臨床雑誌外科 80巻12号 (2018年11月)

特集 外科医が知っておくべき最新のゲノム医療

I. 総論

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がんゲノム医療は,次世代シークエンシングによるパネル検査の結果に基づき個々の患者へ適した治療法を提供する診療的側面とともに,患者から得られたゲノム情報と臨床情報を統合し,がんゲノム情報管理センターの知識データベースへ格納のうえ,データの二次利用,解析などを実施し新たな技術革新につなげるという研究的側面を合わせ持つ.診療としてのゲノム医療では臨床試験を通じて判明した限界を知り,新しい技術の効率的な運用を考える.

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がんの診断のために行われる生検は,これまで主に組織生検が行われてきたが,低侵襲かつがん組織全体の性質を診断しうる新たな診断法として,末梢血中に流れるがん細胞由来のエクソソームや循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)を検出する「リキッドバイオプシー」の臨床応用が急速に期待され始めた.がん細胞のアポトーシスなどにより血中に放出されるがん由来のゲノムであるctDNAの存在は,70年ほど前から知られていたが,近年digital PCRや次世代シーケンサー(NGS)の精度が向上し,血漿中のごく微量なctDNAを検出することができるようになり,その臨床応用への期待が一挙に高まってきた.当研究室において消化器癌を対象に行われているNGSを用いたリキッドバイオプシーのfeasibility studyでは,ctDNAの臨床的意義を示唆する結果が得られている.しかし米国臨床腫瘍学会と米国病理学会の共通の見解として,ctDNAの定量性についてはいまだ課題があることが報告されている.一方EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の適応を決めるためのコンパニオン診断薬として,リキッドバイオプシーによるEGFR T790Mの定性診断が実用化(保険収載)されるなど,リキッドバイオプシーの臨床導入は今後も拡大していくものと予想される.

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乳癌の術後の生存期間・再発期間の予後予測は,遺伝子発現解析に基づいたMammaPrint(マンマプリント)検査が有効的である.本稿では,新たな外科的癌組織摘出後の患者の癌組織の遺伝子発現プロファイルと術後の生存期間・再発期間を追跡したコホートデータから,新たな予後予測に関連するバイオマーカーの同定,またそれらを組み込み有効性を向上させた生存期間・再発期間予後予測モデルの開発について概説する.

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食道癌の個別治療標的あるいは診断法の選択のために,癌ゲノム領域の理解と研究成果が望まれている.今日までに生殖細胞系列変異の解析では食道癌罹患の遺伝的要因,環境的要因が明らかであり,体細胞変異解析では高頻度の変異をきたすドライバー変異が報告されている.コピー数変異についても食道癌特異的な染色体レベルの増幅・欠損が明らかである.さらにゲノム研究成果の臨床応用としてcfDNAにおける体細胞変異検出が超早期再発や治療効果診断に有用と考えられる結果も示されている.本稿ではそれらを中心に述べ,今後の食道癌の診断や治療に有用な標的変異について考察する.

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胃癌ゲノム分類に特徴的な分子異常が治療標的として有用であり,分子標的薬剤のみならず既存の抗癌薬についても治療効果予測が可能となりつつある.ただし,ゲノム解析データは有用であるが胃癌は多様な細胞成分を有しているため,単独分子で治療戦略を選択することはむずかしいことに注意が必要である.今後の臨床試験では,あらかじめ対象症例の遺伝子プロファイルによって前層別して治療効果を比較するなどの工夫が必要となるであろう.

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次世代シークエンサーを用いた癌遺伝子パネル検査によって,RAS/RAF遺伝子をはじめとする薬剤耐性関連の遺伝子変異や,HER2遺伝子増幅などの治療標的の候補となる遺伝子変異の網羅的検索が大腸癌において可能となる.今後の遺伝子解析に備え,手術や生検組織検体の適切な保存について熟知しておくことが重要である.Lynch症候群の大腸癌はマイクロサテライト不安定性を呈し,免疫チェックポイント阻害薬が有効である可能性が示唆され注目を集めている.癌遺伝子パネル検査の普及によって,Lynch症候群などの遺伝性腫瘍と診断される症例が今後増加することが予想され,遺伝カウンセリングやサーベイランスなどの患者,家族の支援体制の整備が急務である.

5.肝癌のゲノム医療 中川 英刀
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肝癌のドライバー変異としては,Wntシグナル,TP53,テロメア,クロマチン調節因子などが確立されたが,actionabilityがある変異はわずかである.肝癌ではゲノム情報を用いた治療薬の選択を行うことは実現されていないが,現在承認されているmulti-kinase阻害薬との効果と関連するゲノム変異が報告されている.今後,肝癌のゲノム情報と分子標的薬の効果などの臨床情報との関連解析がすすむことによって,ほかの分子標的薬や免疫治療薬の肝癌の適応拡大とその効果予測のバイオマーカーが同定でき,肝癌のゲノム医療がすすんでいくものと期待される.

6.胆道癌のゲノム医療 柴田 龍弘
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大規模な胆道癌症例解析から,FGFR2キナーゼ関連融合遺伝子や免疫チェックポイント分子を含め,ドライバー遺伝子の全体像と複数の有望な治療標的が明らかになった.一方,症例ごとにドライバー遺伝子の多様性がみられることから,症例層別化が効果的な治療選択において必須である.また治療後増悪例における治療抵抗性変異の腫瘍内多様性が明らかとなり,リキッドバイオプシーも重要である.今後胆道癌について重要なドライバー遺伝子異常に応じて治療法を個別化し,また経時的なモニタリングによって治療を最適化していく「ゲノム医療」がすすむことが期待される.

7.膵癌のゲノム医療 古川 徹
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膵癌ではKRAS,TP53,CDKN2A,SMAD4,RNF43,ARID1A,TGFBR2,GNAS,RREB1,PBRM1,MLL3/KMT2C,MLL4/KMT2B,KDM6Aの異常が比較的よく認められる.ゲノム医療に関して膵癌に特異的な異常は明らかには示されていないものの,全腫瘍に共通の性質であるミスマッチ修復関連遺伝子,BRCA群遺伝子の異常と化学療法感受性の関連性は膵癌にも適応となることが示唆される.また,膵癌でよく用いられるpaclitaxelの副作用,irinotecanの効果については患者のgenotypeが関係することが知られている.

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膵神経内分泌新生物は,分化度やKi-67 indexに基づいた世界保健機関(WHO)2017分類により,神経内分泌腫瘍と神経内分泌癌に分けられる.神経内分泌腫瘍においては,家族性と孤発性の場合で発症に関与する遺伝子異常が一部異なる場合があるものの,多くはmTOR pathwayに関連する遺伝子異常が認められる.一方,神経内分泌癌においては一般的な悪性腫瘍で報告されているRb欠失やKRAS変異が認められる.そのため,両者は異なる遺伝子異常を有する疾患であることを認識したうえで,現在の診療や今後の治療開発を行う必要がある.

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近年,初期研修医の外科研修が必須とされず,外科医不足が懸念されている.当院では,内視鏡下手術の技術向上と研修医に外科への興味をもってもらうことを目的に,2014年12月から月1回のペースで内視鏡下縫合結紮講習会を行ってきた.今回,内視鏡下手術講習会への参加による技術向上と研修医の外科研修への意欲向上について検討したので報告する.

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はじめに 成人発症の胃軸捻転は比較的まれである.胃や脾臓を固定する間膜や靱帯の過剰な伸展が原因といわれており,遊走脾,横隔膜弛緩症との合併も報告されている.成人発症例では保存的治療で改善してもその後再発する場合があり,いずれかの時期に手術が必要となることが多い1).また捻転が高度になると,胃壁の虚血や穿孔をきたし緊急で胃切除術が必要になる場合もある2).今回われわれは,胃軸捻転を繰り返した成人発症例に対し,待機的に腹腔鏡下胃固定術を行い良好な結果を得たので報告する.

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はじめに 原発性小腸癌はまれな腫瘍で,希少癌(年間発症率6人未満/10万人)に該当し,原因は不明であるが,リスク因子としてある種の自己免疫疾患や遺伝性疾患が知られている1,2).症状も非特異的で間欠的な場合が多く,早期診断が困難で病悩期間が長く,高度に進行した状態で発見されることが多い.

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はじめに 憩室は筋層の有無によって真性憩室,仮性憩室に大別されるが,小腸における真性憩室はほとんどがMeckel憩室であり,空腸の真性憩室はまれである1).今回,胃癌術後経過観察中のCTにて腸重積を認めたことから発見された空腸真性憩室の1例を経験したので報告する.

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はじめに 大腸憩室炎による結腸皮膚瘻は本邦では比較的少なく,また,臍部に皮膚瘻を形成することは非常にまれである1).今回われわれは,S状結腸憩室炎により臍部に生じた結腸皮膚瘻に対して憩室切除術+瘻孔切除術を施行した症例を経験したので報告する.

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はじめに 腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術は広く普及しつつあり,非典型的な困難症例への適応拡大も試みられている.今回われわれは腹腔鏡下直腸切断術後で人工肛門を有する両側鼠径ヘルニアに対し,腹腔鏡下ヘルニア修復術をtransabdo­minal preperitoneal approach(TAPP)で行った症例を経験したので報告する.

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はじめに 鼠径ヘルニアにおいて,陥頓に伴う腸閉塞や腸管虚血といった症例を経験することは多いが1),腹膜炎を合併することは少ない.さらに,絞扼や外傷により腹膜炎を発症したという報告はあるものの,自然還納後の穿孔性腹膜炎の症例報告はきわめてまれである2).鼠径ヘルニア陥頓・腸管穿孔後,自然還納により発症したと考えられる腹膜炎の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

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はじめに 成人鼠径ヘルニアに対する術式の一つとして腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(totally extraperitoneal repair:TEP法)があげられる.壁内の操作のみで完了され,かつ腹腔内操作が極端に少ない点,さらに両側症例に対応しやすいという点で当科では標準術式の一つとして採用している.しかし下腹部正中切開を有する手術後に生じた症例では,そのTEP法に対して相対的禁忌ないしは適応外とされていた.本稿では下腹部正中切開を有する手術後におけるTEP法の症例を供覧し,その有効性について若干の文献的考察を加えて考察する.

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はじめに 成人再発鼠径ヘルニアに対する治療方針は再発部位の確実な診断,修復が可能である点から,近年腹腔鏡下手術の有用性に対する報告が散見されるようになってきた1~4).鼠径部ヘルニア診療ガイドライン20155)では,既往手術が腹膜前修復法での再発では鼠径部切開法が推奨されているが,腹膜前修復法で治療されていない場合には腹腔鏡下ヘルニア修復術は手技に十分習熟した外科医が実施する場合において再発ヘルニアに適しているとされている(推奨度B).Mesh plug法による両側鼠径ヘルニア術後の左鼠径ヘルニア嵌頓に対して,用手環納後腹腔鏡下に両側再発鼠径ヘルニア,右大腿鼠径ヘルニアと診断し修復した1例を経験したため報告する.

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はじめに 腎平滑筋腫(renal leiomyoma:RLM)は腎腫瘍の0.3%とされ,腎被膜に発生するものがもっとも多い1,2).本邦ではRLMの報告は100例を超えているが,免疫染色をふまえて診断した症例は少ない.RLMと診断されたものには免疫染色によって血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:AML)などほかの疾患と判明するものがあると報告されており3),本邦でも免疫染色をふまえた症例集積が望ましい.今回われわれは,右腎被膜に発生した30 cmの腫瘍で免疫染色をふまえてRLMと診断した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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はじめに 放線菌症(actinomycosis)は,慢性化膿性肉芽腫性疾患である.放線菌は咽頭,扁桃,消化管の常在菌で通常は無害であるが,炎症,手術,外傷により組織内に侵入すると病原性を生じる.診断に難渋することが多く,抗菌薬が奏効しない炎症性腫瘤を認めた場合には,本症を念頭におくことが必要である.今回われわれは,外科的切除により診断しえて軽快した放線菌症を経験したので,文献的な考察を加えて報告する.術前診断にはいたらなかったが,CTを後方視的に検討すると,腫瘤の経時的変化で診断しえたと考えられた.

基本情報

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臨床雑誌外科
80巻12号 (2018年11月)
電子版ISSN:2432-9428 印刷版ISSN:0016-593X 南江堂

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