INTESTINE 21巻6号 (2017年11月)

特集 小腸の炎症性病変を見直す

序説 松本 主之
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小腸は,消化吸収,消化管免疫,腸内細菌叢由来のメタゲノム維持など,生体のホメオスターシス維持に必須の臓器である.20 世紀までは小腸疾患に遭遇する機会が比較的少なく,消化吸収機能やX 線検査を用いた形態学的検査が細々と行われていた.ところが,今世紀初頭にカプセル内視鏡やバルーン内視鏡などの内視鏡機器が開発され,小腸病変の診断体系に革命がもたらされた.これに伴い,小腸疾患の病態解明にも大きな進歩がみられつつある.

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小腸炎症性疾患の診断には,詳細な病歴聴取,血液生化学検査,血清学的検査,遺伝子学的検査,細菌学的検査,画像検査などで総合的に診断することが必要である.小腸は胃と大腸に挟まれ,また非常に長い臓器のため解剖学的にアプローチが困難であり,内視鏡による画像診断が困難だったが,カプセル小腸内視鏡やバルーン小腸内視鏡がそれを可能にしている.また,クローン病では病変が非連続性に発症し,腸管にとどまらず腸管外にも及ぶため,CT やMRI により腹部全体を俯瞰し横断的に画像診断することも重要である.他の症状とともに病変は形態だけではなく,分布にも注意し診断する必要がある.

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ベーチェット病(BD)は,① 再発性口腔内潰瘍,② 眼症状,③ 皮膚症状,④外陰部潰瘍を4 大主症状とする全身性の原因不明の炎症性疾患であり,腸管BDは特殊型に分類される.腸管BD の診断には,まず厚生労働省ベーチェット病研究班診断基準で完全型もしくは不全型BD と診断されることが前提であり,腸管BD の典型的病変を呈していても,BD 診断基準を満たさない場合は,腸管BD 疑いまたは単純性潰瘍(SU)と診断する.腸管BD とSU の病態は解明されておらず,内視鏡所見,病理組織学的所見で鑑別することは困難である.腸管BD の治療はコンセンサス・ステートメントの改訂ごとに更新され,2013 年度改訂版ではTNF-α抗体製剤(ADA,IFX)が標準治療と明記された.腸管BDの潰瘍は穿孔や出血のリスクや,術後再発率も高いことから,生命予後不良因子の一つと考えられており治療ストラテジーの確立が急務である.現在,実地医家のための新たな診療ガイドライン作成プロジェクトが進行している.

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腸管ベーチェット病に対する抗TNF-α抗体療法に関する有用性と問題点について概説した.抗TNF-α抗体療法は既存治療抵抗例に対して有効であり,現在多くの症例に対して使用されつつある.一方,有効性に関するエビデンスは症例報告や少数例での臨床試験の成績のみであることより,副作用に留意しながら使用すべきである.

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ベーチェット病患者はしばしば骨髄異形成症候群を合併し,合併例では染色体異常の一つであるトリソミー8 が高率に認められる.また,トリソミー8 陽性骨髄異形成症候群のベーチェット病患者では腸管潰瘍を伴うことが多い.以上のことから,トリソミー8 と消化管潰瘍の関係が注目されている.一方,近年バルーン内視鏡やカプセル内視鏡の普及により小腸の観察が容易となり,トリソミー8を伴う骨髄異形成症候群患者における小腸病変の報告が集積されつつある.トリソミー8 陽性患者の潰瘍性病変は治療抵抗性かつ難治性に経過することが多いので,さらなる病態の解明が必要と思われる.

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遺伝学的に確定診断された非特異性多発性小腸潰瘍症45 例の臨床像を検討した.本症は女性に多いこと,貧血は必発するが肉眼的血便はほぼみられないこと,炎症所見は比較的低値にとどまること,約30%に血族結婚を認めることが確認された.終末回腸を除く回腸を中心に病変は分布していたが,約半数に十二指腸病変を認めた.また約30%に肥厚性皮膚骨膜症の臨床徴候がみられた.性別による比較では,胃病変は女性に有意に多く,ばち指,骨膜症や皮膚肥厚といった肥厚性皮膚骨膜症の所見は男性に有意に多かった.本症の診断に際しては,小腸病変の評価に加えて上部消化管病変や消化管外徴候の評価,SLCO2A1 遺伝子変異の検索も重要と考えられた.

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Cryptogenic multifocal ulcerous stenosing enteritis(CMUSE)は小腸に中心性狭窄が多発する原因不明の慢性稀少疾患である.腸管病変はNSAIDsの膜様狭窄に類似しており,おもに腸管閉塞症状をきたす.治療に関してはステロイド感受性が高いとされるが,ステロイド依存性も示し,また術後の再燃も問題となる.近年,本疾患の病態にプロスタグランジン(PG)が関与していることが示唆されているが結論はついていない.本邦からの報告例はこれまでにないが,東アジアからの報告例もみられてきており,注目すべき疾患の一つである.

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腸リンパ管拡張症はリンパ管の狭窄閉塞もしくはリンパ管内圧の上昇に伴い蛋白や脂肪などが末梢のリンパ管から腸管内腔へ漏出する蛋白漏出性胃腸症の代表的疾患である.粘膜,粘膜下層におけるリンパ管の拡張の証明とそれによる臨床症状,臨床所見を認めた際に診断に至る.蛋白漏出性腸症としての診断も重要である.小腸粘膜所見が白色絨毛,散布性白点を有する白色絨毛群と,異常なしもしくは軽度絨毛腫大,ケルクリング襞腫大を認める非白色絨毛群の二つのタイプに分けられ,それらは治療の反応性が異なる.治療は栄養療法,薬剤療法,外科手術があるが著効する治療法は現在まで認めない.予後では日和見感染に注意が必要である.

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Familial Mediterranean fever gene(MEFV)遺伝子は家族性地中海熱の原因遺伝子とされている.本疾患は漿膜炎が主体であるため腸管病変を伴うことはまれであるとされてきたが,近年MEFV 遺伝子変異を有する患者において炎症性腸疾患類似腸管病変を認める報告がなされている.炎症性腸疾患とMEFV 遺伝子変異についてはさまざまな報告があり,とくにクローン病ではMEFV 遺伝子は疾患修飾遺伝子の可能性が指摘されている.しかしながら,MEFV 遺伝子変異については未だ不明なメカニズムの関与が考えられ,炎症性腸疾患との関連については基礎的な研究も含めた慎重な検討が必要である.

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家族性地中海熱(Familial Mediterranean fever;FMF)は周期性発熱と漿膜炎を特徴とする遺伝性炎症性疾患である.高熱と腹膜炎に由来する腹痛がもっとも高頻度にみられるが,漿膜炎が主体であるため腸管病変を伴うことはまれとされてきた.近年,大腸病変を有するFMF 症例が報告されつつある.一方,小腸病変についての報告は限られている.今回,FMF の小腸病変に関する本邦並びに海外での報告例をまとめ,その特徴について論じる.FMF 患者に認められた小腸病変は,主としてびらん,潰瘍,浮腫などが多くを占めていた.花びら模様を呈する粘膜発赤は特徴的所見の一つかもしれない.FMF の小腸病変の臨床的特徴を明らかするためには,さらなる症例の集積が必要となろう.

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われわれは2013 年に国内初となるcollagenous sprue の症例を報告し,カプセル内視鏡でのフォローアップにて小腸粘膜の治癒過程を初めて確認している.本疾患は,重度の吸収不良をきたし,十二指腸から空腸に絨毛萎縮を伴った特徴的な内視鏡像を呈する.病理学的には,粘膜上皮直下の膠原線維帯と,粘膜上皮内のリンパ球浸潤および陰窩減少・絨毛萎縮を呈する.しばしば低グルテン食に抵抗性をきたし,セリアック病に特異的なIgA 抗組織トランスグルタミナーゼ抗体やHLA-DQ2 は陰性である.一部の患者では,十二指腸上皮内のIgG4陽性形質細胞浸潤が認められ,成因に関与している可能性が指摘されている.また,ACE 阻害薬やNSAID との関連を指摘する報告もみられる.自験例を紹介しつつ,本疾患の最新のエビデンスをレビューする.

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Whipple 病は,Tropheryma whipple(i T. whipplei)の感染により,下痢や腹痛などの消化器症状を始めとして,心臓や中枢神経系,関節など多臓器に多彩な症状を伴う全身性感染症である.多くは白人男性にみられ,本邦ではきわめてまれな疾患であり,報告例は過去10 例に留まる.消化管病変は十二指腸から空腸が好発部位で,びまん性の白色絨毛を呈し,その生検組織からはPAS 染色陽性の泡沫状マクロファージの集簇がみられることが特徴である.確定診断にはPCR 法や電子顕微鏡によるT. whipplei の証明が必要である.治療はCTRX の静脈投与を行った後に,ST 合剤の継続内服が行われることが多いが,ST 合剤抵抗例への治療戦略についても近年報告されている.

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ANCA 関連血管炎に分類される好酸球性多発血管炎性肉芽腫症,多発血管炎性肉芽腫症,顕微鏡的多発血管炎を中心に概説した.ANCA 関連血管炎は全身性に細小動脈を中心とした血管炎を生じ,多彩な臨床徴候を呈するまれな疾患である.これらの疾患は小腸を中心に消化管病変が出現する場合があり,時に腸管穿孔や出血などの重篤な合併症をきたし予後規定因子となりうる.よって,ANCA 関連血管炎の消化管病変の特徴を把握しておく必要がある.

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sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)は,SSA/P with cytological dysplasia からMSI (microsatelliteinstability)-high を示す大腸癌へと進展する“serrated pathway”の前駆病変と考えられている1),2).近年SSA/P はinterval cancer の原因の一つと考えられており3),4),SSA/P に発生したdysplasia や癌を見つけることは非常に重要である.内視鏡的には,SSA/P は過形成性ポリープに類似し白色調の平坦隆起を示す.表面の粘液付着はSSA/P に特徴的な所見の一つである.これまでdysplasia のないSSA/P の内視鏡的特徴に関する報告がいくつかなされているが,dysplasia/癌併存SSA/P の内視鏡的特徴に関する報告はない.本研究は,dysplasia/癌併存SSA/Pの内視鏡的特徴を明らかにすることを目的として行った.

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超拡大内視鏡であるEndocytoscopy(EC)の開発により細胞核の診断を始めとする生体内(invivo)での病理組織診断が可能となり,その有用性が数々報告されている1)〜 5).そして実臨床においては内視鏡診断による腫瘍・非腫瘍の鑑別のみならず,SM 微小浸潤癌(SM-s)と深部浸潤癌(SM-m)の鑑別診断はその後の治療方針に直結するため,その診断精度が求められている. 現行のEC 分類でもある程度の診断精度は得られている5).しかしEC 分類ではEC 3a を深達度M〜SM-s までの指標としている一方で,実際の病理の内訳は低異型度腺腫〜SM-m と幅広い結果が得られている現状があり,その診断精度は十分でない.本研究ではEC 分類におけるSM-mに対する診断精度の向上を目的として行われ,また新たな指標となる因子についても検討された.

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第21 巻●総目次

第21 巻●著者索引

第21巻●Key word 索引

目次

追悼 渡邉聡明教授を偲んで

次号予告

編集後記

基本情報

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INTESTINE
21巻6号 (2017年11月)
電子版ISSN:2433-250X 印刷版ISSN:1883-2342 日本メディカルセンター

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