胃と腸 53巻6号 (2018年5月)

今月の主題 小腸出血性疾患の診断と治療─最近の進歩

序説

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はじめに

 小腸に対する画像検査手技は最近著しく進歩し,実証的研究成果の積み上げにより特に小腸出血性疾患の診断手順は確立されつつある.特筆すべきは小腸内視鏡の進歩である.カプセル内視鏡(video capsule endoscopy ; VCE)が2000年に登場し,現在は小腸疾患に日常的に広く用いられる.また,ダブルバルーン内視鏡(double-balloon endoscopy ; DBE)は2001年に臨床応用が始まり1),現在では日常臨床にも欠かせない重要な診療手技となった.日常診療におけるそれらの用い方は多くのエビデンスに基づき最新のガイドライン(「小腸内視鏡診療ガイドライン」は2015年,同一内容の英文は2017年)にまとめられた2)3).その内容の紹介と,最近の海外ガイドライン4)5)との比較や小腸出血性疾患の最近の動向などを紹介して本号の序説としたい.

 なお,本誌では過去に多くの小腸疾患が特集されている,その状況を記す.①40巻4号(2005年)「消化管の出血性疾患2005」,②40巻11号(2005年)「小腸内視鏡検査法の進歩」,③41巻12号(2006年)「小腸疾患診療の新たな展開」,④43巻4号(2008年)「小腸疾患2008」,⑤44巻6号(2009年)「小腸疾患─小病変の診断と治療の進歩」,⑥45巻3号(2010年)「出血性小腸疾患─内視鏡診断・治療の最前線」,⑦48巻4号(2013年)「カプセル内視鏡の現状と展望」,⑧49巻9号(2014年)「小腸潰瘍の鑑別診断」,となっている.本誌では2005年以降,小腸疾患ないし小腸出血性疾患に関する特集が8回組まれており,この話題に積極的に取り組んできた経緯がわかる.

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要旨●小腸出血では,年齢層や背景疾患などによって出血源となる病変の頻度が異なる.また,小腸出血に対する検査方法もさまざまだが,それぞれに長所と短所がある.適切な検査方法を選択して診断するためには,病変頻度と各検査の特徴を理解しておく必要がある.小腸内視鏡診療ガイドラインではOGIBに対する診断アルゴリズムが示されており,胸腹部造影CTを最初に行う検査として位置づけている.CTで有意所見があればバルーン内視鏡だが,有意所見がなければカプセル内視鏡を行って,その結果に応じてバルーン内視鏡などの検査を追加するか判断する.ただし,若年者ではCrohn病とMeckel憩室が比較的多いことから,当施設ではカプセル内視鏡よりも先に経肛門バルーン内視鏡を行っている.また,視野確保が困難なほど持続出血する血管性病変に対してはgel immersion endoscopyが視野確保に有用である.

小腸出血性疾患の病理 二村 聡
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要旨●小腸出血の原因疾患は,病理学総論的に腫瘍性と非腫瘍性に大別される.これらの鑑別診断には,病理形態学的所見のほか,さまざまな臨床情報が必要である.したがって,臨床医と病理医は緊密な連携と十分な意見交換が不可欠である.

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要旨●小腸疾患の診断能向上に伴い,小腸疾患に遭遇する頻度は格段に増している.小腸疾患においては,小腸出血は特に遭遇することの多い病態の一つであり,なかでも小腸血管性病変が原因として占める割合が高く,重要な疾患である.血管性病変は病理学的に大きく3つのカテゴリーに分類され,その病理学的分類とも整合性のとれた内視鏡分類を理解することは内視鏡医にとって必須となってきている.また,これらの病態を発見するためのストラテジーも重要であり,カプセル内視鏡検査,バルーン内視鏡検査,CTを組み合わせた病変の存在診断,局在診断も熟知する必要がある.

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要旨●Crohn病の腸管合併症として出血があり,まれに大出血を来す.診断には,CTや内視鏡,血管造影が行われるが,複数箇所からのものやびまん性出血が多く,出血点の特定は困難なことも少なくない.治療はまず絶食,補液による保存的治療を行う.抗TNFα抗体は速やかな止血に有効である.大量出血には,内視鏡治療や血管塞栓術を行う.多くは保存的治療で止血される.薬物治療に反応せず,内視鏡や血管造影で止血できない場合は,手術が行われるが切除範囲は最小限にする.また,再出血が少なくないので十分な内科治療により再発リスクを下げる.Crohn病による小腸出血は少ないが,適切な対策をとり,低侵襲に治療していく必要がある.

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要旨●非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を服用している患者の小腸粘膜傷害の有病率は80%以上と言われているが,その予防方法や治療方法は確立されていない.プロトンポンプ阻害薬(PPI)はNSAIDsによる上部消化管粘膜傷害予防に有効であるが,酸の存在しない小腸の粘膜傷害には無効である.NSAIDs起因性小腸粘膜傷害の病態は解明されつつあり,その中でも腸内細菌叢の変化が大きな影響を与えていることがわかってきている.また,PPIが腸内細菌叢に影響して小腸粘膜傷害を悪化させているとの報告もある.胃粘膜防御因子増強薬,プロバイオティクス,メトロニダゾールなどの既存の薬物がNSAIDsに起因する小腸粘膜傷害の予防・治療に有効であるとの報告があるが,確固たる方法を確立することがわれわれの急務である.

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要旨●出血を主徴とする小腸の非腫瘍性疾患のうち,多発潰瘍を形成する血管炎症候群(IgA血管炎,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症,多発血管炎性肉芽腫症,クリオグロブリン血症性血管炎),非特異性多発性小腸潰瘍症,腸管Behçet病について概説し,自験例を提示した.いずれの疾患においても内視鏡検査が診断法の中心であるが,病変分布や局在の評価に関してはX線造影検査の有用性が高く,確定診断にも有益な情報を与えてくれる.一方,治療に関しては,非特異性多発性小腸潰瘍症の腸管狭窄に対するバルーン拡張術は有用な場合があるものの,多発病変を形成する頻度が高いこれらの疾患では,原則的に内科治療が主体となるため,内視鏡的止血術を行う機会は少ない.

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要旨●消化管出血では,顕出血を伴わないときも常に小腸上皮性腫瘍を疑う必要がある.特に小腸癌は臨床症状を契機に精査されるとき,病変の検出は容易であり,速やかに診断し適切な治療へ導く.腹部−骨盤部X線造影CT検査で所見がないとき,カプセル内視鏡による精査は有用である.今日,小腸癌に対する補助化学療法の有用性を検証する動きが加速している.検査方法は進歩しているが,診断契機は臨床症状の出現であることは以前と変わりがない.そのため,診断時には既に進行していることが多く,早期診断が課題である.また,本邦の罹患率や予後などの疫学データの集積も,診断や治療の進歩を検証するために必要であり,今後の課題である.

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要旨●小腸非上皮性腫瘍は出血を来しうる疾患であり,最近では原因不明の消化管出血として早期に診断される機会が増加している.非上皮性腫瘍は粘膜下腫瘍様の形態を呈することが多いため,カプセル内視鏡検査とバルーン内視鏡検査のみならず,従来のX線造影検査,体外式超音波検査,造影CT検査など他の診断法と組み合わせながら適切に検査を進めていく必要がある.内視鏡下生検は悪性リンパ腫に対して有用であるが,粘膜下腫瘍への有用性は乏しい.小腸非上皮性腫瘍の中で頻度が高い消化管間質性腫瘍や悪性リンパ腫などの非上皮性病変の多くは,外科的切除あるいは化学療法の適応である.一方,静脈性血管腫(海綿状血管腫など)に対しては,従来の外科的切除に代わり安全で簡便なバルーン内視鏡下ポリドカノール局注法の有用性が報告され,今後の普及が期待される.

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要旨●共焦点レーザー内視鏡は,生体組織を細胞レベルで観察することができる顕微内視鏡である.現在はプローブ型の共焦点レーザー内視鏡が使用可能である.筆者らはダブルバルーン小腸内視鏡下でプローブ型共焦点レーザー内視鏡を用いて小腸血管性病変に対して観察を行った.本稿ではその概要について述べる.

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要旨●患者は50歳,女性.立ちくらみを主訴に前医を受診した.血液検査にて,Hb 9.0g/dlと貧血を認めたため,下部消化管内視鏡検査を施行した.回腸末端に8mm大の発赤調の隆起性病変を認め,精査加療目的で当院に紹介され受診となった.病理組織学的診断にてpyogenic granulomaと診断した.pyogenic granulomaの消化管発生は極めてまれであり,小腸原発の本邦報告は自験例を含め,13例である.大量下血例も報告されており,完全切除と経過観察が必要である.頻度は少ないが,消化管出血を来す原因として念頭に置くべき疾患である.

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要旨●患者は70歳代,女性.1週間続いた腹痛,嘔吐の後に下血が出現し,当院を受診した.腹部CT検査で主に骨盤内小腸を中心とした壁肥厚と,血液検査で炎症反応上昇を認めた.絶食,補液,抗菌薬投与にて加療を開始し,一時的に症状の改善を認めた.ダブルバルーン小腸内視鏡検査では空腸に不整形地図状潰瘍を認めた.潰瘍部位の生検組織には封入体像を認め,免疫染色からサイトメガロウイルス小腸炎と診断した.遷延する腹部症状に対してバルガンシクロビル投与を行い著明に改善した.本症例は消化管出血を来す小腸疾患の鑑別に重要と考え報告する.

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要旨●患者は60歳代,男性.小腸出血疑いで当院に転院となった.経口的ダブルバルーン小腸内視鏡検査では,空腸に亜有茎性の隆起性病変を認め,隆起の表面は平滑で,白苔を有し,基部には強い発赤を認めた.白苔を有しており,形態学的にはpyogenic granulomaに類似していたが,拍動を認めること,基部に強発赤を認めることより,動静脈奇形(AVM)を含めた血管性病変を否定できなかった.腹部血管造影検査では,比較的早期の静脈還流を認めた.以上より,AVMと診断し,空腸部分切除術を施行した.切除標本の病理組織所見では,粘膜下層に動静脈の異常な吻合を認め,AVMの所見であった.今回筆者らは,特異な形態を呈した空腸AVMの1例を経験したので報告する.

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要旨●患者は60歳代,男性.20XX-1年夏頃に咳嗽が出現し,気管支喘息と診断された.20XX年6月頃に下腹部痛が出現し,7月初旬に上下肢のしびれと下痢を認めたため,当院入院となった.上部消化管内視鏡検査では,胃全摘後の吻合部空腸側に周囲の発赤が目立つびらんを認め,生検では粘膜下層に著明な好酸球浸潤を認めた.カプセル小腸内視鏡検査,ダブルバルーン小腸内視鏡検査では,全小腸にわたり大小さまざまな発赤粘膜やびらん・潰瘍性病変を認めた.一方,大腸には直腸の軽度発赤粘膜を認めるのみであった.本症例は気管支喘息,好酸球増加,多発性単神経炎を合併していたことから,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症と診断し,プレドニゾロン50mg/dayの内服およびシクロホスファミド大量静注療法で加療したところ,小腸病変は速やかに改善した.

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要旨●患者は70歳代,女性.近医の上部消化管内視鏡検査で胃体上部大彎に隆起性病変を指摘され,精査目的に当科を紹介され受診となった.病変は,表面平滑な粘膜下腫瘍様の辺縁隆起を伴い,中央に境界明瞭な陥凹を呈しており,陥凹の中に下から発育してきたようなvilli様のこぶ状の隆起を認めた.生検では胃底腺型胃癌であったが,典型的ではなく診断治療目的に内視鏡的粘膜下層剝離術を行った.病理組織学的所見では,腫瘍部に一致して粘膜筋板を欠き,粘膜表層から深部にかけて腫瘍細胞の増殖を認めた.腫瘍はpepsinogen I陽性であり,MUC6とMUC5AC陽性細胞から構成されていたため,胃底腺粘膜型胃癌と診断した.

早期胃癌研究会

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 2017年9月度の早期胃癌研究会は9月20日(水)に笹川記念会館2F国際会議場で開催された.司会は,体調不良のために欠席された吉永繁高(国立がん研究センター内視鏡科)に代わり,小山恒男(佐久医療センター内視鏡内科),松田圭二(帝京大学外科),病理は海崎泰治(福井県立病院病理診断科)が担当した.また,セッションの間に,第23回白壁賞,および第42回村上記念「胃と腸」賞の表彰式が執り行われた.

第18回臨床消化器病研究会

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 2017年7月29日(土)に第18回臨床消化器病研究会がベルサール高田馬場で開催された.「消化管の部」と「肝胆膵の部」に分かれ,「消化管の部」では主題1.炎症性腸疾患「症例から学ぶ腸の炎症性疾患」,主題2.消化管癌(形態学):上部消化管「胃癌診断の温故知新」,主題3.機能「慢性便秘症ガイドライン発刊を見込んで」,主題4.消化管癌(形態学):下部消化管「大腸隆起性病変の質的診断の基本とピットフォール」の4セッションが行われた.

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 松本 主之
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 今月号の「胃と腸」誌のテーマは,「小腸出血性疾患の診断と治療─最近の進歩」である.21世紀初頭にカプセル内視鏡とバルーン内視鏡が相次いで開発・承認され,小腸疾患がにわかに注目されるようになった.そして,瞬く間に小腸疾患の臨床に関する新知見が集積され,本誌でも小腸の特集号が組まれる機会が増加した.さらに,小腸内視鏡検査に関するコンセンサスやガイドラインも本邦や欧米で数多く発表されるに至っている.松井の序説と矢野らの主題論文にあるように,小腸疾患の臨床症状として最も頻度の高いものは潜性ないし顕性出血であり,過去に“原因不明の消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding ; OGIB)”と呼称された病態の大部分は小腸疾患に起因することが明らかとなった.その結果,小腸出血における種々の診断アルゴリズムが全世界から報告されている.

 さて,主題論文を読んでみると,大部分の小腸疾患が網羅的に解説されていることがわかる.すなわち,腫瘍性疾患,炎症性疾患,血管性病変に加えて消化器専門医が知っておくべき希少疾患のほとんどは出血を契機に診断されているのが現実と思われる.なかでも,二村の主題論文では,従来情報量の少なかった小腸疾患の病理所見が詳しく記載されており,必読に値する内容と思われる.一方,主題論文のなかで各論的な内容を取り扱ったものを拝読すると,必ずしも内容が濃いとは言えないものもある.食道,胃,大腸の腫瘍性病変の特集号にみられる“消化管疾患に対する情熱”が本号ではあまり感じられないのである.

基本情報

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胃と腸
53巻6号 (2018年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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