Brain and Nerve 脳と神経 14巻9号 (1962年9月発行)

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特集　脳腫瘍の臨床

〔1〕脳腫瘍の臨床荒木　千里 14巻9号 , 1962年9月 , pp.737-749

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脳腫瘍の手術方針

　脳腫瘍の臨床といつても，ここで述べるのは脳腫瘍の手術についてである。

　私どもの方針としては，どんな場合にも，とにかくまず全剔（肉眼的）を試みる。それができないと判明した時に，一歩を譲つて亜全剔とか，部分切除にきり替える。もちろんそれは単にinter—nal decompressionの意味である。そして術後にレントゲン治療を行なう，というのであつて，これは結局Cushing以来多くの人のやつているところである。ただ人によつて全剔の側に傾むく人と，姑息的手術の側に傾むく人とがある。私は中位のところをゆきたいと思つている。それは要するに，大学のクリニックにいる以上，安全第一の手術ばかりしていてもおもしろくないので，時には冒険をおかしてみる，というぐらいのところである。

〔2〕脳腫瘍の統計的観察佐野　圭司 14巻9号 , 1962年9月 , pp.751-758

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　ただいまは荒木教授の，非常にゆきとどいた，しかも深くほりさげた御講演をたいへん感銘深く拝聴した。

　わたくしはこの御講演に対し討論しようというのではなく，会長からの御命令のように，われわれの教室で経験した脳腫瘍の統計を述べたいと思う。

〔3〕脳灌流法による脳腫瘍の化学療法竹内　一夫 14巻9号 , 1962年9月 , pp.759-766

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緒言

　われわれは，1960年の3月から約1年の間に，9例の脳腫瘍に10回の脳灌流による制癌剤の局所的投与を行なった。その症例は，第1表のごとくいずれも根治手術のはなはだ困難な症例で，荒木教授の言われた「藁をもつかむ気持」で本療法を行なったものばかりである。

〔4〕松果体部腫瘍の治療成績—特に照射療法について植木　幸明 , 杉山　義昭 14巻9号 , 1962年9月 , pp.767-771

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　松果体部腫瘍の剔出手術は低体温法，脳圧降下剤の使用などによつてもかならずしも予後が良好とかぎらず，かつ常に根治手術が可能でもない。われわれは先人の例にならい数年来照射療法に意を用いこれを行なつてきたが，これが相当な成績を収め得たと思うのでいささか検討を加えてみた。

　対象はいずれも当教室で経験された松果体部腫瘍および異所性松果体腫瘍31例である。

〔5〕悪性腫瘍の脳転移に対する手術経験矢作　保治 , 岩崎　隆 14巻9号 , 1962年9月 , pp.771-773

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　脳の転移性腫瘍に対する手術的療法の意義に関して，現在なお諸家の考えは一定していないようである。われわれは現在まで44例の手術を経験しているので，これらについて報告し，考察を加えたいと思う。

　その年齢，性別を第1図に示す。原発巣は，第2図に示すように，肺がもつとも多く26例，60％であり，ついで甲状腺3例，乳腺2例，その他胃，直腸などに1例ずつ，原発巣不明のもの8例である。

〔6〕脳腫瘍の内分泌西川　光夫 14巻9号 , 1962年9月 , pp.775-780

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　内分泌の中枢性調節機構の一端をうかがうものとして，脳腫瘍の局在と内分泌機能との関連が臨床的に注目されている。われわれも脳腫瘍患者33例について各種内分泌学的検索を比較的詳細に施行しえたので報告する。症例は第1表のごとく，間脳下垂体腫瘍20例，良性脳圧亢進症5例，その他の腫瘍8例であり，腫瘍部位は諸種神経学的検査の他，手術ないし剖検により確認し，一部臨床診断例を含めた。まだ少数例についての検索結果であるため総括的なことは省略し，問題と思われる点について断片的にふれることにしたい。

〔7〕脳腫瘍の内分泌沢田　公任 , 和田　徳男 14巻9号 , 1962年9月 , pp.781

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　脳腫瘍30例について，手術前後の血清抗利尿物質（ADS）および尿中総17CHCSの測定を行ない，患者の手術侵襲に対する反応を観察し，あわせて低体温法の影響をみた。

　結果は症例によりかなりの相違がみられるが，だいたい次のような傾向を示した。

〔8〕Craniopharyngiomaの種々相鈴木　二郎 , 和田　徳男 , 成田　敦 , 妹尾　博吉 , 沢田　公任 , 古和田　正悦 , 笹生　俊一 , 原田　範夫 14巻9号 , 1962年9月 , pp.782-784

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　われわれは桂外科教室において，組織学的に確認された28例のCraniopharyngiomaを経験しているが，その内訳は男17例，女11例である。

　Craniopharyngiomaの診断上，もつとも重要なのはレ線撮影像における石灰化像の出現である。すなわちわれわれの症例では28例中23例，約80％に出現をみており，脳腫瘍中もつとも多いものである（第1図）。これらの石灰沈着を組織学的にみると（第2図），上皮細胞に囲まれた中の硝子体様物質に直接石灰が沈着したものであり，その程度は軟骨，骨組織にいたつているものもみられ，これらの石灰沈着はレ線写真上では一般に薄綿をひき伸ばしたかのような像を示し，繊細な感じを受けることが多いが，嚢腫を形成し，その壁に沈着するものでは弧状を示すものもあり，またその発現場所は，一般にトルコ鞍上，鞍内など鞍周辺部に多いものであるが，腫瘍の巨大なものでは，遠隔部に石灰化像が出現することがあり，診断上注意を要する（第3,4図）。

〔9〕脳室造影法について星野　列 14巻9号 , 1962年9月 , pp.785-791

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　私は陽性造影剤によるVentriculographyに関しては，すべて荒木先生の御意見をうけついでいるので，討論というのはあたらないが，京都大学の症例も拝借してこれに対する率直な意見を述べたいと思う。

　本法の診断的価値が高いことは万人の認めるところであるが，問題はその副作用である。私は京大在職中300例以上のMoljodolによるVentriculograpeyを行ない，副作用についても検討したので，すでに再三発表しているところではあるが，まずその副作用について述べこれを最近主として行なつているMyodilによるVen—triculographyの場合と比較したいと思う。

〔10〕脳下垂体部腫瘍に対する経鼻手術後のレ線像の変化とその予後との関係高橋　良 , 山崎　可夫 , 隠明寺　覚 , 樋崎　享 , 岡田　諄 , 笠原　行喜 14巻9号 , 1962年9月 , pp.793-797

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はじめに

　脳下垂体部腫瘍の手術的療法には，古くから開頭法と経鼻法の2方法があり，両者の優劣が種々の観点より論議されている。経鼻法は現在のところ，わが国では当教室のみで行なわれ，今次大戦後より最近まで30有余例を経験しており，日本脳神経外科学会においても，数回にわたつてその成績を報告してきたが，今回はこれらの症例のうち，術後比較的長期にわたつて，その経過を観察し得た症例のレ線像の変化と症状の経過との関係について述べる。

〔11〕定位的下垂体破壊法半田　肇 14巻9号 , 1962年9月 , pp.799-800

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　近年末期乳癌その他に対して，下垂体剔除術（hypo—physectomy）が行なわれている。われわれは最近transsphenoidalに下垂体破壊を行ない得る定位機械を作成し，わずか2例ではあるが，ラジウム針を用い，末期乳癌に対しいわゆるRadium-hypophysectomyを行なつた。

　第1,2図はわれわれの機械の全体および実際の使用方法である。この機械はForrest, Bateman, Ellis，Talairach, Riechertらの用いている機械をいろいろ検討し，作成したものである。

〔12〕脳腫瘍—疫学的事項および診断上の事項について黒岩　義五郎 14巻9号 , 1962年9月 , pp.801-804

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はじめに

　このたび，私に内科神経医medical neurolo—gistとしての立場から脳腫瘍について論ぜよということであるので，ここではepidemiologyおよび診断学的な事項の2,3について述べてみたい。

〔13〕頭蓋組織球症川淵　純一 14巻9号 , 1962年9月 , pp.805-810

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はじめに

　頭蓋骨に一次的に骨破壊を伴なつた腫瘤形成をみる疾患としてFinji （1929）が初めて記載した好酸球骨肉芽腫（Eosinophilic Granuloma of　Bone，以下E．　G．と略す）があるが，その後Thanhauser （1947），　Lichtenstein （1953），　En—gelbreth-Holm （1944）などの研究により，いわゆるHand-Schüller-Christian病（以下H．　S．　C．と略す），およびLetterer-Siwe病（以下L．　S．と略す）が同種の疾患であることが明らかになつた。われわれはこの数年来この種疾患5例を経験したが，E．　G．　2例，H．　S．　C．　1例で，他の2例は臨床像がE．　G．と酷似しているが，組織像でやや異なる所見を得，non-eosinophilic-histiocy—tic granulorna （N．　E．　G．と略す）と名づけ，すでにNeurologia medico-chir．，1：145-170，1959に発表した。今回はその後の各例の経過を追跡した結果を報告する。

〔14〕巨大な嚢腫性頭蓋咽頭腫に対する鼻腔ドレナージの効果高橋　良 , 中尾　英雄 , 飯田　太 , 大森　一弘 , 磯部　房子 14巻9号 , 1962年9月 , pp.811-814

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はじめに

　1948年以来当教室では，脳下垂体部腫瘍症例にHirsch変法の経鼻的手術を施行してきたが，最近われわれは巨大な？腫性Craniopharyngiomaで，下垂体性侏儒を認める症例に手術的療法および鼻腔ドレナージを施行し興味ある経過を示しつつあるので報告する。

〔15〕肺転移を起こした松果体部腫瘍の症例岩田　金治郎 , 中島　典英 , 中島　正光 , 佐藤　秩子 14巻9号 , 1962年9月 , pp.815-818

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はじめに

　松果体部原発腫瘍の頭蓋外転移の症例は，非常にまれなもので，現在までに報告されているものは4例にすぎない。

　すなわちGoldzieher^16）は16歳少年で松果体部のchorionepitheliomaの肺および気管枝周囲リンパ腺，肝臓に転移の症例を報告。Stowell， Sachs　＆　Russel^19）は15歳少年の松果体部のchorionepitheliomaを手術的に摘出したが，最初の症状発現より約3カ月で死亡，剖検にて肺転移を認めている。Tompkins et al^24）は2例を報告している。すなわち第1例34歳男，手術的に摘出したが，最初の症状発現より5カ月で死亡，剖検にて両肺に数個の転移を認めた。第2例は，21歳男，腫瘍の部分摘出術施行，症状発現より17カ月で死亡。剖検にて両肺上葉と左下葉に数個，気管周囲リンパ腺に転移を認めている。

〔16〕脳腫瘍の脳循環代謝斉藤　義一 14巻9号 , 1962年9月 , pp.819-825

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はじめに

　脳腫瘍の脳循環代謝の病態生理学的究明の重要なことは言をまたない。各種脳疾患につき古くから脳の血液循環，主たる代謝として酸素消費など検査されてきたが方法的に各測定は十分といえず今日にいたつた。しかし1945年Kety-SchmidtのN₂O法が現われ従来の方法よりすぐれたことが認められ普及した。

　脳腫瘍についての研究を歴史的に概観すると1948年Ketyらは初めて脳腫瘍13例につき報じて脳圧450mmH₂OまではいわゆるMunro-Kel—lie-Cushing Doctrineにより動脈圧が上昇して脳血流量の低下を代償的にふせぐが，この限界値をこえる時は代償性が失なわれて脳血流量の減少と脳血管抵抗の増大が起こると結論した。その後もShenkin, Bernsmeier，わが国でも相沢，工藤，浜屋氏らの報告をみるが実験的脳腫瘍作製の困難さや測定方法が臨床的にやや難があることなどから比較的少ない。ことに治療的見地すなわち手術に関連しての動態の把握ははなはだ重要と考えられるが，かかる研究ははなはだ少ない。著者はこの点に重点をおいて検査をすすめているが臨床的には測定困難の場合が少なくない。以下研究途中ではあるが測定成績をあげいささか考察を試みる。

〔17〕総括田中　憲二 14巻9号 , 1962年9月 , pp.826-827

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　感想を述べさせていただきます。ひるがえつてみますと，本会が発祥してから，今年が10周年記念だと思います。夏の暑いときだつたと思いますが，お茶の水の橋の上で亡くなられた名古屋の斎藤真先生にパッタリお会いしました。そのときこれから脳神経外科を作るんだというお話しがでて，その後，中田先生，清水教授，楢林助教授というような方々が御賛同になり，会をお初めになつたのですがそのときは，まだ会員も少なく，今日の隆盛は，あまり期待しておりませんでした。今日のこの非常な盛会ははなはだ御同慶にたえない次第です。荒木教授，佐野助教授より，京大と東大の大きな，ぼう大な統計をみせていただき，手術の死亡率も20％か30％で，5年，あるいは4年と術後生存するものもあるということを伺いました。これは，非常に大きくPRをしてもいいのではないかと思います。みんなが手術がうまくなつたんだろうかと申しあげたのですが，荒木教授などは，麻酔が良くなつたからだと，非常に謙遜なさいました。しかし，これはやはり，手術のやり方がうまくなつたのではないかと思います。たとえて申しますと，新婚夫婦みたいなもので，初めてtumorを見つけるとおもしろがつていじくりまわす（笑），そのうちにだんだん馴れてきますと，このくらいでやめておこうと諦らめるようなもので，だんだん成績が良くなつたのではないかと（笑）。私は解釈いたしています。それからこと脳腫瘍に関しては，外科医はNeuroのほうが非常に小さかつたので，みんなで努力して，Neuroのほうをだんだんと勉強し，Surgeryと同じ程度になるまで私たちみんなが努力したいと考えています。少なくとも脳腫瘍の診断に関しては，臨床症状から診断をつけるということは，外科医としても非常にたやすいことになりました。しかしながら清水教授がお始めになつた経皮的な動脈撮影とか，モリヨドールの脳室撮影とか，あるいは気脳法とか，そういうものを補助診断として使えば，まちがいなく診断がつくということになつたと思います。この点，さきほど黒岩助教授が，非常に反省的に内科のことを述べておられましたが，内科の方は大学勤務の方は，反省的で，非常に勉強しておられるから，すぐ診断がつくと思います。しかし，一般におられる内科の方は，Tu—morを知らないわけではないのですが，温存しておいて，非常に大きな腫瘍にまで育ててくださる（笑）。そういう具合で，これは外科医としては，非常に迷惑なことで，これはあまり，PRはできませんが，これから将来もどんどん内科の方の御協力を得たいと考えています。このことは脳腫瘍だけでなくたとえば蜘網膜下出血，これも内科で温存されているものが多いと思います。ひるがえつて考えてみますと，脳腫瘍をとつた後の予後は，5年，4年，3年，といいますが，これは胃ガンの手術は5年たてば全治だというのとほとんど同じで，胃ガンの成績よりはよろしいと言つても良いと思います。しかし，Bailey先生が脳腫瘍の治療は，すなわち脳のガンを治療しているのである，そういう心がまえでとりかからなければならないといわれておりますが，ここれはまことに名言であると思います。

〔18〕討論陣内　伝之助 , 植木　幸明 14巻9号 , 1962年9月 , pp.827

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　陣内（岡大外科）演者の方々の御講演を拝聴して，皆さま方の努力によつて，画期的とはいえないまでも，脳腫瘍の臨床も一歩一歩確実に進歩してきていると思います。

　佐野助教授の話にもあつたように，以前の手術成績より，この5年間の成績はずっと良くなつてきたということは，ご同慶のいたりにたえない次第であります。荒木教授の言われるように，症状の読み方，困難な症例に対する治療方法などが，ただ初めから手術ばかりに頼るのではなく，しばらく病状の好転するのをまつて処置をするというふうに，うまくなつてきた感がします。たとえば，植木会長がお話になつたように，松果体腫瘍に向つて，ただただそれを初めから全剔するのではなく，一応レ線照射やTorkildsen's operationなどをやつてみて気脳室像を参考にしながら，じつくりと症例をみつめながら松果体部の奇形腫と松果体腺腫とを区別されpine—aloteratomaのようなものに対しては，これを剔出するという適応の進め方，そういうことがだんだんわかつてきたこと，このことは今後の脳外科の方向を示されたものとして，非常に楽しく聞かせてもらいました。

文献抄録

Gliomaの手術，他 Ley,　A． , Ley,　A．　F． , Guitart,　J．　M． 14巻9号 , 1962年9月 , pp.749

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　スペインBarcelona大学脳外科20年間の確実な脳腫瘍1178例では，glioma 482例（40.9％）でCushing（1932）に近い頻度だが，Adson（1959），　Olivecrona （1952），　Grant（1956）などより低頻度であつた。これは著者らに脳幹などの未定の腫瘍が少なくなかつたためであろう。さて，このグの組織学的分類ではastrocytoma 17.5％，　ependymo—ma 9.1％，　Oligodendroglioma 8.5％，Spongioblastoma 5.0％，　me—dulloblastorna 6.4％，　glioblasto—ma 51.0％となり，この頻度はCu—shing, Grant （前出）に比べると，著者例にgliobl．がかなり多く，ependym．　oligo．がやや多く，他方astro．がかなり少なく，medullo．がやや低率であるといつてよい。手術は大脳astro．　37例すべて，うち3例は再手術。小脳astro．　47例中46例手術，うち6例は2回，1例は3回手術した。大脳astro．手術死16％，小脳astro．手術死10％は，著者の全手術glioma中最も好成績であつた平均生存期間は大脳astro．　1.3年，小脳astro．　7.8年で，小脳astro．が手術にもつともよく適し，手術が最もよい成績を収めうるgliomaであるということになる。oligo．手術40例，epend．43例の手術死は30％で，平均生存は2.8〜5年である。これは小脳astro．につぐよい成績である。これに反し，spongio．手術23例では11例（47.8％）が手術死をとげた。術後の照射の効果をうかがうに，照射によつて生存期間が著明に延長した腫瘍はない。いくらか，しかし有意に延長したのはgliobLついでspong—io．とoligo．あつたが，大脳astro，epend．は全く照射の効果を見出しえなかつた。Glioblでは腫瘍完全別除も不完全剔除も，生存期間は同じであつた。

症例報告

いわゆる下垂体胎児性腺腫—その組織学的考察福光　太郎 , 景山　直樹 , 笹部　哲哉 14巻9号 , 1962年9月 , pp.829-834

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緒言

　下垂体前葉から発生する腺腫は，chromopho—be adenomaがもつとも多いことは周知のとおりであるが，このchromophobe adenomaも組織学的にみると種々の細胞配列を示すものがあり，また細胞自身の形，大きさなども様々である。そのため多くの研究者によつて種々の分類，命名が試みられてきた。そのあるものは系統的な分類であり，またあるものはその特徴的な形に従つて個別に命名されたものもある。このうち，紡錘状あるいは長円柱状の細胞が血管をとり囲んで帯状に並ぶものを1914年，Krausはfötales Adenom （fetal cell adenoma，胎児性腺腫）と呼んだ。この命名の由来は，その組織像が胎生期下垂体前葉原基を構成する胎児性細胞（fötale Zelle, fetal cell）のそれをまねるからである。しかしながら，後に考察の項で述べるように，下垂体腺腫を系統的に観察してゆくと彼が胎児性腺腫と呼んだごときものと，円形細胞がdiffuseに配列している型の腺腫との間には連続的な移行性があり，はたしてどの程度のものから胎児性腺腫と呼ぶか，すなわちどの程度のものから胎児性細胞由来の腺腫とみなすかという点に関しては一定の見解はないように思われる。

　われわれはここに，文献上，またわれわれの経験上，きわめて珍らしい下垂体腺腫例——すなわち，非常に丈の高い円柱状細胞が著明なpapilla—ryあるいはsinusoid様配列をとり，その特異な組織像からいわゆる"定型的胎児性腺腫"の名で呼ばれるにふさわしいと思われるような2症例を報告し，一方これら症例と，他の下垂体腺腫例および文献上でのいわゆる胎児性腺腫とを比較検討してその病理学的位置づけに若干の考察を加えてみたいと思う。

脳内細網肉腫の1手術例高垣　衛 , 青柳　庸三 14巻9号 , 1962年9月 , pp.835-838

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　脳内原発性細網肉腫ははなはだ稀なものであるが，最近本教室において1手術例を経験したので報告する。

　症例：39歳，♂

3歳の幼児に発生した後頭蓋窩髄膜腫矢田　賢三 , 都留　美都雄 , 川口　進 14巻9号 , 1962年9月 , pp.839-843

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文献的考察

　小児期における髄膜腫は，非常にまれなものであり，欧米における小児期頭蓋内腫瘍の発生頻度についての代表的文献をみても，第1表のごとくBailey^2），　Globus^9），　Ingraham^12），　Bergstrand^4），French^7）らの報告している全頭蓋内腫瘍1,071例中，わずか13例で，その1.3％を占めるにすぎない。

　次に成人をも含めた頭蓋内髄膜腫のなかで，後頭蓋窩内に発生する頻度は第2表のごとくCush—ing^6），　Horrax^11），　Grant^10），　Campbell^5）柱^13）安藤^1）らの報告した総数1,137例中96例で，約8.5％を占めており，その年齢分布もまた他部の髄膜腫と同様，ほぼ40歳台に最も好発し，全症例の約50％が30歳から60歳の間に発生している。成人についてのこれら腫瘍の症候論，手術成績等についてかなり多くの症例の詳細にわたつた記載があるが，これらについての文献的考察は安藤ら^1）が詳しく報告しているのでここでは省略する。

右前大脳動脈閉塞症を合併した下顎癌の1剖検例鈴木　宗治 14巻9号 , 1962年9月 , pp.845-850

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まえがき

　上顎癌が上のほうに進んで眼球突出や視力障害を生じたり，頭蓋底を破壊しさらに頭蓋内に侵入することがある。癌が頭蓋底をおかすさい，その部位を通過している脳神経を傷害するため脳神経症状や，時には複雑な多発性脳神経麻痺症候群を惹起する。

　著者は最近，右上顎歯肉粘膜に原発した扁平上皮癌が頭蓋内に侵入し，同側の大部分の脳神経を麻痺させた剖検例を経験した。本症例に特に興味を覚えここで報告するのは，単に上記の症候群の故だけでなく，生前癌の頭蓋内侵襲の様子を知ろうとして行なつた脳血管撮影において，右側の前大脳動脈起始部（Pars circularis），すなわちCircle of Willisを構成している部分（第1図）の閉塞と思われる所見を認め，これを剖検で確証しえたためである。

治療

新抗てんかん剤Ospolotの治験成績和田　豊治 , 桜田　高 , 本間　定子 14巻9号 , 1962年9月 , pp.851-855

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　われわれはいわゆる難治てんかんを主とする各種発作型のてんかん患者22例にOspolotを投与し，そのてんかん発作ならびに精神症状に対する臨床効果を検討し，次の結果を得た。

　1）　被検者の68％に有効的であり，とくに精神運動発作に最も高い効果率をみせた。

　2）　被検者22例中，精神症状を示すもの11例中7例にその改善を得，特にいちじるしいてんかん性精神障害を有するものの全例にかなりの効果を認めたことが注目される。

　3）　本剤は他の抗てんかん剤との併用が効果的で，他の副作用の多い薬剤の減量を可能とするようである。

Trinuride錠によるてんかんの治療経験—特に陣旧難治例に対する効果について丸山　弘毅 , 金田　良夫 , 宮坂　松衛 14巻9号 , 1962年9月 , pp.858-866

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まえがき

　最近の抗てんかん薬は非常に多種で，それぞれすぐれた効果があり，完全に発作を制止できる例も少なくない。しかし反面，一部の患者では発作の完全消失を容易に期待できず，あるいはまた知能障害や性格変化おもあわせもつために，家庭的，社会的な問題をもつた，いわゆる「陳旧難治例」がいぜんとして残つている。今後さらにすぐれた薬剤の出現が望まれるのは当然といえよう。

　今回われわれはスイス・サポス研究所で作られたTrinuride錠（この一錠は光学異性体のd—体L—体，を含むPheneturide 200mg, Dipheryl—hydantoin 40mg, Phenobarbital 15mgよりなる）を試用する機会を得たので現在までの結果をまとめて報告する。Trinurideの主成分であるPheneturide　（Phenylethylacetylurea）は，Phenuron （Phenylacetylurea）にEthyl基のついたもので次に示すようにごく類似の構造を示す。

Chlordiazepoxideの使用経験について桜井　図南男 , 白藤　美隆 , 新垣　元武 14巻9号 , 1962年9月 , pp.867-874

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まえがき

　最近，スイスのRoche研究所で，従来の向精神薬と趣を異にするChlordiazepoxide （Libri—um）がつくりだされ，われわれも，これを利用する機会を得た。

　この薬物は，第1図に示すような化学構造式で^1），これまでに使用されてきた，さまざまなPhenothiazine系誘導体，Rauwolfia-Alkaloid，Meprobamateなどとは，まったく構造を異にする新らしいものである。

連載　随想・2

脳外科の昔話（2）中田　瑞穂 14巻9号 , 1962年9月 , pp.875-878

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III．日本の脳外科の昔

　先月号で述べたように脳の手術は独，墺，仏，英など欧州ですでに前世紀の末からかなり多く行なわれていた。日本外科学会の創立が明治32年で，それは1899年のことであり，当時錚々たる洋行がえりの諸先生は皆，すでに多少とも独，墺の脳外科についても知つておられた年代である。伊藤隼三先生が第1回日本医学会で脳外科の講演をされたのが明治35年（1902）年であり，三宅速先生が中心回の脳種瘍剔出に成功された報告が明治38年（1905）のことである。（Cushingは1901年からはじめた）私はその頃まだ小学生であつた。三宅先生といえば私の生れ故郷の島根県津和野あたりですでに有名な外科の名医であつて，私が10歳前後の頃町の人ですでに三宅先生に手術してもらつたという「てんかん」患者（名前もわかつている）が頭に大きな不気味な凹みをもつていて，さわらせてもらつたことを覚えているし，胆石，盲腸でも金のある人は九州大学まででかけて三宅先生の手術をうけたものである。

　だから日本外科学会の第1回からすでに頭の外傷とか頸動脈結紮とか，第2回には耳科的脳外科などの演説，第4回には山形教授が「てんかん」の穿顱術の8例報告，第7回には上記三宅先生の脳腫瘍日本第1号の報告などがあつた。その頃から剖検例や手術例にいろいろな脳腫瘍例が少しずつ発表され，質問討議も行なわれている。Meningiomの剖検例は明治41〜42年（1908〜9）に山極先生の剖検されたものを外科学会で，丸山忠治氏が報告した。

印象記

カリフォルニア大学脳研究所について山口　成良 14巻9号 , 1962年9月 , pp.881-885

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　私は1961年9月より，ここカリフォルニア大学の脳研究所におりますので，この研究所について，これまで私が知り得た範囲内での，ささやかな紹介を試みたいと思います。

　まずこのカリフォルニア大学は州立ですが，アメリカの大学のなかでも十指のなかに数えられる有名校で，ノーベル賞受賞者が現在11人もおり，世界で最も受賞者の多い大学であります。サン・フランシスコ対岸のバークレイにあるのが本校（UC, University of California），ここロス・アンジェルスにあるのが分校のひとつ（UC—LA, University of California at Los Angeles）でありますが，分校といつてもたいていの学部がそろつており，ひとつの綜合大学のCampusを形作つています。そのなかの建物はすべて明かるいレンガ色を呈し，美しいユーカリの並木路が続いています。

第30回Harvey Cushing Society Meeting（アメリカ脳神経外科学会）の印象宮崎　雄二 14巻9号 , 1962年9月 , pp.886-891

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　フルブライト交換研究員として米国ハーバート大学ならびにマサチューセッツ綜合病院に海外研究中である筆者は，幸いにも正式Guestとして，4月30日より3日間にわたり開かれたHarvey Cushing Society Meet—ingの第30回例会（於シカゴ）に出席することができたので，本学会ならびにこれに発表された論文等について御紹介いたしたいと思う。

　Harvey Cushing Societyとは米国の生んだ偉大なる脳神経外科医Harvey Cushingを記念して作られた学会であり，1932年にボストンにおいて第1回例会が開かれて以来，昨年メキシコにおいて開かれた第29回に引つづき本年は第30回目を迎えたのである。アメリカにおける脳神経外科関係の学会としては，この他にもあるが，本学会がもつとも権威のある論文発表機会であり，本文のサブタイトルとして掲げたごとく事実上のアメリカ脳神経外科学会といつても過言ではない。

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あとがき S．　N． 14巻9号 , 1962年9月 , pp.892

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　8月号「脳腫瘍の病理」にひきつづき，本号は「脳腫瘍の臨床」をおおくりした。新潟の学会のシンポジアムの特集も回を重ねるごとに好評を博している。今月は，シンポジアムに発表されたもの以外に，投稿原著のなかからもTumorの論文を選んで掲載し誌面の充実をはかった。

　中田先生の随想も第2回を迎えた。海外で研究されている宮崎，山口の2氏からもアメリカの学会，研究所の印象記が寄せられた。読物としても好個のものがそろったといえよう。

基本情報

Brain and Nerve 脳と神経
14巻9号
(1962年9月発行)

電子版ISSN：2185-405X 印刷版ISSN：0006-8969 医学書院

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