呼吸と循環 56巻5号 (2008年5月)

特集 低線量CT検診の現状と展望

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 日本では肺がんにより年間約6万人が死亡し,肺がんは男性ではがん死亡原因の1位,女性では胃がん,大腸がんに次いで3位を占める.肺がんは高齢者に多くみられ,肺がんと診断された時点で約7割の患者が既に進行がんであり,治り得る時期の肺がんを数多く見つけることはいまだに緊急の課題である.

 全国的規模の団体を例として,胸部写真による肺がん検診の実績をみると,日本対がん協会関連の検診では,2005年には年間に約300万人の成人が胸部X線検診を受診しており,人口10万人あたり約70人の割合で肺がんが発見されている1).しかし,発見肺がんのうちI期肺がんの割合は約30%という状況にある.

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 低線量ヘリカルCTによる肺がん検診は,1993年に東京都予防医学協会による「東京から肺がんをなくす会」1)に導入されて以降,集団検診2),職域検診3),人間ドックで実施されている.

 本稿においては,低線量ヘリカルCTによる肺がん検診の実際,長所,短所について述べる.

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 低線量CTを用いた肺がん検診は,わが国で1993年より「東京から肺がんをなくす会」において世界で初めて行われた1).従来の胸部X線検査では発見することができなかった微小腺がんを高い頻度で発見できることが報告され,またそのほとんどが切除可能であり,予後も極めて良好であることが明らかとされた2~4).この報告から,低線量CT肺がん検診は,肺がん対策の切り札として注目され,国内外で数多くの研究が行われ,また人間ドックを中心に国内で広く普及してきている.ここでは,疫学的な立場から低線量CT肺がん検診の有効性に関する評価について概説する.

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はじめに

 肺がんの検出を目的としたCT検診の有効性は,検診集団の肺がん死亡率が減少することが証明されて初めて効果があると判断されるが,現在のところ肺がん死亡率の減少は証明されていない.近々,わが国のコホート比較試験(Japan Lung Cancer Screening Study;JLCSS)1)の結果が発表される予定であり,また2009年には米国のランダム化比較試験2)の最終解析結果が,また同年にはヨーロッパのランダム化比較試験3,4)の中間解析結果が発表される予定である.したがって,これらの結果が報告されて初めてCT検診の有効性に関する一定のコンセンサスが得られるものと考えられる.

 しかしながら,現時点ではランダム化比較試験の結果報告は存在しないため,症例研究の結果報告からCT検診の有効性を推測するしかない.現在,単一施設によるCT検診で最も繰り返し検診期間が長く発見肺がん数が多いとされるのは「東京から肺がんをなくす会」である.これはハイリスクコホートを対象として年2回のCT検診を10年以上続けている会員制の低線量CT検診である.

 本稿では,「東京から肺がんをなくす会」の検診データを基に5,6),「繰り返し低線量CT検診の意義と課題」について,①ステージシフトの有無からみたCT検診の有効性,②CT検診の適切な繰り返し期間,③CT検診の適切な繰り返し間隔,④CT検診受診者の特徴に基づいたさらに適切なCT検診の繰り返し間隔,⑤CT検診に伴う被曝の問題に焦点を当てて概説する.

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まえがき

 胸部CT画像のコンピュータ支援診断(CAD)が本格的に始まったのは,低線量ヘリカルCTが肺がん検診に導入されたことである.1993年に国立がんセンター森山紀之,金子昌弘,江口研二,柿沼龍太郎,大松広伸らによって「東京から肺がんをなくす会(東京都予防医学協会)」で肺がんCT検診が始められた1~4).この目的は肺がんを早期発見・早期治療することによって肺がん死を減少させることである.このCT検診は従来の単純X線画像に比べて取り扱う画像量が多いことから“如何に効率よく診断するか”が問題となった.このために情報通信技術を用いた新しい診断支援技術の研究開発が求められた.この要素技術として胸部CT画像から肺がんを検出するCADがあった5~9).徳島大学のグループは,臨床現場からの要求により胸部CT画像のCADの研究開発に着手した5~7).その後,マルチスライスCTの登場によりCADの研究開発はいっそう活発化している.

 肺がんの画像診断は,1)存在診断,2)鑑別診断,3)確定診断に大別される.各診断においてCADが必要とされる.存在診断には低線量CT画像の肺がん(結節)検出用CAD,鑑別診断には高精細CT画像の肺がん(結節)鑑別用CADである.マルチスライスCTの時空間分解能の向上に伴って,肺がん以外にも診断対象を広げて肺気腫などの肺疾患,冠動脈石灰化などの心血管疾患,骨粗鬆症などの骨疾患のCADへと進展している10).さらに,CT画像にPET画像,MR画像を加えたマルチ画像融合型CADへと進展している.これらの技術進歩は検診現場から診断現場へと用途が拡大している.

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はじめに

 胸部の低線量CT検診は,ほとんどの場合,肺がんの発見をその目的としている.しかし,低線量CT検診によってもたらされるデータを用いることにより,肺がん以外の胸郭内病変を評価することが可能であると考えられ,その方面の研究も進められている.たとえば,冠動脈の狭窄を発見するためには,現在のところ,高分解能マルチスライスCTによるデータが必要とされている.しかし,冠動脈に存在する石灰化や大動脈瘤を発見することは低線量CT検診データによっても可能である.また,椎骨部分のデータを解析することで,骨粗鬆症を評価する研究も進められている.さらには,低線量CT検診のCT撮像部位を少し下部まで伸ばし,臍の位置での断面を得ることにより,内臓脂肪を計測し,メタボリックシンドロームの診断に役立てようとする研究も行われている.あるいは,もっと簡便に,胸部における皮下脂肪計測を行い,この部位と臍の部位での皮下脂肪の相関関係を明らかにして,胸部における皮下脂肪計測でメタボリックシンドロームを明らかにしようとする研究なども行われている.一般に,低線量CT検診の受診者にはヘビースモーカーが多く含まれるため,喫煙がその主たる原因である慢性閉塞性肺疾患を診断しようとする研究も精力的に行われている.しかし,低線量CTであるがためのノイズの多さなど,克服すべき課題は多い.

 本稿では,低線量CT検診データを用いた慢性閉塞性肺疾患(特に気腫性病変)の診断支援に関して述べたい.

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 臨床研究が成功裏に終わるか否かは臨床研究をプロデュースする技術にもよる.私が最近一番愕然としたのは,HDL-C増加薬CETP阻害薬―トルセトラピブを用いたILLUMINATE studyが2006年12月2日に中止になったことである.12月4日に全世界に報道されたが,新聞や雑誌の見出しもまた興味深かった.「When good cholesterol turns bad」,「Cholesterol drug's failure is a blow to researcher」等など.ILLUMINATE studyだが,CHD/CHDリスク相当の患者15,067例を2群,つまりアトルバスタチン単独群(10~80mg/日)とアトルバスタチン+トルセトラピブ60mg/日群に分けた.一次エンドポイントは致死的心臓病,非致死的心筋梗塞,脳梗塞である.ダブルブラインド・ランダム化試験であり,当初4.5年の試験予定が早期に中止になったのである.最終的に前群の死亡数が59例,後群が93例,その他不安定狭心症,心不全も後群に多かった.トルセトラピブ60mg/日はCETP活性をおよそ35%抑え,HDL-Cを60%増加させたが,死亡数60%の増加は縮む傾向になく,独立安全評価委員会は試験中止を勧告し,ファイザー社はCETP阻害に関するすべての薬剤の開発を断念した.

 トルセトラピブの頸動脈内膜・中膜厚(IMT)を標的にした研究も2007年ACCで報告があった.家族性高コレステロール血症患者を対象にしたRADIANCE1と,混合型高脂血症患者を対象としたRADIANCE2である.ともに脂質改善は良好であったが,IMTの進展抑制はなく,むしろトルセトラピブ群でIMTが進展した.さて,ここで問題になったことは,平均血圧がRADIANCE1で2.1mmHg,RADIANCE2で5.1mmHg上昇したことである.ILLUMINATE studyでは収縮期血圧が5.3mmHg上昇したが,2007年11月AHAでの追加発表によると,アトルバスタチン+トルセトラピブ群では血清カリウムが低下,ナトリウムが増加,アルドステロン8ng/dl以上が21.6%と増加していた.これら一連のトライアルの弱さであるが,2006年12月に終了したにもかかわらず,その詳細報告が2007年11月のAHAであったこと,アルドステロンが上昇し,カリウムは低下したことは以前から知られていなかったのか?等々が挙げられる.この種の薬剤の開発に関する是非,つまり動脈硬化防御機構として重要であるコレステロール逆転送系に働くCETPを阻害するのはよくないとの意見もあったため,多くのリポプロテイニストは複雑な気持ちで結果を捉えていた.しかし,CETP欠損症患者に高血圧が生じることはなく,他社開発中のCETP阻害薬に血圧上昇はない.CETP阻害薬全般にみられる作用ではなく,トルセトラピブ自体に問題があったと考える.アルドステロン作働薬を投与していたとなると,研究結果が理解できる.

綜説

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はじめに

 呼吸運動は,心臓のように臓器自体の自律性運動ではなく,脳幹部呼吸中枢の活動によって生じる.脳幹部の呼吸ニューロンネットワークは,相互の神経結合と細胞膜に存在するイオンチャンネル特性により外部からの入力信号がなくても内因性に周期活動を生成するが,様々な化学性呼吸調節と神経性呼吸調節を受けて最終的な呼吸中枢出力が決定される.端的に表現すると,化学調節系は代謝量変化に対して血液ガスを恒常状態に保つよう換気量の制御を行い,神経調節機構は最も効率よくガス交換が行われるよう呼吸パターンを制御する.このような呼吸調節は,覚醒時にも睡眠時にも,上位中枢活動とは関係なく無意識に行われており,自動調節と呼ばれる.それに対して,会話・歌唱・意識的な深呼吸・息こらえなどは,大脳の運動中枢による呼吸制御であり,行動性調節あるいは随意調節と呼ばれる.また,覚醒時には上位中枢で呼吸困難感が感じられるが,それを最小にしようと行動性に呼吸制御されると考えられている.われわれの個体では,これらの多階層の制御が見事に調和して最適な呼吸パターンが形成されている.

 本稿では,これらの多岐にわたる制御機構のうち,呼吸リズム生成機構,化学性呼吸調節機構,呼吸器系の神経性調節機構,気道平滑筋の興奮伝播機構の4つに焦点を絞って,どこまでわかったのか知識を整理し,その臨床応用と今後の課題について考察する.

バソプレシンと循環調節 石川 三衛
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 アルギニンバソプレシン(AVP)が昇圧物質として報告されたのは1895年で,今から110年以上前にさかのぼる.同じモル濃度で血管収縮作用を比較すると,AVPはアンジオテンシンIIを数百倍上回る強力な昇圧物質である.血管平滑筋細胞におけるAVP V1a受容体,受容体以降のシグナル伝達系,細胞収縮作用,細胞増殖作用など,その作用機構の解明が飛躍的に進展してきた.最近ではショックの治療に対するAVPの有用性,心不全におけるAVPの病態生理なども話題となっている.本稿では,AVPの循環調節における最近のトピックスを概説する.

Bedside Teaching

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はじめに

 抗生物質の導入により,肺炎球菌感染症の頻度は減少してきたものの,現在でも肺炎,中耳炎,髄膜炎などの感染症の最も代表的な起因菌である.乳幼児のみでなく高齢者においてもその頻度は高く,特に肺炎は高齢者の死因として重要で,肺炎球菌の制御は大きな課題である.肺炎球菌感染症は重症化しやすく,肺炎患者の15~30%に菌血症を併発し,菌血症での死亡率は約20%にものぼる.さらに,近年ペニシリンやマクロライド系薬に対する耐性化も問題になっている.高齢化とともに増加する肺炎球菌性感染症の治療に対する医療コストの観点からも,その予防としてのワクチン療法の重要性が増してきている.肺炎球菌ワクチンには23価莢膜多糖体ワクチン(23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine,ニューモバックス®)と7価コンジュゲートワクチン(7-valent pneumococcal conjugate vaccine,Prevenar®)がある.

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はじめに

 近年,画像診断機器や技術の進歩に伴い,X線透視下で治療を行うインターベンショナル・ラジオロジー(interventional radiology;IVR)が長足の進歩を遂げ,様々な疾患の治療に応用されるようになった.広く普及している例としては,冠動脈疾患に対する経皮的冠動脈インターベンション,不整脈に対するカテーテル・アブレーション,肝細胞癌に対する肝動脈塞栓術,頸動脈に対するステント留置術,脳動脈瘤に対するコイル塞栓術などが挙げられるが,外科手術よりも低侵襲である利点を活かして,高齢者やハイリスク症例にも治療を行うことができるようになった.

 その一方で,1)長時間の透視や頻回の撮影による被ばく線量の増加や,2)再狭窄や再発に対して治療を反復することによる累積被ばく線量の増加によると考えられる放射線皮膚障害が1990年代より報告されるようになった1,2).この状況を鑑み,国内外の多くの関係学会から被ばく線量低減のためのガイドラインが策定されている3~6)

 本稿では,実地診療に役立つ基礎知識として,放射線皮膚障害の実際と被ばく軽減の方策を解説する.

Current Opinion

小細胞肺癌の化学療法 米田 修一
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小細胞肺癌の化学療法をめぐる最近1年間の全般的な動向とガイドライン

 ここ1,2年の小細胞肺癌の化学療法に関する文献を検索した.全体として画期的な成果には乏しいが,イリノテカン,トポテカン(ノギテカン)やアムルビシンなどを用いた化学療法や,放射線との併用療法に関するエビデンスが少しずつ積み上げられている.分子標的治療薬については,非小細胞肺癌に対する効果が続々と明らかになっているが,小細胞肺癌における臨床試験の結果は残念ながら否定的なものが多い.

 最近改訂されたガイドライン1,2)において,シスプラチンまたはカルボプラチンを含む併用療法,特にシスプラチンとエトポシドの併用(PE)が限局型,進展型のいずれにおいても小細胞肺癌に対する国際的な標準的化学療法である.この状況は1980年代からあまり変わっていない.進展型小細胞肺癌においてはイリノテカンとシスプラチンの併用(IP)も標準的治療の一つになっているが,PEとIPのどちらが優れているかについてはまだ結論が出ていない.また,日本ではアムルビシンとシスプラチンの併用の第II相試験で優れた成績が報告されていることから,JCOG(Japan Clinical Oncology Group)は2007年に進展型小細胞肺癌に対するアムルビシン+シスプラチン対IPの比較第III相試験(JCOG0509)を開始した.

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アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)をめぐる最近1年間の話題

[1] はじめに

 本邦における高血圧患者数は約3,500万人といわれる.メタボリックシンドロームにおける高血圧の有病率も60~70%と高く,心血管病発症予防の観点からも,ますます降圧治療の重要性が高まっている.なかでもアンジオテンシンII(AII)受容体拮抗薬(ARB)は,降圧作用以外に様々な臓器保護作用を有し,その副作用の少なさからも,従来高血圧治療の中心であったカルシウム拮抗薬と同等の使用頻度になっている.

 本邦で臨床使用可能なARBは5種類(ロサルタン,カンデサルタン,バルサルタン,テルミサルタン,オルメサルタン)あるが,いくつかのARBについては降圧効果以外にpleiotropic効果も報告されている.本稿では,これら薬剤の最近のトピックスと自験成績について述べる.

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要旨 【目的】80歳以上の高齢者非小細胞肺癌に対するゲフィチニブ投与の安全性や有効性について評価する.【方法】ゲフィチニブが投与された80歳以上の非小細胞肺癌患者17例を集積し後ろ向きに検討した.【結果】患者の平均年齢85.8歳(80~95歳),大部分が女性,腺癌,非喫煙者,全身状態も良好で,間質性肺炎など重篤基礎疾患のない症例であり,また13例(76.5%)で1st line therapyとして導入されていた.開始時の投与量が250mg連日とされた15例中8例(53.3%)で有害事象のため薬剤の減量や休薬,あるいは中止が必要であった.奏効率は41.2%,disease control rateは64.7%であった.【考察】80歳以上の高齢者へのゲフィチニブ投与は有害事象の発生頻度が比較的高く投与量の調整が望ましいと思われるが,適切な症例の選択により,1st line therapyとしての使用も考慮しうると考えられた.

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要旨 患者は65歳,男性.易疲労感と心電図異常にて第1回入院.心内心電図上2:1HVブロックを認め,DDDペースメーカ植込み術を施行し経過良好にて退院となった.しかし退院後低血圧,頻脈が出現し,植込み後20日目に低血圧心タンポナーデの診断で第2回入院.心囊穿刺にて血性心囊液100mlを排液し退院となった.植込み後55日目にも心タンポナーデにて第3回の入院となり,急性期に心囊ドレナージを施行し,その後開胸止血術を施行した.術中所見ではscrew-in型リードが右心耳を穿通する所見を認めた.本症例では第3回入院の4日前に心エコー検査にて心囊液増加のないことを確認していたが,急激な心囊液貯留を来していた.ペースメーカ植込み後,特にscrew-in型リードを使用した際には長期にわたり合併症の出現に注意する必要がある.

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要旨 患者は39歳,女性.妊娠27週.発熱,息切れのため通院中の産婦人科へ受診.心エコーにて感染性心内膜炎(IE)による僧帽弁閉鎖不全症(MR)と診断され当院へ紹介入院.血液培養よりStreptococcus mitisが検出された.ペニシリンGの投与を開始するものの重症MRのため,利尿剤,カテコミンの投与を要した.活動性IEに対し手術適応と診断したが,胎児の安全性のため,妊娠28週まで内科的管理をしたうえで帝王切開施行.母体の産後出血の安定を待ったうえで5日後に僧帽弁形成術を施行.術後僧帽弁逆流が中等度残存したため初回手術4週後に再僧帽弁形成術を行った.心エコーにて僧帽弁逆流の残存は認めなかった.術後2年3カ月目の現在,母子ともに経過良好である.妊娠中の活動性IEに対しては母体,胎児の安全性を十分に検討したのちに出産を優先させるか,心臓手術を優先させるか,を決定すべきである.

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 多くの医療従事者と同様に,私もインシデント・アクシデント事例の報告書を書いた経験が何回かある.それぞれの事例でどのようなことが起き,どのように対処したかを記入して提出するのだが,ちょっと書きにくいと感じるときがある.その事例が生じた原因について記入する欄で,私はいつも少し考えてしまう.疲れていたのか? 急いでいたのか? それとも……まあ,その時々でそれなりに考えて記入してきた.本当にそこで記入したことが原因だったのかなぁ,と少し引っかかりながら.

 インシデント・アクシデント事例をもとに,医療のプロセスやシステムに注目し,その問題点を具体的に見つけ出し,対策を立てる.そのような分析を可能にする方法として,米国ではRCA(Root Cause Analysis:根本原因分析法)というのが用いられているのだそうだ.本書は,そのRCAについて詳細に解説したものである.全体で4つの章からなり,最初の「基礎編」ではRCAの概要を,次の第2章「実践編その1」では臨床で実際にRCAを行うやり方について書かれている.

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 『医療者のための喘息とCOPDの知識』という新刊本は,近年増加している喘息とCOPDといった慢性の気道・肺病変,両方にスポットをあてて,標準的治療を中心に最新の知見をわかりやすく紹介,解説されている.筆者らの実際の豊富な臨床経験に基づくわかりやすい本であり,『喘息予防・管理ガイドライン』や『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン』といったガイドライン本だけでは専門的になりすぎて,一般の医師が読むには意気込みが必要であるが,この本を読めば特に専門的な知識がなくともガイドラインに準じた治療や管理ができるようになっている.さらにこの本では,Q and A方式になっているので,辞書のように使用して必要なところだけ読めば,診断・治療の疑問に的確に答えを探せる工夫がされており,一般診療で呼吸器疾患を扱う医師,開業医が診察室の傍らに置いておく本としてうってつけである.

 特にすばらしいのは標準的治療の中心となる吸入療法の薬剤や吸入補助具(スペーサー)が図解入りで解説されている点である.吸入治療は吸入方法を正しく患者に説明し,患者もまたそれを守って初めて十分な効果が得られる治療である.せっかくよい治療がなされながら,うまく吸入ができずに効果がないと誤解する患者や,ステロイド吸入に拒否感のある患者に対して,数ある吸入薬を適切に選択し指導していくうえで非常に助けとなる内容となっている.これは日常診療の現場ですぐに役立つと思われる.

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あとがき 石坂 彰敏
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 当初,本誌「呼吸と循環」は生理学的見地から呼吸器疾患・循環器疾患を論説して来た.その後,生化学,分子生物学的見地からの論説も増えて来ている.本誌で取り上げる呼吸領域の話題としては,従来より非がん性の疾患やそれに関連した病態に関してのものが多かった.しかしながら,呼吸器内科の病棟を見渡すと,ほぼ60%の患者さんが肺がんで入院しているのが現状で,呼吸器内科医師の日常臨床と肺がんを切り離して考えることは難しい.

 そこで今回,“低線量CT検診の現状と展望”というテーマで特集を企画した.「呼吸と循環」としては約10年ぶりの肺がん関連の特集である.6人の先生方に色々な切り口で肺がんCT検診について述べて頂いたが,さすがにその方面の第一人者にお願いしただけあり,非常に面白い内容となっていると思う.この特集により,現状と展望だけでなく,多くの問題点も浮き彫りにされ,日常診療に大変役立つものと思われる.

基本情報

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呼吸と循環
56巻5号 (2008年5月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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