臨牀消化器内科 34巻1号 (2018年12月)

特集 血流障害と消化管疾患

巻頭言 平田 一郎
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消化管に血流障害をきたす疾患は多種多様であるが,それらを発生機序別に分類すると,① 急性虚血型,② 血管炎型,③ 血管変性型,④ その他,の四つのカテゴリーに大別できる.血流障害による消化管病変は,粘膜の浮腫,発赤,アフタ,びらん,潰瘍,出血,壊死,穿孔ならびに漿膜炎,蛋白漏出症などさまざまであるが,これらの多くは上部消化管よりも下部消化管の病変として報告されている.

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血流障害が疾患の病態に関与している腸疾患を虚血性腸病変と呼ぶが,その疾患概念はほぼ確立されている.しかしそのなかで,虚血性腸炎については,未だ種々の問題点がみられる.「虚血性腸炎」は壊死型を含む広義に扱うべきか,壊死型を含まない狭義に扱うべきか統一されていないことが大きな問題である.本稿では,虚血性大腸炎の診断基準と定義の問題点,壊死型虚血性腸炎と非閉塞性腸管虚血の関連などについて述べ,考察を加えた.また,虚血性腸病変の分類の問題点について述べ,虚血性腸病変の新しい分類を提案した

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虚血性腸病変の代表的な疾患である虚血性大腸炎の臨床的特徴について,一般的な重症度分類(一過性型,狭窄型,壊死型)を中心に概説した.一過性型と狭窄型の明確な基準はないが,治癒期に注腸X線で正常腸管腔の70%未満,内視鏡では挿入困難な管腔の狭小や変形を伴う場合は狭窄型とされる.本邦では一過性型がほとんどで,狭窄型は少なく,壊死型はまれである.一過性型は50〜60歳代に多く,狭窄型,壊死型となるにつれ高齢化し,誘因も腸管側因子から血管側因子が優位となる.急性期の注腸X線では腸管の浮腫と拇指圧痕像,内視鏡では粘膜の発赤,浮腫,出血,びらんや縦走潰瘍が特徴的である.一方,壊死型は粘膜下血腫様,暗赤色粘膜を呈し,緊急手術が必要である.なお,本症の病態別に見た亜分類(若年発症例,右側結腸炎型,再発例)の臨床的特徴にも触れ,類似の臨床像を呈し鑑別診断が必要な感染性腸炎について言及した.

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虚血性小腸炎は,血流障害によって小腸に限局した虚血性病変が生じる疾患の総称であり,原因が不明な特発性虚血性小腸炎と原因が明らかな続発性虚血性小腸炎に大別される.高血圧,虚血性心疾患や糖尿病などの基礎疾患を有する中高年の男性に好発する.腹痛の原因疾患としてはまれであるが,病歴から本症が疑われる場合には,腹部造影CT検査に加え,小腸X線造影検査や内視鏡検査などの消化管検査を併用し総合的に診断する.初期には腸管安静,輸液などの保存的加療が行われるが,高度狭窄をきたし通過障害が改善しない場合,外科的切除術が必要となる.

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閉塞性大腸炎は,大腸癌やその他の疾患により,完全または不完全閉塞をきたした大腸の口側腸管に発生する非特異的炎症である.閉塞性大腸炎の発症には,腸管内圧の上昇,腸管攣縮,腸内容物停滞による腸内細菌の増殖や腸管壁の血流障害・虚血が関与するとされる.閉塞性大腸炎に対する治療は,閉塞の原因となった病変と炎症性変化の強い腸管を併せて切除することであるが,口側腸管における炎症や潰瘍性病変の遺残により術後合併症を呈することがあるため,閉塞性大腸炎の病態を理解することは治療を行ううえで重要である.本稿では閉塞性大腸炎の病態,臨床病理学的特徴,治療法などについて概説する.

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非閉塞性腸管虚血症(NOMI)は依然として死亡率が非常に高い,予後不良な疾患である.早期の特異的な症状や検査所見に乏しく,診断が非常に困難である.診断の遅れは腸管壊死につながる.早期の診断・治療がNOMIの救命率を改善させる.NOMIの治療戦略は確立していない.われわれは,まず開腹下で壊死腸管の切除を行い,術後に可能ならパパベリン塩酸塩の持続動注療法(血管拡張療法)を行うとともに,積極的な再開腹(second look operation),二期的な腸管再建術を行っている.

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SMA塞栓症/血栓症(閉塞症)は,早期診断が困難であるが発症から時間が経過すると腸管壊死に陥るため,急性腹症のなかでも重要な病態である.SMA閉塞症に対するIVRの適応は腸管虚血の場合で,壊死に陥っている場合は腸管切除術が必要となる.その治療方針を決定する腸管のviabilityの評価は困難であるものの,明らかな壊死所見がなければIVRの適応はある.SMA閉塞症に対するIVR単独治療成功の可否は,発症からの時間経過はいうまでもないが,側副血行路の発達の程度にも大きく影響される.側副血行路の発達が乏しく分枝の描出が不良であった場合,IVR施行により上腸間膜動脈本幹や分枝の血流が再開しても腸管壊死に陥っている可能性があり注意を払う必要がある.

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腸間膜静脈硬化症(mesenteric phlebosclerosis)は,本邦で疾患概念が提唱された疾患である.本疾患は腸間膜静脈の石灰化に起因した還流障害によるもので,組織学的に腸壁の膠原線維の沈着が主体である.病変は右側結腸を主座として,大腸内視鏡検査では腸管の色調は青銅色から暗黒色を呈し,管腔は狭小化や半月ひだの肥厚を認める.腹部単純X線やCT検査では腸管周囲に石灰化を,注腸X線検査では管腔の不整,硬化像,狭小化,拇指圧痕像を認める.近年では山梔子を含む漢方薬の長期服用がその原因の一つとされている.山梔子の休薬により多くは症状の改善を認めるが,腸管の変形が強い症例や狭窄を伴う症例では手術が必要となる.

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IgA血管炎は,IgA免疫複合体が血管壁に沈着することで生じる全身性の細小血管炎であると考えられている.皮膚症状,関節症状,消化器症状,腎症状がおもな4徴で,その他神経症状や呼吸器症状などさまざまな全身症状を呈する.消化管病変は全消化管に起こりうる.とくに十二指腸を含む小腸に病変が認められることが多いとされる.内視鏡所見は浮腫,発赤,びらん,潰瘍など多彩な像を認め,広範囲に及ぶこともある.診断は臨床所見に加え,生検による組織所見により行うが,腹部症状が先行する例では内視鏡所見より本疾患を想起することが必要である.多くは対症療法で軽快するが,持続する腹痛や消化管出血,腎障害など臨床的に問題となる症状や症候を有する場合はステロイドを使用する.多くの症例でステロイド治療が著効し,予後は良好とされる.

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血流障害を伴う膠原病,おもに血管炎による血流障害による消化管病変について述べる.血管炎とは血管壁に炎症をきたす全身性疾患の総称で,現在,大きく結節性多発動脈炎(PAN)と抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎に分けられる.好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA),多発血管炎性肉芽腫症(GPA),顕微鏡的多発血管炎(MPA)の3疾患がANCA関連血管炎である.そのほかに全身性エリテマトーデス(SLE)も血管炎による消化管病変を認める.血管炎は罹患血管サイズによって病因,病態が異なるが,基本病態は閉塞性血管炎とそれによる虚血性病変と動脈瘤破裂や潰瘍による出血性病変である.

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宿便性潰瘍は停滞した糞便塊の圧迫による血流障害により生じる褥瘡潰瘍で発症の背景には高齢者の長期臥床がある.症状は高度の便秘の後に突然生じる無痛性の新鮮血便が特徴で治療は排便コントロールである.出血症例に対しては露出血管が確認されれば内視鏡的止血が第一選択である.鑑別診断として直腸粘膜脱症候群や急性出血性直腸潰瘍がある.

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放射線性腸炎は,放射線治療の照射範囲に隣接する腸管に生じる有害事象である.原発巣に応じてさまざまな放射線照射方法があり,頻度の差はあるものの,いずれの照射方法でも放射線性腸炎は起こりうる.病態は,照射中から数週間以内に出現する早期障害と,数カ月以降に発症する晩期障害に分けられるため,発症時期や重症度を考慮した対処が必要である.頻度の高い直腸出血に対しては,アルゴンプラズマ凝固法(APC)が有用であり,潰瘍を伴う場合には高圧酸素療法の併用が効果的である.重症例では狭窄や瘻孔による通過障害が出現する例も少なからず存在し,手術が必要な場合もあるが,術後合併症の可能性を考慮した対応が必要となる.

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消化管アミロイドーシスはAA型とAL型が多い.AA型では粘膜固有層内と粘膜下層血管壁に沈着するため典型例では粗糙な微細顆粒状粘膜面を呈する.一方,AL型では粘膜筋板と粘膜下層優位に塊状沈着を生じるため,多発性の粘膜下腫瘍様隆起とびまん性の皺襞肥厚像を呈する.ともに沈着が高度になると末梢循環障害の結果,易出血性や潰瘍の合併をきたすが,近年,AL型で粘膜下血腫の合併例の報告が散見される.

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潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC),クローン病(Crohn’s disease;CD)に代表される炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)の病因や病態は未だ判明していないが,遺伝的要因,感染,免疫応答異常の関与が指摘され,さらに,これらの因子のほかに,消化管の微小循環障害の関与が想定されている.消化管粘膜には,食事の消化吸収機構だけでなく,腸管内の防御機構,各種免疫反応や免疫寛容機構,各種内分泌作用など,多種多様な機構が存在し,そのすべてに微小循環(microcirculation)系が関与している.IBDにおける微小循環障害および,その血行動態や血管内の炎症細胞により生じる血栓症を理解することが大切で,さらに血管内の炎症細胞を制御する血球除去療法および接着因子阻害薬などの治療は有用と考えられる.

連載 検査値の読み方

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肝内AP(肝動脈-門脈)シャント/肝動脈門脈瘻(arterioportal fistula;APF)は,慢性肝障害,肝腫瘍あるいは,それらに対する処置後に生じることがあるが,基礎疾患を伴わない特発性のAPシャントはまれである.APシャントはシャント血流量によっては著明な門脈圧亢進症状を呈することがあり,難治性腹水,静脈瘤出血の原因となる.APシャントの症例は,腹水や消化管出血を契機に受診するため肝硬変や悪性腫瘍の疑いで加療されている症例もあるが,シャントに対する治療により著明に改善する可能性がある病態であるため,早期の発見が重要である.

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大腸腫瘍診断学は拡大内視鏡の登場により飛躍的に向上してきた.拡大内視鏡を用いたpit pattern診断学が確立され,腫瘍・非腫瘍の鑑別のみならず腫瘍の深達度診断までもが可能となった.NBI(Narrow Band Imaging)の登場により大腸表層における微小血管の形態が観察可能となり質的診断の精度は一段と高くなった.しかし,現在の大腸腫瘍の確定診断のgold standardは生検による病理診断である.生検による病理診断は,結果が出るまでに時間を要し,さらに出血のリスクを伴う.とくに近年は抗血栓薬を内服している症例も多く,止血困難な出血を引き起こす可能性もあり生検には慎重な判断を要する場合もある.近年登場した次世代の拡大内視鏡(Endocyto;EC,オリンパス社)は500倍の超拡大機能を搭載し,構造異型に加え細胞異型(=核の異型)の評価を可能とした.ECを用いれば,病変の組織を採取することなく,真の“optical biopsy”を実現できる可能性があり,実臨床における本格的な評価が待たれる.

連載 内視鏡の読み方

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本邦での悪性腫瘍剖検例において,固形癌の胃転移の頻度は2.3〜5.4%と報告されている.しかしながら,転移性胃腫瘍が生前に診断されることは少ない1),2).その理由としては,胃が管腔の比較的広い臓器であり閉塞症状が認められにくいことや,食欲低下や上腹部不快感などの自覚症状が,原発癌に対する化学療法による副作用と診断される場合が多いためと考えられる.近年,各種悪性腫瘍の治療法が進歩し長期生存患者が増加していることを考慮すると,今後転移性胃腫瘍に遭遇する頻度が高くなると思われる.転移性胃腫瘍は,乳癌,悪性黒色腫,肺癌,食道癌からの転移が多いとされるが,日常診療において乳癌胃転移を経験することはまれである3).その一方で,乳癌胃転移は原発性胃癌と内視鏡的に鑑別が難しいことがあり,病理組織学的にも診断が難しい.原発性胃癌と乳癌胃転移では治療方針がまったく異なるため,乳癌胃転移を正しく診断することは非常に重要である.今回は本症を取り上げ,内視鏡を中心とした診断の要点について述べる.

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臨牀消化器内科
34巻1号 (2018年12月)
電子版ISSN:2433-2488 印刷版ISSN:0911-601X 日本メディカルセンター

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