臨牀消化器内科 35巻13号 (2020年11月)

特集 肝硬変診療の新時代

巻頭言 吉治 仁志
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この数年で肝硬変に対する診療はパラダイムシフトともいえるような進歩がみられている.肝硬変の進展抑制に対しては原因の除去を行う根本的治療が可能となってきた.わが国における肝硬変の原因としてもっとも多いC型肝炎に対しては直接的抗ウイルス薬(DAA)による抗ウイルス療法の進歩により非代償期を含めて多くの症例においてウイルス排除が可能となっている.栄養療法に関しても,これまで肝硬変患者の多くは低栄養状態にあったが近年の生活習慣病の増加に伴い肥満や耐糖能異常を有する症例が増えている.一方で,肝硬変患者では筋力・筋肉量の低下をきたすサルコペニアの頻度は高く,予後との関連も明らかにされていることから日本肝臓学会において「肝疾患におけるサルコペニア判定基準」が作成されている.

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肝硬変の成因には,ウイルス性肝炎,アルコール過剰摂取,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)のほか,自己免疫性疾患,遺伝性疾患,薬物性肝障害などがある.肝硬変の根本的治療は原因の除去であり,成因によっては適切な対策により病理学的にも肝硬変の改善が期待できる.欧州や中南米ではアルコール性がおもな死亡の成因であるが,東アジアやアフリカではウイルス性肝炎が多く,地域により成因割合は異なる.本邦では長年おもな成因となっているC型肝炎が減少傾向にあり,今後はアルコール性とNASHの割合の増加が懸念される.それに伴い,これまで以上に消化器内科と他科とが連携して肝疾患患者の診療に取り組むことが重要となってくる.

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肝臓の線維化や機能の評価は,慢性肝疾患の重症度判定や適切な治療選択に必要であり,近年では簡便かつ非侵襲的に肝臓の線維化や機能を評価することを目的としたさまざまなスコアリングシステムやバイオマーカーが開発・提唱されている.また肝臓の線維化は従来肝生検による評価がgold standardであるが,近年ではMRIや超音波を用いたエラストグラフィーの有用性が報告されている.本稿では,これら肝臓の線維化および機能評価に関するバイオマーカー,スコアリングシステム,画像診断法について近年のトピックスをまとめた.

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肝硬変に対する腹水治療には大きく,利尿薬を用いた薬物治療と各種手術,画像下治療(IVR)に分けられる.利尿薬を用いた腹水治療は,以前よりフロセミドとスピロノラクトンを用いた治療が行われてきたが,近年,水利尿を促すトルバプタンが登場することにより,以前より腹水治療の選択肢が広がった.難治性腹水についてはグレード3でコントロールが難しければ,手術,IVR治療によるコントロールも考慮していく.それぞれの治療の長所と短所をよく理解した上で治療を行うことが重要である.

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食道または胃噴門部静脈瘤の破裂では,内視鏡的静脈瘤結紮術(endoscopic variceal ligation;EVL)で止血する.その後の追加治療や予防的治療では,内視鏡的硬化療法(endoscopic injection sclerotherapy;EIS)を選択する.巨木型食道静脈瘤やF0再発静脈瘤での内視鏡治療では手技の工夫が必要である.孤立性胃静脈瘤破裂時の止血には,シアノアクリレートを用いたEISを選択する.その後,腎静脈短絡路が残存する場合はバルーン下逆行性経静脈的塞栓術(balloon—occluded retrograde transvenous obliteration;BRTO)を追加する.同静脈瘤の予防的治療ではBRTOを第一選択とする施設が多い.同治療に成功するとその後の再発はきわめてまれであるが,食道静脈瘤併存例では,その増悪に注意が必要である.

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肝性脳症は,門脈—大循環短絡路や肝細胞障害に伴い,アンモニアに代表される中毒物質の代謝・排除障害により発生する精神神経症状である.適切な治療介入のタイミングを理解するために,本邦で使用されている犬山シンポジウム昏睡度分類以外にも,West Haven CriteriaとISHENによる昏睡度分類を理解する必要がある.肝性脳症の予防と治療は,誘因となる中毒物質の除去,産生抑制,代謝促進が基本であり,症例によっては門脈—大循環短絡路の是正が必要となる.薬物療法では,非吸収性合成二糖類より始まり,分岐鎖アミノ酸,難吸収性抗菌薬,亜鉛およびカルニチン製剤を,患者の病態に合わせて選択することが必要である.

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サルコペニアは,身体機能もしくは筋力と骨格筋量が低下した状態である.サルコペニアは,肝硬変患者に高率に認められるだけでなく,肝発癌など予後に関わるさまざまなイベントの発症に関与する.近年,日本肝臓学会より肝疾患におけるサルコペニア判定基準が提唱された.また,サルコペニアに対する予防や治療法として,就寝前補食,分岐鎖アミノ酸やカルニチン補充療法の有用性も報告されている.さらに,運動療法の安全性や有効性も明らかになりつつある.本稿では肝硬変患者におけるサルコペニアの病態・診断と食事・栄養療法につき,本邦から報告された研究結果を中心に概説する.また,運動療法に関するわれわれの研究結果についても論述する.

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肝硬変患者ではQOLの障害が高頻度に認められるが,その要因は肝性脳症とこむら返り(筋痙攣)である.とくに筋痙攣は不眠との関連性が強い.最近の本邦における調査では,慢性肝疾患の約半数に筋痙攣の経験があるが,とくに肝硬変で高頻度かつ痛みが強く,睡眠障害の原因となっている実態が明らかになった.治療として,芍薬甘草湯,タウリン,カルニチン,分岐鎖アミノ酸(BCAA;branched chain amino acid)が用いられていたが,カルニチンの効果が高い傾向にあった.一方で,治療介入なしで長期間放置されている例も多く,肝疾患の治療に当たっては筋痙攣の有無を問診することが大切である.

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肝臓は栄養素の代謝および貯蔵に中心的な役割を果たしており,肝機能の低下した肝硬変では,高頻度に栄養障害が出現する.適切な栄養療法を行うにあたり,栄養状態の評価が必要である.とくに近年,サルコペニアが肝機能と独立した予後因子であることが数多く報告され,筋肉の評価も重要である.実際の栄養療法としては,蛋白低栄養患者への分岐鎖アミノ酸製剤による栄養療法やエネルギー低栄養患者への就寝前軽食による栄養療法は,肝機能のみならず予後やQOL改善効果も報告され,さまざまなガイドラインで推奨されている.

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B型肝硬変症に対する抗ウイルス治療(核酸アナログ製剤)の効果と治療の限界について述べる.肝硬変の治療適応は,HBV DNA量が陽性であれば,HBe抗原,ALT値に関わらず治療対象となる.肝硬変の初回治療例に対する核酸アナログ製剤のHBV DNA量の陰性化率は,高率である.しかし非代償性肝硬変症では,ウイルス量が低下しても必ずしも肝炎の改善や肝病変の改善が得られるわけではない.また核酸アナログ製剤では,肝硬変症例で有意な発癌率の低下を認めた.しかし核酸アナログ製剤でウイルス量が低値を持続しても,肝硬変症では,常に肝発癌のリスクがあることを念頭に置き,定期的な画像診断を含めた経過観察を行う必要がある.

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C型肝炎ウイルス感染により発症する肝炎・肝硬変について,直接作用型抗ウイルス薬(direct—acting antiviral;DAA)の登場により,以前のインターフェロン治療では治療困難であった症例でもウイルス学的著効が得られるようになった.DAA治療により肝線維化の進展や肝発癌,その後の生命予後についてもある程度の改善が示されてきているが,すべての症例でそれが当てはまるわけではない.近年盛んに行われてきている非侵襲的肝硬度測定も用いながらリスク評価を行い,発癌高リスク症例についての検討を重ね,綿密にフォローすることが肝要である.

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近年開発された抗ウイルス薬によりウイルス性肝炎の治療法は確立されつつあるが,依然として肝硬変患者は世界中に多く存在している.肝硬変に対する根治治療は肝移植が唯一の治療法であるが,実施できるのは一部の患者に限られるため再生医療による低侵襲な新規治療法が嘱望されている.ここ数年で肝臓の分野で再生医療は著しく進歩しており,今回はおもに最近の研究成果を中心に細胞や細胞外小胞による有望な肝再生治療の現状について述べる.これらの研究は使用する細胞や小胞の安全性の確保,大量生産における均一性や品質保持など一般化に向けてクリアすべき課題も存在するが,新たな肝再生治療開発に向けて努力を継続していく必要がある.

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Cronkhite—Canada症候群は,胃や大腸における過誤腫性の消化管ポリポーシスに脱毛,皮膚色素沈着,爪甲萎縮などの消化管外の外胚葉性変化を伴う非遺伝性疾患である.世界的にまれな疾患であり報告件数は少ないものの,そのなかに占める本邦からの報告は多い.原因は未だ不明であるが,発症誘因として身体的疲労,精神的ストレス,感染,薬剤や自己免疫疾患などが疑われている.本稿では,便潜血陽性の精査目的に施行した大腸内視鏡検査にて診断された大腸ポリポーシスの1例を提示し,鑑別すべき疾患および,その鑑別法について解説する.

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2020年9月現在,肝細胞癌に対する全身化学療法としては,マルチキナーゼ阻害薬であるソラフェニブ,レゴラフェニブ,レンバチニブと,ヒト型抗VEGFR—2モノクローナル抗体のラムシルマブがある.これらの薬剤は,血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR),血小板由来増殖因子受容体(PDGFR),線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR),Rafなどに対する阻害薬であり,作用機序が類似しており,副作用も共通しているものが多い.副作用として,手足症候群,下痢,高血圧,食欲不振,倦怠感,蛋白尿,血球減少,肝機能障害,肝性脳症,甲状腺機能異常,脱毛,嗄声,薬疹,間質性肺炎,膵炎,血栓塞栓症などがある.以下,肝細胞癌に対するマルチキナーゼ阻害薬投与に際して,とくに着目すべき臨床検査値について,適応,効果予測,副作用マネージメントの観点からまとめる.肝細胞癌に対するマルチキナーゼ阻害薬治療におけるマネージメントの際に着目すべき臨床検査項目を表にまとめた.

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第35 巻総目次

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臨牀消化器内科
35巻13号 (2020年11月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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