臨牀透析 35巻1号 (2019年1月)

特集 透析患者の糖尿病管理の新展開

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糖尿病性腎症による血液透析患者はいまだ増加しており,日常臨床において糖尿病血液透析患者を診る機会は多い.これらの患者では貧血や赤血球造血刺激因子製剤の投与によりHbA1c 値は見かけ上低値となることが知られており,血糖指標としてグリコアルブミンの測定が推奨されている.しかし,糖尿病血液透析患者を対象とし,血糖コントロールの意義を検討した無作為化比較試験はいまだ行われておらず,至適な血糖管理目標値は不明である.血圧管理も血糖と同様に至適な管理目標値は不明である.さらに,どのタイミングでの血圧測定がこれらの患者の予後予測に有用であるかを明らかにすることも今後の課題である.

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わが国の糖尿病腎不全患者群においては,血液透析(HD)に比較して,腹膜透析(PD)の普及率が低いことが知られている.その原因としては,高濃度ブドウ糖液曝露による血糖コントロールの悪化やPD 関連腹膜炎のリスクなどが考えられる.一方で,糖尿病腎不全患者でのHD 導入とPD 導入の間での生命予後の違いについては,統一した見解がない.近年,PD 液やPD システム,そして糖尿病治療薬の進歩により,糖尿病PD 患者のpatient survival やtechnicalsurvival は改善していると考えられており,今後のさらなるPD の普及が期待される.

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糖尿病透析患者の食事療法は,エネルギーは30〜35 kcal/kg BW/day を推奨するが,血糖および体重コントロール目的として25〜30 kcal/kg BW/day までの制限も考慮する.また,たんぱく質,食塩,カリウム,リンは,基本的には非糖尿病透析患者と同様とするが,透析量,血糖値を含む検査結果,身体所見および食事摂取量を評価しつつ調整していくことが重要である.とくに高齢者では,フレイル・サルコペニアの予防のため,たんぱく質摂取制限に伴う低栄養がないか,一定のたんぱく質摂取量を確保できているかを確認する.すなわち,個々の患者に合わせたプランを検討し,モニタリングしながら安全で効果的な管理を行う必要がある.

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糖尿病性腎症は透析導入の原疾患第1 位であり,糖尿病は透析患者におけるフレイル合併の危険因子である.透析患者においてフレイルの合併はさまざまな有害事象を引き起こすことから,通常臨床のなかでフレイルを意識した疾患管理を実践していく必要がある.こうした管理は糖尿病重症例ではとくに重要である.フレイルはしかるべき介入で再び健常な状態に戻ることができる可逆的な状態と定義されている.欧米および本邦の診療ガイドラインでは,こうした疾患管理としての運動指導の実施が推奨される一方,臨床の現場における運動指導の実施率は未だ低いのが現状である.透析医療のさらなる質の向上を目指すうえで,透析患者に対する疾患管理としての運動指導を,通常臨床の一環として実践するべきである.

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糖尿病患者において,腎機能障害の進行に伴い血糖値やHbA1c 値も正常化または低値(<6.0 %)となり,糖尿病治療薬が不要となる現象がある.このような現象を“burnt-out diabetes”と呼称している.糖尿病透析患者においてはburnt-out diabetes,とくにHbA1c<5.0 %と低値であることが予後不良であることが報告されている.わが国の検討ではHbA1c<6.0 %は49.2 %を占め,米国の報告(33〜40 %)よりも多かった.HbA1c<6.0 %の症例のうち,糖尿病治療薬を使用していない割合(=“burnt-out diabetes”)は20.7 %であった.しかし,HbA1c とグリコアルブミンを組み合わせて検討を行うと,その割合はわずか5.4 %にすぎなかった.

5.血糖モニタリング 船越 哲
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糖尿病を有する患者の血糖コントロールの指標のうち,平均血糖については「血液透析患者の糖尿病治療ガイド2012」に述べられているように,血液透析患者ではヘモグロビンA1c ではなくグリコアルブミンを用いることでコンセンサスが得られている.加えて血液透析治療が血糖を変動させることが知られており,われわれは糖尿病透析患者の血糖変動を抑制し,心血管イベントのリスクを軽減せねばならない.本稿では,持続血糖測定器(continuous glucose monitoring;CGM)を用いて,血糖変動を抑える可能性のあるインクレチン製剤のうち,GLP-1 受容体作動薬の有用性を解説する.

6.薬物療法 森 克仁 , 稲葉 雅章
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糖尿病血液透析患者では,腎機能低下により,生理学的にも,薬理学的にも低血糖が生じやすくなる.また,血液透析により,透析中の急峻な血糖値の低下や透析後の急激な血糖値上昇を示す症例もあり,血糖コントロールがきわめて困難である.このようななか,血糖依存性のインスリン分泌作用を有するインクレチン関連薬の登場は大きな進歩であった.とくに経口血糖降下薬であるDPP-4 阻害薬は有効で,かつ安全な血糖コントロールをもたらし急速に普及した.また,注射薬療法ではあるが,週1 回製剤も登場したGLP-1 受容体作動薬にも大きな注目が集まっている.今後,新規治療薬による予後改善にも大きな期待が寄せられている.

7.インスリン療法 田中 伸枝
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本邦における透析患者のうち,糖尿病患者の占める割合が高いことはよく知られている.透析医療の現場で糖尿病治療が必要になることは多々ある.近年使用可能となっている経口糖尿病薬により,以前よりインスリン使用例は減少傾向になりつつあるも,インスリン使用が必要な症例は依然として多い.透析患者はインスリン・クリアランスの低下や尿毒症の影響により血糖値が低下しやすい.また,腎性貧血などの影響によりHbA1c などの血糖の指標が必ずしも使用できず,また,持続血糖測定器(continuous glucose monitoring;CGM)などの血糖モニタリングも十分には普及していない.したがって,インスリンの使用には注意を要する.ただし,basal supported oral therapy(BOT)や,中間型や持効型インスリンなどを透析施設来院時に医療者が投与するなどの方法もあり,必ずしも透析患者においてインスリン療法を避ける必要性はない.透析患者におけるインスリン療法の意義に関しては,今後も,より良いエビデンスの確立が必要であると思われる.

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透析患者の眼障害は,眼表面から視神経に至るまで多彩な病変が原因となる.糖尿病による糖尿病網膜症や高血圧による高血圧性網膜症など基礎疾患に伴うものから,透析導入による血液中の電解質のバランスの崩れや体液変動など,さまざまな要因によるものまで多岐にわたる.ここでは,透析患者によくみられる眼障害を挙げて,最近の傾向と対処法について述べた.

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糖尿病性神経障害は,糖尿病患者にもっとも多く認められる合併症であり,患者のQOL のみならず生命予後をも左右する重要な糖尿病性合併症であり,予防ならびに早期の診断と治療が重要である.診断には,自覚症状と理学所見による簡易診断基準が汎用されているが,電気生理学的検査および形態学的検査を用いることにより,早期診断が可能となる.糖尿病性神経障害の一次および二次予防策として,良好な血糖コントロールの維持とアルドース還元酵素阻害薬の有用性が明らかとなっている.有痛性糖尿病性神経障害に対する有効かつ保険適用の認められた対症療法薬であるプレガバリンおよびデュロキセチンの登場により,QOL の改善が期待される.

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糖尿病を合併した透析患者においては心血管疾患の合併頻度が高く,また予後不良が知られているにもかかわらず,典型的な症状を示しにくいことから,診断が難しく重症化してからようやく顕在化する患者をしばしば経験する.胸部症状がなくてもドライウエイト調整に反応しないうっ血症状や透析中の血圧低下は虚血性心疾患の関与を疑うべき所見である.冠動脈狭窄のみならず,貧血,内シャントなど心筋酸素需要と供給のバランスを破綻させる他の要因に留意する必要がある.

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透析患者における大動脈疾患の合併は,かなり進行した全身の動脈硬化の状態と捉える必要があり,びまん性で壁在血栓も多いこともあり,治療もきわめて困難なことが予想される.大動脈瘤,大動脈解離のみならず,大動脈狭窄もある.手術そのもののリスクも高く,術後のmortality もかなり高い.術後のfollowもしっかり継続する必要があると思われる.また,大動脈石灰化を認めれば,CT を行うことを推奨する.

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糖尿病および慢性腎臓病は,ともに脳血管疾患の独立した危険因子であり,糖尿病透析患者は脳血管疾患のハイリスク集団である.とくに,透析患者は血行力学性脳梗塞を発症しやすく,糖尿病透析患者ではさらにそのリスクが高い.脳血管疾患を予防するには高血糖,高血圧といった動脈硬化危険因子の管理に加え,透析後の起立性低血圧の予防が重要である.心房細動合併透析患者の抗凝固療法の是非については未だ結論が出ておらず,今後の新たなエビデンスの蓄積が望まれる.

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糖尿病患者における認知症の合併は,高血糖や低血糖をきたしやすくし,日常生活動作(ADL)の低下や心血管疾患の増加をもたらし,最終的には生命予後を悪化させる.近年,糖尿病と認知症を合併する血液透析患者数は増加しており,認知症を早期に発見することはきわめて重要である.早期発見のためには,記憶障害,手段的ADL の低下などを手がかりとして,認知症のスクリーニング検査を行う.認知機能障害がある場合には,運動療法,食事療法,心理サポート,介護保険をはじめとした社会資源の確保,などの対策を講じる.とくに,認知症と重症低血糖は悪循環を形成しうるので,低血糖対策を行うとともに,柔軟な血糖コントロール目標を設定し,治療の単純化を行う.

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歯周炎は,嫌気性細菌感染による慢性の炎症性疾患である.一方,糖尿病は,喫煙とともに歯周病の危険因子であり,腎症,網膜症,神経障害などとともに,歯周病は,糖尿病の慢性合併症として留意する必要がある.さらに歯周病は,死因にまでも関わっていることが示唆されている.しかし,歯周病と慢性腎疾患や透析との関連性を支持する報告は少ない.透析導入前の慢性腎疾患初期の段階において,すでに歯周病に罹患している可能性が高いため,糖尿病患者は透析に至る前に,早期の歯周病治療や定期的な歯周病管理が必要である.

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糖尿病胃腸症は糖尿病自律神経障害の一部である.透析の原因が糖尿病性腎症の場合には,糖尿病自律神経障害は高度に進行していることが多い.糖尿病胃腸症には胃不全麻痺,交代性の便秘・下痢などがあり,胃不全麻痺は悪心・嘔吐をきたす.これらの消化器症状が,αグルコシダーゼ阻害薬やGLP-1 受容体作動薬などの糖尿病薬やその他の薬剤による副作用の疑いがある場合は,これらの薬剤の中止を検討する.胃不全麻痺では,血糖値が不安定となり,血糖コントロールに難渋することが多い.便秘にはまず浸透圧性下剤が勧められる.腸蠕動が著明に低下しているため刺激性下剤も有用である.慢性下痢に対して止痢剤は効果的な薬剤である.

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糖尿病透析患者にみられる末梢動脈疾患(PAD)は,下腿・足部などの末梢領域の血管が狭窄・閉塞する頻度が高く,広範囲に病変が認められ,高度に石灰化を伴うのが特徴である.末梢神経障害も合併し足の変形や知覚低下をきたすため,受傷しやすく気づきにくい.足に創傷があると感染合併も多い.PAD 発症・進展の予防には何より早期発見・早期治療が重要である.そのためには末梢循環を調べるスクリーニング検査施行が求められる.十分な透析を行い,適切な栄養をとり,リン管理はしっかり行う.抗血小板薬の内服も忘れずに行い,セルフケア指導やフットケアの実施は有用である.

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末梢動脈疾患(PAD)において跛行肢と重症虚血肢(安静時痛,潰瘍・壊疽)では血行再建の適応は異なる.前者では動脈硬化危険因子の是正,薬物・(可能であれば監視下での)運動療法を行ったうえで血行再建の適応を考慮するのに対し,後者では疼痛コントロール,感染併発例は感染ドレナージを行いつつ救肢のために血行再建を考慮することとなる.糖尿病および透析患者は下腿足部領域に病変を有することが多く,その血行再建は高い難易度を伴う.患者の生命・患肢予後,QOL に応じた治療のエンドポイントを得るための最適な血行再建を行うことが肝要である.

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透析患者の足切断の回避のためには,血流障害の早期発見が重要である.毎透析時に関わる看護師は,足病変をもっとも発見できる立場にあり,足病変のハイリスク患者に対し,神経障害,血流障害,変形などの観察とフットケアシートを活用し経過を見ることが重要である.観察の頻度は患者の足の状態で変わるが,看護師は足病変に対する知識を深め観察力をもち,患者の状況に合わせた定期的な観察とケアを行っていくことが重要である.透析患者の足病変では,看護師の観察力が早期治療と下肢切断の回避に繫がり,看護力が透析患者のQOL を守ることができるという意識をもちフットケアを提供していく必要がある.

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謹んで,新年のご挨拶を申し上げます.2019 年が始まりました.皆様どのような新年をお迎えになっているでしょうか.本年の本誌editor in chief を拝命いたしました.この「臨牀透析」も,第35 巻を数えるに至りました.数年前から年間テーマを設定し,そのテーマを基本として,さまざまな方面から透析医療について議論いただいてきております.本年のテーマは,「透析医療におけるアートとサイエンス」とさせていただきました.

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目次

次号予告

編集後記

基本情報

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臨牀透析
35巻1号 (2019年1月)
電子版ISSN:2433-247X 印刷版ISSN:0910-5808 日本メディカルセンター

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