INTESTINE 22巻2号 (2018年3月)

特集 内視鏡治療の偶発症と対策

序説 藤井 隆広
  • 文献概要を表示

最近の内視鏡治療法では,通電しないcold polypectomyが行われるようになり,偶発症の一つである後出血率は減少傾向を示す報告が多数を占めている.これは,10 mm 未満のnon-polypoidlesion に対する内視鏡治療法の大きな変化であり,入院も不要となり,医療経済にも好影響をもたらすものと思われる.一方,10 mm 以上の病変については,やはりEMR(endoscopic mucosal resection)やESD(endoscopic submucosal dissection)が主流であり,そこには腸管穿孔と出血の二大偶発症を念頭に予防対策を考慮しながらの慎重な内視鏡治療が必要である.今回のテーマは,その偶発症を未然に予防することと,不測の事態に遭遇した場合の適切な処置について,大腸内視鏡治療の達人と称される先生方にご執筆いただいた.

  • 文献概要を表示

インフォームド・コンセントとは,医療従事者からの十分な説明のもとで,患者自身が自分の病状・治療法について理解し,最終的に患者が検査・治療を受けることに同意するという概念である.近年ではこの概念が普及し,あらゆる医療行為において必須となっている.大腸内視鏡検査・治療のインフォームド・コンセントを行うに当たっては,まず検査・治療の適応と禁忌を十分に理解することが重要である.また,大腸内視鏡検査は偶発症による死亡例の割合が他の内視鏡検査よりも比較的高く,偶発症の危険性を患者によく理解してもらう必要がある.そのため大腸内視鏡検査・治療は十分なインフォームド・コンセントを行い施行するべきである.

  • 文献概要を表示

内視鏡治療のなかには長時間を要する場合が多く,安全で確実な処置を行うためには鎮静・鎮痛を含めた適切な前処置が必要である.しかし,それらの薬剤にも偶発症が存在し,術者を含む医療従事者はそれらの偶発症とその対処法について熟知している必要がある.

  • 文献概要を表示

2012 年7 月,日本消化器内視鏡学会より「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」が改訂されたが,抗血栓薬服用者の大腸内視鏡治療における十分なエビデンスは構築されていない.今回,当科における抗血栓薬服用者に対する大腸内視鏡治療成績の検討では,抗血栓薬服用者は抗血栓薬非服用者と比較し,EMR およびESD 例で後出血率が有意に高かった.抗血栓薬服用者に対する大腸内視鏡治療時には,後出血の高リスクを考慮した慎重な術後周術期管理が必要である.

  • 文献概要を表示

大腸のホットバイオプシー(HFP),ポリペクトミー(HSP),EMR の偶発症について文献のreview を行った.HFP,HSP,EMR における後出血postproceduralbleeding(PPB)の頻度は,それぞれ0.29 ~ 0.38 %,0.92 ~1.5%,1.02~ 1.4%であるが,病変が大きいほうが高く,20 mm 以上では1.96~11%と報告されている.HFP,HSP,EMR における穿孔率は,それぞれ0.01 ~ 0.05%,0.02~ 0.05%,0.09 ~ 0.63%と報告され,20 mm以上でも1%弱である.cold polypectomy に関しては,術中出血(IPB)は1.77~ 9.13%とやや多めだが,PPB は通電する手技より低率の0~ 0.3%であり,穿孔は皆無であった.文献によって,前向きか後ろ向きか,対象病変径,偶発症の定義,頻度は患者当りか病変当りか,などに留意してデータを比較する必要がある.

  • 文献概要を表示

本稿ではEMR における代表的な偶発症である出血と穿孔について,その原因と対策を述べる.出血はEMR において日常遭遇することのもっとも多い偶発症であり,クリップによる止血処置が中心となる.大きな病変,とくに盲腸や上行結腸のひだ上に存在する病変に対しては,固有筋層を巻き込まないように慎重なスネアによる絞扼を行わないと,穿孔の危険がある.偶発症が発症した場合でも,多くの場合では適切な処置を行うことにより保存的に対処できる.

  • 文献概要を表示

大腸ESD におけるおもな偶発症として,後出血と穿孔が挙げられる.本邦の全国的な大規模多施設共同研究ではその頻度は2.2%および1.6~2.1%と報告されている.昨今では日本だけでなく海外からも数多くの大腸ESD についての報告がなされており,その治療成績も安定し,手技が確立されつつある.また,まれな偶発症としてpost ESD electrocoagulation syndrome なども挙げられる.本稿では国内外の大腸ESD の報告における偶発症についてreview する.

  • 文献概要を表示

大腸ESD(endoscopic submucosal dissection)は低侵襲で有用な治療であるが出血・穿孔などの偶発症が起こりうるため,その対策が重要である.いずれの場合も予防が重要である.出血に対しては予防的焼灼や抗血栓薬内服のマネジメントが重要となる.術中穿孔に対しては穿孔部からの腸管液漏出を避け,視野を確保しながらクリップ縫縮を施行する.遅発性穿孔に対しては速やかに外科手術等の対応を行えるよう,ESD 後の診察・評価が重要である.いずれの場合も偶発症が起こりうるものという認識のもと,十分なインフォームド・コンセントを行うことで,緊急時における対応もよりスムースとなる.

  • 文献概要を表示

本邦の大腸ステント留置術の成績は,海外からの報告と比べても非常に良好で,安全に施行されていると考えられる.しかしその偶発症はさまざまで,いったん発症すると急激に状態が悪化するものもあり細心の注意が必要である.対策としては,まずしっかりと適応を見極め,予防的な留置は避けることである.そして事前に困難例を予測し,安全な手技に精通しておく必要がある.また,ステントの特徴を知り適切に使用することも大切である.穿孔に対してはその危険因子(ステントの種類,ベバシズマブの使用など)を可能なかぎり避け,再閉塞に対してはstent in stent などで迅速に対応する.そして残念にも偶発症が起きてしまったときには内科と外科が緊密に連携して治療にあたることが何よりも大事である.

  • 文献概要を表示

バルーン小腸内視鏡によって深部小腸においてもさまざまな内視鏡治療が可能になった.その偶発症として,急性膵炎,誤嚥性肺炎,穿孔,出血,腸重積などが挙げられ,バルーン小腸内視鏡の特性と小腸の解剖学的特徴が関わっている場合がある.偶発症の発生原因をよく理解したうえで,適切な戦略をとれば偶発症を低減できると考えている.

  • 文献概要を表示

内視鏡医の治療戦略の違いによって似て非なるデバイスが多数誕生してきており,電気的特性もまた似て非なるものである.これに伴い,内視鏡治療に求められる電気手術器(electrosurgical unit;ESU)の性能は,内視鏡医の飽くなき向上心に応えるかのように進歩を遂げてきている.残念ながら,最新のESU を導入するだけでは通電に伴う偶発症と決別することはできない.なぜなら,安全で質の高い内視鏡治療であるためには,ESU の性能を遺憾なく発揮させなければならない.そのためには,通電環境を意識した過不足のない通電時間において,精密な内視鏡の操作(デバイスを介したトラクションまたはスネアの絞扼操作)と出力波形が同調する必要があり,通電の研鑽によって研ぎ澄まされた通電直前の危機察知能力の向上が通電に伴う偶発症対策と考える.

  • 文献概要を表示

腫瘍径の大きな大腸腫瘍に対する大腸内視鏡的粘膜切除術(EMR)や大腸内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)でもっとも注意が必要な偶発症は穿孔であり,穿孔時の迅速かつ適切な対応には習熟している必要がある.スネアにて切除するEMR では比較的大きな穿孔を生じるが,粘膜欠損はESD と比較して小さく,潰瘍の両端からクリッピングし完全縫縮を行う.ESD においては剝離時の小穿孔が多く,慌てずにクリップを掛ける「のりしろ」を作ってからクリッピングする.また大腸ESD 切除後潰瘍の縫縮では,両端からクリップを掛け徐々に潰瘍の幅を狭めていくことが基本であり,平面にある潰瘍底であれば比較的大きな粘膜欠損であっても完全縫縮は可能である.

  • 文献概要を表示

巾着縫合術は,大腸病変に対する内視鏡切除後の大きな切除潰瘍面の出血予防や腸管穿孔に対する内視鏡的完全縫縮に有用な方法の一つである.本法はクリップ単独による縫縮が困難な大きさを有する切除後潰瘍や,腸管穿孔,またはそれが疑われる切除後潰瘍がよい適用と考えられる.必要器具は2 チャンネルスコープ,留置スネア,クリップであり,以下にこれらの使用手順を示す.① 2 チャンネルスコープを用いて一つ目の鉗子口から留置スネアを出した後に,もう一方の鉗子孔から出したクリップにて留置スネアのループを把持しつつ,口側に固定する.② 肛門側もクリップを用いてループを固定する.③ 留置スネアを絞扼していくことで,口側と肛門側を近接させる.④ その後適宜クリップを追加し,縫縮する.以上の手技により,強固な完全縫合が可能となる.内視鏡治療における偶発症に対し有用な手技の一つである留置スネアを用いた巾着縫合法のコツと注意点について概説する.

  • 文献概要を表示

大腸ESD の偶発症対策としてクリップによる切除後潰瘍の縫縮が有用と考えられる.しかし,大きな切除後潰瘍を完全に縫縮するのは容易ではない.われわれは自作クリップ(Ring-clip)を用いてESD 後の切除後潰瘍の縫縮を行っている.すべての症例に切除後潰瘍の縫縮は必要ないが,偶発症が危惧される場面に遭遇したときのオプションとして切除後潰瘍を縫縮する手段をもっていると非常に心強い.Ring-clip の作成方法・使用方法について概説する.

  • 文献概要を表示

大腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は,その有効性と安全性が認められ2012 年4 月より保険収載された.技術が向上するにつれて,以前であれば内視鏡治療を断念し,手術を選択せざるをえなかった病変に対しても,ESD が施行されるようになってきた.安全で確実に治療を行うためには,穿孔などの偶発症が起こった際にも,迅速に対応できるトラブルシューティングがより重要となる.このことからも万が一,クリップで閉鎖困難な穿孔や筋層の損傷が起こった場合の縫縮法の一つとして,OTSC(Over-The-Scope Clip)システムの特徴や実際の手技を理解しておくことが肝要である.

  • 文献概要を表示

炎症性腸疾患(IBD)において慢性炎症が発癌を促進する.sporadic な大腸癌はadenoma-carcinomasequence を介して発癌することは知られている.一方で,IBD 関連大腸癌(colitis-associatedcancer,colitic cancer)は発癌経路を異にし,浸潤性が高く予後不良であるとされ,その予防・早期治療のためのサーベイランスプログラムの確立が急務である. 私たちは慢性炎症に対するストレス応答に注目して慢性炎症からの発癌機序究明の研究を進めてきた.IBD 患者の大腸粘膜において,慢性炎症がストレス応答蛋白cold-inducible RNA-bindingprotein(Cirp),heat shock protein A4(HSPA4)の発現を亢進させ,幹細胞マーカーの発現および大腸発癌を促進することを示した1),2).大腸粘膜におけるHSPA4,幹細胞マーカーBmi1 の発現の高い症例で,ステロイドや抗TNF-α抗体製剤の治療効果が低く,ストレス応答蛋白の治療効果予測マーカーとしての有用性が示唆された2),3).

  • 文献概要を表示

腸間膜静脈硬化症は,大腸壁内から腸間膜にかけての静脈の石灰化,静脈還流障害による腸管の慢性虚血性変化をきたすまれな疾患で,右側結腸を中心にみられる.本症は慢性経過を辿り腹痛,便通異常,イレウスなどの症状を契機に診断されるが,無症状のことも少なくない.内視鏡では暗紫色から青銅色の特徴的な粘膜色調変化がみられる.1991 年の小山らによる症例報告が本例最初とされる1).2000 年にYao らは静脈硬化性大腸炎として報告したが2),2003 年にIwashita らは炎症細胞浸潤がほとんどなく,変性を主体とした病変であることから特発性腸間膜静脈硬化症の名称を提唱した3).近年,原因として漢方薬が注目されるようになったが4),これまで本症は散発的な症例報告や文献検索がみられるのみであった5).厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等克服研究事業「腸管希少難病群の疫学,病態,診断,治療の相同性と相違性から見た包括的研究(代表者:日比紀文)」班で腸間膜静脈硬化症が研究対象に取りあげられ,本邦における現状を明らかにする目的で2013年11月に全国調査が実施された.

第26 回大腸Ⅱc 研究会 優秀演題

  • 文献概要を表示

interval cancer (post-colonoscopy colorectalcancer;PCCRC)は中間期癌と呼ばれ,一定の間隔でがん検診を実施しているとき,その検診間隔の間に発見される癌のことをいう.PCCRC には,見逃し癌と急速発育癌の二つの要因が絡むとされ,見逃し癌がほとんどとする報告が多く,海外からは,その責任病変として右半結腸の大腸鋸歯状病変(sessile serrated lesion;SSL)が有力とされている.当院で発見された8 例のPCCRC も見逃しがおもな要因と考えるが,それらにはSSL 関連性病変はなく,深達度T2 の進行癌2 例は陥凹型由来,その他の6 例はLST-NG とⅡa+Ⅱc 型早期癌であった.PCCRC の責任病変としては,SSL よりも平坦・陥凹型病変が重要と考えられた.

------------

目次

次号予告

編集後記

基本情報

INTESTINE22-2_01.jpg
INTESTINE
22巻2号 (2018年3月)
電子版ISSN:2433-250X 印刷版ISSN:1883-2342 日本メディカルセンター

文献閲覧数ランキング(
6月22日~6月28日
)