胃と腸 53巻5号 (2018年5月)

増刊号 早期胃癌2018

序説

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 いきなり他誌の話で恐縮だが,日本胃癌学会の機関誌である「Gastric Cancer」のインパクトファクター(2016/2017)がついに5.454と5点台を超えた.日本発の癌関連英文誌が5点を超える時代が来るとは夢想だにしなかったが,この出来事は,わが国の胃癌研究がこれまで世界をリードし続けてきた証しとも言えよう.長らく診療に携わってきた者の一人として同慶の至りであるが,本誌の序に代えて,ここに至る道程を少し振り返ってみたい.

 かつて胃癌は日本の国民病とも言われ,長い間,癌死亡の圧倒的1位を占めてきた.その突破口を切り拓いたのは,何と言っても1962年の早期胃癌の定義とその肉眼分類の提唱であろう1).爾来,“早期胃癌の発見”が対癌戦略(早期診断/早期治療)の格好の目標となり,まさに国の総力を挙げた取り組みによって,多くの診療実績が蓄積され,研究成果が次々と発信された.

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要旨●本邦のがん罹患数は現在約13万人(男性9万人,女性4万人),死亡数は約4.5万人(男性3万人,女性1.5万人)であり,高齢化に伴い増加しているが,年齢調整罹患・死亡率および年齢階級別罹患・死亡率は年々減少傾向にあり,胃癌のリスクの減少および治療の改善が進んでいると言える.実際,生存率も年々向上しており,胃癌罹患者の5年相対生存率は胃部に限局している症例においては96%となっており,早期発見できれば治療により多くの患者の予後がよくなることが示されている.

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要旨●1991〜1993年までの163例180病変,2003〜2005年までの249例279病変,そして2015〜2017年までの400例442病変の早期胃癌を比較したところ,①早期胃癌治療対象者の平均年齢は高齢化がみられた,②比較的小さな粘膜内癌,すなわち初期病変が増加していた,③肉眼型では0-IIbを伴う病変が増えており,0-IIIを合併した病変が減少していた,④組織型は低異型度分化型癌(超高分化腺癌)が増加している一方で,未分化型癌の割合が減少していた.

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要旨●かつては胃潰瘍や胃ポリープが癌化すると考えられていた時代もあったが,現在,胃癌の大部分はH. pylori(Helicobacter pylori)感染が原因であることは周知の事実である.しかし,H. pylori感染率の低下に代表される環境要因の変化に伴い,本邦における早期胃癌の特徴は様変わりしつつある.“昔の早期胃癌”はH. pylori感染による胃粘膜萎縮を背景に発生したものが大半を占めていたが,H. pylori除菌例あるいは未感染例の増加に伴い“今の早期胃癌”ではH. pylori除菌後胃癌や非萎縮粘膜を母地として発生する病変に注目する必要性がある.画像強調内視鏡や拡大内視鏡の進歩に伴い,これらのデジタルイメージング法を中心とした胃癌の内視鏡所見の解析が進んでいる.このように,“今の早期胃癌”診断においては,多様化した胃癌の内視鏡所見に精通することが重要と思われる.

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要旨●胃がん検診として年間600万件以上の胃X線検診が実施されている.2014年に対策型胃がん検診として認可された内視鏡検診は増加しているが,実施可能件数に限界がある.さらに,H. pylori感染者が低下している現状では,内視鏡検診に胃癌リスク層別化検査の導入は不可欠である.一方,除菌治療後の検診受診者が急増している今日,内視鏡でも発見困難な形態の除菌後胃癌への対応も問題である.従来の胃がん検診は限界に来ており,複数の学会が協調して,胃癌発症リスクを加えX線と内視鏡が連携した新しい視点から胃がん検診体制の構築が必要である.

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要旨●早期胃癌のスクリーニングにおいて,X線検査は外来診療でのスクリーニング目的ではほとんど用いられなくなっているものの,時間や処理件数などの効率性を考慮しなければならない検診の場においては,その果たす役割はいまだに重要である.本稿では日本消化器がん検診学会より発行されている「新・胃X線撮影法ガイドライン改訂版2011年」に示されている基準撮影法に準じた撮影法のコツとピットフォールについて概説を行った.基準撮影法に準じて行うことで一定の均霑化と画像の質は確保できるものの,胃型や病変の肉眼型,発生部位によりピットフォールが生じることが少なくなく,それらを熟知したうえで適切な撮影や追加撮影を行う必要がある.

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要旨●多くの胃癌は慢性胃炎を背景として発生するため,胃炎の中に紛れて発見が困難な早期胃癌も少なくない.見逃しの少ないスクリーニング上部消化管内視鏡検査には,適切な前処置および,胃内をくまなく系統立てて観察する技術が求められる.内視鏡の盲点になりやすい,噴門部小彎,胃角から胃体部後壁,胃体部大彎,蠕動を伴う胃前庭部には注意が必要である.早期胃癌を見つけるために注目すべき内視鏡所見としては,①色調の変化,②粘膜表面構造の変化,③血管透見の消失,④自然出血である.分化型胃癌は,萎縮や腸上皮化生を背景とした,淡い発赤に注意して観察し,インジゴカルミンの撒布を適宜行うことにより病変が発見されやすくなる.未分化型胃癌は,萎縮のない胃底腺領域の小さな褪色に注意して観察すべきである.

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要旨●最新型経鼻内視鏡システムにはレーザー光源が搭載され,その画質は通常径内視鏡に匹敵するとまで評価されている.経鼻内視鏡が持つシャフトの柔軟性,小さな曲率半径といった特性を生かした観察を行えば,早期胃癌の診断にも役立つと考えられる.さらに画像強調観察も可能であり,早期胃癌の診断だけではなく,胃癌の原因とされているH. pylori菌感染胃炎の診断支援にもなることが期待されている.最新型経鼻内視鏡は,上部消化管スクリーニング検査において,問題ないスペックを有する機種世代に到達しており,今後は対策型胃がん検診においても必要不可欠な存在になるものと考える.

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要旨●胃癌のX線診断では,胃全体像から萎縮や胃炎の程度,範囲などからH. pylori感染状況も考慮した背景粘膜診断を行い,組織型,肉眼型との関係をもとに,癌の表面形態から粘膜層の組織型診断や範囲診断を,深部形態の胃壁の厚みや伸展不良・硬化所見から粘膜下層以深における癌浸潤や線維化を読影して深達度診断や範囲診断を行い,治療方針決定に役立てている.本稿では,X線診断の要点を実際の症例を用いて解説した.

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要旨●現在消化管の内視鏡診断には,種々の画像強調内視鏡(IEE)が用いられるようになってきた.しかし,内視鏡検査実施施設の状況などにより,すべての内視鏡検査がこれらの先進技術を使った検査というわけにはいかず,多くの検査では従来の通常光による観察,診断が行われており,通常観察による診断を基本とすべきである.通常観察により得られる情報は,色調,形(凹凸など含む),粘膜模様の3つ程度と考えられ,これらの得られる情報を用いて範囲診断,深達度診断を行う.胃癌の範囲診断には,色調差,粘膜萎縮などの粘膜模様の変化に加え,比較的手軽に施行可能なAIM(acetic acid-indigo carmine mixture)が有効な例もある.深達度診断は,病変表層の観察のみで癌深部の状況を診断するため,難しい症例も少なからず経験されるが,表面の凹凸,辺縁隆起などに加え,動的観察による伸展不良なども参考にすべきである.

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要旨●画像強調併用拡大内視鏡による早期胃癌診断の基本を示す目的に,VS classification systemの原則について概説し,それをもとに作成した本邦の統一診断体系であるMESDA-Gを紹介した.基本的な臨床応用として,質的診断と早期胃癌の境界診断について,高いエビデンスにより,画像強調併用拡大内視鏡検査による早期胃癌診断の有用性が検証されていることについて論じた.また,有用性のみでなく,限界についても明らかにし,限界例を考慮した臨床的対応(strategy)を提示した.具体的には,質的診断における表面平坦型または表面陥凹型の褪色調粘膜病変については限界であり,生検を省略できない.それ以外の病変については,MESDA-Gによる質的診断を行うとoptical biopsyとなりうると考えられる.境界診断については,未分化型癌が限界であり,境界診断については周囲の非癌粘膜からの生検の病理組織診断により境界診断を行うことが必要と考えられた.分化型癌については,画像強調併用拡大内視鏡や色素撒布法と同等の高い有用性がある.観察法の限界を知り,それを考慮した適切な臨床的対応をすることが重要である.

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要旨●分化型癌(tub1,tub2,pap,胃底腺型胃癌/胃底腺粘膜型胃癌)そして未分化型癌(por/sig,muc)のNBI所見について概説し,早期胃癌の組織型診断におけるNBI拡大内視鏡の有用性を以下の項目で検討した.①優位な組織型の診断(分化型か未分化型か)の診断能は白色光92.9%:NBI 99.1%(104/112:111/112,p<0.05)でNBI拡大内視鏡が有用であった.②組織混在の状態(純粋分化型,分化型優位混在型,未分化型優位混在型,純粋未分化型)の診断能は,白色光83.9%:NBI 86.6%(94/112:97/112,p=0.663)であった.③NBI拡大内視鏡の主たる組織型(tub1,tub2,pap,胃底腺型/胃底腺粘膜型胃癌,por/sig,muc)の診断能は86.6%(97/112)であった.NBI拡大内視鏡は優位な組織型の診断において有用であり,組織型の診断が概ね可能である.

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要旨●超音波内視鏡検査(EUS)では正常胃壁は5層に描出され,消化管内腔より第1〜2層が粘膜層,第3層が粘膜下層,第4層が固有筋層,第5層が漿膜下層と漿膜層である.潰瘍瘢痕(ulcer scar ; UL)0型早期胃癌では第3層の画然とした破壊を認めるものはSM深部浸潤癌と診断する.UL1型早期胃癌では,腫瘍とULのエコーレベルはほぼ同一のため診断は困難で,いくつかの分類が提唱されている.ESDの普及と高齢化の進行により,癌の深達度診断だけでなくESDによる一括完全切除が可能かどうかという診断もEUSに求められている.第3層の描出不能距離が5mmを超えると,標本の挫滅・切り込みが起こりやすく,ESDの技術的難易度は極めて高く,治療法の選択には慎重な判断が求められる.

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要旨●早期胃癌を病理学的に正しく診断するためには,生検・手術検体を適切に取り扱うことが大前提である.また,必要十分な臨床情報(特に内視鏡所見)を得たうえで,生検診断に臨みたい.検体は10%中性緩衝ホルマリン液に速やかに浸漬し,6〜72時間常温にて固定する.切除検体の美麗な画像を撮影し,内視鏡像を参考にしながら,病理医も肉眼所見(肉眼型,進展範囲,推定される組織型)を捉えて適切な方向で必要十分な切り出しを行う.マッピングに備えて割線の入った画像も必要である.早期胃癌のサイズはマッピング画像上での“長径×それに直交する横径”を指す.胃癌は早期から多様性を示すことが多く(組織混在型癌),診断に際しては優勢度順に組織型を列挙する.肉眼的さらに病理組織学的に病変内消化性潰瘍瘢痕の判定も重要であり,生検瘢痕との鑑別を要する.病理組織診断は胃癌取扱い規約に従い,胃癌治療ガイドラインを考慮して行うが,WHO分類,中村・菅野分類やLauren分類に読みかえられるようにしておきたい.

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要旨●H. pylori(Helicobacter pylori)感染率の低下を背景に,従来まれとされたH. pylori未感染胃癌は今後相対的に増加が予想される.今回2005年4月〜2017年10月の期間に経験した,H. pylori未感染胃癌を部位別,組織型別に考察した.内視鏡診断,感染診断,組織学的診断のすべてにおいてH. pylori未感染と考えられた対象症例は50例,うち胃噴門部・食道胃接合部腺癌10例,胃体上部を中心に胃底腺領域に局在した胃型形質を有する超高分化型(低異型度)腺癌16例,胃底腺と幽門腺の境界領域に局在した印環細胞癌22例,体部4型1例,幽門前庭部3型1例で,大部分が早期癌しかも粘膜癌であった.H. pylori未感染胃癌においても腺領域ごとに好発する病変の形態や組織型に特徴があることが示唆された.

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要旨●H. pylori除菌後発見胃癌24病変(除菌群)とH. pylori非除菌病変47病変(非除菌群)の通常内視鏡像,NBI拡大内視鏡像および病理組織像を比較検討した.除菌群は非除菌群に比べて通常内視鏡像およびNBI拡大像共に胃炎様像を示す病変が有意に多かった.さらに,組織像では除菌群に胃癌と非腫瘍性上皮や非癌腺管が表層でモザイク状に混在する病変が有意に多かった.そのほか除菌後群では表層近くまで非癌腺管が伸長する“非癌腺管の伸長現象”や“分化型癌の上皮下進展”を認めた.これらの組織学的構造が胃炎様の内視鏡像を示す理由と考えられた.さらに,H. pyloriが消失した既感染症例では非萎縮部が褪色調を呈し,萎縮部が発赤調に観察される“色調逆転現象”が観察されることが多いが,その現象を示す症例が除菌後発見胃癌発生の高リスク因子である可能性が示唆された.

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要旨●H. pyloriの除菌により胃癌の発生が抑制される一方,除菌後に発見される胃癌は内視鏡的に指摘困難な場合が少なくないことが認識されてきた.病理学的にH. pylori除菌後胃癌の表層に低異型度上皮ないしは非腫瘍上皮が出現し,内視鏡的に胃炎様変化として視認されることがその原因として考えられている.今回除菌後に発見される分化型・未分化型胃癌の特徴を調べた.分化型腺癌では既報と同様の結果となった.すなわち,病理学的に低異型度上皮の出現頻度は既感染で多い傾向があり,内視鏡検査での胃炎様所見と関連し境界診断困難の一因となっていた.これに対して,未分化型癌では少数例の検討ではあるが,既感染病変の範囲診断は現感染病変とほとんど差はみられなかった.除菌により未分化型癌は,分化型癌とは異なった様相を呈する可能性がある.

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要旨●早期胃癌に対するESDは技術的には既に成熟したと考えられる.適応拡大についても多施設前向き臨床試験(JCOG0607)の結果を受けて,ようやく分化型適応拡大病変(2cm超のUL0と3cm以下のUL1)がESD絶対適応として認められることとなった.未分化型についても間もなく適応拡大が期待されており(JCOG1009/1010),標準治療としての適応についてはほぼ完成すると考えられる.一方で,今後は高齢化する社会および胃癌患者に対応すべく,その適応や治癒基準についても検討していく必要がある.

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要旨●内視鏡的切除適応外の早期胃癌の外科治療として腹腔鏡下胃切除術が急速に普及しつつある.腹腔鏡下手術は開腹手術と比べて創縮小,術後疼痛軽減,出血軽減,早期回復など複数の利点を有する一方,技術的困難性,手術時間延長,長期予後に関するエビデンスの不足などの欠点も指摘されている.cStageI遠位側胃癌を対象とした多施設共同前向き非対照第II相試験(JCOG0703)で熟練者による腹腔鏡下幽門側胃切除術,D1+郭清の安全性が示され,「胃癌治療ガイドライン第4版」で日常診療の選択肢の一つとされた.また,低侵襲性向上,機能温存の試みとして,ロボット支援手術や腹腔鏡下センチネルリンパ節生検が行われ,先進医療Bとしてその臨床的有用性が検証されている.

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要旨●高齢早期胃癌患者に対しても,対象を適切に選択すれば内視鏡治療や外科治療を安全に施行できると報告されている.しかし,特に外科治療では,術関連死を含めた手術リスクをゼロにはできないことや,胃切除による術後食生活への影響といったQOLの問題を考慮する必要がある.その点を考えると,高齢早期胃癌患者の内視鏡治療適応については,転移リスクゼロを前提にした現行ガイドラインにおける絶対適応・適応拡大基準よりも,もう少しリスクを許容するような高齢者新規適応基準という考え方も成り立つかもしれない.早期胃癌の病変因子のみならず,高齢患者の身体的・社会的因子を含めたさまざまな要素を考慮のうえ,一人ひとりに最適な対応法を提供することが重要である.

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要旨●胃癌リスクとしては,Helicobacter pylori(H. pylori)感染,萎縮,腸上皮化生が知られている.リスク層別化の方法としては,血清H. pylori抗体と血清pepsinogenを用いたABC分類,組織学的な萎縮や腸上皮化生,内視鏡的萎縮が報告されている.萎縮以外の内視鏡所見によるリスク分類は,近年提唱された京都分類を中心に検討されているところである.除菌療法が保険適用となり,その普及に伴い除菌後のリスク層別化が重要となるが,内視鏡的萎縮がリスク因子となることが報告されている.また,高リスク群に対する画像強調観察法による早期胃癌拾い上げの有用性が前向き比較試験で検討されている.一方で,リスクに応じた検査間隔の確立が急務である.

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要旨●胃のリンパ球浸潤癌は腫瘍組織内外にリンパ球浸潤が高度な組織型で,EBV(Epstein-Barr virus)感染が約8割に関連している.一方,EBV関連胃癌の約3割はリンパ球浸潤癌の組織像を呈する.EBV関連の早期胃癌の内視鏡所見では,粘膜下腫瘍要素を有する0-IIc型病変を示し,高度な発赤を伴う.リンパ球浸潤癌では軟らかい粘膜下腫瘍要素を有することが多い.近年ではEBV関連胃癌は分子生物学的観点からも胃癌の特徴的な一群であることが示され,治療につながる可能性が示唆されており,注目される組織型である.

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要旨●胃カルチノイド(NET)と内分泌細胞癌(NEC)はいずれも腫瘍性内分泌細胞から構成される腫瘍であるが,発生起源や臨床像が全く異なる.前者は胃内のenterochromaffin様細胞(ECL細胞)由来で多彩な背景因子を有し,肉眼的には小型の粘膜下腫瘍を形成し,予後は良好である.後者は腺癌の脱分化が由来で,主に2型の形態を示し,予後が著明に不良である.WHO分類では同系統の腫瘍のように分類されているが,全く異質の腫瘍であるとの理解が臨床的取り扱いにも有用である.

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要旨●AFP(α-fetoprotein)産生胃癌は機能的要素を加味した特殊な胃癌の一群を指すものであり,組織型としては肝様腺癌(hepatoid adenocarcinoma ; HAC)と胎児消化管類似癌(adenocarcinoma with enteroblastic differentiation ; ACED)が代表的であった.AFP以外の新規の胎児消化管上皮マーカー(Glypican 3とSALL4)の開発により,胎児消化管上に類似した細胞からなるACEDの診断基準が確立され,これまでHACに分類されてきたものあるいはHAC類似だがAFP陰性のものの少なくとも一部はACEDに分類可能であることや,これらの組織像は混在することも多く共に高悪性度・予後不良であることが判明してきた.胃癌の診療を行ううえではHACとACEDの存在を念頭に置いておく必要がある,そして,これらの異同や亜分類の問題については今後の課題である.

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要旨●胃底腺型胃癌(gastric adenocarcinoma of fundic gland type)は,「胃癌取扱い規約 第15版」で特殊型の一つとして新たに追加された胃癌の一つであり,筆者らが2010年に提唱したまれな低異型度・低悪性度の胃腫瘍である.胃底腺型胃癌は明確な臨床病理学的特徴,内視鏡的特徴を有しており,疾患概念の普及に伴い国内外の報告は今後,さらに増えることが予想される.胃底腺型胃癌はH. pylori未感染胃癌の一つと考えられ,通常型分化型胃癌とは異なる発癌機序が予想されるため,今後も注目されるべき特殊な分化型胃癌である.胃底腺型胃癌は病理組織学的に狭義の胃底腺型胃癌と胃底腺粘膜型胃癌に分類されるが,それ以外にもさまざまなバリエーションの存在が予想され,今後はさらなる症例の集積をもとに,異型度や細胞分化による胃底腺型胃癌の詳細な分類を作成する必要がある.また,それらの分類を基に遺伝子異常と予後の解析を行い,胃底腺型胃癌の本質を明らかにし,臨床的取り扱いを明確にするのも今後の課題である.

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要旨●軟性内視鏡下の治療手技において,硬性鏡視下手術と同様のtriangulationを実現するため,2本の多自由度能動マニピュレーター(アーム)を持つ治療用プラットフォーム(multitasking platform)の開発が始まった.ほぼ同時期に,より高い自由度と直感的作業を実現するため,master-slave型ロボットシステムの開発も進められるようになった.既に複数のシステムが臨床導入されており,一部は,適応が限定されてはいるが,上市も実現されている.multitasking platformを使うことによって,組織を任意の方向に持ち上げながら,切開や針糸を用いた縫合を行うことも可能になる.本稿では,軟性内視鏡ロボットを含むmultitasking platform開発の現状と将来展望について紹介する.

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要旨●接触型光学超拡大内視鏡であるECS(endocytoscopy system)はリアルタイムに生体粘膜細胞を観察でき,生検病理診断に匹敵しうる内視鏡診断を実現するoptical biopsyを可能とする.腺管構造異型と細胞異型に相当するECS所見を高度ECS異型と定義し,高度ECS異型陽性を癌診断基準とすると,早期胃癌診断感度は約90%,特異度は90〜100%と高い診断能を有する.生検は患者・病変因子などで実施困難な場合があり,またsampling error・瘢痕形成によるESDへの悪影響・医療コスト増大などの課題もある.このため,ECSによるoptical biopsyのみで生検を省略するアプローチは有益な臨床応用となりえる.胃粘膜では生体染色が不良でECS観察が困難な症例が1割あるなどの課題はあるものの,ECSの発展普及が期待される.

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要旨●胃癌における分子異常の解析が進み,その腫瘍発生が明らかになった.胃癌は4つの分子異常に類型化され〔①CIN(chromosomal instability),②MSI(microsatellite instability),③GS(genomically stable),④EBV(Epstein-Barr virus-related cancer)〕,組織型との関連性も指摘される.また,分子異常を標的とする分子標的薬と分子異常を検索する方法であるコンパニオン診断の開発が進んできた.HER2発現はトラスツズマブ投与において重要な役割を担い,PD-1,PD-L1は胃癌の新しい分子ターゲットとなりうる.

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目次

欧文目次

早期胃癌研究会 症例募集

「今月の症例」症例募集

次号予告

編集後記 小野 裕之
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 前回の増刊号「早期胃癌2009」から9年が経過し,「早期胃癌2018」が編まれることになった.

 この間,早期胃癌という疾患の疫学・診断体系・治療技術が大きく転換しつつあり,その激流にさらされているような心持ちがするこのごろである.

基本情報

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胃と腸
53巻5号 (2018年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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