臨牀消化器内科 36巻1号 (2020年12月)

特集 上部消化管腫瘍における先進的内視鏡治療の進歩

巻頭言 矢作 直久
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内視鏡は文字どおり体外からは観察できない管腔内を観察するために開発されたものであるが,ニーズに合わせて見えたものを採取したり切除したりする処置具も開発されてきたため,治療機器としても大きな発展を遂げてきた.局所のコントロールを可能にする内視鏡治療は,以前から侵襲の大きな手術を回避するための切り札として捉えられているが,一方で焼灼したり切除したりできる範囲や深さが限られており,なおかつそのコントロールも困難であったため,わずか20年ほど前までは不確実で姑息的な治療法という印象を拭いきれない状況であった.しかし狙った範囲を切開し,粘膜下層深部までを確実に切除できる内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)が開発され,状況が一変した.

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近年,内視鏡検査とヨード染色の普及および最近の画像強調技術の開発・臨床応用により,食道癌の早期発見が可能となり内視鏡治療されるケースが増加しつつある.内視鏡治療は大きく組織切除法と組織破壊法に分類され,根治性の高いEMR/ESDは,初回治療の第一選択である.扁平上皮癌,Barrett食道腺癌を含む食道胃接合部癌における本邦での内視鏡治療の適応についても概説を加える.

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早期胃癌に対する内視鏡治療の適応に関しては,これまで適応拡大病変とされていた病変がガイドラインの改訂により絶対適応病変へと変更となった.また施設によりさまざまではあるものの,胃腺腫に対しても内視鏡治療が行われており,当院における内視鏡治療適応について概説する.現在行われている内視鏡治療の多くはESDであるが,これまでさまざまな内視鏡治療方法が開発されてきた.当院においても内視鏡治療の多くがESDであるが,小病変に対しては状況に応じてEMRを行う場合もある.病変や症例,施設環境や術者の習熟度に応じて最適な治療方法を選択することが重要である.

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昨今の十二指腸腫瘍の発見率増加に伴い,診断や治療方針の決定に苦慮するような症例もしばしば経験されるようになった.十二指腸腫瘍に対する内視鏡治療は,従来行われてきたESD,EMRに加えて最近発展を見せるunder—water EMRやcold polypectomy,そして2020年春に保険収載された十二指腸LECSを加え,症例に合わせていっそう多彩な選択が可能となってきている.十二指腸内視鏡治療が患者にもたらすメリットは大きいが,通常の管腔臓器よりもいっそう高難度,ハイリスクな手技であることを常に念頭におき,それぞれの方法の特性を十分に理解して適切な治療法を選択することが肝要である.

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食道癌に対する化学放射線療法は,高い奏効率が得られる反面,局所遺残再発率が高い.一般的に局所遺残再発に対する救済治療として行われる外科的切除は,術後合併症が多いことが課題であった.そこで,化学放射線療法後の局所遺残再発に対する救済治療として,内視鏡的切除や光線力学療法(PDT)といった低侵襲な治療が行われている.とくに,PDTは線維化の有無にかかわらず,固有筋層浅層までを治療対象とできる.さらに,第二世代光感受性物質であるレザフィリンを用いたPDTは,第一世代と比較して局所完全奏効率が高く,かつ光線過敏症を含めた合併症も少ない.有効性・安全性ともに高いPDTの,食道癌治療におけるさらなる貢献が期待される.

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LECSは,胃SMTに対する低侵襲手術として開発されたが,さまざまな関連手技の開発とともに発展し,最近では胃癌手術にも応用されている.適切な治療方法を選択するためには,さまざまなLECS手術手技の特徴とその使い分け・適応について理解することが重要である.胃SMTでは,5 cm以下の壁内発育型・管内発育型がLECSのよい適応であるが,腫瘍の大きさや随伴潰瘍病変の有無による使い分けが必要である.胃癌でも早期癌の根治術から進行癌の姑息術まで広く適応拡大される可能性があるが,医原性播種を回避する術式を選択することが望ましい.LECSは内科医と外科医の協力により,今後さらなる発展が期待される.

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管腔内での確実な創閉鎖を目的として,軟性内視鏡用持針器と外科用縫合糸を用いて連続縫合する内視鏡的手縫い縫合法が開発された.粘膜欠損部を完全に閉鎖し,縫縮の強度も高く,閉鎖の維持も期待できるため,ESDのおもな術後偶発症である後出血や遅発性穿孔の予防策として期待されている.縫合手技の取得には一定の経験が必要と考えられるが,施行医だけでなく,介助者とのコミュニケーションが重要となる.胃ESDにおける臨床での安全性と抗血栓薬服用者における後出血の予防効果に関する報告もされており,他の消化管への応用も期待される.今後,本手技の確立とさらなる適応の拡大が待たれる.

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十二指腸上皮性非乳頭部腫瘍(superficial non—ampullary duodenal epithelial tumors;SNADETs)を診療する機会が増えるにつれ,そのマネジメントはわれわれ内視鏡医にとって重要な問題となっている.十二指腸はその他の消化管領域とは異なり,内視鏡治療の偶発症リスクが高いことから,ESDは限られた施設で行われているのが現状である.より低侵襲な治療として,当院では2015年からおもに10 mm以下の腺腫に対してcold snare polypectomy (CSP)を導入している.当院単施設での経験では安全かつ有用な治療である可能性が示唆された.今後は多施設・長期での検証が必要である.

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Underwater EMR (UEMR)のもっとも良い適応は,20 mm未満の非乳頭部十二指腸腺腫あるいは粘膜内癌である.20 mm未満の病変に対する一括切除割合は75%以上と高く,遺残再発割合も0~2.3%と低い.再発病変も基本的に小さいことが多く,再度の内視鏡治療で対応可能である.20 mm以上の病変(とくに腺腫)もUEMRの対象病変となるが,分割切除になる可能性があるため,適応は慎重に判断することが望ましい.病変径にかかわらず,UEMR後創部はクリップで完全縫縮を行う.縫縮後の出血割合は1.2~2.7%,遅発穿孔割合は0~0.6%であり,従来の方法と比較し,許容できる結果と考えられる.UEMRの実際の方法・コツに関して詳細を記載した.

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表在性非乳頭部十二指腸癌に対する膵頭十二指腸切除を含む外科切除は,患者への侵襲が大きいため,病変の一括切除が可能な内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)に対する期待は大きい.しかし,十二指腸ESDでは,スコープの操作性が不良なうえにワーキングスペースが狭いことによる技術的難易度が高く,筋層が薄いことによる術中穿孔や胆汁・膵液曝露による遅発性穿孔・後出血などの偶発症発症の問題がある.十二指腸ESDを完遂するためには,あらゆるESD関連機器・デバイスを持ち出し,内視鏡技術を集約させる必要があり,十分な治療経験が求められる.一方で,十分明らかとなっていない本症のより詳細な臨床病理組織学的検討や,内視鏡および外科切除の長期予後を含めた治療成績に基づく本症の適切な診療指針の確立につながるような検証が今後望まれる.

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十二指腸表在性腫瘍に対する術式は確立していない.内視鏡治療は技術的な困難性に加え,切除部が膵液や胆汁にさらされることでの遅発性穿孔や後出血などの重篤な合併症につながる危険をはらんでいる.一方で,外科切除では腫瘍局在の診断が術中につけにくいため,局所切除に留まらず膵頭十二指腸を含めた過侵襲となる場合がある.腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)は,非乳頭部の表在性腫瘍に対して,これらの問題を十分に解決しうる術式として有望である.

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消化管の全層性の欠損に対しては確実な縫合が必要である.外科的アプローチを回避するには,従来は内視鏡用の止血用クリップがおもに使用されてきたが,把持力が弱くまた把持できる領域も狭いことから限界があった.軟性内視鏡用全層縫合器であるOver—The—Scope Clip (OTSC®)(Ovesco Endoscopy GmbH, Tüebingen, Germany)は,消化管穿孔部や瘻孔の閉鎖・縫合,動脈出血の強力な止血などを内視鏡下に施行することが可能であり,本邦でも2011年に薬事認可された.2018年4月より,一定の施設基準を満たした条件下ではあるものの,内視鏡による穿孔・瘻孔閉鎖の手技点数が保険収載され,より使用しやすい環境が整ってきた.内視鏡治療に伴う医原性穿孔に対しても有用であり,OTSCシステムの特徴や手技を理解しておくことは内視鏡医にとってトラブルシューティングの選択肢の一つとして大いに役に立つものと考える.

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外科分野で用いられてきたポリグリコール酸(PGA)シートとフィブリン糊による被覆法は内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)後の偶発症予防についても有望視され,さまざまな検討がなされてきた.とくに胃ESD後出血予防,食道ESD後狭窄予防に関する報告が多いが,ESD後潰瘍底にPGAシートをデリバリーする技術的困難さは未だ克服できておらず,今後の課題と思われる.

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最先端の外科手術治療として行われているロボット支援手術は,10倍に拡大された三次元の視野,自由度の高い多関節機能,手振れ防止機能,モーションスケーリング機能などを有し,従来の腹腔鏡手術の欠点を克服しより精緻な手術操作が可能となることで,合併症の軽減などの手術成績の向上が期待されている.本邦では2012年に最初に前立腺全摘除術に対して保険収載された.2018年4月にようやく消化器疾患に対して保険収載され,これにより手術件数も急速に増加傾向にある.年々さらなる改良がなされ,現在までになしえなかった手術治療のブレイクスルーが期待されている.

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今回は薬物性肝線維症により腹水貯留を呈した症例を通して,薬物性肝障害および肝線維症・肝硬変における検査値の見方,鑑別診断について述べる.

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2020年3月,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)の新規治療薬剤として,抗体製剤ウステキヌマブ(ustekinumab;UST,ステラーラ®)の投与が可能になった.本邦では,消化器領域ではすでに3年前から難治性クローン病(Crohn’s disease;CD)に対する治療薬として投与が開始されている薬剤である.UC治療の抗体製剤治療薬剤としては抗TNF—α抗体製剤や抗α4β7インテグリン抗体製剤が投与可能になっているが,UST製剤の構造はヒト型IgG成分であることや,初回投与は点滴静注,その後皮下注を継続するなど,すでに用いられてきた抗体製剤と異なる特徴を有している.難治性UCに対して,寛解導入効果とともに長期寛解維持効果が期待される本製剤について,臨床開発UNIFI試験の成績に基づき解説する.

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臨牀消化器内科
36巻1号 (2020年12月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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