作業療法ジャーナル 53巻9号 (2019年8月)

特集 パーキンソン病up-to-date

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特集にあたって

 パーキンソン病は,脳内の神経細胞の変性によって振戦,筋強剛,運動緩慢等の運動症状だけでなく自律神経症状,精神・認知症状等の非運動症状も合併する全身性疾患であり,超高齢社会に突入した本邦において患者数は増加傾向にあるといわれている.経過は長期にわたり,症状の進行に伴って経済的な問題,介護者の身体的・精神的負担が生じやすいこともあり,本邦では難病の一つに指定されている.

 いまだに原因は不明で,根本的治療方法は未確立であるが,数多くの研究の積み重ねにより,近年,パーキンソン病の診断や治療方法は着実に進歩している.それは,リハの分野においても同様であり,症状把握と介入の根拠はより確実なものになってきた.

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Key Questions

Q1:パーキンソン病およびパーキンソン症候群の診断はどのように変化しているか?

Q2:パーキンソン病の治療薬はどのように変化しているか?

Q3:パーキンソン病の薬物以外の治療法はどのように変化しているか?

はじめに

 パーキンソン病は高齢者に好発する神経変性疾患であり,神経変性疾患としてはアルツハイマー病に次いで高い有病率を示す.パーキンソン病では主に中脳黒質緻密部のドパミン産生神経細胞が変性脱落し,脳にαシヌクレインというタンパク質が凝集する(脳の病理ではLewy小体として観察される).その変性は徐々に進行・拡大していき,それに伴い症状も進行していく1〜3).またパーキンソン病と鑑別を要する疾患にパーキンソン症候群があり,これらの鑑別は患者の治療方針や予後予測等に大きな影響を与えるため非常に重要である.本稿ではパーキンソン病およびパーキンソン症候群の診断と治療について解説する.

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Key Questions

Q1:リハの効果をどのように捉えるべきか?

Q2:運動症状,非運動症状に対する介入の現状は?

Q3:パーキンソン病のリハの課題は?

リハの有効性

 パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)に対するリハは,医師による治療と併せて行うことにより,症状の改善や生活の質の向上が期待されることが,日本神経学会による『パーキンソン病診療ガイドライン2018』1)において明確に示されている.以前のガイドラインでは,運動療法が運動症状の改善に有効であることが示されていたのみであったが,最新のガイドラインでは,作業療法,言語聴覚療法,音楽療法の有用性についても言及されている.

 PDは緩徐進行性神経変性疾患であり,運動症状,非運動症状は徐々に進行し,日常生活動作(activities of daily living:ADL)に影響が及び,活動性が低下する.それに伴い二次性の機能障害が発生し,ADLの障害がより顕著になってくる.PDに対するリハは疾患早期から進行期まで継続して実施することが望ましい.Hoehn & Yahr(HY)1〜1.5の疾患早期のPD患者に対して2年間,年1回4週間の短期集中入院リハを投薬治療と併せて実施することにより,2年後の運動機能やADLが介入前よりも改善した状態を維持し,抗PD薬の増量が抑制されることが報告されている2).疾患早期からリハを実施することにより,症状の進行および抗PD薬の内服量増加を抑制する効果が期待され,抗PD薬の内服量増加に伴う副作用発生リスクの上昇や,医療費増加を抑制する意味でも,その意義は大きい.PDのリハの効果は,短期的な改善とともに,長期的な進行抑制(図 1)という視点でも捉えることが重要である.

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Key Questions

Q1:診断時から早期におけるリハの介入の視点とは?

Q2:進行期におけるリハのかかわりとは?

Q3:短期間集中(強化)リハは有効か?

はじめに

 パーキンソン病(以下,PD)はドパミン神経細胞の変性を主体とする緩徐進行性の神経変性疾患である.有効な薬物治療の開発により生命予後は疾患のない人とほとんど変わりなくなっている.しかし,疾患の進行や廃用による筋力低下,転倒,骨折,臥床,肺炎等により良好な機能予後が保てないことも多い.近年では予後改善のためには薬物とともに,リハのかかわりが重要であることが報告されている1〜3).『パーキンソン病診療ガイドライン2018』4)でも,リハは有効かつ安全であり,早期から進行期のどのステージにおいても有効性が高いと記載されている.

 当院は神経内科の専門病院であり,PDの診断から進行期(終末期)に至るまで,あらゆる病期(重症度)の患者に対する診療,リハを提供している.本稿では,疾患の進行に沿ったリハのかかわりを述べるとともに,当院で行っている短期間集中リハについて紹介する.

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Key Questions

Q1:パーキンソン病の生活期・終末期における作業療法の近年の動向は?

Q2:パーキンソン病の生活期・終末期における作業療法の実際は?

Q3:パーキンソン病の生活期・終末期における作業療法の課題は?

近年の動向

 近年,作業療法では生活行為向上マネジメント(MTDLP)1)に代表されるように,より作業遂行や生活行為に焦点を当てた介入が時流となってきている2).実際に,医中誌Webで,「作業療法」,「パーキンソン病」の原著論文を検索してみると,過去5年に掲載された論文58本のうち,16本が作業遂行に焦点を当てているものであり,外出動作3)や,裁縫4),日記5)といったなじみの作業に焦点を当てた介入が報告されている.

 作業に焦点を当てた作業療法を実施するうえで,重要なステップとして,①「その人らしい」作業の選択,②作業分析,③対象者の評価,④作業フォームの調整,⑤実施内容の確認,が挙げられる(図 1)6)

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Key Questions

Q1:パーキンソン病の人と介護者を支える公的制度とは?

Q2:パーキンソン病の人と介護者を支えるインフォーマルな社会資源とは?

Q3:本人や家族と共に歩む意思決定支援とは?

はじめに

 パーキンソン病の人を支える,医療・福祉・介護の諸制度をはじめとした社会資源がある.社会資源とは,利用者の生活ニーズの充足や問題解決のために利用することができる制度,施設,人,物,資金,情報等の総称となる.つまりは支援に活用できるあらゆるものであり,医療保険制度,介護保険制度,障害者総合支援法,身体障害者福祉法,難病医療費助成制度,障害年金といった制度的な社会資源や,ボランティアグループ,セルフヘルプグループといった地域のインフォーマルな社会資源となる.本人や家族介護者は,これらの諸制度・社会資源をその時々の状況に合わせて組み合わせて活用し,地域での暮らしを継続していく.

 病院・施設職員,ソーシャルワーカー,リハ専門職,地域包括支援センター職員,介護支援専門員,障害者相談支援専門員,訪問看護ステーション職員等の支援者は,互いに連携しながら,病気が進行して日常生活に支障が生じたとしても,本人や家族が地域の多様な諸制度・社会資源を活用していけるように,必要にして十分なわかりやすい情報提供を行い,本人や家族の意思決定を側面から支えていくこととなる.

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はじめに

 近年,情報通信技術(information communication technology:ICT)と称される製品やシステムが目覚ましい進化を遂げている.パソコン(以下,PC)のみならず,スマートフォンやAIスピーカー等,ICTは新たな道具の概念をわれわれの生活に深く浸透させてきた.それに伴い支援技術も過去10年間で著しく進歩し,障害者や高齢者を含む多くの人々にとって利用しやすくデザインされた製品がいくつも世に送り出されている.たとえば,モノのインターネット(internet of things:IoT)を活用した居住環境のスマートホーム化は,従来あった環境制御装置の機能を代替し,ロボット分野は障害者のテレワークといった新たな雇用形態を提案するまでに発展した.これらは人口減少時代にあるわが国において,内閣府が提唱している「Society 5.0」1)への過程で示されてきた可能性の一つでもあり,その発展にはリハを究めるOTとしても注目すべきものがある.本稿ではAIスピーカーやロボットをOTが活用することで生活行為向上に効果を得た2事例を報告し,その支援方法の一部を紹介する.

連載 作業療法を深める ㉜民俗学

民俗学でみる病 畑中 章宏
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“まじない”にすがる人びと

 古代から中世・近世までの日本では,病気は目に見えない存在により,もたらされるものだと信じられていた.なかでも流行病や治療が困難な病は,もののけや怨霊,悪鬼によるものだとされた.そのため病気で苦しんでいるときでも,まじないに頼ったり,神仏に祈って病魔を退けようとしたのである.

 民俗学者の柳田國男は,太平洋戦争が始まったころ,神奈川県の多摩丘陵の村里を歩いているときに,住民が設えたこんなまじないを目にした.

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Abstract:【目的】近年,急性期からの上肢麻痺に対する集中練習も有用とされつつある.今回,練習量確保のため病棟看護師と協働して行う病棟実施型のconstraint-induced movement therapy(CI療法)を開始したので,これらの結果について報告する.【方法】病棟実施型のCI療法を実施した脳卒中 8例について,介入前後におけるFugl-Meyer Assessment(FMA),Motor Activity Log(MAL)のamount of use(AOU)とquality of movement(QOM),Canadian Occupational Performance Measure(COPM)における満足度,遂行度を測定した.【結果】FMA,MALのAOUとQOM,COPMの満足度と遂行度のすべての項目において,有意な改善が認められていた.また,効果量についても全項目において大きな改善を認める結果であった.【結論】急性期からの病棟実施型のCI療法は,学習性不使用の防止や実生活での麻痺手を使用する行動変容に寄与できる可能性があり,中・長期予後によい影響を与える可能性が示唆された.

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Abstract:病院(施設)と訪問におけるOTの役割と必要なスキルの特性を明らかにすることを目的に,病院リハと訪問リハ両方の経験を有するOT 3名を対象に,半構造化インタビューを実施した.文脈ごとにコードを付し,類似した内容を集約した結果,32個の小カテゴリから8個の大カテゴリに集約された.このうち,大カテゴリである【目標の共有】と【医療・介護保険の知識】は,訪問リハに関する語りのみで抽出され,訪問リハで意識されていることが明らかとなった.特に,【目標の共有】は〈具体的な目標の提示〉,〈コミュニケーション能力〉,〈本人のニーズ,デマンドの抽出〉,〈家族との関係性の見極め〉,〈家族とのリハの目的の確認〉の5つの小カテゴリで構成され,【対象者に合わせた評価と介入】や【リハの方針】と密接に関係するものと考えられた.

わたしの大切な作業・第16回

入浴 荻上 チキ
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 朝起きてからのシャワーと、1日を終えた後の入浴。前者はリフレッシュのためで、後者はリラックスのため。オンとオフ、いずれのためにも、バスルームでの「作業」が欠かせない。

 浴槽には、水を満タンに入れた2lペットボトルを置いている。お金のかからない、簡易のダンベルだ。シャワーを浴びる前にストレッチや筋トレができればベストだが、その時間も体力もないときがある。そんなときは、シャワーを浴びながら、簡易ダンベルも使いつつ、全身をくまなく動かしていく。いち、に、さん、し。

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 皆さんが作業療法士を選んだのはなぜですか?

 皆さんはどんな作業療法士を目指していますか?

あなたにとって作業療法とは何ですか?・第56回

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ひとを「おもう」4

 高校を卒業し,「作業療法」を学ぶ世界に入った.その当時でも多くの情報・知識を詰め込んだ.徹底して,頭を使うことを教えられた.

 考えること,知恵を絞ること,頭をつかうことは,ずーっと続いている.

特別インタビュー

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どこまで手助けするか

宮口 ビジョントレーニングと作業療法は非常に類似した部分があるということで,今後,飯田さんとOTとで一緒にできることもたくさんあるのではないかと思いますが,今まで会われたOTについてはどういう印象をもたれましたか.

飯田 何というか,すごく勉強されていながらも,基本的にはうちのプログラムと同じように,型にはまらない,マニュアル通りではないということが前提にある感じです.その人その人に合わせてという感覚は,ピピッとつながるものがありました.特にアフォーダンス理論を教えてくださった中鶴先生(前号参照)は,発達に問題があるお子さんもみられているので,本当に通じ合える感じでしたね.

緩和OT事例検討会・第4回

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事例提示

A氏,70代前半,男性.現役時代は工場勤務,引退後は庭仕事や農業等を行っていた

家族:妻と二人暮らし.長男(ケアマネジャー)家族が近所に在住.妻は10年前に親の介護をしたときにうつ病を発症し,A氏発症後,抑うつ的になった

現病歴:X年Y月発熱でA病院受診.血液検査で異常を認め,精査目的で当院血液内科に紹介.X年Y+1月急性骨髄性白血病と診断.治療について,①造血幹細胞移植,②化学療法,③支持療法の説明が行われ,移植希望はなく通院での支持療法を希望された.X年Y+3月発熱あり,当院入院加療となる

経過(表):今後の治療について決断された時期(Y+3月)

 高熱が続き,現在の状況の厳しさを自覚されており,妻やみんなに迷惑はかけたくないと涙されていた.作業療法介入の中で希望を問うと,「必要なことはすべてやり尽くしたと思っている.やり残したことはないので,希望はないです.体力は維持したいですね」と話された.当初は治療をせずに支持療法で対応したいとのことだったが,無理のない範囲で治療し,元気なうちは妻を支えてやりたいとの考えから化学療法を行うことを決断され,一時退院となった

治療が開始され,目標を検討した時期(Y+4月)

 一時退院は気分転換になったと話された.あらためて希望を問うが,「治療を頑張っているが,その先の目標がない.やりたいことはやり切った」との言葉が続いていた.数日後,作業療法中に家に農業用の機械が多くあると話された.今後,機械をどうしていくのかお訊きすると,「息子に使い方を教えておかないと」と話されため,退院時にご家族に農業機械や家の扱い等を伝えていくことを提案した

月1回,1週間の治療入院が開始となった時期(Y+5〜7月)

 1週間入院し化学療法を行い,3週間家で過ごすというスケジュールで治療が開始された.退院時は,家の作業ができたが,発熱の不安もあるためこれまでのように思い切ってできないこと等,ストレスもあったと話された.妻はA氏が帰宅すると少し元気になっていたと話された.「息子には道具の使い方だけでなく,家のこと,お金のこと等も話ができた」,「機械に関することは4/10くらいは伝えられたけど,それ以上は自分の仕事もあるだろうから」と話された

感染症により緊急入院された時期(Y+8月)

 家での作業後に発熱と貧血症状が出現したため,緊急入院された.その後,症状が落ち着いてきた時期に心理士の介入の中で,「前は鍛えれば筋肉になるって頑張れたけど,今はリハもしないほうがいいのかと思う.やってやるぞという自分と,やらんほうがいいかっていう自分のバランスが難しい.以前の自分のイメージと違ってしまったから余計に落ち込んだ」との言葉が聞かれていた

昭和の暮らし・第32回

鯨のひげ 市橋 芳則
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 釣り竿の穂先は,近年ではグラスファイバーやカーボン等の素材が一般的である.釣り針にかかる際の魚の当たりは繊細で,微妙な竿先の変化や,釣り糸を通して手元に伝わる捕食の瞬間を神経を研ぎ澄ませて感じとる.

 写真の釣り竿の穂先は,ワカサギ釣り用のもので,こうした繊細な当たりを感じ取るために鯨のひげを竿状に加工したものである.昭和30年ごろのもので,ワカサギ釣りの盛んな長野県の釣具店に残っていた.鯨のひげは,細く竹ひご状態に加工すると強い反発力を生み出す優れた素材として古くから利用されてきた.カラクリ人形等の動力となるゼンマイや,西洋では落下傘状に広がるスカートの芯や工芸品に加工された.

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目次

表紙のことば/今月の作品

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 過日,第14回 作業療法ジャーナル研究助成対象選考会が開かれ,小橋美月氏の研究が選ばれた.小橋氏の研究テーマは「乳がんサバイバーにおけるがん治療に伴った認知機能障害の復職に与える影響の検討」である.助成期間は3年間であり,助成金額は30万円である.研究経過については,次年の本誌に掲載する.

研究助成テーマ募集

次号予告

Archives

学会・研修会案内

編集後記 江藤 文夫
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 近年のパーキンソン病あるいはパーキンソン症候群の診療で目につく症状は,極端なすくみ足(freezing of gait,以下FOG)である.L-ドパが治療に導入され普及する以前にはほとんど記載されることがなかったため,FOGとL-ドパによる長期服用との関連も議論されている.一方,進行性核上性麻痺(PSP)では,本特集で紹介されているように「進行性すくみ足」を主徴とするタイプに接する機会が増しており,L-ドパ未投与例も多い.しかし,FOGは古くから知られており,歩行失行として論じられることもあった.近年のヒトの起立二足歩行の研究では,中枢パターン生成器(central pattern generator:CPG)を想定した知見にも興味深いものがある.

 19世紀後半から,医療では疾患重症度の指標として日常生活における活動に着目するようになった.治療が悲観的にとらえられる時代の長かった脳神経疾患では,パーキンソン病でL-ドパの導入に伴う臨床治験が企図されたときに,古典的な三徴候を中心に神経学症状を点数化する重症度評価も複数考案されたが,日常生活での活動の制約を組み込んだHoehn & Yahr分類が評価の主軸として採用された.今日の医療では疾患に影響された個人の機能(functioning)の指標として活動が重視されるが,わが国では日常生活の「activities」が「動作」と訳されて普及したことから,活動に焦点を置く治療や介護でも動作訓練として理解されているかのごとくである.英米で個人別に意義のある活動に焦点をあてたトリートメントの思想が普及したのは,1980年代のことである.とはいえ,遅ればせながらわが国でも必要な支援の提供により,社会活動に参加する取り組みが拡大していることが本特集記事でも明らかであることから,訳語にこだわる必要はないのだろう.

基本情報

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作業療法ジャーナル
53巻9号 (2019年8月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0915-1354 三輪書店

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