臨牀消化器内科 33巻13号 (2018年11月)

特集 肝線維化ー診断を超えて

巻頭言 佐々木 裕
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肝線維化という病態が注目される理由は,肝線維化と肝発癌との密接な関連が臨床的に明らかであることにある.たとえば,肝細胞癌の80〜90%は硬変肝より発生し,HBs抗原陽性患者では,線維化マーカーであるFib4 indexが高いと発癌のリスクが約15倍に上昇し,エラストグラフィによる肝硬度測定値が12 kPa以上であれば4 〜13倍に発癌リスクが上昇するとされている.一方,HCV陽性慢性肝疾患でも線維化の進展に伴い,発癌率が上昇することは周知の事実である.それでは,はたして線維化そのものが肝発癌に機能的に関与するのか,それとも線維化は単に炎症の副次産物であり,炎症に伴う発癌には何ら関与していないのかという臨床的な疑問が浮かんでくる.

1 .肝線維化,肝硬変の病理診断 全 陽
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肝線維化は古典的な病理学的テーマである.古くは線維化進展の機序が研究されていたが,最近では線維化のregression に興味がもたれている.その理由はC 型肝炎を含むいくつかの肝疾患が治療可能となったからだろう.線維化のregression 機序は線維化の吸収とともに肝実質の再生により生じると考えられている.組織学的には,細い線維性隔壁,炎症を伴わない隔壁,門脈域周囲の細い線維の伸び出し,門脈域に取り込まれる肝細胞集塊,再生結節の大型化が観察される.しかし,成因により観察される変化にも違いがあり,とくに胆汁うっ帯性肝疾患では,胆管消失が不可逆的なため,線維化のregression も期待できない症例が多い.

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FibroScan(R) は非侵襲的かつ簡便に肝硬度測定が可能である.肝硬度は肝線維化・肝癌リスクとの関連があり,ウイルス肝炎のみならず,非ウイルス肝炎においても肝線維化・肝癌リスク評価に有用である.また肝硬度測定と同時にCAP 測定が可能となり,脂肪肝の定量的な評価が可能となった.肝硬度測定およびCAP 測定は,糖尿病やメタボリックシンドロームに関連するNASH/NAFLD のリスク評価および経過観察への有用性が期待される.またその定量性・客観性から,教育・啓発および住民健診などに有用である.

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肝線維化評価のゴールドスタンダードは肝生検であるが,非侵襲的な肝線維化評価方法である超音波エラストグラフィが普及しつつある.超音波エラストグラフィは非侵襲的で簡便であり,繰り返し測定できるというメリットがあり,その有用性は確立されつつある.各汎用超音波機器で測定が可能であり,その測定方法や違いを理解して使用する必要がある.

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近年,NAFLD 診療において肝臓の線維化を非侵襲的に定量するエラストグラフィの普及が進んでいる.MRI ベースのMR エラストグラフィ(MRE)は超音波ベースのFibroScan(R)(VCTE)に比べ線維化診断能の感度・特異度が高いが汎用性ではVCTE が勝っている.実臨床では各種エラストグラフィの長所短所,さらには肝硬度と病理学的線維化との対応などを熟知したうえでの使用が望まれる.

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肝線維化の進展度を正確かつ経時的に評価することは診療上きわめて重要であり,繰り返し測定可能な血清バイオマーカーの果たす役割は大きい.肝線維化は肝における線維合成(fibrogenesis)と線維分解(fibrolysis)との動的なバランスによって形成されており,これらの過程で結合組織の構成成分が血中に流出してくる.従来から,これらに関連した血中濃度の測定が血清線維化マーカーとして用いられており,おもなものとしてヒアルロン酸,Ⅳ型コラーゲン,Ⅳ型コラーゲン7S,Ⅲ型プロコラーゲンN 末端ペプチドが挙げられ,すでに保険適用がある.一方,最近ではMac?2 結合タンパク質糖鎖修飾異性体(M2BPGi)やオートタキシンといった新しいバイオマーカーも開発されており,いずれも保険適用となった.それぞれの血清線維化マーカーの特性や意義は異なり,また病因や病態によりその挙動は異なる.したがって,実臨床ではそれぞれの特性をよく理解したうえで,病態に応じた使い分けや,結果の解釈が必要である.

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肝の線維化進展は肝癌の発症など予後に大きく関わるため,肝線維化の評価は慢性肝疾患診療においてきわめて重要である.肝線維化予想式(スコアリング)は肝線維化や肝硬変の存在により影響を受ける血液検査項目で構成されており,そのなかでも肝臓専門医以外の一般医家が日常診療で実施する検査項目や年齢,BMI などから構成されるスコアリングはとくに有用である.FIB-4 index やAPRI などはどの慢性肝疾患においても有用であるが,NAFLD fibrosisscore やBARD score などNAFLD 特有の有用なスコアリングが数多く報告され注目されている.外来などの日常診療においても肝線維化進展を比較的簡単に評価できるため,スコアリングの活用が期待される.

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肝疾患領域においては,B 型肝炎ウイルスおよびC 型肝炎ウイルスの持続感染によるウイルス性慢性肝炎患者においても,脂肪肝やNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)などの非ウイルス性慢性肝機能障害患者においても,肝線維化進展例では肝発癌リスクが高いことが広く知られている.しかしながら,線維化進展の程度が同じであっても,肝病変の成因によっても肝発癌リスクは異なる.肝線維化所見を揃えて,C 型慢性肝炎患者とB 型慢性肝炎患者の肝発癌リスク,年間肝癌発生率を比較した場合,C 型慢性肝炎患者ではB 型慢性肝炎患者の約2 倍肝癌発生率が高いことが理解できる.

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肝線維化は,慢性肝障害により発症し,1 型および3 型コラーゲンが過剰に蓄積する病態である.肝線維化は,進行すれば,やがて肝硬変に至る.肝硬変は,病態の理解と合併症の治療の進歩により,生存期間の延長をもたらしたが,非代償性肝硬変は未だ治療法のないunmetmedical needsの対象である.肝線維化の動物モデルは複数報告されている.本稿では,7種類の肝線維化動物モデルをレビューしたが,肝発癌を認めるのは1 種類のモデルのみであった.また,肝発癌モデルにも肝線維化を合併する場合と合併しない場合が存在する.したがって,肝線維化と肝発癌は異なるパスウェイで発症することが示唆される.

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C 型肝炎に対する治療成績は,経口直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antiviral;DAA)の登場により飛躍的に向上した.一方,C 型肝炎ウイルス排除後には肝炎の沈静化は得られるが,肝発癌は完全には抑制されない.DAA 治療によるウイルス学的著効達成後の発癌抑制効果の検討や,発癌リスク因子の同定とそれに基づくサーベイランスシステムの確立が必要である.

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核酸アナログ製剤投与によりHBV 増殖が抑制され,それに伴い肝機能が改善されることは周知の事実である.それに伴い近年,核酸アナログ製剤による肝線維化改善効果が報告されている.多くの症例は肝線維化改善を認めるものの,一部では改善の乏しい症例も存在するので注意が必要である.

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肥満・糖尿病などの生活習慣病の増加とともに,肝癌・肝不全の原因としてのNASH の重要性が高まりつつある.一方,NASH の死因は心血管イベント,他臓器癌,肝疾患関連死である.近年のメタ解析で,肝線維化の進行は肝疾患関連死のみでなく,心血管イベント,他臓器癌のリスクも高めることが明らかになった.肝線維化診断のゴールドスタンダードは肝生検であるが,非侵襲的な診断法として,FIB4 index,NAFLD fibrosis score などのスコアリングシステムや超音波エラストグラフィ,MR エラストグラフィなどの画像診断の有用性が確立されてきた.近年,肝線維化の改善を目標とした治療薬の開発が進行中であり,肝線維化抑制作用によってNASH の予後を改善できることを期待したい.

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肝硬変はかつて不可逆な疾患と考えられていたが,現在ではウイルス肝炎治療をはじめ原因に対する治療が発展し,可逆性のある疾患としてエビデンスが蓄積され,新たな治療法の開発が模索されている.本稿では線維化改善というアプローチを線維形成(fibrogenesis)を阻害することと線維溶解(fibrolysis)とに分けて検討し,それに付随する再生促進という観点についても考えていきたい.とくにわれわれが注目している細胞療法でのアプローチを紹介していきたい.

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Endocytoscopy system (ECS)はわれわれの最初の基礎研究から16 年の時を経て2018 年市販に至った.ECS はこれまでのマクロレベルの肉眼形態診断,実態顕微鏡レベルの血管,pit診断を越えてミクロレベルの診断を可能にした超拡大内視鏡である.第4 世代ECS (GIF‒Y0074)は外径9.8 mm と細径化され,従来の拡大内視鏡と同様ハンドレバーで光学的に連続して500 倍まで倍率を上げることができる.さらにHi‒vision 化に成功し,より鮮明に核の形態をとらえることができるようになった.ECS 使用の現時点での最大の目標は生検診断の省略である.本稿では食道におけるECS 観察の実際について詳述する.

連載 Dr. 平澤の上部消化管内視鏡教室―この症例にチャレンジしてください

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門脈血栓症は肝硬変症の経過中にしばしば遭遇する合併症の一つである.今回,門脈血栓の進展を契機に腹水が増悪し,敗血症,特発性細菌性腹膜炎(spontaneous bacterial peritonitis;SBP),肝不全が惹起されたものの,アンチトロンビンⅢ(antithrombin‒Ⅲ;AT‒Ⅲ)製剤とダナパロイドナトリウムによる抗凝固療法が奏効した非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholicsteatohepatitis;NASH)の肝硬変例を経験した.当初は肝硬変が原因で門脈血栓が惹起されたものと考えていたが,門脈血栓が短い間に再発性であったことから,さらに血栓性素因を検索したところ,肝硬変症に加えてプロテインC(protein C;PC)活性の低下が背景にあったことが判明した.貴重な症例と思われたのでここに報告する.

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第73 回 日本消化器外科学会総会(鹿児島大学大学院消化器・乳腺甲状腺外科学教授 夏越祥次会長,http:╱╱www.jsgs73.jp╱)が2018 年7 月11〜13 日の3日間,鹿児島市で開催された.本年は日本消化器外科学会にとり創立50周年の節目の年に当たり,同時に50周年記念式典が開催された.同学会総会の鹿児島市での開催は2004 年の第59 回(会長:愛甲 孝 鹿児島大学名誉教授)に続き14 年ぶりの開催である.また明治維新150 周年と鹿児島県にとり記念すべき年で,ちょうどNHK 大河ドラマ「西郷どん」の放映時期とも重なり,「維新のふるさと鹿児島市」の名のもとに地元では多くの記念事業が予定されているそうで,当たり年といえよう.

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臨牀消化器内科
33巻13号 (2018年11月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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