作用を示し,免疫反応修飾物質としての側面も持っている.こうした光毒性物質,光ハプテン,免疫反応修飾剤という特質を併せ持っているからこそ同剤は光線過敏性皮膚炎を起こしやすいと考えられる.

  • 文献概要を表示

 Food-dependent exercise-induced ana—phylaxis(FDEIA)はある特定の食物を食べた後に,運動を行うと全身の蕁麻疹,喘息発作,呼吸困難,意識消失などアナフィラキシー症状を生じる疾患であり,最近,本邦でも報告が増加している.われわれは最近,FDEIAと考えられる患者に原因食物の負荷,運動負荷,食物+運動負荷を行い,血漿ヒスタミン濃度の変化を検討した.食物負荷,運動負荷単独でも軽度の,食物+運動負荷では著明なヒスタミンの上昇がみられ,FDEIAは食物負荷と運動負荷の相加作用が一因である可能性が考えられた.本稿ではわれわれの報告に併せて,本邦で現在までに報告されている70例の統計とFDEIAに関する内外の文献を紹介し,FDEIAの発症機序を考察した.

  • 文献概要を表示

 劇症型A群溶レン菌感染症は1980年代中期に発見され,1993年に確立されたA群溶レン菌による突発的な敗血症性ショック病態である.特別な基礎疾患を持たない者が突然ショックに陥って発病し,電撃的に多臓器不全に進行する.末梢血塗抹標本および病理組織標本の検鏡下でレンサ球菌が確認できる著明な敗血症をきたす.約40%の症例は皮膚疹および軟部組織壊死を合併するが,特にショック発病前に皮膚疹が出現する点が,本疾患の早期診断上重要である.発病機序は不明であるが,二次発病または集団発病は稀であり,菌と宿主の両者に発病に関与する複数の因子が存在するものと推測される.

  • 文献概要を表示

 ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)60型による足底疣贅を報告した.これらの疣贅はいずれも常色〜淡紅色あるいは淡黄色を呈し,皮野が明瞭で,皮膚隆線(dermal ridge)が比較的保たれた臨床的特徴を有していた.そこで,足底のmosaic wartやmyrmeciaと区別するためにridged wartと呼称した.病理組織学的には,HPV 60型による足底表皮嚢腫と同様の組織学的細胞変性効果が認められた.すなわち,空胞様構造および細胞質内の均質な好酸性封入体である.これらの細胞の核には酵素抗体法によりHPV抗原が認められた.さらに,Southern blot hybridization法により全例においてHPV 60型が同定され,上述の臨床的および病理組織学的特徴は60型感染に特有なものと考えられた.また,ridged wartはHPV感染足底表皮嚢腫の前駆病変と考えられるが,その発生部位が嚢腫に比して荷重部位からやや外れていることから,体重の負荷が嚢腫形成には大きな要因となると推測された.

  • 文献概要を表示

 皮膚疾患としてアトピー性皮膚炎,蕁麻疹,円形脱毛症,乾癬を例に上げ,心身医学的観点より概説した.いずれの疾患においてもその発症,経過には心理社会的因子が密接に関与しており,治療に際しては適切な皮膚科的治療とともに患者の心理面にも配慮した治療が望まれる.

II 皮膚疾患の病態

  • 文献概要を表示

 痒みには,皮膚・粘膜の炎症による末梢性の痒みと,精神的要因による中枢性の痒みがある.末梢性の痒みを起こす化学物質の代表であるヒスタミンは感覚神経末端のH1レセプターを介して痒みを起こす.ヒスタミン以外にペプチダーゼ,プロスタグランジン,セロトニンなども痒みに関与する.痒みは主に皮膚神経の求心性C線維により脊髄へ伝達される.この情報は脊髄内の前外側索を上行して,視床,大脳皮質感覚野へと連絡するらしい.痒みの神経機序を説明する主な説として特殊説,強度説,選択説,パターン説がある.これまでの末梢神経生理学的研究の成績は,侵害受容性線維の一部が痒みを伝達し侵害性情報とは異なる中枢内連絡で中枢ニューロンを興奮させるとする選択説を支持する.痒みは鍼や経皮電気刺激治療法(TENS),冷刺激,オピオイド拮抗薬であるナロキソンにより抑制される.これらの結果は,痒みに対する抑制系の存在,脳内オピオイド系の関与を示唆する.

  • 文献概要を表示

 細胞死はネクローシスとアポトーシスに大別されるが,アポトーシスとは形態学的に細胞の縮小と核の凝縮,断片化を認め,生化学的に染色体DNAのヌクレオソーム単位の断片化をきたす細胞死の過程である.ネクローシスが受動的な不慮の細胞死ならば,アポトーシスは能動的なプログラムされた細胞死といえる.アポトーシスは種々の刺激により誘導されるが,同時に多くのアポトーシス関連遺伝子により制御されていると考えられる.現在,アポトーシスは発生や分化といった生理学的現象のみならず,自己免疫疾患や癌などのさまざまな病態にも深く関与していることがわかってきた.皮膚においても苔癬化組織反応をきたす疾患や腫瘍など多くの疾患で表皮細胞のアポトーシスの所見が観察されているが,皮膚の生体防御や病変の進展などに重要な役割を果たしているものと推察される.今後,皮膚疾患においても分子レベルでの発展が期待される.

  • 文献概要を表示

 アトピー性疾患の本態は,IgE—肥満細胞を介する即時型アレルギー反応と考えられてきた.しかし,臨床的には,アトピー性疾患はしばしば慢性化すること,基礎的には,IgE—肥満細胞を介するアレルギー反応には遅発相が認められることなどがつぎつぎに明らかにされた.さらに,好酸球顆粒には組織傷害性蛋白が存在することが明らかとなり,アトピー性疾患の本態を炎症学的視点より解明すべきとの考え方が普及した.こうした背景をもとに,ごく最近,“アレルギー炎症”という新しい概念が生まれた.皮膚アレルギー炎症の病態には,IgE—肥満細胞,好酸球,ケミカルメディエーターに加え,サイトカイン,細胞接着分子などが複雑に関与する.

  • 文献概要を表示

 アトピー性皮膚炎患者皮膚では,汗とともに体表へ分泌される分泌型免疫グロブリンA(sIgA)が著しく低下していること,その量は発汗とは無関係に一定に保たれ,エクリン腺細胞が発現するsecretory componentの量に比例することを見いだした.涙液中のsIgAも低下していたが,唾液中にsIgAが少ないことは以前から知られていた.周知の通りsIgAは消化管や気道の粘液に含まれ,粘膜における感染防御の第一線を担う.皮表へ分泌されたsIgAも皮表における感染防御を担うと考えられることから,本症患者において皮膚・粘膜のsIgA分泌がともに低下していることは皮膚・粘膜の易感染性を招来すると考えられる.近年,患者の皮膚・粘膜における異常な細菌叢(とくに黄色ブドウ球菌)が,本症の発症に直接関与する可能性が示唆されていることから,こうした異常と本症の病態との関係についても略述した.

Malassezia furfurと皮膚疾患 中川 秀己
  • 文献概要を表示

 Malassezia furfurは脂漏部位皮膚,特に頭部,顔面,頸部に多く存在する常在好脂性真菌である.本菌は癜風の起因菌として古くから知られているが,最近では脂漏性皮膚炎,毛包炎などの原因として注目されているのみならず,乾癬の増悪因子の一つとしても考えられている.さらに成人型アトピー性皮膚炎患者においては高率に本菌に対する特異IgE抗体が検出され,アレルゲンとしてアトピー性皮膚炎の顔面・頸部皮疹の発症に関与していることが推察されている.本稿ではMalassezia furfurの性質および各皮膚疾患発症に対する機序および本菌に対する抗真菌療法の有用性について述べてみたい.

  • 文献概要を表示

 紫外線(UVB)の暴露により生じる皮膚色素沈着がケラチノサイト由来のサイトカインによるメラノサイトの活性化に基づくというパラクリン的メカニズムを証明するため,紫外線照射培養ヒトケラチノサイトの培養液中に培養ヒトメラノサイトの増殖およびメラニン合成活性を促進する因子を見いだし,この因子のメラノサイト活性化を引き起こす細胞内情報伝達系の特徴であるカルシウムの動員作用より既知のサイトカインの探索を行った結果,この因子がエンドセリンである可能性が示唆された.エンドセリンは確かにヒトメラノサイトに対し特異な受容体を介しイノシトール回路のターンオーバーを促進しイノシトールトリスフォスフェイトの生成を通してカルシウムの細胞内動員を引き起こし,プロテインカイナーゼC活性を上昇させることにより細胞増殖とチロシナーゼ酵素のmRNAの増加を伴ってメラニン合成を促進することが判明した.一方,ヒトケラチノサイトがエンドセリンを合成分泌し,紫外線照射によりこのプロセスが亢進されることも,エンドセリン遺伝存のNorthern blot解析等から明らかとなり,さらに紫外線照射後にヒトケラチノサイト培養上清で認められたヒトメラノサイト活性化作用は,エンドセリン−1の抗体の添加によりほぼ完全に消失することから,エンドセリンがその活性の本体であることが明らかとなった.In vivoでのエンドセリンの紫外線色素沈着への関与も,紫外線照射ヒト表皮でのエンドセリン−1,チロシナーゼ酵素,IL−1 alphaのmRNAの発現がRT—PCR法で増加していることより確認した.以上の実験事実より,紫外線による皮膚色素沈着機構における表皮内ケラチノサイトとメラノサイトのエンドセリンを介したパラクリン的色素形成メカニズムが明らかとなった.

  • 文献概要を表示

 培養メラノサイトはc-kit遺伝子およびc—KIT蛋白を強く発現しているのに対し,メラノーマ細胞株では8株中5株においてc-kit遺伝子の発現を検出しえたがその発現は弱かった.c-KITリガンドによる刺激後,メラノサイトではc-KITのチロシン残基の著明なリン酸化がみられたのに対し,メラノーマ細胞では10株中4株において弱いリン酸化反応をみるのみであった.ポリクローナル抗体を用いた免疫組織染色では,表皮基底層および毛包部に存在するメラノサイトの細胞膜に一致してc-KITの強い発現を認めた.境界母斑(6例中6例)および複合母斑の表皮境界部に存在する色素細胞(6例中6例)は強陽性を示したが,複合母斑の真皮直下を除く真皮母斑細胞(6例中6例),真皮内母斑(4例中4例),および青色母斑細胞(4例中4例)は陰性であった.Dysplastic nevusでは表皮内に存在する色素細胞は13例中13例に,表在拡大型黒色腫では4例中3例において陰性化を認めた.結節型黒色腫(5例中5例),肢端黒子型黒色腫の垂直増殖部(8例中8例)および転移巣(7例中6例)の色素細胞は一部のクローン(約5〜10%)において陽性を認める以外は陰性化していたが,肢端黒子型黒色腫の表皮基底層に沿った水平増殖部では8例全例とも陽性であった.以上より,1)c-KITの発現は表皮内におけるメラノサイトの増殖分化に重要な役割を果たすこと,2)その発現は異所性増殖および悪性化に伴い減弱ないしは消失する傾向にあること,3)肢端黒子型黒色腫の水平増殖部はdysplastic nevus,表在拡大型黒色腫,結節型黒色腫とはc-KITの発現動態が異なることが示された.

III 新しし検査法と診断法

  • 文献概要を表示

 CB-17-scid(以下scidマウス)および(scidマウスとBALB/cA-nudeマウスの交配により作出した)BALB/cA-nu, scid(以下nude scidマウス)にヒト皮膚・頭髪を移植することにより,ヒト皮膚・頭髪in vivo実験系を確立した.この実験系はヌードマウスを用いた実験系にくらべ,移植後の皮膚面積の退縮が少ないという長所の他に,いくつかの利点がある.この実験系を用いることにより,ヒト皮膚の発癌実験など,人体では倫理上実施できない研究を行うことができる.さらに,ヒト表皮短期培養細胞と真皮短期培養細胞を混合し,nude scidマウス皮下に移植することによって作製した再構成ヒト皮膚実験系は,ヒトの表皮—真皮相互作用をin vivoで研究できるという点で重要な実験系になると思われる.

皮膚とCD44分子 八坂 なみ
  • 文献概要を表示

 CD44について概説し,CD44分子の正常皮膚および皮膚疾患における発現について述べた.正常表皮では表皮細胞膜表面に発現を認め,上皮性腫瘍では良性,悪性にかかわらず発現を認めたが,基底細胞上皮癌では腫瘍細胞には発現を認めなかった.

  • 文献概要を表示

 最近開発されたヒト培養肥満細胞をメディエーター遊離の研究に利用した.まず細胞に含まれるプロテアーゼであるトリプテースとカイメースを免疫化学的に染色したところ,トリプテースはほぼ100%,カイメースは約25%の細胞に陽性に染まった.この細胞をIgEで感作後に抗IgE抗体で刺激し,上清中および細胞ペレット中のヒスタミン量をHPLCを用いてオルトフタルジアルデヒドによる螢光法で測定した.この細胞は1個あたり平均9pgのヒスタミンを含有しており,抗IgE抗体刺激により細胞全体の30〜40%のヒスタミンを遊離した.このヒト培養肥満細胞は現在のところサブタイプとしては皮膚よりも肺の肥満細胞に近いが,トリプテースやヒスタミンのような肥満細胞の持つ顆粒内物質を有し,今後の改良によって様々なアレルギー性疾患のモデルになる可能性を秘めている.

  • 文献概要を表示

 組織球増殖症(histiocytosis X;2例,juvenile xanthogranuloma;7例,benign cephalic histiocytosis;1例,reticulohistiocytic granuloma;1例,その他のnon-X histiocytosis;1例)において,細胞マーカーとして,電顕的マーカーおよび免疫組織学的マーカーについて検索した.電顕的には,Birbeck顆粒,comma-shaped bodies,貪食顆粒,脂質滴などの胞体内構造物を,免疫組織学的には,S-100蛋白,CD68,Mac387,Factor XIIIaなどを,それぞれマーカーとして検討した.それらの検索結果と文献的考察から,その診断における両者の細胞マーカーの有用性について考察した.

  • 文献概要を表示

 表在性真菌症の感染経路の解明に有用な検査法を解説した.菌種別にみると外因性の皮膚糸状菌は感染源や環境からの分離が,内因性のCandida albicans,癜風菌(Malassezia furfur)は病変部,非病変部からの分離が重要となる.皮膚糸状菌の分離に用いられる培地はサブローブドウ糖寒天(SDA),chloramphenicol,cycloheximide添加SDA(ACS),5FC培地である.病変部,非病変部からの分離法として試験管培地を用いる方法,綿棒塗抹法,cotton swab sampling法,finger-press法,hairbrush法,tooth brush法などがある.白癬患者からの環境中への菌の散布状況の検査法としてスリッパの粘着セロファンテープ法,footpress培養法などがある.住環境からの分離法として,粘着セロファンテープ法やACSあるいは5FC培地を用いた家庭掃除機塵埃からの分離法がある.Candida albicansは舌などの粘膜から高率に分離され,癜風菌の分離には脂質を加える必要がある.

  • 文献概要を表示

 神経線維腫症(NF)は臨床的に,また遺伝的に2型に分類されている.NF1は末梢の神経線維腫,カフェ・オ・レ斑が特徴となる優性遺伝性疾患で,遺伝子は17q11.2に座位し,その蛋白はニューロファイブロミンと命名され,ras遺伝子機能を抑制するGTPase活性を有し,微小管に局在する.一方,NF2は両側性聴神経腫瘍,髄膜腫,神経膠腫,神経鞘腫などを合併する優性遺伝性疾患で,遺伝子は22q12に座位し,その蛋白はmerlinと呼ばれ,細胞膜と細胞骨格を連結させるmoesin-ezrin-radixinと相同性がみられる.神経鞘腫症は皮膚や脊髄などの末梢神経に神経鞘腫が多発する疾患で,たまたま聴神経腫瘍を合併しないか,またはこれから合併する症例と考えられる.今回,聴神経腫瘍を合併しない神経鞘腫症7例についてNF2遺伝子の解析を行い,3例にgerm lineの変異を検出し,神経鞘腫症はNF2と同一疾患であることを明らかにした.

  • 文献概要を表示

 当科における成人型アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis,以下ADと略す)患者123例を,ステロイド外用・内服を一切中止した脱ステロイド群85例とステロイド使用群38例の2群に分けてその治療効果を検討した.脱ステロイド群では,著明改善17.6%,改善以上63.5%であった.ステロイド使用群では,著明改善2.6%,改善以上42.1%であった.ADにはステロイド外用でコントロールできる群(古典的AD)とコントロールしにくい群(新型AD,その特徴から顔面浮腫湿潤型ADと定義)の2群が存在すると考えられた.また,脱ステロイドにより多くの症例で従来難治性といわれた顔面の皮疹の改善を認めた.この成績より,ADにおいてステロイド外用剤が難治化の要因となっている可能性が推測された.脱ステロイドの問題点は,リバウンドによる重症化とそれに伴う白内障,網膜剥離の悪化の可能性である.リバウンドの抑制には,入院による安静とPUVA療法が有効であった.

  • 文献概要を表示

 従来の治療ではコントロールの困難な難治性の原発性多汗症の患者11例をアルコールによる交感神経節ブロックにより治療した.6例に著効,2例に有効,1例に右手掌のみ著効,2例に無効であった.難治性多汗症に対して,確実で半永久的な治療法として欧米では以前から交感神経切除術が行われているが,交感神経節ブロック治療は,手術療法に比べ,侵襲が少なく,重篤な合併症もなく,治療の費用も少なく済むなどの利点を有し,なおかつ手術療法に代わりうる効果が期待できる治療法であると考えた.

痤瘡の新しい外用療法 赤松 浩彦
  • 文献概要を表示

 尋常性痤瘡(以下痤瘡と略す)の新しい外用療法について,最近の国内のトピックスを紹介した.ナジフロキサシン含有痤瘡用外用剤は,平成5年に販売され,現在では広く用いられている.その作用機序としては,Propionibacterium acnesに対する抗菌作用と,好中球由来活性酸素に対する抑制作用が考えられている.リン酸クリンダマイシン含有痤瘡用外用剤は,既に多施設において院内製剤として外用溶液が使用されており,その治療効果は高い評価を得ている.現在,本剤のゲル剤の開発治験が進められている.スピロノラクトン含有痤瘡用外用剤は,その作用機序として抗アンドロゲン作用による皮脂分泌の抑制が考えられており,クリーム剤の開発治験が行われている.

  • 文献概要を表示

 MRSAを検出した場合,抗菌薬での治療が必要な感染症の有無の判断が最も重要である.MRSA感染症のうち最も問題となるのはコンプロマイズドホストに発生した深部感染と術後感染である.特にこれらの症例でMRSA感染予防対策を厳重に行う必要がある.MRSAに耐性株を認めないのはvancomycin(VCM)のみで,感受性が比較的保たれているのはimipenem(IPM),tosufloxacin(TFLX),fusidic acid(FA)であり,minocycline(MINO),ofloxacin(OFLX)の感受性の低下が目立つ.MRSA感染症の治療上,適切な抗菌薬の選択と投与期間が重要である.アトピー性皮膚炎では抗菌薬投与で容易に皮膚表面はMRSAなどの投与抗菌薬に対する耐性菌に菌交代する.MRSA感染症でも皮疹を軽快させれば菌数は減少し感染症の所見は消失するため,必ずしも抗菌薬療法は必要としない.皮膚科領域でもMRSAによる慢性膿皮症の症例でbiofilm像が観察された.Biofilm感染症には14員環マクロライド薬を併用する.

  • 文献概要を表示

 伝染性軟属腫(みずいぼ)摘除術30例の前処置として,プロピトカインおよびリドカインを2.5%ずつ含有するPLクリームを院内で調製し,平均60分間密封包帯法(ODT)にて外用した.30例中27例(90%)で摘除時の痛みが全くないか軽度であった.重篤な副作用は認められなかった.摘除法は伝染性軟属腫に対する最も簡単かつ確実な治療法でありながら,摘除時の疼痛が激しいため処置が困難なことも少なくない.PLクリームの外用は伝染性軟属腫の摘除術のみならず疼痛を伴う治療に際して,患児および術者にとって文字どおり福音になると考える.

永久脱毛 小林 敏男
  • 文献概要を表示

 毛包に沿って針を刺入,通電し,毛を永久に生えてこなくする手技〈永久脱毛術〉は多毛症の治療として有効である.筆者は皮膚表面は焼けないように保護し,下部毛包および中部毛包を電気凝固破壊できるような特殊絶縁針を開発した.そして,この15年間に多毛症,腋臭症患者など約2,000人に対して治療を行った.初期の頃には手技の未熟や脱毛針の絶縁部の剥離などが原因で,幾人かの患者に,術後,瘢痕や色素脱出などの皮膚トラブルを生じさせてしまった苦い経験を持つ.この数年間は手技,絶縁針の性能ともに安定し,満足できる結果を得ている.永久脱毛術で良好な結果を得るためには,いくつかの基本原理を理解し,また脱毛手技に習熟することが大切であろう.この項では,脱毛の基本理論と脱毛手技のキーポイントを主に報告する.

  • 文献概要を表示

 コラーゲンスポンジとシリコーンシートの2層構造をもつ新しい人工皮膚が開発された.全層皮膚欠損創に使用すると創面から線維芽細胞や毛細血管がコラーゲンスポンジの空隙内に侵入増殖し,やがて線維芽細胞は新たにコラーゲン線維を合成し元のコラーゲンスポンジは分解吸収され,全体が新生された真皮様の肉芽組織に置き換わるので植皮の良い母床となる.薄い分層植皮を行っても術後の拘縮は比較的少なく採皮部の犠牲も少ない.この人工皮膚は巨大母斑切除部や3度熱傷などの広範囲の全層皮膚欠損創,および広範囲でなくとも一部骨や筋腱が露出し通常の植皮が行いにくいような深い創に有用である.その使用法の実際について述べる.

IV 治療のポイント ステロイド内服療法が適応となる場合

強皮症 竹原 和彦
  • 文献概要を表示

 全身性強皮症に対するステロイド内服療法に関して統一的な見解はないが,われわれは1)早期例,2)浮腫性硬化主体,3)進行速度が急速,4)持続的な炎症所見,5)他の古典的膠原病(不全型も含む)とのoverlapが疑われるものの5項目中4〜5項目満足する例を絶対的適応,2〜3項目満足する例を相対的適応としている.初期量はプレドニゾロン換算で20〜30mg/日とする.限局性強皮症に対するステロイド内服療法についても慎重な決定が望まれるが,われわれは1)炎症所見または急速な拡大,2)機能障害またはその可能性,3)成長障害の可能性,4)筋病変または抗1本鎖DNA抗体高値の4項目中2〜4項目満足する例を絶対的適応,1項目満足する例を相対的適応としている.初期量はプロドニゾロン換算で10〜20mg/日とする.また,両疾患に対するステロイド内服療法に際しては副作用についても十分な注意を要する.

  • 文献概要を表示

 成人重症アトピー性皮膚炎165例にステロイド短期内服と抗アレルギー剤の併用療法を行った.全例において,皮膚炎をすみやかに軽症レベルに導くことができた.110例(67%)において,ステロイド内服終了後のリバウンドを抑えることができた.この治療法は重症アトピー性皮膚炎の治療にきわめて有用である.

慢性蕁麻疹 山本 昇壯
  • 文献概要を表示

 通常の蕁麻疹は,皮膚マスト細胞から遊離されるヒスタミンによって起きる.その病態は真皮上層部の血管透過性亢進による浮腫であり,それは抗ヒスタミン薬(H1ブロッカー)によって抑制される.一方,浮腫に加えて好酸球,好中球,単核球などの炎症細胞の浸潤がみられ,出現した個疹が1日以上持続する場合がある.この細胞浸潤は,マスト細胞から産生・遊離されるロイコトリエンB4などの炎症細胞遊走因子あるいはアナフィラトキシンなどによって惹起される可能性が推察されている.このような症例に対しては,H1ブロッカーに併用してステロイドの内服が有効である.

尋常性白斑 伊藤 裕喜
  • 文献概要を表示

 尋常性白斑の基本的治療はPUVA療法であるが,その汎発型の場合は自己免疫反応が関与しており,ステロイドの併用が考えられる.しかし,本症は全く致命性のない疾患であるので,ステロイド併用による副作用は極力避けなければならない.そこで,ステロイド剤を併用する場合に,まず外用を考えるべきであり,やむなく内服の併用を行う場合は,家族歴なども考慮に入れ,さらに患者の年齢をも考慮して慎重に症例を選び,投与量を決めなければならない.また,ステロイド剤の内服と外用を併用したほうが副作用の発現を少なくするのに役立つと考えられる.

  • 文献概要を表示

 円形脱毛の治療で,ステロイドは免疫抑制剤に属し,病的浸潤細胞であるhelper T-cellを減少させてcytokineのはたらきを遮断する.この点が,supressor T-cellの遊走を促してCD 4/CD 8のバランスを正常化する免疫増強剤との作用機序の相違点である。円形脱毛に対する全身的ステロイド投与には,おもにトリアムシノロンを1日量最高3錠程度,通常は1〜2錠で,必要があれば年余にわたって,硬毛の発毛をみるまで,外用療法と併用して用いる.筆者の外来における232例の円形脱毛のうち,ステロイド全身投与の対象となったのは52例(22.4%)であり,普通型で20%,難治型で9.1%が治癒した.通常のステロイド外用療法に反応しない例が対象とされるため有効率は低いが,難治の円形脱毛の治療法の一つとして取り上げられるべきものと考える.

  • 文献概要を表示

 帯状疱疹に対するステロイドの全身投与は,皮疹や疼痛の急性症状の軽減や後遺症の予防に有効で,欧米では古くから使われている.適応は急性症状の強い症例や,帯状疱疹後神経痛(PHN)や運動麻痺などの後遺症を残しやすい顔面,頭部,四肢に皮疹がある症例である.特に加齢とともに後遺症を残しやすくなる50歳以上では症状が軽くても早期からの使用が有用である.また,眼合併症や運動麻痺を合併している症例,Hunt症候群も適応となる.使用方法は,初回prednisolone換算で30〜50mgで開始し,漸減しながら合計2〜3週間で中止することと,抗ウイルス薬を併用することである.強力な抗炎症作用を持つステロイドは,その適応と使用方法さえ誤らなければ,抗ウイルス薬の有用な併用薬となり得ると考えられる.

基本情報

00214973.49.5.jpg
臨床皮膚科
49巻5号 (1995年4月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

文献閲覧数ランキング(
3月30日~4月5日
)