臨床雑誌外科 80巻13号 (2018年12月)

特集 肛門疾患の診かた,治療法

I. 肛門疾患の診察法

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肛門診察は患者が羞恥心を感じやすくまた知覚に敏感な器官なので,未熟な診察では患者の苦痛が大きい.しかし丁寧な診察を行えば,消化管の終末器官であるため得られる情報は少なくない.本稿では肛門科専門医が日ごろ行っている肛門診察の基本を概説するので,診察の参考としていただきたい.

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直腸肛門内圧検査は直腸肛門機能を評価するための検査として広く認識されており,便失禁や便秘,便排出障害などの排便機能障害の診断や,治療効果の判定にたいへん有用である.測定にはプローブ,圧記録装置,記録表示装置そしてデータ記憶装置が必要であり,項目は排便障害の症状により最大静止圧,最大随意収縮圧や直腸感覚など選択して測定する.測定結果はほかの機能検査や臨床症状を含め総合的に評価判定し,臨床に役立てることが重要である.

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排便造影検査はbariumを含んだ擬似便を直腸内へ注入し,怒責排出をX線像で観察し,排便動作時の直腸,S状結腸,あるいは小腸と骨盤底筋群の動態を観察する検査である.この検査では排便困難型便秘症の原因[直腸瘤,小腸瘤,S状結腸瘤,会陰下降,直腸重積,骨盤底筋協調運動障害,腹圧(便排出力)低下]の診断,膣後壁脱出が主である骨盤臓器脱(直腸瘤または小腸瘤)の精査,難治性便失禁の病態評価に有用である.

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現在,痔核の治療は2015年に硫酸アルミニウムカリウ ム・タンニン酸(aluminum potassium sulfate hydrate, tannic acid:ALTA)療法(四段階注射法)が行われるようになってから,治療の選択肢も増え,適応も変化してきた.しかしながら,痔核のあらゆる病態にも対応可能である痔核結紮切除術(ligation and excision:LE)は,しっかりと習得すべき術式であると思われる.術式はMilligan-Morgan法を基礎としており,肛門機能の温存と,根治性の高さ,重大な合併症も少ない術式であると思われる.当院でのLEの術後晩期出血は1.8%,再発率も1.8%ときわめて低い.またLEを主体としたLE+ALTA併用症例においても,晩期出血は2.0%,再発率も3.0%ときわめて低い.LEの基本的手技を提示する.

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硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸(ALTA)療法は手技が簡便で術後の疼痛も少なく,使い勝手のよい治療法である.また,最近では併用療法などにも頻繁に使用されている.その一方で重篤な合併症の報告もあるため,適応をしっかり見極め,適正な使用法を行うことが肝要である.Anal cushion lifting(ACL)法は痔核組織を切除することなく,肛門を本来の形態に戻すことによって痔核を治療する手術法である.適応症例は「脱出を伴う全痔核症例」であるが,手術手技をしっかりと把握して行うことが必要である.また,うっ血の強い症例などではALTAを併用するなどの若干の工夫を要する.ACL法のメリットは,anal cushionや肛門管上皮を切除しないため,術後の肛門機能に影響がでないと思われる点や,美容面に優れる点,術後疼痛が少ない点と思われる.

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Procedure for prolapse and hemorrhoids(PPH)の適応は3ヵ所以上脱肛する内痔核,あるいは直腸粘膜脱である.Circular ano dilator(CAD)挿入,巾着縫合(運針のピッチ・深さ,歯状線からの距離,糸の締り),アンビルヘッドの適切な位置への挿入,ファイアリング時にCADとPPH本体を平行にする手技,止血縫合などの手技が再発率や併発症に影響する.特に巾着縫合は低い位置よりも歯状線の4 cm口側で施行するのが術後疼痛や術後出血,直腸狭窄などの併発症が少なく優れている.

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痔瘻の診断でもっとも重要なのは,視・触診ならびに肛門指診である.坐骨直腸窩痔瘻や骨盤直腸窩痔瘻などの深部痔瘻は,その進展様式により独特の触診所見を呈する.経肛門超音波検査や肛門部MRI検査は診断を確実とし,さらに根治手術に必要な情報を得ることができる.後方のⅡ型痔瘻には開放術式が行われることが多いが,minimal seton手術はあらゆる方向のⅡ型痔瘻,およびそれに類縁する痔瘻に適応可能で,再発や機能障害もほとんどない術式である.

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高位筋間膿瘍は歯状線より口側の筋間に膿瘍を形成したもので,一般的に肛囲皮膚に発赤や腫脹をきたさないため診断困難な場合が多い.触診で直腸後壁側を主体とした弾性軟な腫瘤として触知し,圧痛を伴う.ドレナージに際しては局所麻酔では困難で,腰椎麻酔または硬膜外麻酔が望ましい.筋間から直腸側へドレナージを行い十分排膿させる.肛門挙筋を介して会陰側にドレナージを行うと,新たな痔瘻を形成し難治化するので注意を要する.

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2012年4月~2014年9月に当院で坐骨直腸窩痔瘻に対して浅外括約筋外切開アプローチ法による括約筋温存術で根治術を行い,術後24ヵ月以上経過観察した坐骨直腸窩痔瘻(100例)を対象とした.手術時間は坐骨直腸窩痔瘻(隅越分類Ⅲ型)28分,骨盤直腸窩痔瘻(Ⅳ型)47分,治癒日数はⅢ型72日,Ⅳ型125日,累積再発率はⅢ型2.0%,Ⅳ型4.5%であった.括約不全は,術後24ヵ月後まで定期的に経過観察した42例をWexner’s scoreの平均でみると,術前0.7→術後1ヵ月4.6→術後3ヵ月1.6→術後6ヵ月2.6→術後12ヵ月0.6→術後24ヵ月0.6であり,術後12ヵ月以上経過すると,括約不全はほぼ消失した.肛門内圧検査を術前→術後3ヵ月→術後6ヵ月→術後12ヵ月,術後24ヵ月で比較すると,MRP(cm/H2O)は103.2→80.2→82.3→82.4→89.3で,術前と術後3ヵ月,術前と術後6ヵ月,術前と術後12ヵ月では有意差を認めたが,術前と術後24ヵ月では有意差はなかった.MSP(cm/H2O)は272→218→248→265→288で,どの期間も有意差はなかった.

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裂肛は肛門上皮に生じた亀裂(裂創),びらんなど非特異的潰瘍性病変の総称である.成因として肛門上皮の損傷説や肛門腺感染説,肛門括約筋の痙攣,肛門管静止圧の上昇とそれに伴う肛門管上皮の虚血状態が関与している.幼児から成人まで罹患年齢も幅広く,排便習慣や生活様式なども含めた個々の症例に応じた病態の把握や治療方針の検討が必要である.急性裂肛が慢性化し,保存的治療で改善せず,器質的な肛門管伸展不良や狭窄を認めた場合は外科的治療の適応となる.

連載 外科医を育てる!(第18回)

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近年,医学を取り巻く環境は大きく変遷し,それに伴い外科講座の役割も大きくかわってきている.卒前教育においては,2001年3月に文部科学省により医学生が卒業時までに身につけておくべき必須の診療能力として「医学教育モデル・コア・カリキュラム(コアカリ)」が策定され,それに合わせて2006年から全国共用試験(OSCE・CBT)が開始された.さらに卒後研修については2004年より新医師臨床研修制度が開始され,医師は卒業後に2年以上のスーパーローテートによる臨床研修を受けることが必修化された.そして,2002年度からは日本外科学会外科専門医制度が開始され,現在は日本専門医機構基準の「新専門医制度」へと引き継がれている.

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はじめに 近年,小腸疾患の診断にカプセル型やダブルバルーンを利用した小腸内視鏡検査が積極的に施行され,消化管間質腫瘍(GIST)の診断がより可能となってきた.今回われわれは,ダブルバルーン小腸内視鏡検査にて小腸GISTが疑われ,単孔式腹腔鏡下手術で切除し,長期生存が得られている症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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はじめに 虫垂杯細胞カルチノイドは,大腸癌取扱い規約第8版では虫垂の悪性上皮性腫瘍として腺癌の一亜型に分類されており1),いわゆるカルチノイド腫瘍とは異なり比較的まれで,カルチノイド腫瘍と腺癌の性質を合わせ持ち,その生物学的悪性度は高い2).今回,保存的治療後に再燃した急性虫垂炎に対して腹腔鏡下盲腸部分切除術を施行し,病理検査で虫垂杯細胞カルチノイドと診断され,リンパ節郭清を伴う追加腸切除を施行した症例を経験した.

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はじめに 虫垂癌は比較的まれな疾患であり,全大腸癌の中で0.4~0.6%とされ,粘液癌はその中の40%を占める1).虫垂炎の診断のもと手術が施行され,病理学的に診断されることが多く,術前診断されることは少ない.また粘液が腹腔内に漏出すると予後不良な腹膜偽粘液腫を続発することがあり,術中は愛護的な操作が必要である.今回われわれは,右卵巣浸潤および回腸穿通を伴う虫垂粘液癌を術前診断し,浸潤臓器の合併切除および回盲部のD3郭清を行うことで,粘液を漏出することなく根治切除を施行しえた1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

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はじめに 下部消化管穿孔は急速に汎発性腹膜炎から敗血症に移行していく危険があり,緊急手術を必要とする疾患である1).その多くの場合は腹腔鏡下手術の適応とされていないが,近年では適応を選んで腹腔鏡下手術を行った報告も散見される2).今回,われわれはS状結腸穿孔による糞便性腹膜炎に対し,腹腔鏡下手術を行った1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

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はじめに 網囊ヘルニアは腸閉塞の中でも非常にまれであるが,手術歴のない比較的若年の患者に,絞扼性腸閉塞をきたして腸切除を必要とすることも多い重要な急性腹症の一病態として知られている.今回われわれは,大網小網裂孔網囊ヘルニアに対し,術前CTで網囊ヘルニアと診断し,結腸切除を施行した1例を経験したため報告する.

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はじめに 卵巣癌は種々の臓器に転移をきたすが,腹壁,なかでも筋層に転移することはまれである.今回われわれは術後29年に腹膜前腔に,32年に腹直筋層内に異時性転移を認め,それぞれ手術を行った卵巣癌術後の症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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はじめに 膵腫瘍は,画像診断だけでは良性,悪性の鑑別が困難な場合がある.今回われわれは,膵良性腫瘍の中でもまれな疾患である膵海綿状血管腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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はじめに 上腸間膜動脈症候群(superior mesenteric artery syndrome:SMA症候群)は,十二指腸水平脚が上腸間膜動脈を含む腸間膜根部と大動脈や脊椎との間に挾まれ通過障害をきたす比較的まれな疾患である.治療は栄養管理下に保存的治療が奏効する症例も存在するが,手術が必要となる症例も存在する.一方,近年では技術の進歩と症例の蓄積により,さまざまな手術が腹腔鏡下に行われるようになった.

基本情報

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臨床雑誌外科
80巻13号 (2018年12月)
電子版ISSN:2432-9428 印刷版ISSN:0016-593X 南江堂

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