作業療法ジャーナル 51巻2号 (2017年2月)

特集 認知症—身体障害合併症を中心に

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特集にあたって

 近年,認知症者の増加は社会問題化しています.厚生労働省の発表によると,認知症者の数が2025年には700万人を超えると予測され,現在の約1.5倍の数になるといわれています.これを受けて,認知症に対する取り組みも各方面で活発に展開されています.将来的には,地域で支える体制構築が求められ,地域包括ケアシステムの主要疾患になることと思われます.

 このような社会情勢の中,認知症を対象とし治療を展開してきた作業療法に求められる期待は,さらに大きくなると考えられます.近年,認知症者は,中核症状やBPSDへの対応が必要とされるだけではなく,身体障害を合併するケースも多く現れ,より多角的に統合したアプローチが求められています.そこで今回「認知症—身体障害合併症を中心に」というテーマで特集を企画しました.

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Key Questions

Q1:認知症の行動・心理症状を正しく理解していますか?

Q2:どのような評価スケールを使っていますか?

Q3:身体合併症のある認知症者への配慮とは?

はじめに

 リハ対象者の認知症合併率は,介護老人保健施設で83.1%1),回復期リハ病棟で32.6%2)との報告がある.現在も高齢化とともに認知症者数は増加し続けており,今後リハの対象者に認知症の合併例が増加することは避けられない.本稿では認知症の基本的な病態をまとめるとともに,身体障害を合併した認知症者への作業療法について論じる.

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Key Questions

Q1:認知症のある方は能力が低下しているだけなのか?

Q2:OTとしての視点で寄与するとはどういうことか?

Q3:評価を対応に活用するとはどういうことか?

はじめに

 「いろいろな相談機関を訪れたけれど,こんなに具体的に教えてもらったのははじめて」

 あるご家族が私に語った言葉である.今は認知症に関する相談機関が増えてきている.このご家族もたくさんの場所で相談したのだそうだ.だが,「どこに行っても抽象的,総論的なことしか言われず,言われたことはわかるが,今困っている事柄に対してどうしたらよいのか納得できる答えをもらえなかった.入院してはじめて具体的に何が起こっているか,どうしたらよいのか明確に説明してもらえた」と言っていた.

 認知症の普及・啓発は進んできているが,一方で認知症のある方とご家族の切実な困難に対して適切な援助が提供できているとは言いがたい状況も少なからずみられている.とりわけOTは認知症という分野に対しては後発的に参入した職種であり,障害と能力のプロとしての視点を十分に活用した援助が展開できているとはまだまだ言いがたいし,それほど周知されてもいないと言ってよいだろう.

 本稿が認知症のある方とご家族の余分な困難を少しでも緩和することに寄与できるのであれば,筆者にとって大きな喜びである.

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Key Questions

Q1:認知症高齢者に対する当院での取り組みは?

Q2:認知症高齢者に対する作業療法の実践とは?

Q3:そもそも,認知症高齢者に対する回復期リハ病棟でのリハは有効なのか?

はじめに

 2016年度(平成28年度)診療報酬改定では,質の高いリハ評価の一環として,回復期リハ病棟におけるアウトカムの評価が導入された.一定の水準,実績指数に達しない場合は,疾患別リハビリテーション料が見直されるようになり,指数導入の良し悪しは別として,回復期リハ病棟では,ますますの効率性,すなわち入院日数の短縮化とリハの効果が求められることになった.

 そのような中,認知症高齢者は増加の一途をたどっており,さらに身体障害を有している場合も多いため,われわれOTは常に適切な対応が求められる.

 本稿では,札幌西円山病院(以下,当院)回復期リハ病棟での認知症高齢者に対する取り組みやOTによる具体的実践とその考え方について,また実際のリハ効果について,私見を交え考察を述べたい.

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Key Questions

Q1:廃用性の身体機能障害の発生状況は?

Q2:多職種による具体的な介入方法は?

Q3:最期までかかわる必要性は?

はじめに

 全国に約34万床ある療養病床は,入院する患者の約8割が75歳以上で1),疾患に伴う諸症状もさることながら,活動性の低下による廃用性の身体機能障害を併発していることが多い.認知症が主たる疾患である場合も例外ではなく,十分な対応がなされなかったことによる重症例が存在するのも事実である.重症化が疾患に起因するものであればやむを得ない場合もあろうが,日々の過ごし方によるものだとするならば,携わる側の責任は重い.

 そこで本稿では,療養病床に入院する認知症高齢者における廃用性の身体機能障害に焦点を当て,その発生状況や重症例について報告する.

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Key Questions

Q1:身体障害を合併した認知症者に対する訪問リハとは?

Q2:計画立案やアプローチはどのように行われる?

Q3:訪問リハのかかわりや成果はどのようなものか?

訪問リハにおける身体障害を合併した認知症者の特徴は?

 生活期リハの実態調査において,訪問リハ利用者の介護度は要介護3以上が約半数を占め,障害高齢者,認知症高齢者の自立度はいずれか,もしくは両方が重度な者が半数を占めているという結果が報告されており1),身体障害,認知機能障害により,身辺動作に介助を要する利用者が多いことがわかる.身体障害をもつ認知症者は以下の3つのケースに分類できる.

 ①軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI),もしくは認知症の診断や疑いを受けていて,発病,受傷して身体障害をもった場合

 ②認知症の原因となる疾患が進行し,身体障害が現れた場合

 ③過去の発病,受傷により身体障害をもっていて,認知症の症状が現れた場合

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 2015年度(平成27年度)厚生労働省および文部科学省調査において,遂に児童虐待相談対応数が10万件を超え,小・中学校の長期欠席者のうち「不登校」を理由とする児童生徒数も約12万人を超えたという結果となった(平成27年度児童相談所での児童虐待相談対応件数速報値および平成27年度学校基本調査確定値).そして,まだまだ数字には現れない埋もれている支援が必要な子どもたちが多いのではないかとも予想されている.それに伴い臨床現場,特に発達・精神科領域において,この「虐待」,「不登校」といったwordを見聞きすることが増えてきているのではないだろうか.さらにいえば,私たちOTが対応する未来の対象者は,従来の疾患による対象者に加えて,虐待や不登校により身体や心が傷ついた子どもたちやかつての子どもたちが多数を占めてくるのではないかと予見できる.そして今後,対象児だけではなく保護者(養育者)への対応もより重要になってくると思われる.

 現在まで作業療法の発達領域の対象は身体障害児や知的障害児・発達障害児であり,当然であるがOT教育においてもそれに関する知識や技術の習得と向上を図ってる.しかし,このような社会の変化を考えると,私たちOTは今までの知識や技術だけでは当該領域での対応が困難となることが考えられる.そこで今回,その対応策の参考の一つとして筆者が行っている「ボーイズタウン・コモンセンスペアレンティング®」を紹介する.

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環境を味方につける

中村 引き続き,釈先生にお話をうかがいたいと思います.先生はむつみ庵を始められる前から認知症の方とのお付き合いはあったのですか?

釈 いえ,ほとんどありません.ですから,どうかかわっていいのかわかりませんでした.横に座っていても15分もしたらクタクタになるのです.そこで“自分を括弧に入れる”という仏教のトレーニングを思い出して,実践してみたら結構楽になりました.そのときは,“なるほど,なるほど,仏陀もなかなか大したものだ”と思ったものです(笑).相手に寄り添おうとする際に,あまりに自分をキープしたままでいるとしんどいということがあるかもしれません.

あなたにとって作業療法とは何ですか?・第26回

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つくる

 私にとっての作業療法は「つくる」ことです.OTになったのも,物を「つくる」ことが好きだったからです.

 私の臨床テーマの一つである「未熟児の発達と作業療法」を進めるために,病院内にフォローアップシステムをつくり,作業療法の取り組みをまとめて発信しています.また,福祉用具の開発と製品化をライフワークのように進めており,子どもたちに役立つ新しい視点の用具を「つくる」ことも継続しています.そして,これまでのOTとしての知識や技術を,若いOTや教育関連や一般の方々等に伝えていくための執筆活動にも力を入れています.

連載 患者と治療者との間を生きる・第2回

生活の変化 川上 佳久
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 前回は,自己紹介と脊髄小脳変性症発症前後の様子を中心にご紹介しました.今回は,職場を休職し,新たな生活を整え,それに慣れていくまでの過程をまとめてみます.

連載 作業療法を深める ④合理的配慮

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はじめに

 2016年(平成28年)4月の「障害者差別解消法」(正式名は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」)の施行により,「合理的配慮」という言葉が広く知られはじめている.「合理的配慮」とは,障害のある人々の社会参加を支える制度の一部を示す法律用語であり,人々の善意や思いやりに基づく配慮を意味する一般的な用語ではない.その適切な理解のためには,合理的配慮の背景となるいくつかの法令について知る必要がある.しかし,具体的にどのような事柄が合理的配慮の範疇に含められるのか,イメージをもってからでないと,法的な概念の理解は難しい.そこで本稿では,まず教育場面での合理的配慮に関する事例について示し,その後,合理的配慮の背景となっている法制度の説明を行う.

多職種を交えたリハビリ事例検討会・第8回

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事例提示

Aさん,60代男性.身長165cm,体重52kg.要支援2.妻と二人暮らし.3人の娘は結婚し家を出ている.

生活歴・職歴:40代半ば〜50代半ばまで,人材紹介会社に勤務していた.その後,人材派遣会社を経営していたが,病気をきっかけに約2年前に廃業した.

趣味:病前は写真撮影.現在は数カ月に1度の写真展観覧.

病歴:3年前に強い肩こりが生じ,4つの医療機関を転々とした.現在の主治医にパーキンソン病と診断される(Hoehn-Yahrの重症度分類Ⅲ).主介護者は妻で,主に薬の補充と整理を率先して行うが,主婦業とパートの掛け持ちのため,日中はほとんど外出されている.

処方薬(朝-昼-夕-就寝前.ただし,パーキンソン病治療薬は1日5回)

 2016年2月時点:ケトプロフェン貼付剤(経皮鎮痛消炎剤)L 40mg,ロキソプロフェン ナトリウム(鎮痛・抗炎症・解熱剤)60mg 頓服,ドネペジル塩酸塩(アルツハイマー型認知症治療剤)5mg 1-0-0-0,ゾニサミド(抗てんかん剤.パーキンソン病治療薬の作用増強薬として)25mg 2-0-0-0,プレガバリン〔疼痛治療剤(神経障害性疼痛・線維筋痛症)〕25mg 2-2-2-0,センノシド(緩下剤)12mg 0-0-0-1,レボドパ・カルビドパ水和物(抗パーキンソン剤)100mg 1.5-1-1.5-1-1,エンタカポン(末梢COMT阻害剤.パーキンソン病治療薬の作用増強薬として)100mg 1-1-1-1-1

 同年8月〜:センノシド12mg 0-0-0-2へ変更,レボドパ・カルビドパ水和物・エンタカポン配合剤(抗パーキンソン剤)100mg 1-1-1-1-1追加,レボドパ・カルビドパ水和物100mg 0.5-0.5へ変更(身体症状が強いときに頓服),エンタカポン100mg中止.その他は2月時点と同様

リカバリーショット

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 私は21歳のときに特定疾患の一つであるもやもや病と診断された.高校を卒業して社会人(レジのチェッカー)としてようやく仕事に慣れはじめたころだった.もやもや病は父が患っていたので,どんな症状が出るのか少しは知っている程度だった.難病指定と言われても,“手術すれば治るんでしょ?”と軽く考えていた.なぜなら,父が1回目のバイパス手術を受けてから数カ月して2回目の手術を受け,かれこれ十数年経っているが,その間何の症状もなく,サーフィン,スノボ等,何でもできて普通の日常生活を送っていたから…….

 ある日,突如として症状が出た.「もやもや病」という言葉が頭をよぎったが,「今のなんだったのだろう? きっと気のせいだ」と思い込もうとしていた.症状が出たのは,手術するときまで後にも先にもこの1回きりだけだった.父は「気のせいや!!」と言ったが,母が「気のせいかもしれないけど病院に行こう」と勧めてくれ,検査入院.しかし,このとき,父の病歴があったことと,母がすぐに病院に連絡してくれたことで,もやもや病が発見された.MRIの結果,すでに左右両側の血管が細くなっており,最も緊急性が高かった右側のバイパス手術が行われた.そして,数カ月後,左側の手術が行われた.それから5年後にまさかの脳梗塞.でももし“気のせいだ”と思い込んだままなら,脳梗塞の後遺症はもっとひどかったかもしれない.

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Abstract:乗馬活動は,欧州各国や米国において,身体的,心理的治療に用いられている.日本では近年,OT,PTがかかわりはじめたところで,効果の検証をした論文は数少ない.今回,乗馬活動が及ぼす気分の変化をProfile of Mood States(POMS)検査を使って調べた.対象は体験乗馬に参加した乗馬未経験者148名(男性35名,女性113名,平均年齢39.2歳)とした.乗馬活動前後でPOMS検査の下位スコアである活気尺度の得点は有意に増加,その他のネガティブな尺度では得点が有意に低下した.また,44歳以下の群では45歳以上の群と比較して抑うつ・活気・疲労の尺度で有意に気分の改善がみられた.POMSスコアでネガティブな気分尺度の得点が高かった者は,低かった者より有意に気分の改善がみられた.乗馬活動により気分は改善する.乗馬活動はより若い者,ネガティブな気分尺度の得点が高い者に,より効果がある可能性がある.

昭和の暮らし・第2回

つちの土間 市橋 芳則
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 今,私たちは,家に入るとき,玄関のドアや引き戸をくぐるとそこで靴を脱ぐ.土足で入れるスペースはそれほど広くない.しかもそのスペースは,コンクリートやタイル等が敷かれ,家の外とは隔絶されている.

 かつては,大抵の家には玄関をくぐると6畳間程度の広さの土のままの土間(どま)があった.さらに奥へ進むとカマドやクドと呼ばれるごはんを炊いたり湯を沸かしたりする設備が付設されていた.家の外から家の中まで地面が展開していた.

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表紙のことば/今月の作品

次号予告

第52巻表紙作品募集

学会・研修会案内

研究助成テーマ募集

編集後記 竹内 さをり
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 認知症に関する特集は,ほぼ毎年1回組まれているが,今回の“身体障害を合併した”といった視点は,初めての取り組みになると思われる.本文にも示されていたが,医療等において,それだけ認知症を合併された方にOTがかかわる機会が増えているといえる.また,認知症を有する方への対応への配慮の重要性が,認識されてきた証でもあると考える.

 私ごとになるが,認知症の方への支援にかかわるようになって10年が経過する.前職でも高齢者の方を対象としたかかわりを行っていたが,そのときには,認知症の方に対する具体的な支援を実践しているとはいえなかった.当時は,認知症の原疾患ごとの状態や,認知症を有するご本人の気持ちが十分に理解されておらず(私自身が理解していなかった……),周囲からみた困った状態への対応しかできていなかったと感じる.

基本情報

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作業療法ジャーナル
51巻2号 (2017年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0915-1354 三輪書店

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